俺は真剣でダラッと生きたい   作:B-in

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二十六話

よたよたと、疲れを微塵も隠さない少年が早い時間から町を歩いていた。

その姿は一目見れば疲労困憊と分かるほどに疲れきって居た。もしも、この状態の少年が近くに居た人間に助けを求めたら直ぐにでも救急車と警察に電話をしただろう。

川神百夜は、未だに抜けない疲れに…主に精神的な疲労でかなり参って居た。

そもそもの発端は、昨夜の夕食時の事だった。

 

何時も通りに続き続ける素麺祭りに釈迦堂と一緒に文句を良い、その言葉に同意しながらも切れる川神鉄心と騒がしい夕食後、さて、そろそろ寝ようかとしていた時の事だった。

 

明日は人と会う予定があり、しかもその相手が好奇心と探求心で使った術の被害者で、更に言えばその人物の精神を破壊する切欠を作った原因が自分である事を思い出し

 

あの頃は若かった

 

と、現実逃避をしながらも、自分が何もしなくても将来的には壊れて居ただろうから遅いか早いかの違いかと考え直しと言うか、開き直ってサプライズをしようと思いついた時で在る。

 

この糞餓鬼は、手っ取り早く悪役でもしようと考えて居たのである。

 

人間、生きる気力が無い時でも不思議と怨みや怒りと言うモノはその内に在るモノで、生きる気力が無ければ敵役にでも成ってやろうと考えたのである。

 

生きる気力があり、自分の事をどうとも思って居ないのであるなら流れに任せよう。嫌な事は嫌って言おう。

 

とも考えて居た。碌な人間では無い。

 

しかも、サプライズと考えて出てきたのが朝駆け奇襲である。馬鹿としか言いようがない。

そんな時で在る。

 

「百夜よ、ちょっと良いかの?」

 

何時も通りの声色で川神鉄心が部屋の外から声を掛けてきた。

 

「なーにー」

 

そして、何時も通りに川神百夜は障子を開けて答えた。

 

障子を開けた瞬間に道場に居たと、川神百夜は証言する。気を抜き過ぎにも程が在る。

 

「お主、スイッチが入らんとホント情けないの」

 

「…先ずは孫に警戒され続ける生活をしたいかどうかを考えろよ」

 

鉄心は普通に

 

「それはそれで嫌じゃのぉ」

 

「でしょ?」

 

その言葉を放った瞬間に逃げようとしたが、結局は不毛な争いに成ると結論を出して川神百夜は「どっこいしょ」と爺臭い台詞を吐きながら胡坐をかいた。

 

その姿を見た鉄心も同じ様に胡坐をかいて、一呼吸置くと口を開いた。

 

「百夜よ、お主に十三の滅技を授ける。この世でソレを知っている物はそれなりの数しかおらん危険な技じゃが…使える者はワシを含め極楽院ぐらいしかおらん。とても危険な…本来ならば滅しなくては成らん部類の技じゃ。」

 

余りにも物騒だったので百夜は無駄の無い自然な動きで

 

「勘弁して下さい」

 

と土下座する。

 

「顔を上げんか。お主には必要に成りそうじゃから教えると言うとるんじゃ。」

 

その言葉に百夜は首を傾げる。

 

正直に言えば、技など要らないと言うのが本音である。

鉄心と闘った時に使用した技術、氣で強化した肉体。それだけで既に必殺に近い。

そも、川神百夜は川神鉄心が以前に言った様に武人では在るも戦争屋に近く。寧ろ喧嘩屋やチンピラ、とかそっちの方が近い。

 

「お主、近い内に何処かで暴れるつもりじゃろ? 昼間、少々物騒な氣が漏れておったぞい?」

 

「…あ~……うん。まだちょっと引きずってるみたいだから漏れちゃったかぁ。」

 

正直に肯定する。

 

「そう言う訳じゃ、正体がバレぬようにしたいならば、技を編み出せ。もしくは誰もが怖れるモノを使え、誰もが出来る技を使え、自身に繋がる線を細くせよ。」

 

繋がる線は消せるモノでは無い。故に見え難くした上で隠せ。鉄心はそう言う。

 

「ぶっちゃけ、それで文句言われるの面倒臭いんじゃよ」

 

「ぶっちゃけた!! 本音でそういう事言うなよ?! 普通に傷つくからね!! 百夜さん普通に傷つくからね!!」

 

この祖父と孫は仲が良いが、お互いに遠慮が無い。

 

「言われたくなければ自重せい!! 言ってもせんじゃろうが…」

 

「うん。自由に生きる。まぁ、爺様達には出来るだけ迷惑かけんようにするわ」

 

だから、とっとと教えて。

 

その日の夜。川神院の道場からは怒声が絶えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だか、一夜で北斗神拳的な危険な技を伝授されました。エグイので使うつもりも一切ありません。

 

百夜です。

 

あの白子に今日は会う予定に成っています。冬馬と準に言われました。そろそろ顔を見せろと…気まずいよね? てか、向こうからしたらどうなの?

俺と会って大丈夫なの? その辺はちゃんと二人に聞いてるから精神不安定による混乱とか錯乱とかは大丈夫そうなんだけど…

 

「俺が必要…ねぇ」

 

僕が大事なのは…その台詞を言い放ったのが件の白子、もとい小雪と言う少女らしい。

 

まぁ、本心は分からんがね!!

 

どうしよう、開幕ブッパとかされたら怖いなぁ。

 

でも、今は朝夕に鎮静剤飲んでるらしいから大丈夫だろうけど…

 

「流石に早すぎたか」

 

現在の時刻、6:00。早すぎだね。でも、サプライズしたいからコレで良いよね。

 

外から病院を眺めつつ、目的の場所を探す。

 

「あそこか…うっし」

 

病院の柵を飛び越えて、窓が嵌めこんである小さな溝に指を掛けて、もうひと上がりと。

窓も…空いてるねぇ。不用心だな。

静かに中に入ると嫌でも白い壁や床に天井が目に入る。病室と言うのは余り好きではない。白、白、白、白ばかりの空間で明確な色が付いているのが少ないと言う空間が気持ち悪い。

その中でも一際白いのが、ベットの真ん中ですやすや寝て居る少女だ。

一目見て、少し肉が付いているのが分かった。

 

(んー…今までが付いてなかっただけなんだけども。やっぱり、遅いか早いかだったなこりゃ。)

 

もう少し遅けりゃ、反抗も出来ずにもっと殴られて詰られていただろう。

 

俺が言う資格は無いがな!! それにしても…

 

「気持ち良さそうだなぁ」←徹夜明け

 

ちょっと、ちょっとだけベットの端を借りよう。うん、俺は今物凄く眠い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を戻す。川神百夜が丁度素麺を食べ始めた時、葵総合病院の個室では一人の少女がうんうん唸りながらベットをゴロゴロしていた。

夕食は食べ終え薬も服用して居て本来なら眠く成り始めている頃なのだが、今日は違った。

昼過ぎの少し暇な時間の事で在る。

普段なら、何かと気にかけてくれる女性看護師が本を読んでくれたりとしてくれるチョットしたお楽しみが頻発する時間帯なのだが、どうやら今日は忙しく来れないようだった。

 

(ヒマだなぁ~)

 

小雪と言う少女が思うのはソレ位である。

 

故に女性看護師―――榊原郁子は出来るだけ顔を出し、話をして、時に遊び、感情の起伏を起こさせているのだ。

小雪は殺人未遂を犯した。

だが、それは心的障害…酷いDVを受けて居た上に最後に実の母に何をさせられそうに成ったかが原因である。

と言うのが榊原夫妻の弁である。

しかも、アルビノ体質で在る為その事で学校内では虐めに合って居たと葵冬馬・井上準の証言が在り、その事から病院内でも体質や同年代や少し下の年齢の人間を出来るだけ近づけないようにしている。

 

例外は、葵冬馬と井上準にもう一人…二人の友人であるという川神百夜と言う名の少年。

 

この事は院内の看護師と小雪に関わる医師には徹底して伝達されており、冬馬と準の二人が小雪に合う時は部屋の外に常に看護師が付き添っている。

 

そして、複数の看護師が手分けして接するのではなく、出来るだけ同じ看護師が接し信頼を得れる様にという意向で榊原郁子が率先して世話をしているのが現状である。

 

小雪自身も郁子には多少心を開いていた。

 

昔の自分がもっと小さかった頃の母も優しかった、温かかった。そんな思いが在るからだ。

 

だからこそ、郁子が来ないとヒマだと感じ、思う様になった。

 

今だ数日しか接していないのに、精神的に壊れてしまった少女から此処までの信頼を勝ち取れる榊原看護師の人柄も有っただろう。

 

小雪は、自分の中に在る『自分の世界に居て欲しい人』に榊原郁子を刻み始めて居た。

 

そんな風にヒマを潰しをしている時の事だった。葵冬馬と井上準が何時も通りに訪ねてきて、ちょっとした話しをして

 

 

―――君を壊した悪魔で、最強の味方が来るよ

 

小雪の頭の中は真っ白に成った。

 

小雪に取って川神百夜は名前と姿しか知らない少年だった。

 

あの苦しい世界の中で唯一自分の手を取ってくれた少年だった。

 

そして…自分が酷い事をした相手だった。

 

母に命令された。痛いのはもう嫌だった。苦しいのは嫌だった。

言われるがままに従った。

 

そして、嫌われたと思ったから、嫌われたく無かったのに嫌われる様な事をしてしまったから…

 

(僕は…)

 

そんな事をずっと考えて居た。

 

夕食の味なんて感じれなかった。看護師の言葉にも上の空だった。

 

どうしたら良いのだろうか、どうすれば良いのだろうか?

 

傍に居て欲しい人が離れてしまう。自分から遠ざかってしまう。

 

(やだ…いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ)

 

行かないで、僕から離れないで、お願いします。僕の傍に居て下さい。

 

そんな事しか思い浮かばず、暗い未来しか浮かばない。

 

小雪の再構築した精神(世界)が再び壊れ始めていた。

 

一時間、二時間と備え付きの時計の秒針がチッチッと音を発てている。それだけで、思考が加速する。

 

嫌われる

 

何処かに行ってしまう

 

暗い考えしか思い浮かばない時の人間は、明るい事を考える事が出来ない。不安が胸の内、思考の片隅で否定し続けるからである。

そんな時、第三者が居てくれると人間はその人間に意見を求め、縋ろうとする。

それが間違っている意見だとしても、正しく感じてしまうのだ。それが正しいと思いたいと自分が望んでいるから信じてしまう。

 

そう意味では、小雪は恵まれて居た。

 

「小雪ちゃん? 電気消すわよ?」

 

ノックの後、部屋に入って来た榊原郁子が小雪には輝いて見えた。

 

子供と大人の違いとは何か? ソレは経験である。

 

挫折の回数、其処から立ち直った回数と言う人間も居るが、世の中には稀に挫折と言う挫折をしてこなかった人間も居る。

逃げるのが巧い人間と、真正の天賦が当てはまる。しかもその中の一握りと言う割合。

榊原郁子は凡夫である。故に、回答は直ぐに出てきた。

 

今まで叱られずに大人に成った人間が、小雪と言う壊れた少女から信頼を勝ち取れるか?

生涯の伴侶を得られるか? 答えは明かさずとも分かるであろう。

 

「小雪ちゃん、先ずは謝らなきゃ。」

 

「許してくれるかな?」

 

自分は許して貰えた事等無かったが故の迷いと不安が、小雪にそう言わせた。

 

「うん。大丈夫よ。私だって小雪ちゃん位の頃は沢山悪い事をして叱られちゃったけど…ちゃんと自分が悪かった事を自覚して、反省して、後悔して…謝ったら許してくれたわ。」

 

気休めの言葉だと郁子は思った。小雪に見えない様にして隠している右手を強く握り込んだ。

 

小雪の話しは支離滅裂で内容が掴めなかった。

 

だから、時間を掛けてゆっくりと順序立てて話を最初から聞き直した。

 

その内容は、常人が聞けばよくそれで生き残れた物だと思う内容だった。

 

精神的に壊れた? 壊れないはずがない。

 

家で行われるDV、母は男をとっかえひっかえにし、薬を買い。家での食事は略ゼロ。

学校では酷い虐めに遭い続け、学校側は虐めに気づきもしない…いや、見て見ぬふりしていたと言った方が正しい。

 

精神は磨り減っていただろう。

 

感情は恐怖以外は発達しにくかっただろう。

 

郁子が話を聞く限りでは、川神百夜と言う少年だけが、小雪と言う少女の主観では普通に接した人間だった。

 

見た事も、良く知りもしない人間に此処まで何かを祈った事が在るだろうか?

 

どうか、どうかこの娘と仲良く成ってください。

 

ソレと同時に、自分に打ち明けてくれた事に嬉しさを感じていた。本物の娘の様にすら思ってしまう。

子供が出来ない体故に、幼い子を見ると保護欲や母性が疼くのは自覚している。

だれもが、小雪を心のどこかで恐怖、または忌避する中で唯一愛情を持って接しているのはこの郁子と言う女だけと言うのが、現在の病院内の状況である。

 

一人で居る事が多いから、構う。

 

自分に少しずつ打ち解けてくれるから、積極的に成っていく。愛情が溢れる。

 

何時の間にか、郁子は小雪を抱きしめて居た。時間は既に0時になり、外は暗く院内も夜勤の看護師が見回る足音とナースコールの音しかしない。

緊急外来から遠い事も有り、郁子には小雪の鼓動が聞こえる程の静けさの中声を掛けた。

 

「小雪ちゃん、安心して眠りなさい。朝ごはんが終わったら二人で考えましょう? 川神百夜君と仲良く成れる様にね?」

 

「…うん」

 

郁子は、小雪を横にすると、寝付くまで傍に居た。

 

今日が休みで良かった。心の底からそうもう。

 

(家に帰ったら直ぐに寝ないと)

 

郁子は駆け足で家路についた。が、その思いは裏切られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は心地良い温かさに違和感を抱き、目を覚ました。

その瞬間に意識が一気に覚醒し、頭の中が真っ白に成った。

 

目を開けたら、今日会う予定の少年の寝顔が在った。驚くなと言う方が無茶と言う者であろう。

 

「?…?! 」

 

ベットから飛びだそうと体を動かすが、残念な事に体をがっちりとホールドされてしまって居て動けない。

 

小雪は取り合えず、その顔をマジマジと見る事に成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んぁ? おはよう」

 

「あのっ…ご、ごめんなさい!!」

 

「?」

 

川神百夜が目を覚ますまで後五分、その五分後にそんな会話が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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