ゴーグル君の死亡フラグ回避目録   作:秋月月日

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 二話連続投稿です。

 話は短くなる、とか言っておいて、まさかの六千字越えです(汗



少女達は欲望塗れに盛り上がる

 激しく帰りてぇ、と浜面仕上(はまづらしあげ)は溜め息を吐いていた。

 かつては百人のスキルアウトを束ねるリーダーだったり暗部組織の下っ端だったりした浜面だが、第三次世界大戦を経験することで、三流チンピラ浜面から世紀末帝王HAMADURAにまで究極進化することに成功している。この調子でいけば世界覇者HAMADURAへのワープ進化も夢じゃねぇかもな、と三流主人公の浜面は奇妙な未来に思いを寄せる。

 話は変わるが、現在、浜面仕上は第七学区で一番の人気を誇るファミレスにいる。

 正確には、個性的な四人の少女たちと一緒に、だが。

 フレンダ=セイヴェルン、絹旗最愛(きぬはたさいあい)麦野沈利(むぎのしずり)。――そして、浜面の恋人である滝壺理后(たきつぼりこう)

 彼女たち四人と浜面を含めた総勢五人こそが、壊滅の後に再結成した、新生『アイテム』である。

 フレンダが裏切ったり麦野がブチギレたり浜面が進化したり滝壺が倒れたり麦野がヤンデレったり絹旗がデレデレったりフレンダが復活したり、というなんとも異常な日々を乗り越えた彼ら五人は、何かが成長したというような素振りを見せることも無く、こうして今日も平和なファミレスの一角を占拠しているのだった。

 そんな訳で、六人掛けの席を五人で占拠している新生『アイテム』のリーダーである麦野はバンバン! と勢いよくテーブルに平手打ちしつつ、

 

「そろそろ白黒はっきりさせましょう! 流砂の相棒が一体誰なのかということを!」

 

『望むところだ下剋上なめんな第四位ぃいいいいいいいいいいいいッ!』

 

「……すぴー」

 

「…………………………はぁぁぁ」

 

 瞳に闘志の炎を燃やして勝手に盛り上がっている第四位とその部下二人を前にしつつ、そんな騒がしい状況の中でもマイペースに熟睡している恋人をジト目で眺めながら、フォロー検定六段所持者の浜面は腹の底から溜め息を吐く。

 そもそも、この場にあのゴーグル野郎がいないこと自体がおかしいのだ。あの『死亡フラグとか生還フラグとか立てることで有名だけど、やっぱり恋愛フラグの乱立数が一番異常だよね』という評判を思いのままにしているあのゴーグル黒白頭がこの場に居れば、浜面はこうしてドリンクバー係とかフォロー役を担当する必要はなかったのだ。

 なのに、あのゴーグルの少年はあろうことか「シルフィの入学先の小学校を見てこなきゃいけないんスよ。っつーワケで、後はよろしくー」という『あれ、それ別に代わりにステファニーが行ってもよくね?』みたいな凄く意味不明な理由でトンズラしやがったのだ。絶対後でブチ殺す、と誓った浜面は悪くない。

 そんな訳で、こうして浜面仕上は相変わらずの下っ端街道まっしぐらなのだった。

 ここにはいないゴーグルの少年に怒りを覚えている浜面の心境なんて露ほども知らないヒートアップトリオの内、まず最初に口火を切ったのはゴーグルの少年こと草壁流砂(くさかべりゅうさ)の事実上の恋人である第四位の超能力者、麦野沈利だった。

 

「常識的に考えて、流砂の傍にいるべきなのはどう考えても私だろうが! 恋人同士のイチャラブに他者が割り込んできてんじゃねえよ!」

 

「その恋人関係を終わらせるために超尽力することの何が悪いんですか! というか、草壁との行動時間はこの中で私が超一番なんです! いいから黙って草壁を私に超譲ってください! ヤンデレ女にはこれ以上任せておけません!」

 

「ちょっとちょっと! 何で私は蚊帳の外!? 私にだって草壁にアプローチする権利はあるはずって訳よ!」

 

『口挟んできてんじゃねえよぶっ殺すぞ!』

 

「あ、はい。黙っときまーす」

 

 ドスの利いた声と怒りに染まった表情を駆使した超能力者と大能力者によって、金髪女子高生フレンダは座席の上で体育座りをして顔を足の間に埋めてしまった。心成しか、怨嗟のような呟きが脚の間から漏れてきている。

 上下社会の厳しさに屈服したフレンダに苦笑を浮かべる浜面だったが、そんなことなど関係ないといった様子でさらにヒートアップしていく麦野と絹旗に、彼の胃がキリキリとした激しい痛みを訴え出した。

 

「っつーか、お前はロシアで十分一緒に居ただろうが! そろそろ私と流砂の二人きりの時間のために奮闘しろよ! 正式な恋人同士の幸せの為に尽力しなさいよ!」

 

「嫌なものは超嫌なんです! というか、恋人同士なんだから二日ぐらい草壁を超譲ってくれてもいいじゃないですか! この超分からず屋!」

 

「ンだとテメェ表出やがれ絹旗ァああああああああッ!」

 

「…………はぁぁぁ」

 

 テーブルの上のドリンクやら映画のパンフレットやらを撒き散らしながら取っ組み合いを始めた恋する乙女コンビに、浜面仕上は疲れた表情で溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 第七学区のファミレスがリトル黙示録になっている頃、件のゴーグル少年こと草壁流砂は第七学区のスーパーマーケットにやってきていた。因みに、彼の隣には九歳の黒髪アホ毛ゴスロリ少女ことシルフィ=アルトリアが流砂と手を繋いで立っている。

 先ほど、シルフィが途中入学する予定の小学校の見学に行ってきたわけなのだが、流砂とシルフィはそこでフレンダによく似た小学生に絡まれてしまった。詳しい話を聞いてみると、その少女の名はフレメア=セイヴェルンというらしい。ぶっちゃけた話、フレンダの実妹だった。

 姉があんな個性的だけど妹の方はどうなんだろう? という好奇心に従う形で相手をしてあげていたのだが、フレメアの個性はフレンダ以上に濃いものだった。というか、あの低年齢でスプラッタ映画好きというのは一体全体どういうことだ。あの女子高生、小学生の妹に一体どういう教育を施してやがるんだ。

 そんなことを思いながら、シルフィとフレメアが携帯電話の電話番号とメールアドレスを交換している様子を生暖かく見守りながら、流砂は小学校を後にした。因みに、シルフィの携帯電話は流砂が買ってあげたものだ。シルフィの要望で流砂と同じ型の携帯電話を購入したわけなのだが、その携帯電話というのが『薄くて黒塗りのタッチ式携帯電話』というどう考えても小学生の少女には似合わないものだった。

 しかし、シルフィは『……ゴーグルさんとお揃い。……嬉しい』と笑顔を見せてくれていた。……正直、流砂は新しい性癖への扉をノックする寸前ぐらいまでには追い込まれていた。幼女の笑顔、プライスレス。

 そんなこんなで今日の夕飯の買い物をするためにスーパーマーケットに寄った流砂とシルフィは、本当の兄妹のように仲良く買い物を開始したのだった。

 

「なーシルフィ。今日の夕飯、何が喰いたいッスか?」

 

「……ゴーグルさんが作るの?」

 

「いや、俺は料理とか無理ッス。っつーワケで、今日のキッチン担当はステファニーに任せよーかと思ってんスよね。一応は三人で暮らしてるワケだし、ここぞとばかりにアイツを働かせておけば俺の平和な時間も増えるワケだし……」

 

「……しずりが知ったら?」

 

「殺されるから絶対に言わないでお願い百円あげるから!」

 

 コクン、と可愛らしく首を傾げながら言い放つシルフィに、流砂は財布の中から取り出した百円玉を献上する。

 流砂は第四位の超能力者の麦野沈利と恋人同士だが、何故か二人は同棲していなかった。

 いや、別に恋人だから絶対に同棲、という法律があるわけではないのだが、流砂と麦野のイチャラブ度から想像するに、彼ら二人は四六時中一緒に居ないと耐えられないのではないか、という疑問が浮上してしまうのだ。

 流砂は最初は麦野と二人で暮らすつもりだったのだが、

 

『私はアイテムの奴らとルームシェアするから、お前はそのクソガキと暮らせよ』

 

『…………あれ? もしかして俺、嫌われてる?』

 

『違ぇよバカ。私はお前のことが世界で一番殺したいと思うぐらいに大好きだ。だけど、流石に四六時中ずっと一緒に居たら、私はお前をすぐに殺しちゃうかもしれない。――故に、私はお前と別居するんだよ』

 

『あーいや、やっぱりその理屈もおかしーよーなおかしくないよーな……』

 

『そうか。私と一緒に居たいっつーお前の気持ちはよーく分かった。それじゃあとりあえず今晩だけ二人きりで夜を過ごしましょう。――今夜は寝かせないわよ?』

 

『いやァァァああああああああああああああああああああああああああッ! 好意が裏目に出て大変な末路を辿ってるゥゥゥううううううううううううううううううううううううううううッ!』

 

 ……みたいなやり取りの末、流砂はシルフィと同居することになったのだ。因みにその日、流砂はギリギリのところで貞操を護りきった。

 なんでそこでステファニーも同居することになるのか、という疑問がここで浮上するわけなのだが、それはステファニーと一緒に砂皿緻密の見舞いに行った日の帰りにまで遡ることになる。

 いやまぁ、そこまで長い話ではなく、

 

『っつーワケで、俺はシルフィと二人で暮らすことになったんスよ。どーせ俺が借りてる部屋にゃ余りあるし、なーんも問題ねーんスけどね』

 

『や、やっぱり部屋を借りるとなるとお金がかかるものなんじゃないですか? そこであなたに提案です! この私、ステファニー=ゴージャスパレスは遂に警備員に復帰することになったんですよ。それでそれで、私にはすごーく無駄に広いマンションの一室が与えられることになったわけでしてね! 無駄に広いのに使わない部屋が多くて困ってるんですよー、なーんて』

 

 ……みたいなやり取りの後、断れなかった流砂は自分の住居及びシルフィの住居をステファニーの住居に移すことになった、という訳だ。俺って押しに弱いんスかねー、と自分の欠点を顧みたのはいい思い出だ。

 そんなことを思い出しながらシルフィと仲良く手を繋いで精肉コーナーに移動する流砂。

 鶏肉、牛肉、豚肉……という感じで一つ一つ品定めしていると、

 

「あれ? こんなトコで何やってんスか、一方通行(アクセラレータ)?」

 

 凄く見覚えのある白髪灼眼の中性的な顔立ちの第一位が、流砂の隣で豚肉の入ったパックを手に取っていた。

 体重を現代的な杖に預けていた一方通行は「チッ」と吐き捨てるように舌を打ち、

 

「見て分かンねェのか。買い物してンだよ、買い物」

 

「…………うわー似合わねー」

 

「俺だって自覚してンだよわざわざ言うなぶっ殺すぞ!」

 

「全力でごめんなさい」

 

 ギロリ、と肉食獣のような眼光で睨まれ、流砂は一瞬で下の身分へと自分をシフトさせる。

 「チッ!」と今度はわざわざ流砂に聞こえるような音量で舌打ちした一方通行は、苛立つように頭を掻きながらも再び肉の物色を再開した。自分が知っていた一方通行とは全然違う態度に、流砂は思わず頬を緩めてしまう。人間、きっかけさえあれば変われるもんなんスねー。

 最強の超能力者の意外な一面に感心しながらも一方通行と同じように肉の物色を始める流砂。シルフィは流砂の手を握りながら「……今日はハンバーグ?」と可愛らしく質問を投げかけている。どこからどう見ても仲のいい兄妹だ。

 だが、そんな平和な時間は思わぬ介入者の手によってズタズタに引き裂かれてしまう。

 その介入者の登場は、凄く突然で凄く騒々しいものだった。

 

「あなたー! ミサカこの『ゲコ太ストラップ入りフォーチュンクッキー』が欲しいーっ! ってミサカはミサカは目一杯笑顔を振りまきながら商品を籠の中にブチ込んでみたり!」

 

 その介入者は、外見年齢十歳ほどの少女だった。

 シルフィと同じようなアホ毛が特徴で、髪の色は明るい茶色。どこぞのビリビリ中学生を幼くしたような顔立ちで、空色のキャミソールの上から男物のワイシャツを袖を通して羽織っている。

 流砂とシルフィはこの少女とは初対面だが、流砂はこの少女のことを知っていた。

 第三位の超能力者のクローンである『妹達(シスターズ)』を束ねる司令塔。

 個体番号二〇〇〇一号。

 正式名称――『最終信号』。

 そして呼び名は――『打ち止め(ラストオーダー)』。

 一方通行がわざわざロシアに行ってまで命を救った少女であり、彼の能力の要でもある『ミサカネットワーク』の管理権限を得ている体細胞クローンだ。

 打ち止めの突然の登場に流砂とシルフィが呆気にとられる中、一方通行がとった行動はとてもシンプルなものだった。

 

「返してこい。黄泉川からの注文にそンなメルヘンチックな菓子は入ってねェ」

 

「ひぎゃーっ! 相変わらずミサカには手厳しいのね、ってミサカはミサカはよよよと嘘泣き交渉術を行使してみる!」

 

「…………」

 

「いたたたたたっ! な、なんであなたはそんな無表情にミサカの額に連続チョップなの!? ってミサカはミサカはーっ!」

 

 ビシビシビシビシビシビシビシッ! と流れる動作で打ち止めに止まらぬコンボを叩き込む最強の超能力者。流砂は生まれて初めて見る芸術技に感心を越えて衝撃を受けてしまっている。

 三〇回ほどチョップを叩き込まれた打ち止めは頭を両手で摩りながらも、うるうると涙目で一方通行を見上げてみる。――直後、一方通行は溜め息交じりに「文句言われても知らねェからな」と彼女の要望を了承した。

 やっぱロリコンじゃね? と流砂が一方通行に勝手な評価を下す中、彼と手を繋いでいるシルフィは打ち止めの顔をじーっと眺めつつ、

 

「……ゴーグルさん。私もあのお菓子欲しい」

 

「他所の子からダメなところを学習しちゃダメッスよシルフィ! いやまぁ、別に買ってあげてもイイけどね! でもそれは夕飯の買い物を終えてからにしよーッス!」

 

「……うん、分かった」

 

 苦笑しながらの流砂の言葉にシルフィは頬を朱く染めながら頷きを返す。

 と。

 

「あ、そーだ。なーシルフィ。そこの女の子と友達になってみてはどーッスか?」

 

「……友、達?」

 

「はいッス。シルフィ、同年代の友達って今日知り合ったフレメアだけだろ? これから小学校に通う訳だし、ここいらでコミュニケーション能力向上のための一歩を踏み出してみるっつーのはどーッスか?」

 

「……うんっ」

 

 コクリ、と大きく頷きを返し、シルフィは流砂の手から自分の手を離す。

 そしてトタタッと打ち止めの目の前まで駆け寄り、

 

「……私、シルフィ=アルトリア。お友達、なってもらえる?」

 

「へぁ? あ、えと、ミサカは打ち止め(ラストオーダー)って言うんだけど……その、お友達? になるのは、その……やぶさかではないというか、ってミサカはミサカはごにょごにょごにょ……」

 

「……もしかして、私と友達、嫌?」

 

 ちょっとだけ泣きそうになりながら、シルフィは小動物のようにコクンと首を傾ける。

 そんなシルフィ特有の萌えポイントに、打ち止めの心は鋭い弓矢か何かで勢いよく撃ち抜かれてしまった。流砂はシルフィの姿を携帯電話で写真に収めていて、一方通行は我関せずといった様子で肉の物色を続けている。

 ガッシィ! と打ち止めはシルフィの両手を握りしめる。

 そして興奮冷めやらぬといった様子で鼻息を荒くしながら、

 

「み、ミサカこの子お持ち帰りぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!」

 

 その日。

 打ち止めは生まれて初めて、一方通行にガチ説教をされた。

 

 

 

 

 

 

「……夕飯の材料、どこにも見えない気がするのは私の気のせいですか?」

 

『………………ごめんなさい』

 

「はぁぁぁぁ。……分かりました。今回は流砂さんの右腕一本で許してあげようじゃないですか」

 

「ちょっと待ってステファニー! 夕飯の材料との等価交換にしては凄く失うものがデカすぎる気がする!」

 

「良いじゃないですか。私と麦野さんとお揃いですよ?」

 

「ンなトコでお揃いになる必要とか絶対にねーから! もっと他のトコで追求するべきだから!」

 

「ええい、うるさい! いいから黙ってさっさとこっち来い!」

 

「いやぁああああああああああああああッ! こ、これならいっそ、浜面と暮らした方が平和だァァああああああああああああああああッ!」

 

 




 感想・批評・評価など、お待ちしております。

 次回もお楽しみに!


 あ、あと、

 キャラクター人気投票は十月九日まで続いております。因みに、持ち票は七票で、その七票を好きなキャラに割り振る、という形式になっております。

 投票は活動報告で募集していますので、どしどし投票お願いします!

 第一位から第七位に選ばれて自分が主人公の短編をゲットするのは、果たしてどのキャラクターなのか!

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