ゴーグル君の死亡フラグ回避目録   作:秋月月日

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 お待たせしました!

 今回から、ゴーグル君の死亡フラグ回避目録、再開です!



第十九項 動き出す非日常

 一端覧祭の準備で盛り上がる学園都市では、木材や工具などを持った学生たちが所狭しと歩き回っていた。これはこの時期における当たり前の光景なため、警備員が予め交通規制や治安維持などに勤しんでいたりする。

 車両通行止めになった道路の上で試作品のロボットを動かしたり無駄に長い木材でチャンバラごっこを繰り広げたりする学生たちの、平和で平穏な光景。それはまさしく青春模様で、第三次世界大戦が終結してから半年も経っていないという事実を忘れさせる光景である。

 しかし。

 そんな平和ボケした学園都市に、場違いすぎる『彼ら』はいた。

 

「うあー……やっぱり実験動物共がうるっせぇなぁ」

 

「普段のお前の方が五月蠅いと俺様は思うがな」

 

「なに、オマエ喧嘩売ってんの? 買うぜ? 超破格の安値で買ってやるぜ?」

 

 ビキリと青筋を浮かべて睨みを利かせる金髪ポニーテールの少女から、赤髪の青年は呆れたように顔を逸らす。本当にこういう時のこいつは面倒臭いなぁ、という心内を悟られないように出来るだけ冷静に、というオプションはもちろん忘れない。

 木原利分とフィアンマ。

 それぞれがとある物語で重要な役割を担っていた二人であり、純粋な実力で言うなら最強クラスと言っても過言ではないぐらいの猛者たちである。……喧嘩するほど仲が良いを地でいく迷コンビであるという事も追記しておこう。

 ぐるるるる! と威嚇を続ける利分を視界の外に出しつつも、フィアンマは周囲を見回す。

 

「それにしても、一端覧祭というのは思っていたよりも大掛かりなイベントなんだな」

 

「ぐるるるる!」

 

「会話のキャッチボールもできないのか? それで天才科学者だとは―――笑い草だな!」

 

「何で最後の一言だけ力入ってんだよ! そしてその下卑た顔ウゼェ!」

 

 最強コンビのそんな子供みたいなやり取りは、学生たちの雑踏に呑まれて消えた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 ドジッ娘フレンダを弄り倒した後、草壁流砂は誰に絡まれることも無く暢気に散歩を楽しんでいた。

 彼のアイデンティティ&能力維持の要である土星の輪のようなゴーグルが入ったリュックサックを揺らしながら、流砂は黒と白の入り混じった髪をガシガシと掻く。

 

「にしても、一端覧祭か……俺の遺産にゃ存在しねーイベントだが、記憶で考えるならそこまで楽しいイベントじゃねーんスよねー」

 

 草壁流砂は、前世の記憶を生まれ持った特異な人間である。

 そんな彼は前世の記憶―――通称『遺産』―――によってこの世界で起こる事件をギリギリの線で回避したり乗り越えたりしてきた。それはこの世界が『とある魔術の禁書目録』という小説の世界であり、彼がその原作のファンであったことが大いに関係している。

 しかし、それは第三次世界大戦終結まで――旧約編と呼ばれる時系列までしかカバーしてくれない欠陥品のアドバンテージだった。第三次世界大戦後、つまりは新約編である今の時系列での事件について、彼は何の情報も持っていない。

 だが、別に問題はない、と流砂は思っている。

 これは今更な話になるが、『とある魔術の禁書目録』の知識を持っていたところで全ての事件を乗り越えられるわけではない事を流砂は誰よりも知っている。というか、今までの出来事で身を以って理解させられた。どんな事件がどういう経緯で起きる、という事を知っているところで、その事件をどう回避するか、という答えを導き出す事が出来なければ何の意味もない。

 要は、自分の実力次第。

 それが、今までのありとあらゆる事件を乗り越えてきた草壁流砂が導き出した、この世界で生き残るための解答である。

 しかし、まぁ―――

 

(―――今は沈利や絹旗たちっつー守るべきモンもあるし、アドバンテージがねーに越したコトはねーんスけどね……)

 

 せめて、先一ヶ月に起きる事件についての情報ぐれーは知る事ができねーかなぁ?

 この世界で唯一のイレギュラーである流砂は、そんな絶対に有り得ない願望を抱いてしまう自分に思わず肩を竦めてしまう。

 と。

 

「オイ。何も言わずに俺の質問に答えろ」

 

「怖い怖い怖い怖い! いきなり背後に現れんな心臓飛び出るかと思ったッスよ!?」

 

 ひゅんっ! という風切り音と共に流砂の背後に現れたのは、学園都市最強の超能力者・一方通行(アククセラレータ)だった。

 相変わらず全てにおいて(心と人格以外)真っ白な怪物はトン、と流砂の首元に手を置き、心の底から面倒臭そうな声を上げる。

 

「っつーかよォ。こちとら家で惰眠を貪ろォとしてただけだっつーのに何で俺がクソガキを捜索しなきゃなんねェンだ、って話だよなァ」

 

「お前がツンデレだっつーのはよく分かったッスけど、とりあえず俺の頸動脈を人質に取るのやめてくれる?」

 

「この街は無駄に広いしクソガキの行動経路は演算不能だしで俺も疲れてンだわ」

 

「疲れ知らずの化物がよく言うぜとりあえず首に手を添えんのやめてくれない?」

 

「っつー訳で、ちょっと俺の野暮用に付き合えよ、ゴーグル野郎」

 

「話聞いてる!? ちょっと俺、まさかの形で命の危機なんですけどッ!?」

 

「つべこべ言うな殺すぞ?」

 

「た、助けてー! 誰か、誰かぁああああああああっ!」

 

 その叫びは誰にも届かず、学園都市の雑踏に呑まれるのみである。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 歯医者で虫歯の治療を終えたらシルフィがグレた。

 

「ちょっと。いい加減に機嫌直したらどうですか?」

 

「……いや。すてふぁにぃもゴーグルさんも許さない」

 

「このクソガキ、拗ねてりゃ可愛いと勘違いしてんのか……ッ!?」

 

 ぶすーっと口を尖らせるシルフィにステファニーはビキリと青筋を浮かべる。

 小さな子供の歯は大切、という世界の常識に従う形でシルフィを歯医者に連れて行った訳だが、そこでの治療が彼女にとってはかなりのトラウマになってしまったらしく、麻酔によって感覚が無くなった口を気遣いながらも涙目モードなシルフィの姿がそこにはあった。ぶっちゃけ、今のシルフィは特定の性癖を持つ紳士様たちが鼻血を拭いて卒倒してしまうぐらいには可愛い仕様となっている。

 拗ねているせいで妙に歩調が速いシルフィにステファニーは溜め息を吐く。

 

「分かりました、分かりましたよ。その口の麻酔が切れたら、好きなものなんでも買ってあげます。だからせめて機嫌ぐらいは直したらどうですか?」

 

「……物で子供を釣ろうだなんて、すてふぁにぃはやっぱり汚い大人」

 

「よーっし分かった、全面戦争だこのクソガキがーっ!」

 

 ジャコンッ! と懐から拳銃を二丁取り出す元テロリスト。

 それと同時に周囲の学生たちが彼女から一気に距離を取ったが、頭に血が上ってしまっているステファニーはそんな事には気づかない。しいて言うなら目立つことぐらいどうでもいい感じになっている。

 うがー! とお怒りモードなステファニーにシルフィは相変わらずの冷たい視線をぶつけ、

 

「……そんな物騒なものばかり持ってるから、女子力が低いとか言われる」

 

「何ですか何なんですか!? 何であなたはそんなに私に対してだけ厳しいんですか!?」

 

「……今日の恨みは忘れない」

 

「そんなしょうもない事で私はこんな扱いなんですか!? 最低だな!」

 

 シルフィは「はぁ」と外見に似合わぬ溜め息を吐く。

 

「……すてふぁにぃの短気な所、あんまり好きじゃない」

 

「ふん! 別にあなたに好かれなくたっていいですよーっだ! 流砂さんに好かれてさえいれば何の問題もないですし!」

 

「……ゴーグルさんの恋人はしずりだけどね」

 

「………………あ、愛人枠があるじゃないですか」

 

「……ハッ!」

 

「笑われた! 恋もよく分かってないクソガキに笑われた!」

 

 流石に自分でも「なに言ってんだ?」とは思ってましたけど! それでも流石にその反応は酷くないですか!? ――と頭を抱えて青褪める恋するアダルト《ステファニー・ゴージャスパレス》。今日も彼女は報われない恋に一生懸命驀進中です。

 と。

 流石に騒ぎを大きくし過ぎたのか、絶賛言い争い中なステファニーとシルフィの元に招かれざる客が到来した。

 

「こらーっ! 警備員に復帰申請中のバカが銃刀法違反とか流石に笑えないじゃんよーっ!」

 

「うげぇ!? 誰かと思えば愛穂っちじゃないですか! シルフィ、ここは一先ず退散を―――既にいねえし!」

 

 何故か逃走本能だけは人並み以上にあるシルフィは、既に人混みの奥へと消えていた。この時点で一方通行と同じく迷子探しをしなければならない人間へと草壁流砂がエントリーされてしまった訳だが、この事実を未だ知る由もない流砂にとってはたまったものではない現実だったりする。

 拳銃を懐に仕舞い込み、ステファニーは人混みの中へと突撃する。

 

「わははははーっ! 久しぶりに脚力勝負と行こうじゃないですか、愛穂っち!」

 

「やっぱりお前牢屋の中に帰りやがれじゃん!」

 

 二人の警備員による仁義なき鬼ごっこが幕を開けた。

 

 




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 次回もお楽しみに

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