ゴーグル君の死亡フラグ回避目録   作:秋月月日

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 はい、というわけで、主人公の癖に第四位とかいう情けない結果を残した草壁流砂の記念短編です。

 まぁ、当たり前なのですが、今回の話はコメディ一色、シリアスなにそれくえんの? 状態となっております。

 砂糖対策として予めコーヒーを準備したうえで、お読みになるようにしてください。

 尚、コーヒー及び砂糖を吐き出してスマホやパソコンが壊れたと言われても、作者は一切責任を取りませんので、悪しからず。



人気第四位 草壁流砂の試練

 草壁流砂(くさかべりゅうさ)は絶望していた。

 第三次世界大戦をラブコメと悪運と負け犬フラグだけで切り抜けた世紀末皇帝KUSAKABEは、色々な経緯の末に合計五人の少女(一人は女性だが)から好意を寄せられる結果となってしまっている。まぁ、その中の一人、第四位の超能力者である麦野沈利(むぎのしずり)とは恋人関係なのだが、今はそんなことはどうでもいい。彼が絶望しているのは世界で一番大切な少女のことではなく、もっとこう、世界の不幸が集約されてしまったかのような絶望的な未来についてなのだから。

 まぁ、ぶっちゃけた話。

 

「ご、五人全員との約束がまさかの超絶ブッキング……ッ!」

 

 流砂の『全旗乱立(フラグメイカー)』が全力で仕事をしてしまっただけなのであった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 最初は、全ての約束を五日間でセッティングするつもりだった。

 一日目にフレンダ、二日目にシルフィ、三日目にステファニー、四日目に絹旗、そして、五日目に麦野――といった感じに。五人の少女と約束がありますなんてことは口が裂けても言えないから、このスケジュールについては流砂だけの秘密となっていた。

 

 

 だがしかし、現実は流砂に恐怖の『死亡フラグ』を与えた。

 

 

 なんと、五人全員が要求した日時が、まさかの同日――十一月四日になってしまったのだ。

 流砂は最初、全力で「違う日にしない?」と全員に頼んだ。ここで頼まなかったら最悪なバッドエンドが到来してしまうし、そもそも流砂は一日に五人の少女と過ごせるほど神経が図太くない。ストレスと疲労のせいで胃袋の穴が開いてしまうのは火を見るよりも明らかだ。

 だが、流砂の懇願虚しく、彼女たちは「十一月四日がイイ」の一点張りだった。というか、能力とか武器とか涙目とかいう武装を突きつけられての一点張りだった。こんなの逆らえるわけがない。

 そんな訳で十一月三日現在、流砂は一方通行(アクセラレータ)の家で絶賛作戦会議中なのだった。

 

「…………なンで俺ン家なんだよ、オマエ……」

 

「浜面ン家にゃ麦野と絹旗とフレンダが居るし、俺ン家にゃシルフィとステファニーがいる。っつーワケで消去法だよ悪いか! こっちだって切羽詰まってんだ場所ぐれえ笑顔で提供してくれてもイイじゃないスかぁ!」

 

「号泣しながら迫って来るンじゃねェ!」

 

 涙で顔がぐしゃぐしゃになっている流砂を蹴り飛ばし、一方通行は面倒くさそうに大きな溜め息を吐く。

 そんな彼の右隣には番外個体(ミサカワースト)という体細胞クローンが座っていて、ニヤニヤと人をイラつかせる笑顔を浮かべている。流砂が苦しんでいる姿を見て絶賛大歓喜、と言った具合だろうか。因みに、打ち止めは家主である黄泉川と居候である芳川と共に絶賛買い物中なため、現在は不在である。

 番外個体はうんうん唸っている流砂の肩に優しく手を置き、

 

「逆に吹っ切っちゃって全員と同じタイミングでデートしちゃえば? ミサカはそんな感じのドロドロした展開の方が好みだなー」

 

「スゲーイイ笑顔で何言ってんの!? それはいわゆる死刑宣告だ!」

 

「えー。だって面白そうじゃない、ドロドロ展開? 一人の男の為に複数の女が争う……うん、ミサカそんな展開が三度の飯よりだぁーいっすき!」

 

「いやぁぁあああああああああああああああああああああッ! この悪意抽出器、最悪なまでに悪質過ぎるぅううううううううううううううううッ!」

 

「…………煩ェ」

 

 叫んでニヤついて絶望しての大連鎖で騒ぎまくっている流砂と番外個体に、一方通行は凄く面倒くさそうな表情を浮かべる。あと数秒でブチ切れて能力を解放してしまうかもしれない。――それほどまでに、一方通行のストレスゲージは臨界点寸前だった。

 だが、そんなことなど知ったことではない流砂はテーブルに置かれたメモ帳を真剣な眼差しで見つめながら、

 

「朝七時から夜の十二時までの十七時間を五人で分けると一人当たり約三時間。それを均等な時間間隔で割り振るとして求められる正解は……ッッッ!?」

 

 大能力者級の演算能力絶賛無駄遣い中だった。不安定な演算能力しか持ってないくせに、今回ばかりは凄まじい性能での演算を披露していた。

 ブツブツブツブツーッ! と高速で何かを呟きながら高速でメモ帳に何かを書き込んでいく。相手をしてもらえなくなってつまらなくなったのか、番外個体は一方通行と(強制的に)ババ抜きを開始していた。もちろん、一方通行にトランプなんてものは似合わない。そのカードで人を斬り殺しているのなら、話は別だが。

 そして番外個体と一方通行が百七十三回目のババ抜きを終了させたところで、

 

「……完璧だ。このスケジュールなら、全ての死亡フラグを叩き折れるに違いねーッス……ッ!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 そんな訳で、十一月四日の午前七時。

 午前六時には起床して全ての準備を終わらせた草壁流砂は、同居人であるステファニー=ゴージャスパレスとシルフィ=アルトリアと共に優雅な朝食タイムを過ごしていた。因みに、本日のメニューは目玉焼きを載せたトースト二枚に、ホットミルクとなっている。

 夜更かしでもしたのだろうか、ウトウトと舟を漕いでいるシルフィを、ステファニーは苦笑しながら起床させる。

 そんな何気ない日常風景の片隅で、我らがゴーグルの少年は『死のノートを拾った青年』のような策士フェイスを披露していた。

 

(朝七時、ステファニーとシルフィと共に朝食。そしてそのまま間髪入れずに外出し、絹旗と共に学園都市の路地裏辺りに位置している映画館へと移動。そこで『トイレ行ってくるッス』と言って映画館から飛び出し、午前八時三十分にセブンスミストでフレンダと合流。それからさらに『トイレ行ってくるッス』と言ってセブンスミストを飛び出し、温水プールで沈利と合流。そこでもさらに『トイレ行ってくるッス』と言ってプールから出ていき、家電量販店の前でステファニーとシルフィと合流。――完璧だ。完璧すぎて笑いが止まらねーッス……ッ!)

 

 想像を絶するほどにクズだった。というか、作戦の中に『トイレ行ってくるッス』が三つも含まれていた。朝飲んだホットミルクで腹壊した、とでも言い訳するつもりなのだろうか。

 トーストを食べ終えた流砂はズズーっとホットミルクを胃の中に流し込み、

 

(俺は今日、死亡フラグを全て叩き折るッッ!)

 

 自業自得な死亡フラグに徹底抗戦の姿勢を見せていた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 そんな訳で午前七時四十分。

 流砂は第七学区のファミレス前で絹旗最愛と合流した。

 今日はデートのつもりで来たのだろう。絹旗はいつものニットのワンピースではなく、ベージュのジャケットに豹柄のワンピース、そして靴下とブーツが一体化したような靴を着用していた。果てしなく子供っぽくない服装だが、それでも何故か絹旗はそのコーディネートを完全に着こなしていた。とてもじゃないが十三歳の子供とは到底思えない。

 合流すると同時に歩き出した大能力者コンビ。集合場所に指定したファミレスがいつもアイテムの溜まり場となっているファミレスであるため危険度はレッドゾーンだったが、それでも神は流砂に味方したようで、誰とも遭遇することなく無事に移動を開始することができた。

 高層ビルの隙間、路地裏を通り抜けながら、流砂は絹旗に話しかける。

 

「にしても絹旗。その服似合ってるッスねー。やっぱり素材がイイと服もスゲー際立つッスよ」

 

「ふん。そんなお決まりのお世辞を言われたところで超嬉しくないですけどね」

 

「顔真っ赤にしてそっぽ向きながら言われても説得力皆無ッスよ?」

 

「~~~~ッ!」

 

 絹旗最愛の赤面率、三十五パーセント上昇。

 リンゴの表面ぐらい真っ赤になった顔で口を尖らせる絹旗を引きずりながら、流砂は目的の映画館へと到着する。なんかホラー映画とかに出てくる廃墟みたいな映画館だった。中に入ったらゾンビが津波のように押し寄せてくるとかだったら、凄く洒落にならないわけなのだが、流砂は躊躇うことなく重苦しい扉を開いた。……なんか凄く帰りたい、と今更過ぎる後悔を胸に抱きつつ。

 如何にも文学少女です、みたいな風貌の受付にチケットを見せ、スクリーンの方へと移動していく。ちらっと腕時計を見てみると、『AM7:57』との表示が。順調順調、と流砂は思わず微笑みを零す。

 相変わらず閑古鳥が大合唱している上映室で適当な椅子を選択し、気怠そうに腰を下ろす。

 

「なー絹旗。俺は相変わらずのすっからかん具合に絶望を隠せねー訳なんスけど、結局今日はここに何時間ほどいる予定で?」

 

「今日は二年に一度の超サービスデイのようですからね。なんと映画が十本視聴でまさかの千円らしいです。これは超全て観るしかないでしょう!」

 

「…………そ、そーッスかー」

 

 映画の尺は平均して一時間半から二時間程度のものだから、簡単に合計してもまさかの二十時間。日ィ跨いでんじゃねーか、と心の中でツッコミを入れた流砂は悪くない。

 こりゃサービスデイっつーよりも閉店セールかなんかなんじゃね? と肩を竦めつつ、

 

「あ、ごめん絹旗。ちょっとトイレ行ってくるッス」

 

「あ、はーい。いってらっしゃーい」

 

 超映画中毒者の大能力者は、パンフレットから視線を外さなかった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 そんな訳で八時二十五分。

 未だ予定通りに作戦を遂行できている流砂は、ちょっと早いがセブンスミストの中を散策していた。通常ならばどの店も開いていないのだが、このセブンスミストに関してはまさかの午前七時開店だったりするので、すんなりと入店することができていた。

 流砂の腕に抱き着きながら、フレンダはニンマリ笑顔で言葉を並べる。

 

「今日は草壁に私の服を選んでもらおうって思ってる訳よ!」

 

「なんでまたそんな意味不明なスケジュール……他人が選んだ服なんて、自分に似合うかどーかすら分からねーモンなんじゃねーんスか?」

 

「むー。そこは空気を読んで『イエスユアハイネス!』とか言っとけばいいんだって! まったく。草壁は相変わらずダメダメだねぇ」

 

 そうは言っても腕は解放してくれねーのかよ、と流砂は小さく溜め息を吐く。

 今日のフレンダの服装は絹旗と同様いつもとは違い、スカートと上着が一体化したピアノのような配色の洋服に、牛革の厚底ブーツという服装だった。相変わらず頭にはシックな感じのベレー帽がちょこんと乗せられているが、別に違和感は感じられなかった。……女ってスゲー。

 そんなこんなで服飾店へと移動する。

 店内は意外と込み合っていたが、それでも移動できないというほどではない。レジの回転の速さと店の構造による、意図的な人の流れが作り出されていた。

 とりあえずフレンダに引っ張られるがままに移動した流砂は――

 

「じゃじゃーん! 今日は水着を選んでもらおうと思うって訳よ!」

 

「季節外れのトンデモ注文!」

 

 ――全力で帰りたくなっていた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 午前九時四十分。

 温水プールの前で携帯電話を弄っていた第四位の超能力者こと麦野沈利(むぎのしずり)は、膝に手をついて肩で激しく荒い呼吸をしている恋人に全力のジト目を向けていた。

 そんな訳で、麦野さんから優しい一言。

 

「……集合時間十分オーバーなんだが……その様子から察するに、風紀委員にでも追われていたの?」

 

「し、沈利とのデートが楽しみすぎて思わず無駄に準備に手間取っちまってただけさ! じゃ、じゃー早速行こーぜ、温水プールに!」

 

「ちょ、あんまり引っ張るな!」

 

 実のところ、流砂が遅れた原因はフレンダ=セイヴェルンにある。

 水着選び、ということでとりあえず無難にパレオタイプの水着を選んだわけなのだが、「なんかセクシーじゃないからイヤ」というまさかのベクトルの言葉をぶつけられてしまったのだ。その後もビキニタイプ、スリングショットタイプ、スクール水着タイプとかいう最悪のハードル商品をぶつけてみたのだが――すべて却下。

 結局、恥ずかしさを我慢しながら超涙目で「す、スケルトンワンピでどーだバカヤロウ!」と水に濡れたら全部透けるタイプの水着を渡し、顔を真っ赤にして硬直したフレンダに値段分のお金を押し付け、こうして全力疾走で温水プールにまでやって来たわけだ。……今度絶対にフレンダと一緒にプール行く。アイツのスケルトンワンピを見れずして死ねるわけがないッッ!

 そんな訳でとりあえずの激戦を制した流砂くんは脱衣所の前で麦野と別れ、予め用意していた鞄をロッカーの中に置いた。黒白チェックの上着を脱いで黒の長袖シャツを脱いでダークブルーのジーンズを脱いで……という流れ作業をこなすこと約三分。

 

 

 普通のトランクスタイプの海パン野郎が爆誕した。

 

 

「現在時刻は九時五十分。十時半までにゃシルフィ達のトコに行かねーと、もー修正不可能な最悪のフラグ満載になっちまう……ッ!」

 

 そんな呻き声を上げながらロッカーを施錠し、プールサイドへと足を踏み入れる。

 

「――って、まだ沈利は着替え終わってねーのか」

 

 まぁ、女子は男子よりも着替えんの遅いからなー。とりあえず持参してきた浮き輪を膨らませることにした流砂は、ベンチの傍でいそいそと作業を開始する。

 そして浮き輪を膨らませ終わって一息ついたところで、

 

「ごめんごめん。着替えに意外と手間取っちゃったわ」

 

 ――黒いビキニタイプの水着を着用した巨乳美少女がそこにいた。

 脚を一歩踏み出すごとに上下左右に大きく揺れる豊満な双丘。腹周りには綺麗なくびれが描かれていて、お尻は無駄に肉付きがイイ。正直、写真集のモデルなんて比較対象にすらならなかった。贔屓目があるとしても、流石にこれは『エロ過ぎる』。

 「す、スゲエなあの人」「ああ。あの胸で挟まれてみてえ……ッ!」「ちょ!? アレ本当に人類なの!?」「うぅ。衛生兵! 衛生兵は何処!?」とか叫びまくっている一般客なんかには気づかない様子の麦野は流砂の手を優しく握り、

 

「それじゃあ、とりあえずはウォータースライダーから行きましょう! もちろん、二人用のだからな!」

 

 満面の笑みでそう言い放った。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 そして、午前十二時三十分。

 

「…………これ、は……?」

 

 とある少女が黒塗りのメモ帳を拾った。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 そして、午後一時四十分。

 第七学区にある家電量販店の前で、草壁流砂少年は真っ白な灰になっていた。

 

「……あの、大丈夫なんですか? なんかやけに顔とかやつれちゃってますけど」

 

「……ゴーグルさん、大丈夫?」

 

「あ、はは……だ、大丈夫ッスよー」

 

 先ほどの三人とは違っていつもの服装に身を包まれているステファニー=ゴージャスパレスとシルフィ=アルトリアに心配そうな顔を向けられるが、流砂は渾身の強がりを見せつけた。

 当初の予定では、麦野とのプールは一時間程度で終わらせるつもりだった。その後にすぐさまシルフィたちと合流し、そしてそのままの流れで絹旗が待つ映画館へと全力ダッシュを決めるつもりだった。

 しかし、ウォータースライダーで背中に豊満な胸を押し付けられたり流れるプールで麦野の胸を揉んでしまうというラッキースケベが起こったりハート形のストローで一つのジュースを飲みあったり人にぶつかられた勢いで唇と唇がくっついたり……という超ラブコメ展開のせいで、予想をはるかに超えるタイムロスが発生してしまったのだ。――まぁ正直、もっと堪能したいなーとか思ってました。だって健全な男子だから!

 そんな訳で凄くヤバい状況下の流砂くんは、そんな凄くヤバい状況を打破するべく――

 

「今日は炊飯器を買いに来たんだったよなそーいえば俺予めオススメの炊飯器とか選んできてたんスよ確かその炊飯器はこの店の二階にあるみてーだおっとちょっと尿意が来た先に店の中に入ってもらっててイイッスか!?」

 

「え!? ちょ、流砂さん!?」

 

 ――全力ダッシュで歩道を駆け抜け――

 

「ちょーっと待ってもらってもいいですか、草壁?」

 

 ――凄まじい怪力で右肩を思い切り掴まれた。

 まるでタンクローリーにでも引っ掛けられたかのような衝撃が流砂を襲い、直後に信じられないほどの激痛が肩に襲来した。どうやら幸運にも肩は外れていないようだが、それでも当分右腕は動かせそうにない。

 「ぎゃぁああああああーッ!」と断末魔の叫びを上げながら地面でのた打ち回る流砂。何が起こったのか全然現在状況が把握できないまま、流砂は自分の肩をリアルブレイクした襲撃者の姿を視界に収める。

 そこには。

 ――そこ、には。

 

「四、五時間もトイレに篭るなンて超おかしいと思ってたのでトイレを見に行ったのにあなたがいなかったからこォして捜しに来たわけなンですが、あなたは一体こンなところでナニを油売ってるンですかねェ……ッ!?」

 

 般若のように怒りまくった絹旗最愛ちゃんが仁王立ちしていました。

 感情の欠片も無いと思わせるレイプ目の癖に、瞳の奥では凄まじいほど凶悪な炎が全力で燃え盛っている。正直、背中の後ろにいる灰色の身体のやけに派手な格好の大男は一体何なんだろう。なんか、どこぞの時間を止めるスタンドを倒した主人公のスタンドの様に見えるような見えないような……。

 予想にもしなかった展開に呼吸が停止する流砂だったが、ここで更なる悲劇が彼を襲うこととなる。

 

「あっれー? 草壁そんなところで何やってるの? トイレに行ったんじゃなかったって訳?」

 

「りゅーうさぁああああああ? これは一体どういうことなのか、説明してくれるわよねェェェェ?」

 

 新たな修羅の登場だった。というか、一人は未だにこの状況が分かってないみたいだった。

 新加入の麦野とフレンダにとりあえず絹旗が状況を説明。なんか麦野とフレンダの額に凄まじく巨大な青筋が刻まれていく光景が凄く怖ろしい。死亡フラグ以上の何かが襲ってくるような気がしてならない。

 だが、まだここからなら巻き返せる。ぐ、偶然だなー? とか言ってごまかし切れる範疇だ!

 突然湧き上がってきた希望を胸に流砂はくいっと顔を上げ――

 

「ということは、やっぱりこのメモ帳は草壁のだったって訳ね」

 

『天誅!』

 

「ぐべぇ!」

 

 ――後頭部を三人の少女に踏みつけられた。

 アスファルトの地面に亀裂が入り、流砂の顔面がメリメリゴリゴリィ! と地面に食い込んでいく。なんか視界の端で巨大な機関銃を構えている元傭兵さんと凄く切れ味の良さそうな包丁を構えている幼女の姿が見て取れるのがそこはかとなく恐怖を感じる。というか、流石にそのコンボは人体を破壊し尽くしちゃうっぽいんですが。

 そろそろ頭がスイカのように潰れちゃう!? と恐怖に脅える流砂の上で、五人の少女たちは凄くイイ笑顔で会議を始めた。というか、いつの間にかステファニーとシルフィも流砂の頭を踏んづけていた。

 

「結局、この腐れバカヤロウ、どういう風に調理する? あ、因みにだけど、私はカリッと焼く派に一票って訳よ!」

 

「うーん。それよりも、身体に無数の風穴を空けちゃうほうがいいんじゃないですか? もうこの場でいっそ、一思いに殺してあげませんか?」

 

「……一瞬で苦しみが終わるなんて、許せない」

 

「それには私も超賛成です。やるなら長く、尚且つ凄まじい激痛を伴うオシオキじゃないと駄目ですね」

 

「それじゃあ、みんなの意見をまとめて、私がここに審判を下そうと思うけど、異論はある?」

 

『どうぞどうぞどうぞ』

 

 なんかどう転んでも死亡確定な気がした。

 

「ちょ!? ちょちょちょちょちょちょちょーっと待ってくれませんかねぇ!? ナニ、これってもはや弁護の余地すらない死刑囚裁判的な感じなの!? 処刑は既に決定事項なの!?」

 

『当たり前だ!』

 

「ぶぎゃっっ――ごべぇぇ!」

 

 五方向から後頭部へのまさかの踵落としを喰らい、流砂の顔が先ほどよりも深くアスファルトに食い込んだ。彼らの周りにいる一般市民の足音が、なんかやけに遠ざかって行っている気がする。

 メギメギメギィッ! ともはや人体から発せられるような領域を超えている破砕音を鳴り響かせながら、麦野沈利は満面の笑みで言い放つ。

 

「それじゃあとりあえず――ベッドに縛り付けて尻にミサイルブチ込んで口の中に機関銃ぶっ放して鳩尾思い切り殴り飛ばして両腕を包丁で串刺しにしてトドメに原子崩しで焼印入れてやって最後に全員で美味しくいただくってので――どう?」

 

『異議なーし』

 

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ! 生き残れる可能性が微塵もねーしなんか最後の砦崩される勢いだしお前らの目が怖すぎるしぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!?」

 

 そんな叫び声を上げながら、草壁流砂はずるずるずるずると引きずられていく。

 その日の夜。

 学園都市の第七学区のとあるコンビニで買い物をしていた学園都市最強の超能力者は、凄く聞き覚えのある声での断末魔の叫びを聞いたという――。

 




 絹旗の私服については、ピクシブの『はいむらきよたか』様の作品を見ていただければ、すぐに分かります。


 感想・批評・評価など、お待ちしております。

 次回もお楽しみに!

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