オビトと共に立っている鳥居の上から下を見下ろす。
サスケと、そしてダンゾウ様が共に血を流しているが、サスケの方が優勢だ。ダンゾウ様は急所を貫かれているのに対して、サスケはギリギリながらもダンゾウ様の攻撃を急所から逸らしている。写輪眼を十全に使ったサスケの勝利だ。
「イタチに会うのは貴様の方だ…。」
サスケが言葉を放つと同時にダンゾウ様は力尽きた様にしゃがみ込む。
その光景を共に見下ろしている隣の男が呟く。
「写輪眼を手に入れた事により写輪眼との戦いを甘くみた…。その驕りが負けに繋がった。」
「いや、まだサスケは余力を残している。あいつが自分のプライドを捨てればもっと簡単に勝てただろうな。」
「……ミスティッカーと言ったか?赤銅一族が開発した兵器と聞くが、赤銅一族であるお前がサスケに与えた様だな。」
「よく知ってるな。まだ世間には出回ってないってのに。」
「長年、様々な情報を集めて回った。特に大蛇丸については念入りに、な。サスケが持つミスティッカーは“神立”だったか?あれは大した得物だ。」
本当によく知っている。大方、サスケがこいつに喋ったのだろう。
「ぐああああ!!」
突然、ダンゾウ様の叫び声が響き渡った。目を向ける。
ダンゾウ様の右肩からチャクラ切れで制御ができなくなった柱間細胞が大木と変化してダンゾウ様の体を蝕む。拒絶反応を減らすように改良した柱間細胞でも、チャクラ切れで制御を失うか。やはり、検体の体質変化を促すように実験を施した方がいいな、と考えを纏めつつ目を細める。
ダンゾウ様が頭の包帯を外し、その右目を露わにする。シスイの眼…。なんとしても、ここで潰して置かないとならない。左眼は原作通りイタチが処分してくれるハズだ。一度、俺が関わってしまった為、世界の修正力が効かずにシスイの眼をオビトに盗られる可能性がある。その可能性を潰す為にもここまで来たが、さて、どうなる?
サスケの千鳥を避けたダンゾウ様は香燐を人質に取る。
「動くな…香燐。」
サスケの表情が今までとは全く違う物になる。チャクラも同時に冷たくなり凍てつく。そして、青白い閃光が貫いた。
「そうこなくては…。」
オビトの声が残酷に空気を揺らす。
「兄さん……まずは一人目だ…。」
香燐ごとダンゾウ様の胸を貫いたサスケの攻撃を受けてもダンゾウ様は倒れない。残った柱間細胞の効果で身体エネルギーを底上げしていることでそのスタミナは多くある。チャクラを大量に消費し、移植した柱間細胞が暴走し、急所に二度も攻撃を受けたのにも関わらず、彼は歩き出す。
おぼつかない足取りでフラフラとこちらに向かって歩くダンゾウ様と目が合った。
俺は右手を真っ直ぐに前に突き出し、その手に持つオレオを鳥居の上から落とす。ダンゾウ様の唇が少し動く。『それでいい』というように。
俺がオレオを落としたタイミングとほぼ同じにして、オビトが鳥居の上からダンゾウ様の前に向かって降り立つ。
「シスイの眼はいただくぞ。」
ダンゾウ様は荒い呼吸を整えた。
「忍の世の為…木ノ葉の為。お前らは決して生かしておかぬ!」
ダンゾウ様の体に呪印が浮かび上がる。
「サスケ!!ダンゾウから離れろ!!」
血で以って空に球を描きながらダンゾウ様の最期の術が完成する。裏四象封印。それは術者の死で完成する。対象範囲の物質を道連れに術者の遺体に封印する会得難易度Sランクの術だ。
収縮していく術を見て、そっと立ち上がる。
できるなら、サスケが大笑いしている時にイチャイチャタクティクスをサスケの頭の上にプラカードのように掲げたり、サスケのセリフに『ウズウズ』って被せたり、カカシの神威に『止めてくれ、カカシ。その術はオレに効く。……止めてくれ』って言ったりしたかったけど、ここが潮時だ。
「!?」
シスイ仕込みの瞬身の術でサスケとオビトの間を抜けてダンゾウ様の体に手を当て、間髪入れずに飛雷神の術で時空間移動を行う。
景色が一瞬の内に変わり、目の前にはいつものアジトの光景だ。部屋の灯りを付ける前にダンゾウ様の遺体を確認する。
顔をダンゾウ様に向けると、彼の眼が潰れていたことに気が付いた。“忍”というものをよく分かっている。自分を殺し、敵を削ぐ。里の多くの人間から信用されていないのに里の為に命を捨てる。果たしてどれだけの人間がダンゾウ様と同じことをできるだろうか?
期待されないのにも関わらず努力し続けるその姿勢は忍を全うしたものだった。
ダンゾウ様の遺体を抱え上げ、あらかじめ用意していた棺に納める。
「ヨロイ。」
後ろから俺を呼ぶ声がする。
「なんだ?」
「その遺体はダンゾウか?」
「ああ。」
「写輪眼はどうした?」
「ダンゾウ様が潰していた。結果は変わらないさ。誰が潰していたかなんて大した問題じゃない。」
「まぁ、そういってみればそうなんだが…。」
「お前が言い淀むなんて珍しいな。どうした?」
「眼を奪われた上に潰されるなんてあまり気持ちのいいものじゃない。」
「それもそうだな。」
部屋の灯りを付けた一人の男の姿が俺の顔に影を作る。
「それにしても、ダンゾウが忍としてその命を全うするとは思わなかった。どちらかというと利己的な人間だと思ってたしな。」
「実は俺やお前と似たタイプだったって話だ。」
「そうだな。……覚えているか?オレとお前が忍についての“答え”を出した時のこと。」
「もちろんだ。」
頭の中の記憶が呼び起こされる。
+++
「創作だ。全部今作った。こんな店知らん。」
「え?一体何なんだ?」
「今の話を聞いてどう思った?」
「どうって…。」
「“グルグルHAPPY”を助けたいと思ったんじゃないのか?」
「それは、思ったよ。でも、嘘なんだろ?」
「だが、我々の知らないどこかに本物の“零番”があるのかもしれない。違うか?」
「…。」
「君が正義とか抜かしているものは上から目線の同情に過ぎない。その都度目の前の可哀想な人間を憐れんでいるだけだ。」
「でも、だったら。それを否定したら正義は何処にあるんだ?」
「神でもない我々にそんなこと解る筈もない。正義は特撮ヒーローものと少年ジャンプの中にしかないものと思え。自らの依頼人の利益のためだけに全力を尽くして闘う。我々、忍にできるのはそれだけであり、それ以上のことはするべきではない、わかったか朝ドラァ!……もし、グルグルHAPPYの店主が君のアドバイスに従い、私のやってきたことが水の泡になった時、その時は…その額当てを外せ。」
+++
「あれ?違う…。」
「違うのかよ!何を思い出していたんだよ!」
「俺たちが下忍で同じ班でやってた時にあった眼鏡屋のイザコザ。」
「全然違う答えが返ってくるかと思ったら合ってた。そのイザコザの後、三人で話しただろ?“忍は里の為に尽くすべきだ”って。」
「ああ、そうだったな。隊長は『お前たちで答えを出せ。オレが教えても意味がない』って言ってて…。」
昔の事に思いを馳せながら、目の前の男を見る。
「ヨロイ、オレの答えはまだ変わらない。そして、世界も変わっていない。」
「なら……世界を変えよう。そしたら、きっと俺たちの答えも…。そうだろ、シスイ?」
「ああ。」
俺と同じその左眼と視線を合わせた後に目線を前に向けて歩き出す。シスイの横を通り抜け、アジトのホールへと足を向ける。そこには五人の人影があった。
「ヨロイ、どうだった?」
「ほぼ計画通りです。クシナさん、こちらはどうでした?」
「自来也先生ががんばってくれたってばね。伝説の三忍の名前はやっぱり凄かったよ。」
「ハハハ、そんなに褒めるな。」
談笑を始める彼らから目を外し、アジトから外に向かうドアを開く。
「数日後に最後の一人を連れて来ようと思います。いつでも呼び出せるように頼みますよ、リーダー。」
「皮肉か?」
「あなたの正体が分からなかった時に呼んでいた癖が身に付いちゃってなかなか直せないんですよ。他意はありません。」
「相変わらず、読めん奴だ。……いつでも行けるように準備はしておく。」
「ありがとうございます。では、また数日後に。」
開いたドアから外に出ると、空は生憎の雨模様だった。
懐から電子音が鳴る。音隠れの里が開発した携帯電話を取り出して耳に当てる。KAMASE NO KIWAMIの紅一点であるキンと霧隠れから拉致った林檎雨由利の妹である林檎智恵実が主導となり開発した代物だ。まぁ、携帯電話と言っても、前世であった最新式のスマートフォンではなく、旧型のガラケーと呼ばれるタイプではあるのだが。
「もしもし?」
「ヨロイさん、今、お時間大丈夫ですか?」
「ああ。」
電話の相手はドスだった。
「五大国の大名が声明を発表したそうです。忍連合軍の結成が正式に認められました。」
「そうか。なら、そのまま忍連合軍が結成された時のプランで動け。それの確認は全てお前に任せる。それについて纏めた資料を明後日、取りに行くが纏められるか?」
「ええ、もちろんです。」
「それなら、頼んだぞ。」
携帯電話の通話を切り、それを懐に再びしまう。
「ふぅー。」
オビトの葬式に出たあの日の無念は今も胸にしこりとなって残り続けている。何かできたのではないかという思いがずっと燻り続けて自問自答をしてしまう。
神話の時代からの想いが繋がり、未来を形作る。世界を変える為にはもう少しの時間が必要みたいだ。
林檎智恵実というオリキャラを出しています。これから先、出てきても名前だけの予定ですので、特に覚えて頂かなくても結構です。
説明を付け加えると、電子機器に強い工学系女子、それが林檎智恵実です。