「口寄せの術!」
「なんだ、それは…?」
「この方か?この方は傷だらけのお前を治療するために来てくださった。ほれ、挨拶。」
「どういうことだ?」
「どういうこともこういうこともない。挨拶しろって、いや…。さっさと進めようか。サスケ、動くな。」
「待て!」
「…やだねー!」
「やめろォ!」
傷だらけの少年を口寄せの術で呼び出したカツユ様で包み込もうとしたら全力で嫌がられた。人の好意を素直に受け取れない奴は出世できないぞ。
「まぁ落ち着け、サスケ。」
地面に自分の血で陣を書いていたカカシが一旦、その作業を中断しサスケを諌める。
「この方はカツユ様という凄い方だ。なんせ、あの“伝説の三忍”の紅一点“病払いの蛞蝓使い”である綱手様と口寄せの術の契約をされている方だからな。」
「よろしくお願いします、サスケくん。」
「オレはネバってしたものは嫌いなんだよ!」
「テメェ…。三竦みの口寄せの中で唯一の良心であるカツユ様に向かってなんて言い草だ。カツユ様は、もし世界が違えば金髪巨乳のハーフエルフなんだぞ超カワイイんだぞ。」
「カカシ…こいつは何を言っている?」
「さぁ?オレにもよくわからない。」
サスケに嫌いと言われてシュンとしているカツユ様の肩っぽい所を慰めるように叩いている俺にカカシが声を掛ける。
「ヨロイ、こっちの準備はもうすぐ終わるぞ。お前も準備してちょーだい。」
「うぃーす。と、いう訳だ。お前の担当上忍から許可が出ている。さっさとカツユ様に包み込まれろ。」
「納得できるか!そもそも、オレの怪我がここまで増えたのはお前のせいだろ!」
「うるっせぇ、気にするな♪」
語尾に音符が付く程の明るい声でサスケに語りかけながら、サスケの右肩を掴み無理やりカツユ様の体に押し込む。サスケが『やめろォ!』とか言っていた気もするが、そんな言葉は聞いていないことにした。
カツユ様を介する医療忍術、
網療治夥を使ったってことは、翻ってサスケの傷はそんなに深くないことを意味する。地面に叩きつけたり、顔面を蹴り飛ばしたりダメージを与える攻撃をしたけど、サスケは無意識に俺の攻撃を受け流すことで怪我を軽くしたと考えるのが妥当だ。末恐ろしい。
「よし。カカシ、回復終わったぞ。」
「こっちも準備完了。」
「ひゃん。」
サスケの治療が終わるのと同時にカカシの準備も終わったようだ。サスケをカツユ様の中から取り出して、あ、さーませんカツユ様。ちょっと乱暴にサスケを引きずり出しちゃいましたね。
「カツユ様、さーません。」
「いえ、お気になさらずに。少しビックリしただけですから。」
紳士的ならぬ淑女的な優しい対応をしてくれるカツユ様。綱手様も少しはカツユ様を見習ってくれたらいいのに。そうすれば、きっと嫁の貰い手も現れるかもしれない、いや、ないな。
「ほい、カカシ。」
「ああ、ご苦労様。」
回復させたのにぐったりしているサスケをカカシに渡す。カカシが書いた陣の中にサスケを座らせる。そうして、カカシはサスケの体を駆け上るように血で術式を書き加えていく。
「少しの辛抱だ。すぐ終わる。」
「ぐあぁああ…ぐっ!」
カカシは印を組み、掌をサスケの首元、呪印が刻まれた場所に当てる。血で地面に描かれた陣が吸い込まれるようにサスケの首元に移動し、封印の楔を形作る。
封邪法印。法術である封印術の一種で、その力は大蛇丸様の呪印の力を阻害する。とはいえ、本人の意志次第で呪印の解放はできる封印術だ。封邪法印は、呪印初心者のために開発した術であることはカカシには伝えていない。この封印はあくまでも呪印が必要以上に暴走しない為のストッパーだ。呪印は勝手に術者のチャクラを必要以上に練り込ませるため、下手をすれば死に至ることもある。それをコントロールしやすくするための封印の為、本人が望めば力を引き出すが、本人が望まない場合は勝手に反応しない。封邪法印は呪印をコントロールがしやすい仕様にするためのアップデートデータの様なモノだ。
「今度、もし、その呪印が再び動き出そうとしてもこの封邪法印の力がそれを抑え込むだろう。ただし…この封印術はサスケ…。お前の意志の力を礎にしている。もし、お前が己の力を信じず、その意思が揺らぐようなことがあれば…呪印は再び暴れ出す。」
サスケが聞いていた説明はここまでだった。フラリとサスケの体が傾き、地面へと倒れ込む。
「ガラにもなくそーとー疲れたみたいだな。」
「第二の試験でのサバイバル、それから、俺との試合。そりゃ、疲れない方が異常だぞ。」
「ま、それもそうか。」
俺たちの背後から声が掛けられる。
「封印の法術まで扱えるようになったなんて…。成長したわね…カカシ。」
「…アンタは…。」
「ここまで侵入できるなんて思わなかったよ。…大蛇丸!」
声の主が柱の影からその姿を現す。
「お久しぶりね、カカシくん。そして、ヨロイ。」
「…大蛇丸。」
「つい4日前に会ったばっかりじゃないか。あの時は殺し損ねたが…今度は確実に殺す。」
「やめろ、ヨロイ。」
カカシが俺の前に手を出し制止する。
「大蛇丸が戦闘するつもりなら、すでに仕掛けているハズだ。だが、まだ何もしてこないってことは戦闘に移るつもりはない。…違うか?」
「ええ、カカシくんの言う通りよ。今日は挨拶に来たの。ヨロイ、殺気を押さえてくれるかしら?」
「ちっ!」
大蛇丸様は少しこちらに歩を進める。大蛇丸様とカカシの話をBGMに少し説明しよう。
俺が“音”の、つまり、大蛇丸様から木ノ葉に送られたスパイであることは以前、説明したと思う。そして、俺がスパイだということを知っているのは、木ノ葉側ではダンゾウ様、そして、三代目火影だけである。そして、大蛇丸様の情報を木ノ葉に流している理由は情報戦を展開するためだ。
三代目には、音の計画のみを流している。そして、実行に携わる“風”の情報は一切流していない。木ノ葉の警備を固める指示を一手に率いるのは三代目であり、彼の情報が間違っていた場合、情報に無かった作戦が展開されると、現場の忍の判断が遅れて混乱に陥る可能性が高くなる。それを見越して、全ての情報を渡さなかったという訳だ。
そして、全ての情報を流した相手はダンゾウ様だ。ダンゾウ様はギリギリまで表には出ない。そういう性格をしている。そして、火影の座を狙っている為、三代目を見捨てることは確実だ。実際、原作での木ノ葉崩しの時もダンゾウ様は全く出てこなかったし、今回も出てくる可能性はないだろう。だが、木ノ葉を大蛇丸様に完全に渡すということはしないと言える。彼も彼なりに木ノ葉を大切に思っている為、隙を見て大蛇丸様を殺そうとするだろう。そう、大蛇丸様を木ノ葉から追い出す。大蛇丸様の隙を突くことができるように、情報を渡したというわけだ。
俺にとってベストなことは原作通りに進むことだが、大蛇丸様に俺を信頼して貰う為に、木ノ葉で暗躍することは絶対条件。その中で、現実的な未来を目指す為にはこの情報操作が必要だった。現実的な未来、それは大蛇丸様が木ノ葉崩しを成功させ、ダンゾウ様が大蛇丸様との協力関係を結んだ後、大蛇丸様を裏切って大蛇丸様に深手を負わせて木ノ葉から追い出すこと。三代目火影の頑張りにもよるが、俺の予測はそうそう外れる事はないだろう。
「ハァ、ハァ。」
ふと、前に注目すると、大蛇丸様がいないことに気が付いた。カカシはどうしているかなと、横を見るとカカシが凄い顔をしていた。イケメンも形無しである。
「すまない、ヨロイ。偉そうなことを言ったが、動くことができなかった。」
「…あ!ああ。気にするな。」
気にするなとは言ったけど…。
…さーません。何も聞いてなかった。