黒にゃんさんがログアウトしました。
流砂と番外個体という二大ドSコンビによって萌えキャラとしての道を確立されてしまった『新入生』のリーダー・黒夜海鳥。無理やり服を脱がされて無理やり服を着せられて(猫耳のついで)という苦行は十二歳の少女には大層堪えたらしく、彼女は自らの意志で上条宅のバスルームへとエスケープした。
風呂場からしくしくめそめそという啜り泣きの声が響いてくる中、浜面は自分の脚の上で猫のように丸くなっている湯たんぽ少女フレメアの頭を撫でながら、
「……出来ればバニーガールにも挑戦して欲しかったなぁ」
『不覚! その手があったかーっ!』
「もォうるせェなコイツ等……」
心の底から悔しいです、といった様子で地団太を踏む流砂と番外個体に、一方通行は心底面倒臭そうに溜め息を吐く。因みに彼の背中にはアホ毛少女・打ち止めが蝉のように張り付いており、それを傍で見ていて上条が(一方通行って小さい子には優しいんだなー)と凄くギリギリな解釈をしているとかいないとか。ハッキリ声に出さない辺り、どこぞのゴーグル死亡フラグ野郎とは全く持って違うようだ。踏んできた場数の違いが為せる業なのか?
とりあえずこのままでは話が進まなくなってしまう為、番外個体を一方通行が、流砂を浜面が無理やり引き止め、コタツに強制ドッキングする。最初は抵抗していた二人だったがコタツの間の誘惑には勝てなかったようで、「ふおぉぉぉ……!」と身体の芯から全力で暖まっていた。
そんなドSコンビを見ていた打ち止めはピーンとアホ毛を点に向かって突き出し、
「ミサカもコタツで丸くなりたーい! ってミサカはミサぶっへぇっ!」
「そンなに暖まりてェなら中で蒸し焼きにでもなってろ」
ミサカのアホ毛がぎゃぁああああああああ!? という叫び声がコタツの中から聞こえてくるも、一方通行含めその場にいる全員がその悲鳴を華麗にスルーした。バードウェイだけが唯一ニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべていたが、一方通行はあえて見なかったことにした。ここでこの腹黒少女に絡んだが最後、際限なき弄り地獄が始まってしまうのは目に見えている。それならばここで一旦退き、最良の場を作り出すことが最も賢明な作戦だろう。
決死のヘルプミーをシカトされた打ち止めはバタバタとコタツの中で暴れまわり、そのままの流れで流砂の脚の上にまで到達した。
「おぉぅ。まさかのゴーグル・ザ・マウンテンの中腹に到達してしまったぜぃ、ってミサカはミサカは予想もしない現状に驚きを隠せないでいる!」
「やっぱなんかこの子、シルフィを彷彿とさせるッスねぇ……」
外見年齢だったりアホ毛だったり、打ち止めはシルフィに似ているところがやけに多かったりする。性格は正反対だが、無駄な知識が多いところなんてそっくりだ。いやまぁ、最近シルフィがやけにエロい知識を持ってるのは流砂が家でエロ動画サイトを見ているのを隣で訳も分からず覗き見ていたからだろうけど。この情報がステファニーに知れたが最後、流砂の人生は強制的に終了する……!
ばれなきゃイイなー、と苦笑しながら星に願う流砂さん。
そんな流砂に浜面はこう言った。
「お前ロリコンなのか年上好きなのかハッキリしろよ」
「オイコラ待て待ていつから俺はロリコンになったんだ!? 俺が異性として好きなのは年上のお姉さんであり十三歳以下の女の子は対象外だ! あの豊満な胸に包容力のある態度、そして極めつけは年上なのに甘えてくるっつーまさかのギャップ萌え! こ、この素晴らしさがお前には伝わらないというのかーっ!」
「そのお姉さんがバニーガールだってんなら全力で支持するんだけどなぁ」
「そんなお前に最近ネットで落としたバニーコスのお姉さん系エロ画像をプレゼントしてやってもいいけど?」
「お姉さんキャラ最高! バニーガールは世界の正義!」
あっさり陥落してしまっていました。しかもきっちり流砂からエロ画像を受け取ってもいます。
と、寮の玄関の方からなんとも騒がしい物音が聞こえてきた。『む。なんかこっちの方からはまづらの声が聞こえてきた気がする』というどこぞの電波系少女の声も。
誰かがリアクションを取る前に、上条宅の扉がチャイムもなしに開かれる。
「はまづら。やっと見つけ……」
安堵した様子で言葉を放とうとしたピンクジャージ少女・滝壺理后の顔がピシリと凍りつく。
そして彼女は目撃した。
世界で一番愛していると言っても過言ではない浜面仕上の膝の上に我が物顔で乗っている、謎の金髪幼女の姿を。滝壺が夢にまで見た憧れのポジションを当たり前のように占拠している、どこかで見たことがあるような顔の金髪幼女の姿を。
直後。
彼女は無表情で玄関のドアノブを握力オンリーで握り潰した。
「……はまづら、これは一体どういうこと……?」
「ミシミシメキメキって怖っ! お前そんな怪力キャラだったっけ!? また麦野の特殊メイクとかまさかの絹旗の変装とかじゃねえよなこれ!」
そう叫ぶ浜面だったが、怒り心頭激おこファンタスティック状態の滝壺の目はフレメア=セイヴェルンを完全にロックオンしてしまっている。このままでは浜面の膝の上に猟奇的なモザイク死体が完成してしまうかもしれない。
と、そこで今の状況の原因でもあるフレメアがねむねむと目を覚まし、
「にあー……浜面の悪口は言わないで。大体、こいつはダメっぽそうだけど、いざという時には世界中のイケメン顔負けなぐらいに格好よく戦ってくれるんだから。……にゃおーん」
それを聞いた滝壺の額に青筋が浮かび、上条宅の扉の側面が凄まじい握力によって握り潰された。
「そんなことはっ! 私が
「待て滝壺! そこは年上のお姉さんとしての余裕のある態度をだなーっ!」
凄く変なベクトルで展開される痴話げんか(?)に流砂は苦笑を浮かべ、家主・上条は「わ、我が家のウ〇ール・シーナがぁあああーっ!」と凄くギリギリな悲鳴を上げる。
そこで予想にもしない新たな刺客が現れた。
玄関付近で怒り心頭状態だった滝壺をバーン! と突き飛ばしながら部屋に上がり込んできた、流砂の恋人・麦野沈利と、流砂に恋する乙女・絹旗最愛だ。
「見てください麦野! 草壁の膝の上に超幼女がちょこんと座っています!」
「間髪入れずに原子崩し!」
「危ねぇっ!?」と青白い光線をギリギリのところで回避する流砂。
しかし二人の暴挙はまだまだ留まることを知らない。
「浜面を踏み台にしてそのまま草壁に飛び掛かれば超時間の短縮になって屈辱のバニーは回避できるはず!」
「アホか! そういうイロモノ担当はアンタの出番でしょ絹旗!」
叫び散らし合いながら、二人は浜面の肩にほぼ同時のタイミングで足をかけ、そのまま勢いよく跳躍した。その着地地点にいるのは、現在進行形で死亡フラグがビンビンなゴーグルの少年の姿が。
空中で取っ組み合いながら流砂に向かって落下していく麦野と絹旗。
今の地点で言うならば、絹旗の方が意外と近そうだが、
「私の足を受け取って、流砂!」
「ばぶあ!?」
眉間を思い切り蹴り飛ばされた流砂は部屋の壁まで一直線に飛行。そのまま背中を強打してびくんびくんっ! と気持ち悪い動きで痙攣し始めた。因みに打ち止めは流砂が蹴られる前にコタツの中へとエスケープしている。
今まさに死の危機に瀕している恋人になど目もくれない様子で麦野はガッツポーズを決める。
「よっしゃぁああ! 屈辱のバニーは回避したぁっ!」
「う、嘘ですよね……? そんな歴史に名を残すぐらいの屈辱がこの私に超降りかかるですって!?」
しかし絹旗はそこで「あれ?」と首を傾げ、
「でもここでバニーコスで草壁に迫ればどこぞの年増を超出し抜くことができるのでは!? い、いやっほーぅ! さぁ行きましょう草壁! 今から私が超全力のバニーコスを披露してあげますから!」
「なん……だと……!?」
そこでショックを受けるのかよ! と一人だけ無事な浜面はツッコミを入れるも、完全にマイワールドトリップしてしまっているアホ二人には届かない。
と、やっとのことでダメージから復活した流砂がふらふらとした様子で立ち上がり、
「もー全員同時にバニーガールになっちまえばイイんじゃないッスかね! 沈利はエロバニーで絹旗は萌えバニー、フレンダは美脚バニーでステファニーはお色気バニーでシルフィはキュートバニーで行けちゃう感じなんじゃないッスかびぎゅるわぁっ!」
流砂の言葉を拳で遮り、麦野と絹旗は額に青筋を浮かべる。
「お前はどこまで節操ないんだ馬鹿流砂! 今晩は私とお楽しみの予定だろ!? バニーなら私がいくらでもしてやるから他の女なんかを求めないで!」
「今晩はお楽しみ!? ま、まさかあなた、草壁と夜のホテルで……!?」
絹旗の絶望の疑問の声に麦野はにやぁと邪悪な笑みを浮かべ、
「私の中に流砂のモノが物理的に御入場!」
「お、大人の階段のーぼるー!?」
「やめんかボケェえええええええええええ! そ、そんな恥ずかしーコトをこんなところでハッキリと暴露するんじゃありません、はしたない! ここには小さい子もいるんスよ!?」
「小さい時からこういう知識を与えときゃ、成熟した後に困らないで済むから良いんじゃない?」
「それ極論ッスからね!? っつーかシルフィのエロ知識の片棒はお前が担いでいるよーでならない! 俺とお前でシルフィを教育って――俺たちゃシルフィの両親か!」
「違うわ。子供はこれから作るのよ」
「そんな堂々と言うなっつってんだろォおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
キリッと決め顔で言い放つ麦野に顔を紅蓮に染めながら流砂は絶叫する。
麦野の暴挙を止めるために絹旗に助けを求めようと視線を向けるも、彼女は頭から煙を出して「草壁と麦野が大人の階段のーぼるー……」とオーバーヒートしてしまっていた。あれだけ大胆な性格の癖にエロ的な会話にはめっぽう弱いとは、これは予想もしないギャップ萌えが見れた気がする。
と、後ろからこっそり入室してきていた滝壺がキョトンとした様子で、
「……あれ? このゲームってタッチしないと駄目……?」
罰ゲームを誰が受けるのかが決定した瞬間だった。
☆☆☆
とりあえずこのままでは話が進まないため、流砂と浜面はアイテムの連中(フレンダは現在入院中)を寮の外で待たせることにした。流砂は彼女たちを押しながら、『え? 夜のお楽しみに私も超参加する? いやそれは流石に年齢的に違法な感じになっちゃうッスからNGで! もっと成長してから、お前が十八歳ぐらいになってからにしよーなー!』と懇願した結果、絹旗はおろか麦野にまで気味悪そうな顔をされ、蜘蛛の子を散らすように彼女たちを退散させる羽目になってしまった。因みに、浜面は滝壺に愛を囁きながら追い出していました。ラブラブカップルは凄いね。
首を捻る流砂と満足げな浜面がコタツへと戻る。いつのまにかクローンコンビの姿が無くなっていた。一方通行が気づかない内に追い出したのだろうが、どんだけ手馴れてるんだよ最強……。
そして話は本題に入る。
一方通行の台詞に、バードウェイが返事をするという形で。
「結局、『ヤツら』ってのは何なンだ?」
この無駄に長い時間を要したのは、その答えを提示するため。
その単純な答えに辿りつくためだけに、膨大な下準備が必要となっていた。
「『ヤツら』ってのは、どこから出てきた組織だ?」
それは、流砂も疑問に思っていたことだ。
イギリス清教、ローマ正教、ロシア成教、学園都市、その他大勢。この五つの組織のどれかから派生したのか、それともその全てからピックアップして組み合わさったのか。
だが、そう考えると、科学と魔術という異なるジャンルのものが共闘しているということになる。かつては敵対していた者同士が協力するというのは特に珍しいことではないが、流石に今回はその当たり前は当てはまらないような気がする。敵同士とかそんなベクトルの問題じゃない。絶対に組み合わさらないはずのモノ。――それが複雑に絡み合ってしまっているかもしれない。
一方通行はバードウェイを鋭く見つめ、バードウェイは「やれやれ」といった様子で肩を竦める。
「そうだな。『ヤツら』のバックボーンについての話はさておいて、とりあえずは名前だけでも教えることにしようか」
「…………」
「『ヤツら』の名に関しては極めてシンプルだ。『ヤツら』がこの世界に対してどういう事をしたいのかを顕著に表したような名前だからな。想像するのもそこまで難しくはない」
バードウェイはファミレスで料理を注文するかの様な気軽さで言う。
「そう、『ヤツら』の名前は……」
――しかし、そこから先の答えは提示されなかった。
バードウェイは『ヤツら』の名前を発する直前で眉を顰め、トタトタとベランダの方へと移動し始めた。怪訝な表情で男四人が見守る中、バードウェイは手すりから身を乗り出し、寮と寮の間から学園都市の空を見上げだした。
「ちくしょう。やっぱりか……」
「どーしたんスか? なんかまた問題が浮上した感じ?」
草壁が質問すると、バードウェイはベランダに二本足で降り立ち、こう答えた。
「来たんだよ」
「は? 誰が?」
「……『ヤツら』が」
その言葉に弾かれるようにベランダへと向かった四人は、そこで予想にもしないものを目の当たりにした。
その、最悪な襲撃者とは――
「て、天空の城ラピュ――」
流砂くん。それ以上は言ってはいけない!
感想・批評・評価など、お待ちしております。
次回もお楽しみに!