俺は真剣でダラッと生きたい   作:B-in

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六話

 

 

 

 

 

 

 

立ちはだかるモノは超えて行く。

 

それが九鬼だ。

 

負けは教訓と成り、更なる強さへの道しるべとなる。

 

我らは常に突き進み、吸収し歩み続ける。だが、絶対に戦ったモノ…誇り高く戦ったモノ。

 

最後まで戦ったモノ達には一定の敬意を評する。

 

我はそう教えられてきた。

 

王たる者、民を愛し、助け、導く事が出来てこそそうなのだと。

 

だからこそ、大きく成れたのだと強く成れたのだと父は言っていた。

 

故に

 

「嘗めた事ぬかすと…こうなるんだぜ? おぼっちゃん? カッカッ」

 

我は許す事など出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

試合が終わり、反省会も終わり後は帰るだけとなった時間。我は庶民に声を掛け呼び止めた。

我と同じ小学校に通う川神百夜。今日初めて正面から言葉を交わした庶民だ。

葵冬馬と親しげに話していたが、今の我にそのような気は無い。

葵冬馬も今日初めてこう言った事に招待したが、親しいという間柄ではない。ただ、この男には才能が有るとそう思ったからこそ、それなりに話はしていた。

 

だが、この男は違う。我がまだまだ少ない人生で見てきた誰よりも薄っぺらい紙の様な人間だ。

覇気の無い瞳、気だるそうな態度、面倒臭いと語りまくっている表情、どこか間延びしたようなダルそうな声。

もし、死人が蘇ったらこの様に成るのではないのかと思ってしまう。それぐらいにこの庶民は変わっている。

 

我はこの男の声に覇気が出た一瞬を見た。背筋が冷たくなった。直ぐに頭に来ているという事は分った。そして、それを仕方なしとした。

我のように帝王学等を含め民を導く為多くの教育を受けていないのだから…

 

そう、そんな我だからこそこの庶民の間違いを正してやらねば成らぬと思った。今日の試合の勝利に一番貢献したのはこの男だと皆が理解しているからだ。

我の球を平然と捕れる。球の誘導も巧かった。だからこそ完封勝利が出来た。

 

「まて、庶民の百夜」

 

我の声かけに庶民は面倒臭そうに振り返った。

 

「何? もう、疲れたから早く帰って寝たいんだけど」

 

むぅ…この庶民は人を敬うと言った事とは無縁なのだろうか? と思ってしまえるぐらいに態度が悪い。これも注意してやらねば!!

 

「何故だ。何故最後にあの様な事を言った!!」

 

「?」

 

何の事だと言いたげに首をかしげる庶民に我は続ける。

 

「貴様があのキャッチャーに何を言われたかは知らん!! だが、一選手として己と戦ったモノに対して何故心を折るような事をした!!」

 

そこで漸く思い出したのか、庶民は面倒臭そうに頭を掻きながら言う。

 

「売られた喧嘩を買った。それだけだろうにぃ…」

 

「なれば!! 我らは試合に勝った!! それで十分だろう!!」

 

「それは全体の事でしょ? アレは俺個人に売られたモノで買ったモノだしねぇ…」

 

「それで、あの庶民が野球を止めてしまったらどうするのだ。あの者も練習をし汗を涙を流してレギュラーを勝ち取った者!! そして、最後まで戦った者だ!! ならばこそ、称える事は有るにすれ、乏すとはどういう事だ!!」

 

我はその時、初めて川神百夜という男の明確な感情の動きを見た。

 

「……だからだよ。喧嘩に勝った、次はどうなる? また来るだろ? その可能性が在るだろ? だから踏みつぶすんだよ。アレとの関わりはあの場限りだ。長期での付き合いなんてねぇんだから。」

 

そんな事も解らないのか? そう言いたげに言う。なんだ? なんなのだこの胸の内のザワメキは!!

 

「無能・低能に馬鹿にされるのは嫌いなんだよ。意気がるなら最後まで成し遂げる責任と覚悟と力を示さないといけないんだよ。だから、俺は踏み潰して進むし、迂回する。なぁ、九鬼ぃ。お前は…」

 

我は…在る意味で打ちのめされたのだろう。初めての経験だった。我が見誤っていたのだ。紙の様に薄い人間と思った。

だが、違った。あの男が言った様にあの男には在るのだ。その力と覚悟…そして成し遂げる責任が。

 

立ち塞がる者は踏み潰し蹂躙して進む。

 

庶民は言った

 

立ち塞がる者が居るなら迂回して進む

 

庶民が言った。

 

矛盾している。恐らく、その時の状況で決めるのだろう。なんだコレは…なんだコレは!!

 

まるで…奴は…

 

「どうした我が弟よ?」

 

「あ、姉上…ヒューム」

 

固まっていた我を動かしたのは姉上と執事のヒュームだった。周りを見渡せばあの男は居なくなっていた。会場あった時計を見れば我が奴に話しかけて十分は経っていた。

 

「無様だな英雄。それでも俺が仕えるに値する家の者か?」

 

「我は…」

 

「よいヒューム。我が弟は初めて打ち負かされたのだ。感謝しなくては成るまい。あの暴君の器には」

 

暴君? あの男も我と同じ王だと言うのか?! 

 

「ん? 不思議そうな顔をするでない。英雄よ、あの男もまた我等と同じく王たる資質を持つ者よ。」

 

「しかし、暴君ならばこそどうにかしなければならないのと違いますか!!」

 

我の言葉に姉上は笑う。

 

解らぬと。なればこそ知らなくては成らぬのだと。

 

「クククッ…暴君か。俺は違うと思うがな」

 

「どういう事だヒュームよ」

 

何か楽しそうなモノを見る様にヒュームが言う。

 

「あの小僧、最後に何と言った?」

 

最後に? 最後にあの男は

 

『俺に何か意見出来る程度には我を通せるのか?』

 

我がその言葉を己が口で言う。すると、ヒュームは今までに見た事が無い程の笑い声を響かせた。

 

「小僧、小僧!! 流石は奴の血筋か!! ハハハハハハハ!! 揚羽よ俺の言った事は案外当たるかも知れんぞ? あの男、例え権力で、金で、力で抑え込んだとしても食い破ってくるぞ。あの小僧は暴君でも名君でも無い。」

 

覇王の卵だ。

 

あのヒュームがそう言い切った。その言葉、驚くほど素直に我が胸に落ちて来た。

 

ただ己を貫き通す。我を通し、通す為の力を振るい叩き潰し、時に賢く回り込み通り過ぎる。

 

奴も正しく王なのだ。我とは違うただそれだけの者…

 

いうなれば奴は我に出来に事を行える王。

 

我は奴に出来ない事を出来る王。

 

強敵と呼べる者

 

我と対等な者

 

「ハッ…そうか、そうで在ったか。あの男こそ我が強敵(とも)か!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、言う事らしい。冬馬からそう聞いた百夜だ。

勘違いも甚だしい。えー? なにそれぇ

聞いてないよ。

 

「いやー大変な人物に目を付けられましたねぇ百夜君」

 

「在る意味すげぇよお前。」

 

「勘弁してぇ」

 

学校からの帰り道、暗くなるのも早いモノで空には星が光り始めている。風に成りたい

 

「まぁ、俺はちょいと言い過ぎな気もするぜ?」

 

「そうですねぇ。僕も少々考える所が有ります」

 

此処まで来て否定? うぇー…説明すんのめんでぇ

 

「うっせうっせ、お前等も俺に協力したんだから同罪だ。大体よぉお前等総合病院の後取りとその補佐だろ? 将来的に考えて」

 

「まぁ…そうなるよな? 若?」

 

「そうですねぇ。準?」

 

「だったらよ、そげなこと言わんと清濁呑み込んで腹に収めろよ。綺麗、汚ない関係無しに結果ださにゃ罷り通らないんだかさぁ、潔癖主義は巧く生きられないつーの」

 

将来的に考えて。アレだろ? だいたい大きい所の人なんてどっかで汚い事してんだからさぁ。

 

「ん~いまいち解りませんねぇ。」

 

「すまん、俺も良く解らん」

 

…流石に小学一年生には無理か

 

「簡単に言うとだ、汚い事も卑怯って呼ばれる行為も結果を出してりゃ関係ないんだよ。元々勝負事、勝ちか負けかの違いだぁね。それで心が折れるんならこの先もないでしょ?」

 

「そういうモノですかねぇ」

 

「そういうもんか?」

 

「勝てば官軍。辞書引いて来い。後、君ずけすんな冬馬なんだかムズムズする」

 

主に尻が

 

そんな話をしながら帰っていると、如何にも高級そうな車が横に止まりドアが空いた。

 

誘拐かと思ったら九鬼が居た。

 

「伝え忘れていた事が在ったのでな車の中から失礼するぞ強敵(とも)よ!!」

 

「やだ、物凄く恥ずかしいっ!!」

 

なんか言えよ二人とも!!

 

「野球の練習は毎週土日だ!! 我が直々に迎えに行ってやる!! それではな強敵(とも)よ!!」

 

そう言って去って行った車を見ながら両肩を叩かれた。

 

「偶に見に行きますから頑張ってください。百夜」

 

「頑張れ負けんな百夜。今度ジュース奢るわ」

 

「……ピーチソーダで」

 

俺にはそうとしか答えられなかった。なんか疲れまくった。今日は風呂入って寝よ。そう思い川神院の門を潜るとじーさまが立っていた。

 

「百夜よちょいと話がある」

 

「俺は帰るぞ川神、そろそろ揚羽の訓練の時間だ」

 

嫌だね!! 絶対に逃げる!!

 

もう嫌だった。布団に入って眠りたい。でもその前に温かい風呂に入りたい。姉さんに邪魔されず入りたい!!

 

グッバイ「逃げるな小僧」惰眠

 

地の文に乱入ってなにさぁ

 

「ほっほっほ。スマンのヒューム」

 

「フン。川神、この小僧俺に預けるなら一流にしてやるぞ? 性根ごとな」

 

「ダメじゃダメじゃ。ワシの話が終わってから決める事じゃからのぉ」

 

その後、色々聞かれたけども答えたよ? ちゃんと答えたよ? 嘘も交えて

 

なんか、釈迦堂さんかルーかどっちかで武術を教える的な話が出たけど辞退したよ?

土日に野球があるから無理って言ったよ? 痛いの嫌いって言ったモノ。

両親に怒られたけど、知らんぷりしたもんね。

 

「なぁなぁ、一緒に武術やろぉ~」

 

「やだ。姉ちゃんも自分の布団に戻りなよ」

 

馬鹿な?! 小学二年生ですでに果実が実り始めているだと?! 家の姉様は化け物か?!

 

「ぎゅぅー」

 

「姉ちゃん暑いから」

 

「お姉ちゃんだ。」

 

「…お姉ちゃん」

 

「うんうん、それで良いぞ百夜」

 

なんだかんだで一緒の布団で寝た。なんか熟睡できた。

 

 

 

 

 


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