いろいろと用事が重なったりモチベーションがうんたらになったりで更新が遅れてしまってました!
これからはちゃんとなるたけ定期的に更新するので、よろしくおねがいします! とりあえず見捨てないで!(おい
アメリカ大統領ロベルト=カッツェに一方通行を任せた後、草壁流砂は浜面仕上のチームに合流していた。
彼のチームメンバーには番外個体と黒夜海鳥がいて、番外個体は流砂を見るなりハイタッチを求めてきて、黒夜に至っては――
「帰れ! 私の目が黒い内に今すぐ日本に帰りやがれェ!」
「まーまー、そんな釣れねーコト言うなよ黒にゃーん。俺とお前の仲だろ?」
「被害者と加害者の関係だ! よって私はオマエを全力で否定する!」
「とか言われてるッスけど、どーする?」
「とりあえずは猫耳だけで勘弁しといてやる?」
「もうこのコンビ嫌だァァああああああああああああああああッ!」
「……一応は隠密行動中なんだけどなぁ」
肩を組んでニヤニヤニマニマと黒夜を追い詰めていく大能力者コンビに浜面は疲れたように溜め息を吐く。あぁ、早く愛しの滝壺ちゃんに会いたいなぁ……。
因みに現在、浜面達はオアフ島の私設ヨットハーバーにやって来ている。ヨットといってもお金持ちが御用達するものがメインとなっていて、エアコン完備のベッドルームだったりメインの動力がエンジンだったりと少しばかり悲しい現実を目の当たりにすることになる状態となっている。これが格差社会というヤツか。
埠頭の桟橋の柱に巻かれた針金を適当に解きながら、浜面は現在進行形で牽制し合っている大能力者トリオに言う。
「言っとくけど、俺は船の操縦なんてできねえからな。鍵を開けるぐらいなら大丈夫だけど、それ以上は全く無理だ」
「ミサカは学習装置でインプットされちゃいるけど面倒臭ーい。っつか大丈夫だって、運転ぐらい。車と一緒でぶつけながら覚えていきゃいいんだよー」
「徹底的にやる気ねえな!」
「一応は俺が船の操縦できるッスけど……今は黒にゃんセキュリティを任されてるッスから、運転役は浜面にパスするよ」
流砂は犬歯剥き出しな黒夜の後ろ首を掴んで浜面に差し出し、
「俺が運転するのと黒にゃんの相手するの、どっちがいい?」
「オマエラ絶対ェに八つ裂きにしてやンよ! 四つでも九つでもねェ、八つにだぞガルガル!」
「嫌ァあああああああああッ! なんか軍用犬を差し向けられて脅迫されてる感じになってるゥゥううううううううううううッ!」
ガッチンガッチンと歯を鳴らす黒夜から距離を取りながらも全力で船の鍵を開ける世紀末帝王。普段から女性運はないとは思っていたが、まさかここまで不幸だとは。やっぱり俺には滝壺しかいないんだ! と浜面は涙を噛み締めながら思ってみる。
浜面がガチャガチャと音を鳴らして鍵と格闘する傍ら、大能力者トリオはいつも通りのマイペースで騒ぎまくっていた。
「ほら、ちゃんと見張りしとくんだよ黒にゃーん」
「なンっ、で、私がァ……ッ!?」
「ホントは俺が見張りしててもイイんスけど、黒にゃんは一応は捕虜ッスからね。ここぞとばかりに扱き使わねーと損ってモンだろ?」
「それに、この猫耳パーツを装着すれば情報収集能力も飛躍的に上昇するんだし、全く持って問題ないよねえ?」
「ふぐゥっ!? な、なななななンでオマエがそのアクセサリパーツを持ってやがンだ……ッ!?」
「ふっふっふ。抵抗したければすればいい。だかしかし、両手が使えない今の黒にゃんでミサカの猛攻を防ぐ事が出来るかな!?」
「そーゆー訳で、ここは大人しく猫耳黒にゃんカミングスーン!」
「う……」
猫耳を持ってにじり寄ってくる番外個体とニヤニヤ笑顔で逃げ場を塞いでくる流砂から距離を取ろうとする黒夜。しかし彼女は桟橋の端の方にいるためこれ以上の後退は不可能で、このままではサイボーグ黒にゃんへの大変身を決めなくてはならない状況にまで追い込まれてしまっている。こんな事なら新入生なんてやらなきゃよかった! と黒夜は結構マジで後悔する。
そして。
度重なるストレスと追い込まれすぎた心が限界を超えた黒夜は「ひっく」としゃっくりをし、
「びえぇえええええええええんっ! 何だよー、何で私ばっかりがこんな目に遭わなきゃいけないんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
うあっ!? と加害者コンビが僅かにたじろいだ。
『窒素爆槍』やら『暗闇の五月計画』やら『新入生』やらで意外と強固な精神を持っていると思われがちだが、弱冠十二歳の女の子である黒夜は精神的にはまだまだ不安定だ。攻撃的な精神ならまだいいのだが、防御的な精神は見ての通り。今の今まで耐えてきたこと自体を褒められても良いぐらいだろう。
大粒の涙を流しながらわんわん泣き喚く黒夜に番外個体と流砂は顔を引き攣らせ、浜面は浜面で「泣かしたー……」という目で二人を見ている状況だ。
心の逃げ場を失った番外個体は流砂の肩にガシッと腕を回し、
「でもま、普通の年齢で言うならミサカはまだ零歳な訳だから、全ての責任はこのゴーグル君にあるはず」
「サラリと責任転嫁かこの軍用クローン!」
「いやお前にも十分すぎるぐらいの責任はあるけどね!?」
わいわいがやがや騒ぐ四人を乗せたまま、ヨットはゆっくりとした動作で港から離れていく。
☆☆☆
騒がしい船旅を終えた流砂たちはハワイ島へと上陸した。問題とされているキラウェア火山はハワイ島最大の観光資源であり、山全体はおろか火口付近までもが国立公園に登録されている。それも火口は一つではなく、そこら中から漂ってくる硫化ガスの匂いが彼らの鼻に不快感を与えていた。
『起爆剤』の搬入を防ぐことを本来の目的としてハワイ島までやってきた浜面達だったが、それにも拘らず火口付近には謎の男たちの姿がちらほらと確認できてしまっていた。――つまり、遅かったという訳だ。
直径十キロ以上もあるカルデラの縁で身を屈めながら、流砂と浜面は吐き捨てるように舌を打つ。
「くそっ……あんなトコで漫才とかやってる場合じゃなかったってコトっすか……」
「アレはあくまでも俺が鍵を開けるまでの話だった。――つまり、どう足掻いてもあいつ等より先に上陸するのは不可能だったって事だ」
「そんなダサい後悔を今更されてもにゃーん。とりあえず今出来ることは『起爆剤』をどうするのか――これに限るって話でしょ?」
「それに、あの男たちも自分で仕掛けた爆弾で消し飛ぶのは嫌なはずだ。今はとにかくアイツラが立ち去るのを待つのが最善だと私は思うね」
そんな黒夜の言葉に同意するように流砂たちは更に深く体を屈めた。
☆☆☆
三十分後。
草壁流砂と番外個体と黒夜海鳥は気絶した浜面仕上を抱えた状態でキラウェア火山を全力で駆け下りていた。全ての『起爆剤』の破壊に失敗したことによる逃亡なわけだが、今はそんなことを悔いている暇はない。とにかく風よりも速く火口から離れる。これが今現在における最優先事項なのだ。
黒夜の腕と番外個体の磁力を駆使して逃亡する中、流砂は大きく舌打ちするなり彼女達二人と浜面を無理やり抱え上げ、
「今から海までジャンプする! 落下の衝撃は自分で何とかしてくれよ!」
「ミサカの磁力でなんとかしてやんよー」
「失敗するんじゃねーぞ相棒!」
「分かってるよーん」
直後。
キラウェア火山が勢いよく噴火すると同時に、流砂は圧力操作を駆使して陸から十メートル以上離れた海面へと跳躍した。それはまるで発射されたミサイルの様で、違う点と言えば、着地の際に番外個体が磁力で接近させていたヨットがクッションとなって爆発が起きなかったことぐらいだ。……まぁ、爆発よりも酷い事は起きている訳なのだが。
自分と他の三人の身体にかかる圧力をゼロにすることでダメージを失くした流砂は土星型のゴーグルを右手で位置調整し、
「流石にこれは洒落になってねーんじゃねーの……?」
☆☆☆
そして、数時間後。
とある国のとある地方にあるアパートメントの一室で、木原利分と右方のフィアンマは木製のテーブルを挟んだ状態で向かい合っていた。テーブルの上にはチェス盤が置いてあり、彼らの手元には勝ち取った駒たちが置かれている。
黒のナイトを動かし、利分はつまらなそうな表情のままフィアンマに言う。
「それで結局、ハワイ島での『グレムリン』の目的は阻止できなかったみてえなんだよな。やぁーっぱり『電離加圧』とか『幻想殺し』とかだけじゃ『グレムリン』は止められねえんだよ」
「その『電離加圧』とかいうヤツに敗北した当人のセリフとは思えんがな」
「敗北じゃなくて引き分けだっつの! ってあああぁぁっ! ボクのクイーンがぁあああああああああっ!?」
「これでお前に残されたのはキングとナイトとルークだけだな。まったく……俺様にチェスで勝とうだなんて百年は早すぎるんだ」
「ま、まだ負けた訳じゃねえもんねっ! こっからがボクの真骨頂だぁーっ!」
そうやって意気込んだ利分は黒のルークを摘まみ上げ――
――五分後には目をうるうると潤ませていた。
「………………ぐすん」
「俺様の勝ちだな」
「…………バカ」
「そのバカに完膚なきまでに叩きのめされた奴の言葉とは思えんな」
「…………子供」
「どんなことにも全力投球をしないと相手に失礼だろう? というか、ハンデとしてクイーンとルークを抜いてやったというのに勝てないお前が悪いんじゃないのか?」
「しょ、将棋なら勝てたんだ! こ、こんな外国由来のお遊びなんて、ボクには相応しくねえ!」
ふ、ふんっ! と豊満な胸を張って何故か勝ち誇る利分さん。どこまでいっても子どもな利分にフィアンマは大きく溜め息を吐く。
そして。
利分が涙目でチェスの駒を並べ直す中、フィアンマは面倒臭そうに椅子から腰を上げた。
「……もう行くのか?」
「オッレルスに呼ばれているんでな。今度の行き先はバゲージシティという所らしく、移動に無駄に時間がかかるという話だ」
「そのまま帰ってこなくてもいいぞ」
「そう言いながら突き出されているこのお守りは何だ? 極度のツンデレなお前がすることだ。どうせ『べ、別にオマエの無事を祈って作ったわけじゃねえんだからなっ!?』とか言ってくるに決まっている。――ほら、採点は?」
「ぐぅっ……せ、正解だよ正解で悪いかコノヤロウ! ばーか! さっさとどこへでも行っちまえ! そしてオティヌスにもう一本の腕ももぎ取られちまえ!」
「地味に怖ろしい事を言うな!」
ったく、と乱雑に頭を掻き、フィアンマはしっかりとした足取りで出口の方へと歩いていく。そんな彼を心配そうな表情で見送る利分に気づいているフィアンマは思わず苦笑を浮かべてしまう。
扉のドアノブに手をかけ、フィアンマは利分の方を振り返る。
「そういえば、学園都市ではそろそろ『一端覧祭』という祭りが行われるんだったな」
「?」
首を傾げる利分にフィアンマは肩を竦め、
「俺様が不幸にも戻ってきてしまったら、罰ゲームとしてお前に学園都市を案内してもらう事にしよう。なに、心配は要らない。どうせ俺様はオティヌスに殺されてしまうんだろうからな」
「~~~~~~ッ!」
ニヤニヤと皮肉を言ってくるフィアンマに利分は耳の先まで顔を真っ赤に染め、タックルをするかのような勢いで彼の身体に抱き着いた。
おっ、と――と彼女の身体を受け止めるフィアンマ。
利分はフィアンマをぎゅっと強く抱きしめたまま、
「オマエがいねえと物足りねえから。ちゃんと帰ってきやがれよバカヤロウ。……別にオマエのために言ってんじゃねえからな、勘違いすんなよっ?」
「……相変わらず素直ではないな」
そう言って。
フィアンマは利分の頬に軽くキスをし、アパートメントを後にした。
一人残された利分はフィアンマの唇が触れた左頬を手で摩り――
「……別に嬉しくなんかねえんだからなっ」
――とても嬉しそうな満面の笑みを浮かべた。
次回から『一端覧祭編』――つまりは最終章です。
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次回もお楽しみに!