真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

14 / 30
主人公君の趣味は貯金。日課はしたつもり貯金。楽しみは貯金したお金で新しい貯金箱を買うこと。幼馴染に豚さん貯金箱を割られたときは幼馴染が引くほど泣いた。

それでは、どうぞ。


第十二話 戦闘と壊滅と好調と

「こうなったら滅殺してやるんだからっ!」

 

彼女が腰に付けていた円形の盾のようなものを取り出すと同時に、俺と貂蝉のまわりを囲むように鏡が現れた。

 

「なんだこれっ!」

 

「『合わせ鏡』!」

 

俺達を取り囲む鏡から光が発される瞬間、貂蝉が俺を小脇に抱えて鏡の包囲網を抜ける。

その際貂蝉がハァハァしながら「これ・・・イイッ!」とか呟いていたのは聞かなかったことにした。命の恩人だしな。

着地した貂蝉が俺を離す。さっきまで俺たちがいたところはほぼ円形に焦土と化していた。

少女は光と土埃で俺達を見失っているようだ。その隙をついて、何かに気付いた貂蝉が話しかけてくる。

 

「あの子は・・・。ねえ、申し訳ないんだけど・・・あの子と戦って時間稼ぎしてくれないかしらん?」

 

「・・・面白くない冗談だな」

 

「ところが本気なのよ」

 

いつものような巫山戯た顔ではない貂蝉の顔を見て、覚悟を決める。

 

「後でじっくりたっぷり話を聞くからな」

 

「望むところよん。手取り足取りアソコ取り教えてあげるわぁん」

 

「普通に頼む」

 

貂蝉は俺の言葉に応えずに「うっふぅぅぅぅぅぅぅん!」と絶叫して何処かへ走り去っていった。

その声で少女が俺の居場所に気付いたらしい。視線がバッチリとぶつかった。

 

「そこねっ!」

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)の真名開放並の魔力の光線が少女の盾らしき物から発射される。・・・約束された勝利の剣(エクスカリバー)の真名開放を受けたことはないけどな! 

というかこの威力の攻撃・・・英霊か!? ・・・でも、全てのサーヴァントは召喚されているはず・・・。

おいおい、まさかイレギュラークラスとか言う奴か・・・!? 

って、そんなこと考えてる暇はないかっ

 

「うおぉっ!?」

 

全ての筋力を総動員して横に飛ぶ。

鎧も何も着けていない状況じゃああんな光線にぶつかったら抵抗する間もなく消滅すると今更気付く。

取り敢えず金色の鎧を装着し、エアを取り出す。

蛇狩りの鎌(ハルペー)とか刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)の原典とかで様子見をしてる場合じゃない。

幸い月からの魔力供給はここ最近安定しているので、天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)さえ使わなければしばらくは戦える。

問題はあの少女の攻撃方法さえ分かれば良いんだが・・・。

 

「逃がさないわよっ!」

 

甲高い音と共に光線が再び襲い来る。

 

「おおおっ!」

 

回転させたエアを当て、光線を逸らしながら自身は逸らした方向とは反対に避ける。

取り敢えず少女に照準を定めさせないために動き回る。狙い通り、少女は光線の照準に俺を捉えきれていないようだ。

その間に考えを巡らせる。少女の正体。あの宝具の詳細。サーヴァントとしてのクラス。それを知るために少女を観察する。

が、太陽が暮れ、暗闇を照らす光がほとんど無くなったこの状況で、アーチャーとはいえ千里眼スキルを持たない上に少女は離れているため判別は難しい。

・・・しっかしまぁ、なんだあいつ、真名開放でもないのにあの威力をばかすかうちやがって! 

だが、威力については下方修正しても良いだろう。約束された勝利の剣(エクスカリバー)並みと言ったが、対城宝具の真名開放はおそらくこんなに簡単に逸らせるもんじゃない。

 

「うぬぬぅっ! おとなしくわらわに消し炭にされなさいっ!」

 

少女は我慢が苦手な性格らしく、光線を俺の動くであろう場所へと打ち込んだ。

真っ正面から受ければあの光線は脅威だが、ああいうレーザー系の攻撃は一直線なので横の動きに弱い。

俺は自身を加速させることで光線の射線から外れる。背後が明るくなり、破壊音が響く。クソ、これで明日怒られるの俺なんだぞっ! 

 

「な・ま・い・きー!」

 

少女は盾らしき物を両手から片手に持ち替えると、盾を持っていない方の手をこちらに向け、叫んだ。

 

「『合わせ鏡』! 焼き尽くせっ!」

 

『合わせ鏡』? ・・・あの包囲攻撃か! 

まわりを見渡すと、先ほどと同じく取り囲むように八個、さらに追加で上空に三個新しく鏡が浮いていた。

 

「嘘だろっ・・・!」

 

さっきの貂蝉のように上に逃げてもおそらく上空の三個に焼かれるだろう。

ならば、此処で何とかするしかない・・・! 

俺は走っていた足を止め、姿勢を低くする。その後、出せる限りの宝剣魔剣聖剣聖槍魔槍を自分のまわりの地面に突き立てる。

なんちゃってブレイドワークスの一人バージョンである。更にだめ押しでいくつかの防御系宝具も出す。

真名開放は出来ないだろうが、ただの盾として使っても、普通の盾よりは遥に勝る物である。

目の前でカメラのフラッシュを焚かれたような目映い光が起き、一瞬後に破壊音が響く。

 

・・・

 

太陽が一瞬だけ昇ったかのような光に、一部の人間が反応した。月も、反応した人間の一人だった。

 

「・・・朝・・・?」

 

むくりと起きあがるが、すぐに消えた光に疑問符を浮かべる。

 

「はれ・・・夜だ。・・・んー? 寝ぼけてるのかな」

 

ごしごしと目を擦りつつ、再び寝台に寝転がるが、さっきの光が気になって仕方がない。

このままじゃ寝られそうにもないし・・・と起きあがり、詠を起こさないように寝台から降りる。

少し肌寒いので、上着を羽織る。

夜の一人歩きは少し怖いが、夜とはいえ警備の兵はいるだろうと考え、部屋を出る。

 

「・・・えーと、窓から見えたから・・・あっちかな」

 

光が見えた方向へと足を進める。その途中で、セイバーに出会った。

 

「おお、ギルのマスターか。ギルはどうした?」

 

「ギルさんですか? お部屋で寝てると思いますが・・・」

 

「そうか。・・・済まないが、ギルを呼んできてもらえないだろうか」

 

「何かあったんですか?」

 

さっきの光と関係あるのでしょうかとその後に続ける。するとセイバーは、分からんが、その可能性は高いだろうと答えた。

 

「そのために、今聖杯戦争組に招集を掛けている所だ。ギルと一緒に私の部屋まで来てくれればいい」

 

「はい、分かりました」

 

セイバーはではな、と言って去っていった。その後ろ姿に手を振ってから、月はアーチャーの部屋へと向かった。

迷わずにアーチャーの部屋まではたどり着いた。少しドキドキしつつ、コンコンと扉を叩く。

 

「ギルさん、起きて下さい」

 

全く反応はない。ギルさん、こう言うときはすぐに起きるのにな、と呟いた瞬間、以前部屋で倒れていたアーチャーが脳裏によぎった。

もしかしたら、また・・・!? なんて、嫌な想像に急かされるような感覚。

 

「ギルさんっ!?」

 

ザワザワとした焦燥感から、勢い良く扉を開ける。

床に目をやるが、そこに倒れ伏すアーチャーは居なかった。ホッと息をつきそうになるが、寝台に目をやると再び心がざわつく。

 

「いない・・・?」

 

月の部屋からアーチャーの部屋までは一直線なので、すれ違ったと言うことはないだろう。

寝台にも人のぬくもりはなく、しばらく誰も此処で寝ていないことが分かる。

 

「っ!」

 

何かを考える前に部屋を飛び出していた。まさか、あの光は。

嫌な予感を振り切るように走る。

自身の心を占めるのは焦りだったが、自分自身の冷静な部分は、まずはセイバー達に話しをするべきだと考えていた。

セイバーの部屋への道のりを思い出しながら、どう説明しようかと頭を回転させる。

そして、説明なんかどうでもいいと頭から追い出した。まずは、兎に角セイバー達に合流するべきだ。

 

「ギルさん・・・!」

 

走っている途中、自身のサーヴァントの名前をずっと呟きながら、月は夜の城を走った。

 

・・・

 

「ふっふっふー。わらわの攻撃はせーかいいちぃー!」

 

少女は勝ち誇っていた。自分の攻撃手段の中でもかなり威力のある合わせ鏡。

上空に飛んで逃げる敵にも対応した完全無欠の攻撃である・・・と、少女は信じている。

その証拠に、先ほどまで敵がいた場所には土埃が舞い、沈黙していた。

 

「なにやら当たる直前にちょろちょろやっていたみたいだけど・・・無駄だったようね! 無駄無駄ァッ!」

 

土埃にびしぃっ! と指を突きつける。答える者は当然居ない。

 

「さぁって。なんか満足しちゃったなぁ。今日は帰ろっかな」

 

自分が攻撃を打ち込んだ場所へと背を向け、んー、とのびをして、背骨をぽきぽきと鳴らす。

油断しきったその瞬間、少女の第六感が何かを訴えかけてくる。何だろうと思いながら、後ろを振り向く。

土煙の中から、聞こえるはずのない声が聞こえた

 

「まぁ待てよ。俺はまだ満足してないんだ。・・・もうちょっと、付き合って貰うぞ」

 

雀が鳴いたような音を立て、赤い線が少女へ向かって行く。

 

「おわわっ!?」

 

ギリギリで気付いた少女は派手に転びながらも、少女は回避に成功する。

土埃の中から歩いて出てきたのは、鎧に多少の損傷はあるものの、未だ戦闘続行の意思を見せるアーチャーだった。

 

「なんでかな、今さっきから魔力の流れが良い。もうちょっと無理が出来そうなくらい」

 

「あははっ、面白いわね。わらわの合わせ鏡を喰らってそんな台詞が吐けるなんて」

 

「おう、俺も驚いたけどな。結構調子良いぞ」

 

無傷の時より調子良いって変な感じだけどな、と自嘲の笑いを浮かべながらアーチャーは呟く。

アーチャーの背後で空間が歪み、宝具達が発射されるのを待っている。

それを見て、少女は手に持つ鏡を構え、光を収束し始める。

 

「わらわ、強い男の子は好きよ」

 

ニヤリ、と少女が笑う。アーチャーもニヤリ、と笑い返す。

戦いの火蓋は、すぐに切って落とされた。アーチャーが叫ぶように真名開放する。

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)!」

 

雨のように宝具が降り注ぐ。

 

「薙ぎ払えぇ!」

 

それに対し、少女は魔力の光線で宝具の雨を払うように薙いだ。

強大な魔力の光は、流石の宝具といえど撃ち貫けなかったようで、威力を無くし、失速した宝具は地面へと落ちる。

一通り発射した後、宝具の雨は止み、アーチャーの背後では待てを掛けられた犬のように宝具達が刀身を出して待機していた。

 

「やるわね。わらわもちょっと焦ったわ」

 

「嘘つけ」

 

・・・

 

目の前の少女にツッコミながら、考えを巡らせる。

魔力消費を感じるが、負担に感じるほどではない。本当にどうしたんだろうか。月とのパスがきちんと結ばれたとか? 

まぁ、今考えることは目の前の少女をどうするか、だけどなぁ。

取り合えず、距離を置くのはやめた方が良いだろう。中途半端に離れると、『合わせ鏡』とか言うあの包囲殲滅攻撃が来る。

かといってあの圧倒的火力に突っ込んでいくのはかなりの技量を要するだろう。挑戦しないと分からないけど。

なら、まぁ、やってみる価値はある。頑張ってみるか。

宝物庫に全ての宝具を仕舞う。展開、発射に回していた分の魔力をエアの回転だけに回す。

エアが魔力によって回転し、白い煙ともガスともつかない何かを吐き出す。

 

「それがあなたの本気?」

 

「多分な」

 

「わらわ、一騎打ちって結構好きよ。響きも」

 

お互いに、魔力を自分の獲物に注ぐ。

エアは世界を断とうと回転を増し、鏡は映る者全てを焼き尽くそうと光を集める。

 

「これ、やるのは初めてだから、おそらく手加減は出来ないからな」

 

「ええ、されても困るわ」

 

心に生まれる余裕に戸惑いながら、俺はエアを持つ腕を後ろに引くように体をひねる。

弓に矢をつがえ、弓を引き絞るように。

 

天地乖離す(エヌマ)・・・」

 

「焼きぃ・・・」

 

放つ一瞬、全ての音が消えた。

 

「・・・開闢の星(エリシュ)!」

 

「・・・尽くせぇ!」

 

一瞬だけあった痛いほどの静寂のなか、世界を二つに断つ剣と、世界の全てを焼く光が、ぶつかり合う。

宝物庫からのバックアップ、月からの正常なパスから来る魔力、俺自身がコツコツと貯めていた保有魔力を注ぎ込み、エアを回転させる。

目に映るのは渦巻く風と光。耳に入ってくるのは世界が軋む悲鳴。

ほとんど何も考えずに、エアを突き出すことだけに俺の全てを掛けた。

 

・・・

 

ズズズ、と何かがずれるような感覚を、サーヴァント達は感じ取った。

 

「これは・・・」

 

「なんだなんだっ!」

 

聖杯戦争組が窓から外を見たり扉から城内に目を走らせたりしていると、扉から外を見ていた響が月に気付く。

 

「あ、月ちゃ、んにゃーっ!?」

 

響が猫のような悲鳴を上げて後ろに飛び退く。

月はそんな響すら吹き飛ばすような勢いで部屋に入ると

 

「ぎ、ギルさっ、ギルさんがっ!」

 

ぜぇはぁと息を切らせながらそう叫んだ。

その様子と、先ほどの感覚を結びつけた多喜が、ライダーに向かって言葉を発する。

 

「この揺れと、何か関係あると思うか、ライダー」

 

多喜の言葉に、ライダーは苦笑いしながら応えた。

 

「関係ねぇ筈がないだろ。この状況でよぉ」

 

だよなぁ、と多喜が呟いた瞬間、地面が揺れる。

 

「せ、世界の終わり、とかじゃないよね・・・?」

 

月にしがみついた響が、恐怖を隠しきれていない引きつった笑顔でそう言った。

 

・・・

 

「いっつつつ・・・」

 

いつのまにか倒れていたらしい。地面に手をついて起きあがる。

ぎぎ、と間接が鈍い悲鳴を上げる。魔力を使いすぎたかな。でも立ち上がれないほどじゃない。

何とか立ち上がると、傷だらけの地面が目に入る。・・・はぁ、おとなしく愛紗の説教を受けるしかないか。

 

「う、っつー・・・」

 

視界の外で少女の声がする。瓦礫が周りじゅうにあるので、おそらくどこかの瓦礫の陰にでも入るんだろう。

少女もサーヴァントならこの程度の瓦礫、何とかするはずだ。

警戒するに越したことはないのでエアを持っているが、もう一回転すらさせることは出来ないだろう。それほどまでに魔力が減っている。

 

「んもう、激しいのね」

 

後ろから声がかかる。寒気も悪寒も感じることが出来ない。それほどまでに消耗していると言うことか。

 

「うむ、元気がある方が良いじゃろう」

 

卑弥呼もいるようだ。まさかのダブルマッチョに戦慄する暇もなく、少女が瓦礫を越え、やってくる。

 

「きたわねん」

 

「くるか」

 

卑弥呼と貂蝉が構える。

 

「わらわをこうまでしたのはお前が初めてね。・・・って、あんたらもいるの」

 

「あんたらとはごあいさつねぇ」

 

貂蝉の言葉に、ふんっ、と腕を組んでそっぽを向いた少女は答えた。

 

「まったく、その格好を見てわらわが好意を抱けるわけ無いじゃないの」

 

そこには同意するぞ、少女。

しかし、こいつらは知り合いっぽいぞ。と言うことは少女も何かまともじゃない人なのだろうか。まさか、後ろの二人の内のどっちかのサーヴァントとか? 

それで、逃げ出したところを捕まえに来たとか。・・・まぁ、逃げたくもなるよなぁ。

少女はこの空気を断ち切るように叫ぶ。

 

「と・に・か・く! 偽物っ! あんただけは許さないんだからっ!」

 

その言葉に、俺のことかと構えたが、少女の視線は俺に向いていなかった。

少し後方・・・卑弥呼のことを見ていた。

 

「管理者だかなんだかしらないけど・・・卑弥呼はあんたじゃないっ! わらわよっ!」

 

なんだってっ!? 

 

「わらわが、わらわこそが邪馬台国女王・・・卑弥呼! あなたのようなムキムキマッチョが名乗って良い名前じゃないのよっ!」

 

俺はそう言われて初めて、近くに来ていた少女の姿を見た。

ゆったりとしていて、派手すぎない刺繍と飾りが入った服を着ていて、髪は艶のある黒髪を横で束に・・・まさに、卑弥呼の様な髪型にしていた

混沌が支配する空間で、疲労も手伝い、俺の頭は状況を整理するだけでいっぱいいっぱいだった。

え、っていうか卑弥呼って英霊だったのか。戦闘能力皆無じゃないか? ・・・と言うか、女王になってから外に出たこと無いんじゃないっけ。

グルグルと疑問が浮かぶだけで、まともな思考が出来ない。

 

「・・・でもま、今日はそこの金ぴかと戦って疲れたし、退いてあげるわ」

 

そう言うと、瓦礫の山から少女は飛び降り、地面に着地することなく消えた。

 

「ふむ、流石にこの数は不利と悟ったか」

 

「良かったわ。それじゃ、帰りましょうか?」

 

・・・

 

ふらふらとしつつも城へと戻る。

そう言えば、あの瓦礫の山とかどうしよう。東屋とか城壁とか結構崩しちゃったんだけど。

そんな俺の視線を感じ取ったのか、貂蝉が答えてくれた。

 

「あ、お城の心配? 大丈夫よぉ。ここはワタシたちがあなた達が全力をぶつける間だけ作り出した世界だから、いくら壊しても問題ないわよん」

 

そうなのか。管理者って便利だな。

 

「しかし、あの一撃は流石に焦った。ワシらが作った世界を壊しかけたぞ。お主達がいた世界にも、少しは影響が出ておる筈だ」

 

あの一撃? ・・・あー、エアと鏡のあれか。確かに俺もかなり歯止めが無くなってたからなぁ。

 

「取り敢えず、あなたの部屋に直接送るわよ。今日は寝て疲れを取りなさい。明日起きたらお話してあげるわ」

 

明日、明日かぁ。演習あるんだけどなぁ。

魔力を大量に失った気怠さに負け、部屋に入った瞬間鎧だけを外して最低限の服と交換し、寝台に倒れ込む。

そのまま、気絶するように意識を失った。

 

・・・

 

目覚めると、未だに外は闇に包まれていた。少ししか意識を失っていないらしい。

だが、その短時間で魔力の保有量は安全圏まで回復していた。

 

「あら、起きたのねん」

 

声が聞こえた。その特徴的すぎる声は恐怖を呼び出すもので、聞こえた瞬間に俺の体も意識も一気に覚醒した。

 

「貂蝉か」

 

ベッドから慌てて体を起こす。管理者達と対峙するときは隙を見せてはいけないと本能が語りかけてくる。

 

「さて、ようやくお話しできそうねん。『計画』について」

 

貂蝉がくねくねとしながらそう言った。

 

「うん。頼む」

 

貂蝉は、それじゃ説明するわね、と前置きして語り始めた。

まず、外史の世界は幾つか平行して存在していること。

そして、正史以外を認めない過激派の人間が居ること。その人間が、外史からも外れた平行世界から、黒く汚れた聖杯の欠片を持ち込んだこと。

欠片といっても、過激派が仙術の力を利用して修復したので、サーヴァントを7騎捧げれば暴力によって願いを叶えられるらしいのだ。

その聖杯の元に、自分たちが7騎サーヴァントを召喚し、すぐに捧げれば彼らの計画は完成するはずだった。

しかし、その計画に気付いた貂蝉と卑弥呼は、聖杯を止められはしなかったものの、サーヴァントを散らばらせることに成功した。

サーヴァントの選択権もある程度自由が利いたので、聖杯戦争を望んで進める英霊にはならないように少し調整したらしい。

聖杯がぼろぼろで不完全なので、本来聖杯戦争にあるべき機能がなかったり、制限が出来たりしてしまったのはお互いに予想外だそうだ。

貂蝉と卑弥呼は何とか時間を引き延ばし、その間に解決を探すべく奔走した。

二人の動きに気付いた過激派の人間は、平行世界を再び移動し、少女の方の卑弥呼を説得したのだという。

 

「・・・そう言えば、あっちの卑弥呼は英霊じゃないんだよな?」

 

あっちの、とはもちろん少女の方の卑弥呼のことだ。

 

「ええ。そうよん。あっちの卑弥呼は人間ね」

 

貂蝉の言葉に、ある疑問が浮かぶ。

 

「なら、なんであんな事が出来るんだ?」

 

思い浮かべるのは、鏡の大量出現や乱発された光線。

貂蝉は、ああ、そのこと? と言うと、あっさりと俺の謎を解決した。

 

「だって、あの卑弥呼は第二魔法を使えるもの。世界に穴を開けて魔力を引きずり出して、媒体となる鏡も平行世界から取り出したのね」

 

「魔法使いだってっ!?」

 

おいおい、しかも第二法!? 平行世界管理とかいうあの反則魔法か! 

 

「ええ。でも、魔法使いと言うよりは英霊くらいの戦闘レベルだと思って良いわよ」

 

貂蝉が調べたらしい卑弥呼の情報を聞くと、彼女は自分が魔法を使えるのだと理解はしていないのだそうだ。

物心ついたときには鏡を媒体に魔力を操り、平行世界を移動出来るようになっていたらしい。

今の時間よりも未来の平行世界へ行くことによって、未来の出来事を知り、『占い』として邪馬台国を動かしてきたらしい。

不安定ではあるが、それでも未来予知には変わりなく、その力を以て卑弥呼は女王として働いていた。

そこに、過激派の人間が話を持ち込んだ。卑弥呼を騙る変態が、平行世界の海を渡った大陸で好き勝手している、と。

元々行動派の卑弥呼はすぐに動いた。

因みに、卑弥呼は住処から出て来ず、弟のみと言葉を交わしたとされているが、それは卑弥呼がいつも平行世界に旅立っているためだった。

弟と会話をするとき以外は邪馬台国どころか世界そのものから居なくなっていたのだ。

会話を弟とのみしていた理由は、姉が平行世界を移動できることを知っているのが弟だけだったから。さらにもう一つ理由があった。

特別な力が使えるのは卑弥呼だけではなく、弟もあることに特化した力を使えたのだ。それは、どんなに平行世界を隔てようと姉に自分の声を届ける力。

 

「・・・俺の習ってきた歴史って何なんだろうなぁ」

 

俺の呟きは虚しく響くだけだった。一通り『計画』の事と、少女の卑弥呼の秘密を説明して貰い、何とか話しが繋がってきた。

 

「一つ聞きたいことがあるんだが、貂蝉」

 

「なにかしらん?」

 

バーサーカーは過激派が呼んでいるから当然だけど、と前置きして、聞いてみる。

 

「聖杯戦争を望んで進めない英雄を選んだんだよな? ・・・ランサーはかなり積極的に進めてるようだが・・・」

 

思い出すのは、大量の緑の軍勢が銃を構える姿。

 

「それは、マスターが戦争を進めようとしているからかしらね。ランサー自体は、戦い・・・と言うか戦争は嫌いな英霊の筈よ」

 

「正体を教えてはくれないんだな」

 

「自分で見つけてちょうだい。楽をしようとすると思わぬところで足を掬われるわよん」

 

「・・・そうだな」

 

ただでさえギルガメッシュの慢心スキルを受け継いでいる疑惑がかかっているのだ。用心するに越したことはないな。

 

「それじゃあ、私は失礼するわよん。一応このお城の近くにはいるから、もう一人の卑弥呼が来たときは助太刀するわ」

 

そう言って、ウインクの後に投げキッスをして貂蝉は去っていく。

俺はウインクと投げキッスを避けてから、部屋を出る。月の所へ行って、一応安全を確かめておきたいとおもったからだ。

 

・・・

 

卑弥呼との決着がつく少し前。聖杯戦争組は動くに動けない状況へと陥っていた。

突然消えたアーチャー。揺れた地面。

アーチャーを探しに行きたいが、マスターも守らなくてはいけない。戦力を分けて下手に動いては各個撃破されるかも知れない。

せめてアーチャーの安否だけでも分かれば、という空気が部屋を支配していた。

 

「ギルさん・・・!」

 

セイバー達の部屋に集合した聖杯戦争組は、椅子に腰掛けて祈るように手を組む月を心配しながら、これからどう動こうかを話し合っていた。

 

「取り敢えず、ギルの安否を確認しておかなければ。まぁ、あやつのことだから十中八九巻き込まれておるだろう」

 

「そうだな。あいつは絡まれやすい。ランサーならば一人でも何とかするだろうが、バーサーカーだときついかも知れない」

 

セイバーとライダーの言葉に、多喜が反応する。

 

「狂戦士の確率は低いと思う。叫び声が聞こえない」

 

「アサシンはサーヴァントじゃないかもしれないって言ってる。戦ってる時の魔力を感じられないって」

 

響の言葉に、セイバーとライダーは頷く。私たちも魔力を感じていないのだ、とセイバーが答える。

なら誰が、と銀が呟いたとき、月が顔を上げた。

 

「ギルさん・・・。ギルさんが、帰ってきましたっ!」

 

「なんだとっ。何処にいる?」

 

「こちらに向かってきているような感覚がします」

 

月がそう言って立ち上がり、我慢できずに部屋を飛び出しかけたとき、ドアが独りでに開いた。

 

「お、月。なんだ、みんな集まってたのか」

 

陽気と言っていいほどの声色で、アーチャーが話す。

ぶつかりかけた月を当然のように受け止め、頭を撫でながら全員を見回す。

 

「どうしたんだ、みんな。んな深刻そうな顔して」

 

「し、深刻そうな顔もするよっ! ギルさん、今まで何処行ってたのっ!?」

 

響が叫ぶ。アーチャーが再び全員の顔を見回すと、全員がコクコクと頷いていた。

詳しく話せ、と目が語っているな、とアーチャーは気づいた。苦笑い気味に分かったよ、と言って、腰にひっついている月を抱き上げた。

勢いで抱きついたはいいがどうしようかと考えている内に抱き上げられてしまった月は、混乱している内に寝台に座ったアーチャーの膝に乗せられた。

ごめんな、心配させて、と月にだけ聞こえるよう呟いたアーチャーは、顔を赤くしてうつむき加減に頷く月の髪を梳くようにゆっくりと撫でつつ話し始めた。

 

・・・

 

「・・・なんと。魔法使い、という者が参戦したのか」

 

セイバーが唸りながら状況を要約する。

平行世界管理。その危険性についても説明はしたので、その事も考えて居るんだろう。

 

「でも、ギルさんが無事に帰ってきてくれて良かったです・・・」

 

目尻に涙を浮かべつつ、膝の上に収まっている月が俺を見上げてそう言った。

思えば月に何も言わずに戦闘に入ったりして心配させることが多いよなぁ。

 

「そだよー! ギルさんは月ちゃんと詠ちゃんと私を心配させすぎっ!」

 

響がうがーっ、と勢いをつけて詰め寄ってくる。

どうどう、と窘めていると、セイバーが話しかけてくる。

 

「兎に角、その外史の管理者とやらが協力してくれるのならば、対策は立てられるだろう」

 

「お、なんか考えがあるのか、セイバー」

 

「単純だがな」

 

銀がもったいぶらずに教えろよ、セイバーと急かすと、セイバーはいたずらを考えついた子供のように笑いながら言った。

 

「魔法使いを管理者に押しつけて逃げればいい。簡単だろう?」

 

「それはそうだが・・・」

 

ライダーの唇の端がひくりとつり上がった。多喜は大笑いをしている。

 

「切れることのない魔力というのはそれだけで脅威だ。我々サーヴァントのような限りある魔力で活動する身としてはな」

 

「ま、管理者達は何か便利な力をいろいろ使えるみたいだから、負けはしないだろうけど」

 

セイバーの言葉に、少しだけ補足する。城に影響のない様に別の空間を作り出したり出来るのだ。何とかなるだろう。

・・・龍と魔法使いってどっちが強いんだろうか。

 

「・・・取り敢えず、今日の所は解散しないか。・・・疲れてる奴も居るようだし」

 

そう言って、ライダーはちらりと俺を・・・正確には、俺の膝に乗る月を見る。

釣られて月を見ると、背中を俺に預けてすうすうと寝息を立てていた。

 

「・・・そだな。そうしてくれるとありがたい」

 

寝間着に上着を一枚羽織っただけの今の格好では風邪を引いてしまう。

聖杯戦争組の作戦会議は一旦解散となり、休んでから再開されることとなった。

 

・・・

 

全員と解散した後、月を横抱き・・・所謂、お姫様だっこをして城内を歩いていた。

俺の隣には響がいて、両手がふさがってしまった俺の手伝いと、月にいたずらをしないか見張りをするという名目でついてきているのだった。

 

「そーいや」

 

響が話しかけてくる。

 

「なんだ?」

 

「前に酔っぱらったとき、部屋まで連れてってくれたんだよね?」

 

「・・・覚えてないのか?」

 

おいおい、と溜め息混じりに言うと、響は気まずそうに笑い

 

「いや、ほら私ってお酒に酔うと記憶なくすタチじゃん?」

 

「じゃん? とか言われても・・・」

 

響に呆れていると、月と詠の部屋に到着した。

扉を開けて貰い、詠の隣に月を寝かせる。暖かみが無くなり、なんだか寂しくなる。

隣で眠る詠の様子も確かめる。

 

「・・・良し、詠も起きてないな」

 

騒がしくして済まんな、と詠の顔にかかった前髪を優しく払っておく。

ん、と声を出したが、起こしては居ないようだ。起こしてしまう前に俺と響は二人の部屋を出た。

 

・・・

 

「ふぁ~・・・。ねみゅいなぁ」

 

「すまんな、俺の所為で夜遅くまで」

 

「・・・んー、別にいいよ。ギルさんにはいろいろ助けられてるから・・・っくち!」

 

可愛いくしゃみをする響に癒されつつ、夜は冷えるよなぁ、と益体もないことを考える。

響のメイド服に視線を移すと、薄めの生地に半袖ミニスカートという冬どうするんだこれ、という服装をしていた。

宝物庫の中からフランチェスカの制服を取りだし、響に羽織らせる。

 

「んえ? ・・・おー、ありがと、ギルさん」

 

きょとんとしていたが、何をされたか分かると、ふにゃりと表情を崩した響。

制服を両手で掴み、自分を覆うようにすると、俺よりサイズが小さい響の上半身はすっぽりと包まれてしまう。

そのまま会話のないまま歩いていくと、響の部屋へと到着した。

コートみたいになっている制服を返そうとする響に、良いよ、それはあげる。と答える。

 

「え、でも、悪いよ」

 

フランチェスカの制服の方は普段着として遣っているが、宝物庫の中にまだ予備はある。冬用夏用破れたときの予備。何でもござれだ。

今一着無くなったところで困らない、と伝えると、響は制服を抱きしめるようにして

 

「ありがとっ・・・」

 

と、伝えてきた。なんだろう、くらっときた。くぅぅ、響め、ツボを押さえてるじゃないか。

 

「そ、それじゃ、お休みっ」

 

その後、慌てたように部屋に入っていく響にお休み、と返す。

さて、帰ろうかな。

 

・・・

 

翌日。今日は俺が参加する演習の日である。

向こう側の総大将は紫苑が務め、恋、翠、愛紗が将として参加している。軍師はねねと詠だ。

 

「・・・何か向こうの戦力おかしくないか?」

 

思わず呟いてしまった。いやいや、愛紗と恋が一緒にいるのはおかしい。

あの過剰戦力に対してこちらの総大将は桃香、将は鈴々、蒲公英、俺が参加している。軍師は雛里である。

 

「あ、あははー・・・。一応、同じ戦力になるようにはしてるんだけど~・・・」

 

桃香が苦笑い気味にそう言ってくる。恋はくじ引きでどちらにつくかを決めているらしい。

更に桔梗は璃々や美以達の相手でこちらに参加できず、その代わりに俺を引っ張り出したらしい。いや、確かに弓兵だけども。

雛里だけの理由は朱里が現在政務で手が離せないからだ。これはまぁ、仕方のないことである。

 

「うぅ~、お姉様もいるしー・・・。絶対たんぽぽの事狙ってくるよぅ・・・。助けてギル兄様ぁ」

 

そう言って蒲公英は俺に泣きついてくる。だが、甘いな蒲公英。

俺は先ほどからひしひしと感じる視線から目をそらさずに蒲公英に返す。

 

「はっ。無茶を言う。見てみろ。俺、さっきから愛紗と恋と目がバッチリ合ってるんだ。確実に狙われてると思うんだけどそこんとこどうだろうか」

 

「・・・たんぽぽより酷いことになりそうだね、ギル兄様」

 

哀れみの籠もった瞳でこちらを見てくる蒲公英。まさか蒲公英に本気で哀れまれる日が来るとは・・・。

いや、しかし・・・蛇狩りの鎌(ハルペー)じゃなくエアを持ってきていて良かった。こっちならばあの二人の猛攻にも耐えられるだろう。

 

「そ、そろそろ始まります・・・」

 

雛里が魔女帽子を押さえながら控えめに声を掛けてくる。

いつものように帽子ごと雛里の頭を撫でる。

 

「ねねと詠に一人で立ち向かうのは大変だろうけど、負けるなよ。期待してる」

 

逆にプレッシャーになったかな? と不安に思ったが、一度言った言葉は取り戻せない。後悔先に立たずである。

しかし、雛里は俺の言葉でやる気を出してくれたらしい。元気に

 

「はいっ!」

 

と答えてくれた。これなら二対一でも策略で負けることはないだろう。

取り敢えず、雛里の割り振りを聞く。やはり鈴々と蒲公英は前線。桃香と雛里が本陣として後ろに陣を敷き、俺がその中間で両方の補佐。

 

「・・・おい、それはちょっとおかしい」

 

「にゃははー。兄ちゃんだったらやれるのだー」

 

「鈴々、いいか。世の中にはサーヴァントにも出来ないことが沢山あってだな・・・」

 

何とか鈴々に理解して貰おうと必死に説得する。鈴々はんー? と首を傾げて理解している気配を微塵も見せなかった。

 

「・・・あー。これが諦めって奴か。なんか開き直ってきたな」

 

空を仰ぐ。今日も天気が良くて空が青い。

大体の人はこれを現実逃避と言う。テストに出るぞ、覚えておけ。

 

「お兄さん、始まるよ!」

 

城壁の上で、ドラを鳴らそうとしている兵士を指さす桃香。

 

「ああ。やるだけ、やってみるか」

 

開き直ってそう呟いてみると、不思議と気分が楽になった気がした。

銅鑼が鳴る直前。後ろに並び立つ俺の隊の兵士に向かって叫んだ。

 

「俺に従い、戦う兵士よ! この俺が呂布と関羽を引き受ける! お前達にはその二人が率いる兵を頼みたい!」

 

カリスマ全開で叫んだその言葉に、まわりの空気が揺れるているのが分かるほどの大声量で応えてくれる俺の隊の人間達。

やっぱり、呪いか何かだよな、このカリスマ。

響き渡る銅鑼の音を聞いて馬を走らせながら、そんなことを思っていた。

 

・・・

 

「ギル殿ッ!」

 

「・・・ぎる」

 

愛紗と恋が迷うことなくこちらにやってきた。

鈴々は紫苑が抑え、蒲公英にはやはり翠が向かっているらしい。

紫苑と翠が中央の兵を薄くして、そこを二人が突撃してきているのだ。

雛里から事前に言われていたとおり、兵士を動かす。

 

「左翼! 呂布の部隊を抑えてくれ! 右翼はそのまま関羽の部隊を受け流せ!」

 

カリスマのおかげで兵士達が一糸乱れぬ動きを見せてくれる。良し、兵士の方は大丈夫か。

エアを持ち馬から飛び降りる。あの二人の猛攻を馬上で受け止める自信は全くない。

 

「行きますっ! はああああぁ!」

 

同じく馬を下りる愛紗と恋。二人が降りた瞬間に風を切って迫る青龍偃月刀。

 

「くっ!」

 

兵士の手前あまり派手に回転させられないが、それでもエアは宝具である。

上から振り下ろされた愛紗の青龍偃月刀とぶつかり合って負けていない。

 

「こっちも・・・いる」

 

「恋かっ・・・!」

 

膂力に任せて偃月刀を打ち返す。愛紗に出来た一瞬の隙をついて恋の方天画戟にエアを叩き付ける。

鈍い音がして、お互いの武器が手に震動を伝えてくる。やっぱり愛紗と恋の一撃は重い。だけど・・・

 

「持ちこたえられない・・・程じゃない!」

 

地面を蹴り、恋に迫る。恋は驚いた表情になるが、すぐにいつもの無表情へと戻ってしまった。

自分の元へ戻した方天画戟を構える恋にエアを叩き付ける。

 

「くっ・・・強い・・・」

 

「恋にそう言ってもらえるとは・・・なっ!」

 

恋はこれだけ強く叩き付けても少し後ろに下がる程度だった。流石としか言いようがない。

後ろから気迫を感じ、すぐに横に跳ぶ。数瞬前まで居たところを偃月刀が通っていった。冷や冷やしたぞ。

 

「流石です、ギル殿。今のを避けられるならば、武人として一流でしょう」

 

隙無く偃月刀を構え、俺を褒めてくれる愛紗。恋も頷いている。

 

「ありがと。二人に褒められたら自信がつくな」

 

そう言いながら周りの戦況を伺う。これは一騎打ちではなく演習なのだ。

しかも俺の役割は状況を見て蒲公英や鈴々、桃香や雛里の支援もしなくてはいけない。

幸い、前線は鈴々のおかげで食い止めて居るみたいだし、雛里もきちんと策を発動できているみたいだ。

ならば、俺の部隊はこのままこの二人の部隊をせき止める事が仕事だ。

そのために、本陣に回す人員を削ってまで俺の部隊に入れてるんだから。

 

「退けない戦いって奴か。男としては燃えるなぁ」

 

体中に力がみなぎってくる気分だ。やはり、卑弥呼と戦ったときからやたら調子が良い。

全身のバネを利用して、足から腕へ。地面を蹴った力を渡していく。

愛紗の驚いた声が聞こえてくる。

 

「早い!? ・・・せいやああああああ!」

 

景色が流れ、線のように見える。愛紗と恋の動きがゆっくりに映り、落ち着いて対処していくことが出来る。

今まで体感したことがなかったので分からないが、これは今までの訓練の結果というやつなんだろうか。

体が思ったように動くし、相手の動きの先を読めるようにもなってきた。

 

・・・

 

「ギルさん・・・凄いですっ」

 

城壁の上で、月と響が演習を観戦していた。視線はほとんど月のサーヴァントであるアーチャーに固定されている。

三国に名を轟かせている関羽、呂布を相手に対等に戦っているアーチャーを見て、二人とも興奮気味のようだ。

 

「うっはぁ~・・・。あれ兵士とかドン引きしてない?」

 

響の言うとおり、三人を取り囲むように布陣していた兵士達はお互いの獲物をぶつけ合う将を見て若干気後れしているようだ。

相手の兵士と打ち合っているが、視線はちらちらと将へと向いている。

 

「おー! ギル兄は強いのにゃー!」

 

「つよいのにゃー!」

 

「つおいのにゃー!」

 

「ちゅおいのにゃー」

 

桔梗が面倒を見ている美以やミケ、トラ、シャムの南蛮組も一番懐いているアーチャーに声援を送っているようだ。

 

「ギルお兄ちゃんは璃々のお兄ちゃんなのー!」

 

「おうおう、ギルは皆に好かれておるのう」

 

かっかっか、とさも面白そうに笑う桔梗の前で、五人がわいわいと騒いでいる。

そのうち美以が月と響を発見し、二人の元へと駆け寄る。

 

「そう言えば気になってることがあるのにゃ」

 

その言葉に、月はきょとんとして聞き返す。

 

「え? ・・・えっと、何かな、美以ちゃん」

 

月から聞き返され、美以は小首を傾げて不思議そうに聞いてきた。

 

「ギル兄はお仕事違うのにいつも月と一緒にいるにゃー? にゃんでにゃー?」

 

「にぃには、ゆえと仲良いのにゃー」

 

「えいとも仲がよいのにゃー?」

 

「きょーもなのにゃー」

 

「えぅ・・・なんでって・・・」

 

「あ、私にも来るんだ!?」

 

四人の質問に、月だけではなく響までもがにゃーにゃーと質問攻めにあっていた。

桔梗が興味深そうにほぅ、と呟き、話しに入ってくる。

 

「そう言えばワシも疑問に思っていたのぅ。もしや・・・ギルとはすでに恋仲か?」

 

「ふぇぇぅ・・・そ、そんな私・・・あぅ・・・」

 

「わ、わわっ、私は違うよっ!?」

 

桔梗がざっくりと切り込んできた質問をすると、月は真っ赤になって手で頬を押さえ、まともに答えられていないようだった。

響は両手を体の前でブンブンと振って必死になって否定している。

そんな二人を見て、桔梗は更に面白そうに笑い出す。

 

「こいなかー、なのにゃ?」

 

「こいなかってなんなのにゃ、だいおーさまー」

 

「知らんのにゃ。ききょー、なんなのにゃ?」

 

「恋仲がなにか、か? うむ、良い質問だな。恋仲とは、月とギルの様に、一緒の寝台で寝てみたり、部屋に押しかけて抱きついたりする関係だな」

 

「見てたんですか桔梗さんっ!?」

 

桔梗の言葉に思い当たる節がいくつかあった月は顔を真っ赤にしたまま勢いよく桔梗に詰め寄った。

 

「なに、詠に愚痴られたことが何度かあるのでな。その中の話しを思い出しただけの事よ」

 

「えぅぅ・・・詠ちゃぁん・・・」

 

親友の顔を思い浮かべ、恨めしげにその名前を呼ぶ。

 

「それに、響は響でギルの上着を腰に巻いておるしの」

 

「うあっ! そ、それは・・・」

 

その言葉の通り、響は以前ギルから受け取ったフランチェスカ男子制服の上着の腕の部分を結び、腰に巻いていた。

見ようによってはギルの鎧に付いている腰のマントを意識したようにも見える。

隠せるはずもないのに、響は両手で腰に巻いた制服を押さえるように隠そうと、あたふたしていた。

 

「あ・・・そ、そう! 下が短いから、階段上るときにみえないよーに、防御してるの!」

 

閃いた! とでも言うように響がまくし立てる。桔梗はそーかそーか、と全く信じていない様子で頷いていた。

猫が毛を逆立てるように響がんもー! と叫ぶと、演習終了の銅鑼が鳴った。

 

「ギルさんが勝ちましたよ、響ちゃん!」

 

桔梗の魔の手からいち早く抜け出して演習の様子を見ていた月が、嬉しそうに報告する。

裏切ったね月ちゃん・・・と心の中だけで呟いて、城壁から下を覗く。

確かに、紫苑の旗が鈴々の手によって奪われていた。

 

「どうやって取ったんだろ」

 

「あ、あれじゃない?」

 

そう言って響が指さしたのは、鈴々の軍の正反対の位置に布陣し、紫苑の部隊を挟むようにしている一つの部隊。

そこには、劉の牙門旗がはためいていた。

 

・・・

 

銅鑼が鳴り、演習の終わりを告げる。

 

「し、紫苑の旗が取られた!?」

 

愛紗が驚いたように兵に確認を取っている。

事前に・・・と言っても、始まる数刻前に雛里に告げられた作戦はとても簡単で単純な物だった。

翠は蒲公英に抑えて貰い、鈴々は紫苑にぶつける。中間に位置する俺が愛紗と恋の部隊を引きつけておく。

その間に桃香の部隊が雛里と共に少数を引き連れて紫苑の後ろに回る。

ただそれだけの策と呼べるか怪しい物だが、まず前提条件が難しいと雛里は言っていた。

 

「あわ・・・愛紗さんと恋さんを一度に相手出来るのはギルさんを除いて他にいません」

 

だから、二人を引きつけてください、と期待に満ちた瞳で見つめられては、俺も断るわけには行くまい。

幸い総大将の桃香が動くとは思っていなかったらしく、相手は俺の部隊を抜くことだけを考えていたらしい。

戦闘している部隊の影に隠れるように移動したので、ねねと詠が気付いたときにはもう遅かったとのこと。

ま、それで今に至るわけだが・・・。

 

「ぬぬぬぅ~!」

 

ねねが眼前で唸っている。なんでも

 

「恋殿と愛紗を一度に相手取れるなど、ずるいですぞー!」

 

とのことだった。いや、んなこといわれても。

 

「・・・ぎる、頑張ったから、強い」

 

「れ、恋殿ぉ~・・・。うぅ、今回は負けを認めるのです! 次は痛い目見せてやるのですー!」

 

そう言ってねねは何処かへ行ってしまった。おい、詠を置いていくな。

 

「ふ、ふん! 今回は頑張ったんじゃない?」

 

しかもツン子モードである。何とかしてくれ。

 

・・・




「ふっふっふ。この『合わせ鏡』には隠された能力があるのよ! 午前零時にこの『合わせ鏡』を覗くと・・・」「の、覗くと・・・?」「普通に光線に焼かれるわね」「あ、ああ、そうか・・・そうか」「なにガッカリしてんのよ?」

誤字脱字のご報告、ご感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。