原作再構成(笑)(フェイトTS、実質オリ主) 作:ねぎま全盛期の大トロ
フェイト・テスタロッサが初めてプレシア・テスタロッサに抱かれて眠った日から半月程が経過した。
プレシアの起床時間に合わせてのことだろうか。
いつの間にかフェイトの寝坊癖は改まり、好んでプレシアの手伝いをするようになっていた(もっとも、フェイトの睡眠時間が短くなる事を憂慮したプレシアは朝の手伝いだけは認めなかったのだが)。
当初プレシアはフェイトの手伝いを不要としていたのだが、プレシアの2度目のご褒美、、フェイトの2度目のお願いは「お手伝いをしたいです」というものだった。
それでプレシアは渋々(といったような態度で)フェイトの手伝いを受け入れたというわけである。
フェイトの覚えの良さは魔法のみに止まらず、家事もまた非常に楽しげに習得していった。
この半月の間にフェイトが失敗したことと言えば、プレシアと一緒に焼いたクッキーをつまみ食いして火傷とお小言を同時に貰ってしまったことくらいなものだろう。
或いはナッツたっぷりのチョコチップクッキーには、平素から優等生的な態度を崩さないフェイトをして行儀悪をさせてしまうほどの魅力があるのかもわからないが。
蛇足であるが、フェイトは型抜きクッキーよりアイスボックスクッキーを好んだ。
いや、ナッツの量が多すぎて型抜きは自然と避けられるようになったと言う方が正確なわけだが……。
◆
「フェイト、忘れ物はない?
ハンカチとティッシュは持った?」
充実していたとも、忙しなかったとも評しうる暮らしが2週間と少し続いて。
今日という日を完全な
今オフのスケジュールを策定、、ピクニックへ行くことを決めたのはプレシアである。
当初、プレシアは『何処か行きたいところはないか?何かしたいことはないか?』をフェイトに問うた。
しかしプレシアの期待に反して、それに対するフェイトの返答は「魔法の訓練がしたいです」と言う実に無味乾燥なものだった。
これでは流石に、フェイトへ我慢を強いている事に、プレシアも気付かざるを得なかった。
と言うよりは寧ろ、毎晩フェイトが寝台の中で見せる甘えるような態度や寝言と、日中の態度に大きな隔たりがある現実を、直視せざるを得なくなった。
初日にフェイトへ叩きつけた心無い言葉の数々が、それらの原因であることは火を見るより明らかであった。
だからプレシアは迷いながらも更なる一歩を踏み出した。フェイトをピクニックへ誘ったのだ。
そうしなければ、フェイトはあっという間に少し歪んだ
だが、まあ、ピクニックへ行くことを告げた際のフェイトの綻んだ表情を見る限り、そう悪い選択でもなかったらしい。
フェイトの笑顔を思い出したことで釣り上がってしまいそうになる口角を努めて平らにしながら、プレシアは転送魔法を発動した。
もう2度と、プレシア・テスタロッサが幸福に溺れることがあってはならないのだから。
◆
多くの自然が手付かずのまま残されたアルトセイムでは、ピクニックの目的地選びに困る事はない。
プレシアは非常に難度の低い山々から、アクセスの悪さ等が原因で登山者がほとんど居ないところを選んだ。
安全性を1番に、親子水入らずであることを2番目に重視するのは昔から変わらぬことであったが、今ではフェイトの出生の事情もあって、この2項は半ば不可分とも言えた。
フェイトと手を繋ぎながら山を登り始めて1時間強。
山の中腹にある木々の切れ目、そこに敷かれた柔らかな草の絨毯を見つけたプレシアは「この山は当たりね」と心中で独り言ちた。
そして昼にはまだ少し早いが、この先2つと見つかるか疑うほど絶好のロケーションということもあり、フェイトへ「ここでお昼にしましょう」と声をかける。
フェイトは朝からずっと試食とつまみ食いの
フェイトの合意を得たプレシアは軽く左右に指を振る。
するとそれだけで自宅から敷物が転送され、更にその上へランチボックス一式も転送されて、瞬く間に昼食の準備が整ってしまう。
既に召喚魔法と呼んでも差し支えない程の転送魔法であったが、こと魔法に関しては万能を自認するプレシアにとってこんなものは児戯にも等しかった。
ちなみにプレシアは召喚魔法のレアスキルは保有していない。
しかし、それは適性の問題ではなく、ただ単に召喚獣と契約していないためである。
だが、フェイトのキラキラした眼差しに内心ニヤニヤが止まらない今のプレシアであれば、適当に召喚獣を見繕いアラフォー召喚魔導師として
実はフェイトの目線はプレシアの見事な魔法行使より、どちらかと言えばランチボックスの上に鎮座するクッキーが入ったバスケットへ向いているのだが……知らぬが仏であった。
◆
数時間前に作った弁当なのに湯気が出ている、弁当というよりもはや弁当(?)と称すべき代物で優雅な昼食の時間を過ごしたフェイトとプレシア。
食後のおやつにはフェイトが朝から楽しみにしていたクッキーの他に、密かにプレシアが用意していたドライフルーツのパウンドケーキも出てきて(主にフェイトが)大満足であった。
そうして和やかな食事の時間が終わり、しばらくするとフェイトが眠たげに目をこすり始める。
普段より早起きして遠出の準備をしていたためだろう。
そういった事情も当然把握しているプレシアは、自身の膝を枕にして、優しくフェイトを寝かしつけた。
――悪くない。
そんな言葉が、ぼんやりとフェイトの寝顔を見つめるプレシアの心に浮かんできた。
プレシアの頭脳は即座にその言葉の意味を理解し、自分の心を検証し始めるが、その間もプレシアの手はフェイトの髪を手櫛で梳き続けていた。
そう、プレシア・テスタロッサは、フェイト・テスタロッサを愛している。
それはもう、全くと言って良いほどに疑いの余地も言い訳の余地も存在しない、確定的な事実だった。
プレシアは自分がアリシアに対して抱くそれと同等の愛を、フェイトに対して抱いている事を自覚していた。
そしてフェイトに対して愛情を注ぐ事に、その行為に抵抗を覚えることも、今では少なくなっていた。
アリシアを忘却するのではないかという恐怖や罪悪感は、無論未だプレシアにはあったが、それ以上にフェイトの悲しげな表情を笑顔に変えたいと思っていた。
しかし、プレシア・テスタロッサは、フェイト・テスタロッサを恐れている。
プレシアがフェイトへ愛情をもって触れる度に、フェイトはとてもとても幸せそうな顔で笑う。
そしてそんな笑顔を浮かべた日の夜には、必ずプレシアに抱き着いて眠る。
幸せだった。あんなに酷い仕打ちをしたにも拘らず、フェイトもまたプレシアに好意を抱いている事は明白だった。2人の間にはまだぎこちなさはあったが、心は確かにつながっていた。
フェイトはフェイトなりに、プレシアの愛には自身も愛で報いようと、プレシアを優しく抱擁するのだ。
そんなフェイトの愛が、プレシアは恐ろしかった。
フェイトに優しくされるほど、プレシアは幸福に溺れてしまいそうになる。
自分の罪が赦されたのだと勘違いしてしまいそうになる。
そしてその度に、
あの時、私に自身のキャリアや収入を守ろうとする意識が一粒でも無かったといえるだろうか?
あの時、私は娘の安全より己の保身を優先したのではないか?
私は、我が身可愛さに娘を殺したのではないか……?
私は、私は、真実アリシアを愛していたのだろうか…………?
そんな私に、フェイトを愛するなど、できることなのだろうか……………………?
それ以上考え続ける事に酷く重い疲労を感じたプレシアは目を閉じた。
そして、いつしか彼女も午睡の世界へ旅立って行く。
誰よりも大きな愛を抱えながら、プレシア自身がそれを信じられない……おそらくそこに、プレシアの悲劇性はあった。
◆
プレシアは奇妙な明晰夢を見ていた。
その夢は、未来から現在へ、現在から過去へと時間を遡る夢だった。
遠い未来の自分はアリシアとフェイトの子供に「プレシアお祖母ちゃん」と慕われ、幸せな笑みを浮かべていた。
アリシアの出産に右往左往し、アリシアとフェイトの結婚式で感涙にむせぶ姿もあった。
立派な魔導師へ成長したフェイトと共にアリシアの蘇生に成功し、我が子らから赦しを受ける自分の姿を見た時には、浅ましい事だと苦笑した。
それからまた時間は巻き戻り、プレシアはフェイトが未熟な魔導師へ戻ってゆく過程を見る。
そこでそろそろ夢から醒めたいと、もう十分だろうという思いを抱くプレシア。
しかしその願いはついぞ叶うことなく、プレシアの見る景色は苦悩を2年間も狂気の3年間をも越えて、"あの日"に至りつつあった。
初め幸福だった夢は、今や悪夢へと変貌しつつあった。
今なら、少しは怒りや憎しみも溢れ出るのだと思っていた。しかし、それらの感情は全く湧き起こらなかった。
倒れ伏して、身じろぎ一つしないアリシアとリニスを前に、ただただプレシアは涙を流していた。
もしも声を上げる事が出来たのなら、眼前の過去の自分と同じように、みっともなく泣き喚いていたに違いない……。
プレシアが泣いている間にも時計の針は左に回り、いつしか過去のプレシアは姿を消して、とうとうアリシアが起き上がる。
そしてアリシアとリニスは、何かから逃げるように走り出した。
「ママ、助けて!」
いや、今、正しく1人と1匹は逃げていた。
ヒュードラが生み出した黄金色の津波から。
飲み込んだ生物を例外無く殺し尽くすバケモノから。
「助けて!ママ、助けて!」
アリシアが涙を流しながら助けを求めている。
普段は昼寝や日向ぼっこを好んで行うのんびり屋のリニスも、必死の形相で並走している。
「ママ!ママ!」
アリシアが何度もプレシアを呼ぶ。
それもそうだ、、プレシアがプロジェクトのリーダーに就いてからは、アリシアの生活環境も激変し、周囲に他に頼れる大人は居なくなっていたのだ。
もしもプレシアがあのまま研究所で働いていたらそんなことにはならなかったのに……。
「助けて!」
アリシアの声が響く度に、プレシアの心に穴が開き、そこから血が流れた。
その度にプレシアはこれは夢なのだと自身に言い聞かせる。
「ママ!」
ヒュードラの爆風は、アリシア達へ逃げようとする間も与えず寮へと浸透したのだし、
「助けて!」
つまり酸素が魔力素へ変換されるプロセスも一瞬で完了したのだし、
「ママ!ママ!!」
アリシアは死を予感することすらなく一呼吸もせぬうちに息を引き取ったはずで、
「助けて!助けて!!」
だから、だから、私に助けを求めていただなんて論理的にあり得ないだからこれは夢でこ『助けて!』れは夢でこれは夢だこれは夢でなければな『ママ!』らないのでこれは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは『ママ、助けて!』夢これは夢…………
『ママ、ママ!ママぁ!!』
これは、夢、では、、ない…………?
プレシアの意識は一瞬で覚醒し、雷に撃たれたかのような動きで体を起こした。
素早く辺りを見回す。
――――フェイトが居ない。
そうしてプレシアは半狂乱になりながらフェイトのもとへ駆け出した。
プレシアの精神状態は最低で最悪だったが、しかし魔法行使は完璧であった。
魔力遮蔽の結界を自身の周囲にのみ展開、デバイスを戦闘形態へ移行しバリアジャケットを装備、オプティックハイドで姿を消し、念話を逆探知してフェイトの座標を把握し、ブリッツアクションで地を這う蛇の様に音も無く駆ける。
プレシアはそれらを文字通り一瞬で、半ば並列的に処理していた。
探査魔法や転送魔法や飛行魔法を用いないのは、フェイトを襲う何者かに万が一にも悟られてはならないからだ。
襲撃者にも、フェイトにも気づかれる事なく、処理する。この世に存在した痕跡すら残さぬよう、消し飛ばす。
プレシアは自身の焦りと恐怖が増すほどに、心の何処かが硬く、冷たく、鋭くなっていくような感覚を味わっていた。
そして、もしもフェイトを喪ってしまったら、このまま心が砕け散って死んでしまうのだと、直観的に理解した。
それでよかった。
今だけは、ただ、フェイトの母として……。
◆
地獄の鬼も裸足で逃げ出すような表情で逆探知した座標に到着したプレシアが見たものは、赤い狼の子供を抱えながら涙を流すフェイトの姿だった。
無言で周囲を見回し、静的な探査魔法を使用し、それから動的な広域探査魔法まで使用して、やっと辺りに危険が無い事を確信したプレシアは、オプティックハイドを解除してフェイトの前に姿を現した。
「……ママ?」
言いたいことは沢山あった。
プレシアの体は震えが止まらなかったし、心臓は破裂せんばかりに脈打っていたし、心の中では様々な感情が荒れ狂っていた。
だが、フェイトの声を聞いてしまえば、それらを言葉に換えることなど最早不可能だった。
さっさと狼へ適当な延命処置を施し、それを横にどけたプレシアは、黙ってフェイトを抱き締める。
フェイトが戸惑ったように身じろぎするが、解放する心積もりはプレシアには無い。
安堵の余り零れ落ちた涙など、情けなくてフェイトには見せられなかった。
静かに涙を流し続けるプレシア。
初めプレシアの腕の中で戸惑っていたフェイトは、そっとプレシアを抱き返して耳元で囁いた。
途端に体を震わせ、嗚咽を漏らし始めるプレシア。
アリシアを喪ってから、この日初めて、プレシアは心の底から泣いた。
本当はもっとキンクリしたいんだけど、テスタロッサ家を改変しまくりなSSでキンクリして原作始めたら読む人はポカーンってなるよね。
しかし、2週間ちょいしか経ってない割にプレシアさんの攻略が進みすぎているような気がする……。
冷酷無比なプレシアさんを愛するリリなのファンの方、ごめんなさい。
・試食とつまみ食いの境界
2つめ以降はアウトだろう……常識的に考えて。
小食設定な原作フェイトの面影が欠片も無くてごめんなさい。
・召喚魔法と呼んでも差し支えない程の転送魔法
次元跳躍魔法を使えるから、転送魔法のレベルもそのくらいじゃないかなーと。
・弁当というよりもはや弁当(?)
保存魔法最強伝説。大魔導師の無駄遣いとも。
・ドライフルーツのパウンドケーキ
筆者はラム酒よりブランデー派である。
酒の好みもブランデー派。ラム酒も好きだけどね。
・魔法アサシン真剣狩る☆プレシア
ダイの大冒険の竜魔人バラン(vs. 超魔ハドラー)をイメージしながら書きますた。
オプティックハイドのおかげでフェイトに目撃される事はなかった。セフセフ。
・赤い狼
一体何フ何だ……???
・適当な延命処置
探査魔法を使った時についでに容態を調べていたという割とどうでもいい設定。