真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

13 / 30
白・・・かぁ・・・。

それでは、どうぞ。


第十一話 日常と偽者と白色と

政務室。いつもは綺麗になっている机まわりが少し乱雑になっている様な気がする。

あとで整理をしておいて・・・うん、仕事をしてからでも十分間に合うな。

机の上を見てそんなことを考えていると、やる気十分の桃香が口を開いた。

 

「朱里ちゃん、まずは何からやろっか?」

 

「はいっ、まずは・・・この草案から目を通していっていただけますか?」

 

「りょーかいっ。えとえと、うーん・・・」

 

竹簡を開き、真面目な顔で書いてあることに目を通していく桃香。

さて、俺も働くか。

 

「朱里、俺の分は?」

 

「あ、こちらです」

 

朱里が一旦別室に引っ込む。

 

「?」

 

あっちは政務に必要な資料とかを保存しておく資料室の様なものだったはず。何か資料の手直しだろうか? 

そんなことに考えを巡らせていると、がらごろと台車に何か重そうな物を乗せて引っ張る音が聞こえる。

 

「はふ、こちらです」

 

「おおう・・・」

 

台車に乗って運ばれてきたのは山盛りの竹簡。

 

「何、これ」

 

「ええと・・・街に出没する華蝶仮面さんたちが暴れたことによって被害を受けた人達の陳情、後は・・・」

 

なんだか朱里が言いにくそうにしている。

 

「・・・後は?」

 

朱里に続きを言うように促すと、おどおどとしながら口を開いた。

 

「・・・幼練さんのツケの請求書です」

 

「なァんだってェ・・・? 俺に、ツケただァ・・・?」

 

「ひうっ!?」

 

出来るだけ怒りを表に出さないように呟いたつもりだったが、朱里は悲鳴を上げてしまった。・・・そんなに怖かったか。

驚きだ! というかニートって冗談のつもりだったんだが、あいつホントにニートだったのか! 

前にステータスの黄金律の話をしたときの笑顔はこれを狙ってか! やられた・・・! 

 

「はわわ・・・」

 

かなり険しい顔をしていたのだろう。俺の目の前で説明をしていた朱里が涙目だ。

 

「おっと・・・悪いな、朱里。怖がらせるつもりはなかったんだ」

 

「は、はい・・・。大丈夫です。分かってますから。・・・その、驚いちゃっただけです」

 

そう言ってくれるが、確実に驚いただけじゃないだろう。

 

「よし、気は滅入るが早速取りかかろう」

 

「お願いします。私はこれで失礼しますが、後で雛里ちゃんが来るので分からないことがあったらその時に聞いてください」

 

「ん、ありがと」

 

「それでは、失礼します」

 

そう言って、朱里は部屋を出た。

珍しく桃香の声が聞こえないなと思ってそちらを見てみると、未だに真面目な顔をして竹簡に目を通していた。凄い集中力だ。

さて、俺も真面目にやるかな。

 

・・・

 

華蝶連者とかの陳情はいくらか慰謝料として出すことで決定した。

いくらになるかは雛里と相談するとして、えっと次は多喜のツケか。

ライダーのしつけもまだまだってことか。

どれどれ、うわ、かなりツケられてる。ひー、ふー、みー・・・かなりの桁数だな。

 

「桃香、ちょっと出てくる」

 

俺がそう声をかけると、桃香がようやく竹簡から目を離す。

 

「ん? どこいくのー?」

 

「陳情を解決しに、かな」

 

「そっかぁ。頑張ってね、お兄さんっ」

 

「了解した。・・・あ、雛里が来たら俺が戻るまでちょっと足止め頼むな」

 

「はぁい」

 

良い返事をしてくれた桃香を残して、俺はさっそく行動することに。

 

・・・

 

まずはツケのある店を回る。

拉麺の屋台、いつも恋や鈴々達とくる馴染みのまんじゅう屋等々エトセトラ。

 

「ちっ、かなりの額になってるな」

 

思わず悪態が口をついて出てくる。あとでどんな仕返しをしてやろうか。

取り敢えずツケを払う。なんでこんなにツケたのか店主達に聞くと、俺が払うと多喜が言っていたので安心してツケていた、とのことだ。

俺に寄せられる妙な信頼は嬉しいが、こんな問題になるとは思わなかった。

払った額は竹簡に書き込んでいく。・・・後で絶対に多喜に請求してやる。

 

「・・・こんな所か」

 

ツケの確認と支払い、書き込みをすませて、城へと戻る。

 

「ただいまー」

 

「あ、お帰りお兄さん。今丁度雛里ちゃんが来たところだよ」

 

「こ、こんにちわです・・・」

 

「ああ、こんにちわ」

 

多喜の問題は後に回すとして、他の書類を片付けることにした俺は自分の机に戻った。

雛里に聞く案件を纏めていると、俺の机の前に雛里がやってきた。

 

「あ、あの・・・」

 

いつものようにおずおずと話しかけられる。

 

「ん? ・・・どうした?」

 

書類から顔を上げ、雛里と目を合わせる。すでにちょっと涙目だった。

 

「えと・・・その、お見舞いに行けず、申し訳ありませんっ!」

 

そう言って、雛里は帽子が落ちるくらいに頭を下げた。

俺は苦笑しつつ、雛里らしいなぁと思いながら立ち上がり、雛里の帽子を拾った。

 

「雛里、頭あげて」

 

「はい・・・」

 

俺は雛里に帽子をかぶせて、雛里と目線を合わせるためしゃがむ。

 

「倒れたのは急だったし、これなかったからって気にすることはない。・・・っていっても、雛里は気にするんだろうな」

 

「・・・はい」

 

「じゃあ、あれだ。前に言ってたお菓子、作ってくれよ」

 

「お菓子・・・ですか・・・?」

 

「そ。作ってくれって言ってたよな。雛里が休みの日で良いから、作って食べさせてくれよ。回復祝いって事で」

 

俺がそう言うと、雛里は落ち込んでいた顔を恥ずかしげな笑顔に変え、魔女っ子帽子のふちを掴みつつ頷いてくれた。

 

「は、はい・・・。一生懸命、作りますっ」

 

「じゃあ、それでこれなかったことは気にするなよ。な?」

 

「わ、分かりました・・・」

 

その言葉を聞いて安心した俺は雛里にいろいろと聞くために机に戻った。

書類を纏め、雛里に質問したり相談したりして久しぶりの仕事をしていると、すぐに日が暮れていった。

 

・・・

 

「・・・ふぅ、もうこんな時間か・・・」

 

時計がないから正確な時間は分からないが、月が出てしばらく経っているからすでに晩飯の時間だろう。

雛里はしばらく俺達の質問なんかに答えた後新しい仕事が出来たとかでぱたぱたと慌てて出て行った。

 

「ほんとだ。・・・うーん・・・今日は頑張ったなぁ~・・・」

 

両手を上に突き上げてのびをする桃香。・・・い、威力が3倍(当社比)・・・だと・・・。いや、なんの威力かは言わないよ? 

そんな馬鹿な考えを頭の隅っこに押しやり、表面上は何でもないように取り繕う。

 

「今日はこのくらいにして、晩ご飯食べに行こうか、お兄さんっ」

 

首を傾げてそう言ってくる桃香。

 

「そうだな。そろそろ良い時間だし・・・」

 

「やたっ。ほら、早くいこっ」

 

「おおう? 引っ張るなよ。病み上がりだぞ?」

 

俺の手を引っ張って部屋から出る桃香。なんだかご機嫌だ。

 

「そんなに急がなくても、晩飯は逃げないって」

 

「えへへ、分かってるよっ」

 

なんだろう。ホントにご機嫌だ。なにかあったのかね。ま、桃香がご機嫌なのは良いことだ。

明日からの仕事の効率も上がってくることだろう。・・・そう言えば今日は月がお茶を持ってこなかったな。少しショックである。

 

・・・

 

「そういえば」

 

「ん?」

 

晩飯の途中、俺の向かいに座っている桃香が話しかけてくる。

 

「お兄さんが倒れて寝てたとき、うなされてたけど・・・怖い夢でもみたの?」

 

「うなされ・・・ああ」

 

あの悪夢か。

多分人生の中でもサーヴァントになってからもあんな悪夢を見たのは初めてだろう。・・・あれを夢と言っても良いのかは甚だ疑問ではあるが。

お下げ髪の漢女と卑弥呼ヘアーの漢女(おとめ)に迫られた夢と説明して果たして桃香は納得するのだろうか。

 

「あれは・・・ええと」

 

「あ・・・その、言いづらいなら、言わなくて大丈夫だよ?」

 

心配そうな顔をした桃香が優しい言葉をかけてくれる。

 

「そうか? ・・・そう言ってくれると助かる」

 

正直あの白い世界で見た事を説明したら桃香に冷たい目で見られる自信がある。

 

「うん。・・・私たちはお兄さんの味方だからね?」

 

なんだかマイナス方向に桃香が勘違いを加速させているようだが、頭が可哀想と思われるよりはマシである。このまま暴走させておくとしよう。

 

・・・

 

腹もふくれて満足な俺は、桃香と別れて月の部屋へ向かっていた。

月の部屋に着き、扉を叩く。

 

「はい、どうぞ」

 

月の柔らかい声が聞こえてくる。

 

「お邪魔するぞ」

 

そう言って月の部屋に入る。

月と詠はすでに寝間着に着替えていた。

 

「あ、ギルさん」

 

「ギル。あんた、病み上がりなのに出歩いてて大丈夫なわけ?」

 

「大丈夫だよ。人間に見えるけど、一応サーヴァントだからな。・・・というか、もう寝るところだったか?」

 

寝間着姿の二人を見て浮かんだ疑問をぶつけてみるが、二人とも首を横に振った。

 

「いえ、詠ちゃんともう少しお話していたところだったので、大丈夫ですよ」

 

「そうよ。ボク達に変な気を遣わなくても良いの、全く」

 

「そっか。それなら良いんだけど」

 

「ふん。・・・で? なんの用なのよ」

 

詠にそう聞かれるが、別段用事があったわけではない。今日は起きたときにしか二人を見てなかったから会いに来ただけだし・・・。

いや、素直にそう言えばいいのか。

 

「ん、用って訳じゃないんだけどな。今日は二人のこと見てなかったから、寂しいなって思って」

 

俺がそう言うと、二人は目を丸くして驚いていた。

その後、月はふふふと笑い、そうですか、と何か納得したような顔をしていた。

 

「じゃあ、今日はギルさんも一緒にお話しましょう」

 

「そ、そうね。今日くらいは許してあげる」

 

「そっか。それはありがたい」

 

「ギルさん、ここ、どうぞ」

 

そう言って月は自分の隣をぽんぽんと叩く。二人はいつも一緒に寝ている寝台に座っていたので、俺が座ると狭くなるんじゃないかと思ったが・・・。

 

「よっと。・・・意外とでかいんだな、この寝台」

 

「はい。私たちも最初は驚いたんですけど、二人で寝るにはちょうど良い大きさなので、使わせて貰ってます」

 

「ほほう。・・・そうだ、俺が来るまで二人ともどんな話しをしてたんだ?」

 

さっきの月の言葉を思い出して聞いてみると、二人とも顔を赤くして俯いてしまった。

 

「・・・おや、えっと、聞いちゃまずいことだったか・・・?」

 

不安になってそう言ってみるが、二人は俯いたままふるふると頭を横に振った。

ええと、なんだろう。女の子が話すことで、男に聞かれると恥ずかしいこと・・・。

・・・いっぱいありすぎて逆に分からない・・・! 

 

「え、ええと、そのお話はギルさんが来る前に終わっていたので、別の話をしましょう!」

 

月にしては珍しく大きめの声を出してそう言った。

 

「そ、そうね! ギルも来たことだし、別の話題にしよっか!」

 

詠も月の言葉に同意したので、俺が来る前の話題についてはうやむやになってしまった。

・・・ううむ、気になる。後でそれとなく探ってみるか。

まぁ・・・取り敢えずは、月と詠の可愛い姿を見れたことでよしとしよう。

 

・・・

 

「・・・着々とあっちには戦力が集まっていってるね。どうするの?」

 

「ふん、心配はない。俺が何もしなかった訳じゃない。・・・すでに対策は立てている」

 

「そうなんだ。・・・じゃあ、あとは外史の管理者に対しても何か対策を立てないと・・・」

 

「いや、そっちも大丈夫だ。・・・俺の策は、その二つに対抗しうる策だからな」

 

「自信があるみたいだね。・・・じゃあ少し様子を見ることにしようかな」

 

「ああ、そうしろ」

 

・・・

 

「・・・ふぅ。ようやく到着ね。長かったわぁ・・・」

 

少女はそう呟いて、疲れをほぐすように背伸びをする。

 

「さて、と。何処に居るのかしらね、偽物は」

 

しばらく目をつぶったあと、少女はにやり、と口角をあげて笑った。

 

「あっちね。・・・待ってなさい、偽物っ」

 

・・・

 

多喜のツケが発覚した翌日の朝。俺は多喜を呼び出していた。

 

「取り敢えず、こいつを見てくれ。これをどう思う?」

 

俺が竹簡を差し出すと、多喜はなんだか遠くを見るような目をして口を開いた。

 

「凄く・・・高額です・・・って、なんだこれ」

 

「多喜、お前俺にかなりツケてたよな?」

 

「・・・あ、ばれたのか」

 

「ようやくな」

 

俺がそう言うと、多喜は悪い悪いと言うと、理由を話し始めた。

 

「ほら、ギルに黄金律ってスキルあっただろ」

 

「あるな」

 

「じゃあ金持ってるよな」

 

「結構な」

 

給金もほとんど使わずに居るためかなり金は貯まっている。

 

「でもギル使わないだろ」

 

「確かにな。恋とか鈴々とかと町に出ない限りは」

 

「だったら、国に金が回らなくなるだろ? ・・・俺は、それを解決しようと」

 

「・・・本音は?」

 

「ごちそうさまでした」

 

「正座な」

 

・・・

 

多喜を何とかしないと、またツケの請求書がくることになる・・・。

まずは多喜のニート脱出からなんとかしないと。

取り敢えず、愛紗あたりに打診してみるか。あれであいつ、人望はあるほうだし。

 

「はぁ、警備隊長ですか」

 

政務室にいた愛紗を捕まえ、話しをしてみる。

 

「確かに警備隊をまとめる人材が足りないと思っていましたが・・・その、大丈夫なのですか?」

 

「あー・・・あいつアレで責任感と正義感はある方だから。きちんとやってはくれるだろうけど」

 

愛紗に身振り手振りで多喜はあれで人を纏めたり集団で行動させたりするのは得意だとか熱弁する。

途中何で俺は多喜の為にこんなに必死になって居るんだろうとか冷静に考えてしまったが、後で考えることにした。

 

「・・・はぁ、ギル殿は相変わらずのようですね。わかりました。朱里や他の警務隊長と話し合ってみます」

 

「頼んだ。今度何かお礼させてくれ」

 

愛紗にはいろいろとお世話になっているからなにか埋め合わせをしないと。

俺の言葉に、愛紗は少し考えた後、顔を上げ

 

「そうですね・・・それでは、明日にでも手合わせを」

 

と、言ってきた。

仕事の手伝いとか街で何か奢れと言ったものを想像していたので、反応が遅れる。

 

「・・・ん、頑張るよ」

 

「ふふ。無理はなさらないように」

 

そう言って愛紗がほほえむ。・・・危ない。うひょおうとか奇声を上げそうになった。

・・・にしても、手合わせかぁ。愛紗と鈴々と恋は模擬戦でもほとんど本気だから困る。今度一言言うべきだろうか。

・・・いや、多分聞いてくれねえな。やめておこう。

 

「ああ、そう言えばお伝えすることが」

 

「ん?」

 

「桃香さまが先ほどから一人じゃ政務が出来ないとだだをこねているのです。あまり甘やかすのもよくないのですが、政務が滞る方が困りますので」

 

「・・・分かった。ちょっと寄ってみる」

 

「お願いします」

 

そう言って去っていく愛紗。さぁて、明日の彼女との模擬戦の為に誰かと手合わせしておく必要があるだろう。

となると・・・恋は何処にいるか分からないし、鈴々も然り。となると、比較的捕まえやすい白蓮か翠、桔梗あたりに頼もうか。

 

・・・

 

「あ、ギルさん」

 

中庭を歩いていると、横から声がかかった。

声の聞こえたほうを確認すると、予想通り月がこちらに近づいてきていた。

 

「月。・・・今日は一人なんだな。詠はどうしたんだ?」

 

月一人で掃除道具を持っているのを見て、聞いてみる。

すると、一瞬月は何故かムッとしたような顔になった後、すぐにいつも通りの微笑みを見せて答えてくれた。

 

「今日は詠ちゃん、軍師さんのお仕事をして居るんです。午後の演習に参加するって言ってましたよ」

 

そう言えば、詠は軍師も兼任してるんだったな。ならば、午後からは詠の指揮を見に行くのも良いかもしれない。そんなことを思っていると

 

「ギルさんは午後からお暇ですか? 私、演習を見に行こうと思ってるんですけど・・・」

 

と、月から誘われた。

断る理由もないし、行ってみるのも面白いかも知れない。詠が軍師をやっているところを見るのも面白そうだ。

 

「そうだな・・・。午後は暇だし、一緒に行こうか、月」

 

俺がそう言うと、月はぱっと笑顔になる。

いつもはほほえむだけだが、此処まで笑顔になるのはいつもの月からすると珍しい。

 

「はいっ。あ、あの、それでなんですけど・・・」

 

急にもじもじし始める月。

恥ずかしそうに俯くのも可愛いなぁとか思いながら月が口を開くのを待っていると、覚悟を決めたようにばっと顔を上げ

 

「お、お昼を一緒に食べに行きませんかっ。その、午後から演習なわけですし、その方が都合が良いかなって思ったりして・・・」

 

と、またまた月には珍しく早口に言い切った。

それから、顔を真っ赤にしながら再び俯き、駄目なら良いんですけど、と呟くように言う月の頭を安心させるように撫で

 

「大丈夫だよ。じゃあ、今日は街に何か食べに行こうか」

 

「あ・・・はいっ・・・」

 

いつもの微笑みを浮かべた月は、こくこくと頷いた。

 

「ちょっと用事があって桃香の所によって来るから・・・お昼にまた此処に集合しようか」

 

「はい、分かりました。それでは・・・」

 

「ああ。また後で」

 

きびすを返し、少し歩いたところで「・・・やたっ」と聞こえた気がして振り向いたが、掃除道具を持って歩く月の背中が見えただけだった。

おそらく空耳だろうと思い、再び前を向くと月を何処に連れて行こうかと考えを巡らせた。

月は小食だから、量より質を取るべきだろう。とすると・・・。

 

「おわっ!?」

 

「おっとと」

 

考え事をしていた所為か、人とぶつかってしまった。

相手が小走りだったから、ぶつかった衝撃で相手は尻餅をついてしまったようだ。俺は倒れずに少したたらを踏んだくらいだ。これでもサーヴァントなのである。

 

「悪いな、前方不注意だった」

 

尻餅をついた人物に手を伸ばす。・・・って、翠じゃないか。

 

「い、いや、こっちも前向いてなかったから・・・。悪い、助かる」

 

俺の伸ばした手を取って立ち上がる翠。少しのまめをのぞいてやはり手はすべすべである。何この人体の不思議。

立ち上がった翠は、俺の顔を見てあ、と何かを思い出したように短く言葉を発した。

 

「そう言えば、さっき響が探してたぞ?」

 

「響が? ・・・分かった、ありがと」

 

因みに響は持ち前の人なつっこさというか遠慮のなさでほとんどの将と仲良くなり真名を交換している

セイバーや銀を介して兵士達とも仲がよいとも聞いている。

 

「べ、別に、気にすんなよ」

 

そっぽを向いてそんなことを言う翠。そう言う態度を取るから蒲公英に弄られるんだろうなぁ。そんな翠が可愛いので蒲公英を止めるつもりは毛頭無いが。

そこで、俺はあることを思い出した。

 

「そう言えば、翠。何か急いでたみたいだけど・・・何かあった?」

 

「え? ・・・あ、ああーっ! そ、そうだ!」

 

翠は大声を上げると、ごめんっ! と俺の横を通り過ぎて全力疾走していってしまった。

・・・? 

 

「何だったんだ・・・? ・・・っと、まずは桃香の所に寄って・・・それから響を探すか」

 

そう独りごちて、俺は再び桃香の居る政務室を目指して歩みを進めた。

桃香の行動パターンからしてそろそろ半泣きになっている頃だろう。

 

・・・

 

「あ、お兄さん、いらっしゃーい」

 

「・・・おや」

 

とても意外だ。半泣きどころか満面の笑みである。

周囲に朱里も雛里も居ないので、今のところは政務につまっていないと言うことだろうか。

そのうち俺もお役御免になるのかなぁ。なんて少し寂しくなってみるが、まぁ、桃香のことだから一週間したらまた元に戻ってるだろうと思い直した。

 

「さっき愛紗が桃香がだだをこねてたから様子を見に行ってくれと頼まれたんだが・・・。その様子だと、あんまり俺は要らなさそうだな?」

 

苦笑しながら俺は桃香に言った。桃香も子供じゃないんだし、それもそうかと納得した。

 

「だ、だだなんかこねてないよぉ~! ただ、ちょーっと寂しいなーって愛紗ちゃんに言っただけだもん!」

 

ああ、多分その「ちょーっと」というのは常人の「かなり」に匹敵するんだろう。

去り際の愛紗のはぁ、と言う溜め息に「ちょーっと」の同情を感じつつ、で? と切り出す。

 

「その寂しがり屋の桃香さまは、何が嫌でだだこねてたんだ?」

 

「お、お兄さんって結構容赦ないよね・・・」

 

「そうか? ・・・そうでもないぞ?」

 

誰もいないときに桃香の子守をしたり誰もいないときに桃香を宥めたり誰もいないときに桃香が町に出るときの面倒を見たり・・・

おや、桃香の世話を焼きまくってるじゃないか。焼きすぎていろいろと大炎上だ。

やっぱり俺は少し抜けていてぽわぽわしている桃香のことが好きなんだろう。世話を焼きたくなるくらいに。・・・これが娘を持つ親の気持ちか。この若さで知りたくはなかった。

取り敢えず桃香に頭なの中で出た結論を答える。

 

「俺、かなり桃香のこと好きだからな」

 

なんか言葉を端折りすぎたかな、と思った瞬間、桃香が真っ赤になった。

 

「ふぇっ!? ・・・そ、それはなんて言うかいきなりでちょっと戸惑っちゃうな。その、嬉しいけど心の準備がまだっていうか・・・」

 

「・・・何を勘違いしてるんだこの娘さんは」

 

そういう好きではなく人間的な・・・ああもういいや。多分意味のないことだろう。

俺と桃香の間で情報に齟齬が発生したらしい。おそらくこの子は真名の通り桃色な妄想の海に身をなげうってしまったんだろう。可哀想に。もう手遅れだ。

取り敢えずこういう輩には言い訳をしたり下手に妄想の燃料を投下するとまわりも巻き込んで燃え上がるため放っておいた方が良いだろう。

・・・っと、そんなことを言っているうちに桃香が旅から帰ってきたらしい。目の焦点が合ってきた。

桃香は気合いの入った瞳で口を開いた。

 

「いつ結婚しようか!」

 

ああ、全然帰ってきてなかった! 

 

「目を覚ませ」

 

その辺の書類でひっぱたく。竹簡ばかりだったので、紙を綴じて出来た資料を探すのに手間取った。

 

「んみゃっ! ・・・はっ、わ、私は一体何を・・・」

 

今度こそ正気を取り戻したらしい。

さっきまでの醜態は忘れたようだ。とても羨ましい脳みそである。

 

「正気を取り戻したか。桃香、仕事をしよう。昼に間に合わん」

 

話しが絶対に前に進まないので、俺は桃香に仕事を進めるように促した。

桃香は私何かやっちゃった? と首を傾げつつも仕事をし、たまに俺に質問という名の雑談を仕掛けてきたりもしたが、おおむね順調に仕事は終わった。

 

「・・・うん、良い時間かな」

 

窓からの太陽の光で大体昼前だと判断し、桃香に声を掛ける。

 

「桃香、俺は用事があるから失礼するぞ」

 

「ふぇっ? 一緒にお昼食べないの?」

 

「・・・そんな約束したか?」

 

「ううん。でも、ご飯の前にお仕事終わると大体一緒に食べてたから」

 

・・・そう言えばそんな気も。最近は特にそんな感じだったからな。

 

「あー、済まんな。先約があるんだ」

 

「ふーん。なら仕方がないかぁ。・・・そういえば、午後の演習は見に行くの?」

 

「ああ。一応」

 

「そなんだ。あ、次の演習はギルさんも参加だから、頑張ってねー」

 

「そうだったのか」

 

久しぶりの演習参加である。兵士に上手く指示を出せるだろうか。以前は慣れてなかったからぼろ負けだったな。

あ、次の演習っていつだろ。・・・まぁ、それは後で確認しておくか。

 

「おう、頑張るよ。じゃーなー」

 

「うん、またねー」

 

・・・

 

中庭で待ち合わせをした俺と月は、月にちょうど良い量の料理がある店にて食事を取っていた。

蜀は鈴々とか恋とかのせいで何故か料理の量を重きにおく店が多い。何故ほとんどの店の採譜に『超特盛り』の文字があるのか・・・。

月の対面に座り、そう言えば、次の演習っていつなんだ? 俺、参加するらしいんだけど、と月に聞いてみると、首を傾げた後にこう言われた。

 

「次の演習ですか? 明日ですよ?」

 

「ガッデム!」

 

月の発言に半分思考がフリーズした俺は、思わず良い発音で悪態をついてしまった。

 

「わ、わ、ど、どうしたんですか、ギルさん。お顔が濃くなってますよっ!?」

 

あたふたと月が慌てる。しかしそのツッコミはどうかと思うよお兄さん。

兎に角月を落ち着かせるために場をおさめる。

 

「ごめん、ちょっとアメリカンだった」

 

「あ、あめ・・・? 飴が食べたいんですか?」

 

月は流石に理解できなかったらしく、頭に疑問符を浮かべている。

そう言えばペロキャンくわえた軍師がいたなぁ・・・。

 

「いや、取り乱しただけだ。何でもない。・・・明日かぁ」

 

「あの、もしかして・・・聞いてなかったんですか?」

 

「ああ。聞いてなかった」

 

「え、ええと・・・頑張ってください」

 

「・・・まぁいいや。今は月との昼食を楽しむさ」

 

「あ・・・はいっ」

 

目の前で月はニコニコしながら食事を口に運んでいる。うんうん、楽しそうで何よりだ。

 

「ごちそうさまでした」

 

「ごちそうさま」

 

そのまま二人分の代金を払い、店を出る。

月が自分の分は自分で払うと言ってきかなかったのだが、聞かなかったことにして店を出た。

 

「もうっ。私も自分の分はちゃんと払えるのに」

 

「んー。また今度なー」

 

「ギルさん、真面目に聞いてくださ、ひゃうっ!?」

 

納得して無さそうな月の頭をわしゃわしゃと強めに撫でると、可愛い悲鳴を上げた。

 

「いいんだって。こう言うのは男が払うものなんだって相場は決まってるんだ」

 

「・・・えぅ、ずるいです」

 

「大体そんなもんだから、諦めたほうが良いぞ」

 

そんなやりとりをしながら月の手を引きつつ、演習がよく見える城壁の上へと向かった。

眼下には大軍が待機しており、愛紗や翠、星の姿も見える。城壁の上ではすでに詠が事前の準備で忙しそうにしている。

 

「・・・忙しそうですね、詠ちゃん」

 

少し嬉しそうに月は呟いた。

 

「そだな。ま、始まるまであと少しみたいだし、邪魔にならないように見てようぜ」

 

「はい」

 

月と二人で雑談をしつつ時間を潰していると、開戦を告げる銅鑼の音が響いた。

大声で指示を飛ばす詠の声を聞きながら、俺は隊の動きに注目していた。

 

「おー」

 

前回の演習の時はまだ詠の指示についてこれなかったところがあったが、今回はおおむね詠の指示通りにみんなが動いている。

 

「詠ちゃん、やっぱり嬉しそうです」

 

「そりゃあ、こっちが本業だしなぁ」

 

再び銅鑼が鳴り響く。どうやら演習が終わったようだ。

詠の方へ視線を向けると、ふぅ、と息を吐きながら額の汗を手の甲で拭っていた。

その後、俺と月を見つけるやいなや真っ赤になってこちらに走り寄ってきた。

 

「月、ギル。見てたの?」

 

「うんっ。えへへ、格好良かったよ!」

 

うぅむ、やはり軍師モードの詠の服も良いものである。メイド服より好みかもしれん。

そんなことを思いながら詠の事を見ていたからか、詠がなんだか恨めしそうな目をしてこちらを見る。

 

「なによ」

 

「・・・いや、似合ってるなと思って」

 

さっきまで真っ赤だった顔が更に耳まで赤くなり、両手をばたばた振ってあんたに言われたって全然嬉しくなんか無いんだからっ! と騒いでいた。

凄いなこの子。ツンデレの鏡である。

 

「・・・ツン子だなぁ」

 

「つ、ツン子ですねぇ」

 

若干月は驚いているらしく、苦笑い気味だったのは見なかったことにした。

 

「さて、演習はこれで終わりか?」

 

「・・・そうね。取り敢えずボクの出番はもう無いわ」

 

撤収準備に入っている兵士達を見て、詠は答えた。

 

「今日はこの後の報告書を作るくらいかしら。ま、すぐに終わるでしょうけど」

 

「そっか。お疲れさん」

 

「・・・別に。ボクは指示を出してただけだし、そこまで疲れてる訳じゃないわ」

 

ついっ、と顔を背けられてしまったが、ツン子のこういう態度は大体照れ隠しである。

 

「それならいいんだけど。さて、城に戻るか。行くぞ、月、詠」

 

「はい、ギルさん」

 

「そうね。し、仕方ないから一緒に帰ってあげるわ」

 

今度詠をツインテールにしてみようか。似合うかも知れない。

そんな野望を抱きながら、城へ向かった。

 

・・・

 

詠と月を部屋まで送り届けた後、俺は響を探しに城をうろうろと回っていた。

 

「うーむ、もうちょっと早くに探し始めるべきだったか」

 

すでに太陽は傾き、夕方と言って差し支えのない時間帯になってきた。

 

「ギールーさーんー!」

 

どたどたどたと足音が聞こえる。

年頃の少女がなんという走り方をするのかとため息をつきながら後ろを振り向く。

やっぱりというか何というか、メイド服姿の響が手を大きく振りながらこちらに走り寄ってきていた。割と全力疾走で。

 

「受け止めてー!」

 

「はっ? ・・・えぇっ!?」

 

俺の驚きをよそに、その勢いのまま響は思いっきり地面を蹴った。

確実に俺の鳩尾を狙った飛び込みを何とか受け止める。

 

「うぇへへー。大・成・功!」

 

なんだこの子。変にテンション高いな。

 

「どうしたんだ、響。・・・って、酒臭いな」

 

成る程、酔ってるからこんなにテンションが・・・。

 

「お酒なんか飲んでないよー。酔っ払ってないよー。素面だよー」

 

「はいはい。酔っぱらいは大体そう言うんだ。部屋に送るから話しはまた明日な」

 

日も暮れないうちに何故酔っぱらっていたのかも含め、明日聞けばいいだろう。

 

「お話ー? ・・・あぁー、そう言えば探してたんだよ、ギルさーん」

 

「それは聞いてる。明日で良いから、今日は休めよ」

 

「んー・・・そーするー」

 

「そーしろ」

 

首にしがみつく響を落とさぬように抱え、部屋まで歩く。ううむ、酒臭い。

 

・・・

 

響を寝台に寝かせた後、すっかり日も暮れてしまった城内を自室に向かって歩いていると

 

「うふんっ」

 

くねっ、くねっ、としなを作る漢女(おとめ)が曲がり角から覗いていた。

体が総毛立つというのはこういう事かと思い知ると同時に無意識にエアを取り出していた。

 

「・・・ああ、ええと、なんだ」

 

取り出したは良いけど回転させれば確実にセイバーとかライダーとかを呼び寄せる。それはよろしくないよな。精神衛生上、とても。

 

「あらぁ、一日ぶりかしらぁん?」

 

おさげを揺らす漢女(おとめ)は、俺と同等・・・いや、俺よりも少し高い身長をくねらせながら不気味に近づいてきていた。

逃げちゃ駄目だ、と心の中の自分が主張しているが、多分此処は逃げるところだ。逃げないと駄目だ。

 

「今日はあなたにお願いをしに来たのよ」

 

そんな俺の心の動揺を無視するかのように貂蝉は近づいてくる。

 

「お願い・・・?」

 

俺の少し前でぴたりと止まる貂蝉。

その顔には困惑らしき物が浮かんでいるようだった。

 

「戦争関係で・・・何かあったのか?」

 

「ええ、正しくは私たち管理者関係だけれど・・・」

 

「管理者って言うと・・・貂蝉とか卑弥呼の事か・・・」

 

「そうなのよん。問題って言うのは、私たちと対立している人達が、ある人物を説得して、動かしたのよ」

 

「ある人物・・・?」

 

貂蝉が危機感を覚える人物なんて想像がつかん。確かこの人、卑弥呼や華陀と一緒に龍と戦ってなかったか。しかも生身で。

 

「もしかしたらあなた達に危険が及ぶかも知れないから、私もこのお城にお邪魔することにしたわ」

 

「ほ、本気か?」

 

「本気も本気よぉ。それに、以前言っていた『計画』の事もあるし」

 

「そう言えばそんなことを言っていたな・・・そもそも『計画』ってなんなんだ?」

 

「それはね・・・」

 

「見つけたわよっ!」

 

ああもう! またかっ! 

俺は再び話しを中断させられたことにいらつきつつ、声のした方向を見た。

 

「誰だっ」

 

俺の誰何の声を無視するように声の主は叫んだ。

 

「偽物めっ、わらわの目をごまかそうったってそうはいかないんだからっ!」

 

こちらに指を突き出して声高らかに叫ぶ少女は、東屋の屋根から飛び降りる。

 

「いよっと」

 

軽やかに着地し、こちらに歩いてくる少女。

 

「なによ、だんまりしちゃって。わらわの凄さに声も出ないの?」

 

ふふん、と胸を張っていかにも偉そうに歩いてくる少女に、俺は一つ言わなければならないことがあった。

 

「・・・下着、見えてたぞ」

 

「っ!」

 

少女は膝上あたりまでの和服のようなゆったりとした服の裾を抑え、顔を真っ赤にした。

 

「こんな時に何見てるわけっ!? 信じられないっ!」

 

いらついていた俺はさらに少女を攻めることにした。

ふ、と鼻で笑ってから、皮肉を言うように少女に声を掛けた。

 

「自分で注目を集めておいてそんなことを言われるとは思わなかったよ」

 

その言葉に少女は更にむきーっ! と怒り

 

「ぬぬぬ~! 生意気!」

 

・・・と、俺を指さした。

あ、そうそう。白だったぞ。・・・なにが、とは言わないが。

 

・・・




「受け止めてぇぇぇぇっ!」「駄目だよっ! ギルさんが言ったらなんか洒落にならないから!」
姿かたちだけではなく、他の要素も主人公君は英雄王からインストールしています。

誤字脱字のご報告、ご感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。