黒夜海鳥が上条当麻に絡まれ、その会話を聞いて一方通行が青褪めている。
凄くレアすぎる光景を目の当たりにしながらも、草壁流砂がとる行動はただ一つ。
パシャッ、と一方通行のレア画像を写真に収めること――だ。
「そして間髪入れずに
「……オイ、オマエ。今何しやがったああン?」
眼にも止まらぬ速さで襟首を掴み上げられた流砂は「ぐへぇ」と露骨に苦しそうな表情を浮かべるも、彼の右手は液晶画面タッチ式の携帯電話をしっかりと操作している。ボタンの操作音が鳴らないというのは便利だなー、とか思いながら、『一方通行のレア画像☆』を知り合いの軍用クローンの司令塔の少女にしっかりと送信した。
額に青筋を浮かべる一方通行に流砂はバチンッ☆とウインクし、
「全てのコメディを見逃さない最強死亡フラグ野郎草壁流砂、ただいまサンジョーっ! クールぶってて中二病な最強の超能力者の意外な一面をばら撒いちゃうゾ☆」
バッキューン! と顔面を殴り飛ばされた。
「い、いきなり何しやがる!」
「今の流れでよくそンな意味不明な言葉を発せれるなオマエ! っつゥかいつのまにクソガキのメアド手に入れたンだよ!」
「え? いやー……この間地下街でバッタリ会ったから、その場の流れでメアド交換会を開いただけッスけど?」
「あのクソガキ、また勝手に出歩きやがったンか……ッ!」
血管が浮き出るほどに手を握りしめる一方通行の肩に流砂はポスンと手を置き、
「打ち止めが心配なのはよく分かる。今までいろいろあったもんな、お前達。うんうん、スゲーその気持ちは分かるッスよ。――――でも、流石にロリコンはどーなんかなって思う訳でびぶるちっ!」
「誰がロリコンだ誰がァ! ぶっ殺されてェっつーンなら先に言え? 原型留めねェぐらいの愉快な肉塊オブジェに早変わりさせてやるからよォ!」
「お、親御さん? ベクトルパンチを鳩尾に決めるのは如何なものでは……? い、一応俺たち、仲間ッスよ?」
「味方の中に潜んでいる汚物を排除するのも必要だよなァ?」
「打ち止めちゃんに訂正のメール送っときますね旦那!」
ゴギリ、と指の関節を鳴らしながら狂気的な笑みを浮かべる一方通行に、流砂は逆らうことなく屈服する。
☆☆☆
そして夜の学園都市の街路で、見た目十歳前後のアホ毛少女、軍用クローンの司令塔こと打ち止めが絶叫した。
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああっ! あの人を振り回すっていうミサカだけの
さらに、ミサカネットワークから莫大な干渉を受けた、アオザイ少女・番外個体までもが少女の真横で絶叫した。
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああっ! み、ミサカはあの人のことなんてどうでもいいのに何でぇーっ!?」
☆☆☆
四人の主人公を前にしながら、『明け色の陽射し』のボス・レイヴィニア=バードウェイはどこか楽しそうな様子でこう言った。
「右方のフィアンマは異端すぎる魔術師だった。『世界を救うため』という子供みたいな理由で第三次世界大戦を起こしてしまう程に、な」
☆☆☆
学園都市最凶の科学者・木原利分は恋する乙女である。
「違う!」
「誰に向かって叫んでいるんだ、お前……?」
「う、うるせえ! ボクの前で口を開くなこっち見んな存在すんなァアアアアアアアアアアアッ!」
「それは流石に理不尽すぎではないか!?」
小説片手に声を大にする赤髪の青年――右方のフィアンマに椅子を投げつけながら、木原利分は顔を真っ赤にして壁に頭を何度も何度も打ち付ける。
第三次世界大戦後に右方のフィアンマと出会い、魔神になれなかった男・オッレルスに拾われ、聖人メイド・シルビアに扱き使われる日々。学園都市にいた頃は役立たずな科学者どもを顎で使って実験に尽力させたりしていたというのに、今はその面影すらない。不運で不遇な二十歳、という称号が誰よりも似合ってしまう有様だ。
頭突きで壁にクレーターを作った利分はふらふらとよろめきながらも、顔を引き攣らせているフィアンマにニッコリと微笑みかける。
「ボクはノーマルだオマエなんか好きでもなんでもない!」
「それはアレか? シルビアと同じ――ツンデレというものなのか?」
「ッ!」
グシャッ! と壁に大穴が空いた。
それは予想外すぎるフィアンマの言葉に照れた利分が放った右ストレートが原因で、更に言うならば、最近の力仕事で筋力が無駄に底上げされてしまっていることも今回の破壊に付属されなければならない理由の一つだ。いくら頭突きで耐久値が低下していたとはいえ、パンチ一発で壁をぶち抜くというのは流石のフィアンマでも驚天動地だ。というかこの部屋の壁、コンクリートじゃなかったっけ?
虚空に右手を突っ込んでいる利分は「あは、あははは!」と突然笑い声を上げ、
「か、勘違いすんなよ!? 別にボクはオマエのことなんてなんとも思ってねぇんだからな! ただ同じタイミングでオッレルスに拾われて偶然同じような境遇だったから同情した――ただそれだけの関係なんだからな!?」
「そこまで教科書通りのツンデレを見せられると、流石の俺様でもリアクションに困るのだが……」
「うっせぇばーか! オマエなんかもう一度『幻想殺し』に倒されちまえばいいんだ! このクズ! 馬鹿! 女たらし! 隻腕! フィアンマ!」
「オイコラ最後の罵倒は一体どういう意味だ喧嘩売ってんのかこのクソアマ!」
☆☆☆
草壁琉歌は街に出ていた。
恋人・殻錐白良との楽しい電話タイムを終えた彼女は「なんか腹ァ減ったですねー」というなんとも年頃の女子らしくない理由に従うままに女子寮を飛び出し、第七学区に躍り出ていた。目的地はコンビニ。カップラーメンでもなんでもいいが、とにかく小腹を満たしてくれる食料が好ましい。
黒のジャージで全身を包んだ琉歌は、ジョギングとランニングの間ぐらいの速度で歩道を突き進む。
と。
「……あ」
「あれ? キミは確か……」
「……ゴーグルさんの伴侶!」
「予想にもしない兄貴の裏事情キターッ!」
アホ毛をブンブンと振りながら平然と嘘を言うシルフィ。流石に冗談と分かっているのか、琉歌は「やれやれ」と肩を竦めながらシルフィの頭をポンポンと優しく叩き、
「そんな年齢からそんなドロドロしたことばかり言ってると、兄貴みてーな腐れ外道な人間になっちまいますよ?」
実の兄に対してこの少女はなんて失礼なことを言っているんだろう。年端もいかない少女に実兄のマイナスな部分を全力で語ろうとでもしているのだろうか。……どこまで兄が嫌いなんだコイツは。
しかし、流石に今回は相手が悪かった。
見た目は子供、中身は主婦なシルフィはほんのりと朱く染まったほっぺたをぎゅーっと抑え、
「……しずりと私とマニアさんとすてふぁにぃとふれんだの五人でゴーグルさんとせっくす……6Pというのも、中々に乙なもの」
「オイ誰だこんな幼気な少女にこんな生々しー知識詰め込んだ奴!」
いやんいやんと腰を振るシルフィに、琉歌はどうしようもないほどの寒気に襲われた。
☆☆☆
もはや何度目かも分からない休憩が挟まれ、流砂たち四人は再び暇になってしまった。
上条はインデックスとイチャイチャしていて、一方通行は上条の部屋に置いてあった漫画雑誌を読み耽っていて、浜面は湯たんぽ少女フレメアの相手をしている。その光景はそこら辺にいる不良が見たら卒倒どころか昇天してしまう程に凶悪なものだったが、流石に数多の修羅場を潜り抜けてきている流砂はこんなことでは動じない。麦野と絹旗とシルフィとステファニーとフレンダが裸エプロンで迫ってきているっつーんなら、話は別だが。
やることがない流砂は「うーん」と頭を捻り、この暇な時間を潰すための手段を必死に模索する。どんなに馬鹿なことでもいいから、とにかくこの余ったフリータイムを満たしてくれるような刺激がほしい。
と、そこで流砂の中に名案が浮かんだ。
その、画期的な暇潰しとは――
「黒にゃんで遊ぼう!」
「いやァァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
衣服を弄ることによって身体の自由を奪われている黒夜海鳥の絶叫が、上条宅に響き渡る。
ニヤニヤニマニマと下卑た笑みを浮かべる流砂から必死に距離を取りながら、黒夜は涙目で声を大にする。
「や、やめろバカ! 幼気な十二歳の少女を大の男が襲うって構図をリアルのものにするつもりか!? 私が言うのもなンだが、オマエ全然ヒーローっぽくねェじゃン!」
「だって俺別にヒーローとか思ってねーッスし。あえて位置づけしてみるなら――幼気な少女の未来を奪う悪党的な?」
「孕まされる!?」
「いや、流石にそこまではしねーよ!」
そうは言うものの誤解というものはそう簡単に解けないもので、芋虫の様にのた打ち回る黒夜の顔はブルーハワイも真っ青なぐらいに青褪めてしまっている。今の彼女の脳内で再生されているヴィジョンは果たしてどれくらい残酷なものなのか。頭の中を覗いてみたいという欲求の傍で、この誤解早く解かないとやばくね? という心配が燻っていたりするとかしないとか。
でもまぁとにかく今はこのフリータイムをキルタイムしなければならない訳で。
「サイボーグなんだから猫耳とかもイケるよな? サイボーグ黒にゃん、とかゆー感じでギリギリな名前背負ってるわけッスし」
「別に意識なンてしてねェけど!? 生まれつきこの名前ですけど!? つ、つーか猫耳とかバカじゃねェの!? そ、そンなふざけたパーツ、私に接続できるわけねェだろ!」
それもそーか、と流砂が納得する――その一秒前のことだった。
上条宅の扉がズバーン! と蹴り破られ、見た目十歳前後の少女とアオザイを着た少女がいつも通りのハイテンションを維持したままズカズカと部屋に上がり込んできたのだ。
打ち止めと番外個体。
ミサカシリーズのクローンである二人の少女の内、大きい方のミサカ――番外個体はにやぁと悪党のような笑みを浮かべ、ブランドショップの紙袋をギプスを着けていない左手で掲げる。
「へーい! 『新入生』のアジト漁ってたらやけに面白そうなオプションパーツ見つけちゃってさーっ! 今からこの萌え萌えアイテムでそのクール系ナルシストガールを猫耳肉球グローブで面白人体改造しちまおうぜーっ!」
「ぎゃァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
トラウマ復活! と言わんばかりの表情で絶叫する黒夜。
そんなクール系ナルシストガールを両手で拘束しつつ、流砂は番外個体が持っている紙袋の中を覗き込む。
「ふむふむ。へー、頭に直接猫耳とかカチューシャを接続するタイプなんスねー」
「猫耳肉球グローブの次は『おしとやか系萌え萌えメイドに大変身☆』ってのはどう?」
「それはそれでイイと思うんスけど、俺的にゃこの『猫耳ツンデレナースに大変身☆』ってのもベストだと思うんスよね。ギャップ萌え的な?」
「アンタ、意外とやるじゃない……!」
「そっちこそ、イイセンスしてるッスね……!」
世界中の不遇な少女が全力で不幸になるであろうコンビが爆誕した瞬間だった。
ガッシリと握手をする流砂と番外個体の間に、二人にしか分からない絆のようなものが生まれていた。人を弄ることが生き甲斐です、とでも言わんばかりの得意顔を浮かべている流砂と番外個体に、打ち止めに抱き着かれている一方通行は心の底から面倒臭そうに溜め息を吐く。
新しい絆が生まれたところで二人はキュピーン☆と目を光らせる。
そして番外個体は『猫耳肉球グローブ』、流砂は『猫耳ナース服』を両手で構え、
「いっちょ大胆にイメチェンしてみようぜクーロにゃあ――――ん!」
「その刺々しー殻を破り捨ててご奉仕精神マックスな黒にゃんに変身してみよーッス!」
「オイバカやめろこっち来ンな! オイ、嘘だろ、マジでやめ――いやァァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
数分後、猫耳装備でナース服とメイド服を同時に着せられたクール系ナルシストガールの姿があったわけだが、ハイテンションな流砂と番外個体以外の連中は――あえて見なかったことにした。
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次回もお楽しみに!