俺は真剣でダラッと生きたい   作:B-in

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二十二話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほっ、よう吠えるの。まぁ、それならば教授してやろう。」

 

武神はそう言い。無慈悲な一撃を繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの馬鹿どもがぁ!!」

 

ヒューム・ヘルシングは叫びと共に揚羽と英雄を抱えて大きく飛び引いた。

 

「クラウディオ!!」

 

此処には居ない筈の同僚に叫ぶ。すると、前から其処に居たかのように一人の老執事が現れ返事をした。

 

「分かっていますよ。橘様、そちらの方もお任せ下さい。」

 

両手を動かす。それだけで人が三人、執事の元へ引き寄せられた。

 

「おぉぉぉぉ?!」

 

「これは、これは」

 

意識の無い釈迦堂を優しく受け止め、叫ぶ準と感心したように吐く冬馬を足元にゆっくりと降ろす。

 

「クラウディオ?! 来ていたのか?」

 

「紋白はどうしたのだ!!」

 

最初に言ったのが揚羽、次が英雄の順である。二人の言葉にクラウディオと呼ばれた執事は頬笑みながら返す。

 

「はい、揚羽様。最初から来ておりました。どうも、川神百夜様には気づかれていた様ですが。英雄様、紋白様は他の従者が見ております。何分夜も遅い為、此方にはお呼びはしませんでした。何よりも、刺激が強い。」

 

「そう言う事です。出来るのならば…直ぐにでも屋敷に帰還したいのですが」

 

「「成らん!!」」

 

「そう言われると予想出来ていますので。それに、揚羽様の将来の旦那様の行く末を見たいと…個人的には思っているのですよ」

 

「いや?! そ、ソレはだなクラウディオ?!」

 

「ジョークです。」

 

「…お前のジョークは全く笑えんのだ。クラウディオ」

 

「ハッハッハッ!! 良いではないかヒューム殿。未来を支える若人達の『明日』を思うのは我等の特権でも在る。違うかね?」

 

橘平蔵の言葉に、ヒュームは憮然とした表情で答える。

 

「確かに…と、言いたい所だが。伴侶の話に成るならば違う。あの小僧…最早赤子では無い。警戒すべき人間だ。」

 

「まぁ…言いたい事は分かる。良くもまぁ、大層なハッタリをしたモノだ。」

 

「果ては稀代の詐欺師か英雄か、ただの大ぼら吹きか…楽しみでも在るのは確かだ。川神の次は俺が躾けるのも面白そうだ。」

 

「それは良い!! だが、先にワシが揉んでやろうかの」

 

 

(なぁ、若)

 

(えぇ、準。英雄君、止められませんか?)

 

(無理だ!! )

 

(っーかお前の姉ちゃんが頼めば…)

 

(無理だ!! 姉上は今いろんな意味でショートしている!! …我も初めて見るぞ、あんなに狼狽している姉上は)

 

(((百夜の自業自得)))

 

少し、険悪な雰囲気に成り始めている二人から距離を取りながらそんな事を考える三人だった。

 

 

 

 

 

 

 

Side 百夜

 

 

迫る高速の巨大な拳。それは正しくハッタリがバレて居ると言う答えだった。同じく此方も拳を当てるが、ぼろっと崩れた。

 

「一つ、外殻こそ強固に造るべし」

 

直ぐに再構成するも、続く二撃目の手刀が明王の左肩を叩き斬る。

 

(ヤッバッ?!)

 

眼前に現れる爺様がニヤリと笑い言う。

 

「二つ、顕現とは所詮は氣で造り出した人形よ。造り出した者こそ考え、常に動くべし」

 

音を置いてけぼりにして拳が繰り出される

 

(額で受ける? 首が折れるわ!!)

 

無理矢理首を捻る。ビッと嫌な音が響いた。

 

(…首が元に戻らん)

 

痛い、鞭打ちだよこれ。

 

「三つ、ハッタリはバレた瞬間に弱みに成る。もっと考えよ。大馬鹿者」

 

「おぼっ?!」

 

喉に…

 

(てめぇ…喉に一本拳とか……手加減してりゃぁ良いってもんじゃねぇーぞ!!)

 

死にます。

 

「その四。好い加減にお前の方こそ絞り出さんか、その頭は出来が違うんじゃろう? お前ならばこの無駄な問答の答えは知っているはずじゃ」

 

毘沙門天と川神鉄心の踵落しが繰り出される。

 

巨体が巨体に踵落し、老人が少年に踵落し。受けた側はまるで土下座をする様な形で地に叩きつけられた。

 

(無駄? 顕現に?)

 

まぁ、形を造るだけならただのハッタリだけど…少ない量でも造れる。ハリボテのスッカスッカのなら。

 

実際に爺様レベルで造ったら、威力も有るし、脅威として相手に取られる。精神的に優勢になるのが簡単だし、先に考えた通りに威力も馬鹿に成らない。

 

氣で造られているからこその速さと威力が在る。肉体、筋肉とかへの負担は略無い。

 

(無駄?)

 

何が? 無駄だと言うのならば、それこそ川神流自体が無駄の塊だ。氣を集めてビームとか何処の野菜人だよ。地球だって粉微塵に出来るんじゃない? 星殺しとか言う名前だし。

 

人間爆弾(さよなら天さん)とかねぇ?

 

………ん?

 

(そう言う事?)

 

でもソレって、爺様が言って良いの? ソレって殺人拳じゃん? あっ、どう使うかはその人次第か。刀も剣も、弓も銃も、槍も鎖も、結局は拳も……

 

(所詮は道具。武器、鎧、盾だ。いや…良いのそれ?)

 

取りあえず、顔を上げて喉をさすりながら口を開く。

 

「でぼっ…んん゛っ!! でも、それって良いの? ぶっちゃけソレの方が性に合ってるけどもさぁ」

 

「未熟者。お主等の会話は丸聞こえじゃ!! 全く、夢が見つからないだ、将来が見えないだ青臭い事良いおってからに」

 

止めて!! 恥ずかしいから!!

 

「ちょっ、おまっ!!」

 

「やりたいようにやりゃぁ良いんじゃよ。お主のその性…武人のモノじゃがどちらかと言えば戦人、戦争屋の気質じゃ。のぉ? 明王。揺ぎ無き守護者。積極的な干渉者。お主が見出したソレは一つの欲求じゃ。お主が何を悪とし善とするかは知らぬが…放って置けんのじゃろう? 友を、仲間を、護りたいモノを。それをもっとるなら何も言いやせんよ。煩い息子夫婦も居らんし」

 

…おい、アギ・スプリングフィールド。見ろよ、コレ

 

「俺は徹底的にやるよ?」

 

「やれと言うとるんじゃよ」

 

凄いだろ? お前には無かっただろ?

 

「法とか普通に無視するぞ」

 

「なーに、ワシも人の事言えんしのぉ。あの頃は若かったわい。」

 

俺には居るんだぜ? お前には居なかったのが

 

「犯罪とか隠蔽するよ?」

 

「お主…ワシが今まで幾つの命を奪ったと思う? 黙認されたと思う? 時代がそう言う時代じゃったと言うのも有る。死合だった事も有る。戦争だった事も有る。が、罪は罪じゃろ? それで良いんじゃよ。時々振り返って、考え直して、思い直して、今のワシが在る。じゃから『川神流』が出来たんじゃよ。罪は…償い切れんよ、護る為した事でも在る。間違った事をしたと後悔もしとらん。そもそも、武とはどう言い繕おうが力じゃ、心と技が伴い初めて意味を成す。ソレが邪心であれ良心であれ…武とは矛を止めると言う意味でも無いしのぉ」

 

ざまぁ見ろ。俺には家族が居るぞ? 血の繋がった掛け無しの家族が居るぞ。

 

「ハッ…ハハハ…クカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!」

 

おい、見ろよ。俺の爺さんは凄いぞ!! 

 

「我を貫く為のモノよ。弱きモノがより強大なモノを打倒す為のモノよ。護身だのなんだのと言うのは極論を言ってしまえば『都合』の問題じゃ。ワシはワシが必要だと思ったからこそワシの都合でワシの流派を創り、道場を構え、学園を運営しとる。所詮は色々とやらかして、成し遂げて、ワシが必要と考えたからやっとるんじゃ。のぉ? 百夜よ。ワシとお主、変わらんじゃろ? ワシはワシの都合でお主を腐らせたくなかった。お主はお主の都合、考えで腐るのを止めた。そう言う事じゃよ」

 

「OK、OK。分かった。自由にする。責任も持つし、人にも擦り付ける。俺の都合で、勝手に妥協したり、貫かせたりする。俺は、そうやって自分勝手に生きる。今はそうやって行く。何時か変わったらまた、何か考える。振り返って見直して、開き直って、また自分の都合で生きて行く。」

 

川神鉄心が満面の笑みを浮かべた。

 

(あぁ、この人。やっぱ俺の祖父ちゃんだ。負けるのが悔しくて堪らない。でも、武人だから全力で向かって来て欲しい。その上で勝ちたいんだ。)

 

俺と似てる。やっぱ、勝ちたいよね。

 

やり方は知ってる。顕現とかビームとかそう言ったのは所詮は見せて怯えさせる警告なんだ。結局、どうやって相手を沈めるか。其処まで持っていく為のモノでしかないんだ。

 

強い奴に勝つ為の見せ技なんだ。打ち合っても良いし、打ち合わなくても良いんだ。

 

(やり方は知ってる。最初に俺をぼこった奴がそう言う奴だ。要は、アレと同じ事をして自分に合う様に適合させていけばいい)

 

簡単な事だ。

 

(やれる事、全部やれば良い)

 

思い出せ。散った夢を。あの紅い部屋を

 

何かが、噛み合った気がした。気の所為で良いけど。それでも、これだけは言いたい。

 

(でもやっぱ、戦うってメンドイ。極力戦わない方が、やっぱ俺らしいわ。)

 

 

 

 

 

 

 

Side out

 

「むぅ、そろそろかのぉ」

 

「だな…茶番では在ったが面白いモノを見れた」

 

橘平蔵とヒューム・ヘルシングはそう言い。頷いた。両者の瞳には好奇の光が絶えない。が、この二人と違う少年達は違った。

 

「まだです。まだ、分かりません」

 

「だな。何て言ったって百夜だからな」

 

「うむ。我が強敵ならば絶対にまだ終わらん!!」

 

信じている。何かをしてくれると心の底から信じている少年達は、大人にそう言う。

 

「あまり無理を言ってやるな。武神は強い。あの少年、川神百夜も確かに強い。だが…」

 

「英雄様、年季が違うのです。潜りぬけた修羅場が、降して来た者達の数が圧倒的に違うのです。それが分からないのであれば……ソレは未熟では無く、怠慢だ。英雄」

 

橘平蔵は教育者として、教え導く者として温かい声色で言う。

 

ヒューム・ヘルシングは従者として言った後、武人として年長者として、守護者として仕える者の子に言う。

 

「……っ。俺は…」

 

その最中に釈迦堂刑部は目を覚ました。体の芯から広がる倦怠感と、腹に残る鈍痛を感じ

 

「やられたのか…ハハッ、俺じゃぁやっぱ無理だったか」

 

情けねぇ…

 

そう吐いた刑部に声を掛けたのはクラウディオと呼ばれた執事だった。

 

「いえ、貴方が闘ったからこそ川神百夜様は立ち上がられました。貴方に憧れたのでしょう。誇って良い事だと私は思います」

 

「アンタが何処の誰かは知らないが…まぁ、予想は着く。けどな、俺は結局…」

 

「確かに、目的は果たせなかったのでしょう。ですが、雛鳥は飛びました。飛び立たせたのは武神では無く、貴方だった…そう言う事です」

 

「………そっか。百夜は飛んだか…見れば嫌でも分かる。楽しそうにしやがって。やっぱアイツは俺に似てるわ。碌な人間にはならねぇぞアイツ。」

 

そう言い。清々しそうに笑う。

 

「だから、教育してやる。敗北を重ねれば少しはマシに成るだろう。赤子程度にはな。」

 

「高校はワシの所に来させるか? 貴奴程の人間なら…面白く成るわい。」

 

『ハッ…ハハハ…クカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!』

 

呵々大笑。これでもかと言う程の大笑い。喜びと嬉しさを孕んだ産声の様な笑い声が聞こえた。

 

自然とその笑い声の主に視線が行く。川神百夜が立ち上がった。ニタニタと笑みを張り付けて、構えもせずに立ち上がり。口を動かした。

 

 

        く

 

               ぞ

 

                      ?

 

轟音が響く。川神鉄心が初めて吹き飛ばされた。毘沙門天は既に消しており、生身一つ同士で睨みあう。

 

橘平蔵は己の目を見開き、言う。

 

「あ、兄者の…」

 

川神百夜はただ川神鉄心を殴りつけただけだ。だが、その行動への入り、抜きは平蔵に取って見覚えのある動きだった。

 

「橘幾蔵…虎狼か。確か、川神百夜は虎狼に立ち向かったと報告を受けたな」

 

「その一回で覚えたのか…末恐ろしいのぉ」

 

「ああ。やはりアレは危険だ」

 

川神百夜は繰り返す。ただ近づき、殴る。ただ近づき蹴る。

 

川神鉄心も繰り返す。避ける。防ぐ。受け流し、殴り返し、蹴り返す。

 

単純な殴り合い。

 

普通と違うのは、お互いがただ速く。ただ強い。

 

川神鉄心と川神百夜の違いは一つ。

 

前者は受け、流し、殴り返して倒しにかかる。

 

後者は攻め、覚え、受け、流し、全ての攻めを急所に集め殺しにかかる。

 

決定的な違いだ。一撃で崩れる。

 

「生来の臆病者…と言う事ですかな? やれやれ、紋白様をお連れせずに本当に良かった。コレは刺激が強い程度では済まされません」

 

「ハハッ…強ぇなぁ。百夜よぉ、やりゃぁ出来るじゃねぇか」

 

少年少女はただ見せられた。単純な殴り合いが美しい。どんどんと傷つく二人が美しいのだ。枯れ木の様な老人の何と靭な事か。幼さを残す少年の何と苛烈な事か。静と動。それが織り成す打撃の音楽。リズム何て無い。ただ単調な筈の音色が、大地を蹴る音と空を切る音に支えられ響く。

 

殴られて殴り返す。蹴られて蹴り返す。ただの一撃ごとに無駄が削がれていく。

 

ただ、その方が早く殴れるから。その方が体重が乗るから、その方が攻撃を受けずに済むから。

 

無駄な動きが在る筈なのに無駄がない。故に美しい。その軌跡はスッと心の中に入ってくる。

 

飛ぶ汗や唾液までもが光って見える様な錯覚を起こす。

 

「む?」

 

「ん?」

 

ただ二人の武人が微かな違和感を覚えた。

 

「…まさか」

 

「外氣か。本当に手がつけられん。早めに遣らねば持久戦に持ち込まれるぞ。」

 

「ハハッ、ハハハハハハハハ!! そうだ!! ソレで良い百夜!! お前は勝つ為に全力を出せばソレで良い!!」

 

たった一人だけ、釈迦堂刑部だけが喜色の声で叫ぶ。ソレで良い、それが良い。だから良い。

 

肯定を繰り返し、称賛する。

 

勝つのがお前だ。勝ちに往くのがお前だ。敵は全部叩き潰すのがお前だ。お前の在り方の一つだ。

 

その声に、一際大きい声が響いた。

 

『応さ!!』

 

単純な殴り合い。喧嘩だ。試合なんて綺麗なモノじゃない。死合何て暗黙のルールが在る訳でもない。生きて居れば勝ちでは無い。死んだら負けでは在るかもしれない。

 

「釈迦堂!!」

 

「ぬぅ!!」

 

橘とヘルシングが刑部を睨みつける。だが、そんな視線は飄々と受け流した振りをして、声が震えるのを我慢して、内心で悲鳴を上げながら釈迦堂刑部は言い切る。

 

「熱くなんなって、こりゃぁ、喧嘩だ喧嘩。自分を貫き通したら勝ちの喧嘩だ。ジジイの都合でルールが決められたか? 違うよなぁ、全く持って違う。」

 

ハハッ

 

短い笑い声に鬼気が混じる。

 

「俺はよ、妥協を覚えた。大人にも成った。で、思い出した。俺は結局…『大人の都合』に負けて『俺の都合』にも負けちまった。負け犬だぁ、情けねぇ。だからよぉ、勝たせてやりてぇ。勝って欲しいんだよ。ダチの為に我を張って、自分の為に我を張って、何が何でも勝ちに往く。往こうとするアイツによぉ」

 

ゆっくりと立ち上がる。それだけに気力を振り絞る。

 

それだけの為に、今までに一度も無い程の力を振り絞る。

 

「自分が出来なかった事をやって欲しいって言う『俺の都合』だ。アンタ達もアンタ達の都合が在るだろうけどよ…ハハッ、だったら俺は『百夜の都合』を『アンタ達の都合』よりも優先してやりてぇ。アイツの未来が見てぇ。破滅が何だ、責任がどうした、自重何てしなくていい。」

 

百夜(アイツ)は俺達の都合通りには往かねぇよ。

 

そう吐いて、手を叩き、大きく笑う。

 

「ほら、見ろ。」

 

何時の間にか、川神百夜と川神鉄心は炎に包まれて居た。

 

 

 

 

百昼百夜は燃え続けるであろうとさえ思わせる業炎。全てを焼き尽くしてしまう様な炎。

 

ソレは何処か切なく、儚く見えた。

 

 

 

 

釈迦堂刑部は夢を見た。立ったまま夢を見た。現実を見ながら夢を見た。意識を保ったまま夢を見た。

 

少年が明王を纏って笑っている。

 

呵々大笑を響かせて、拳を握り、大地を踏みしめて笑っている。

 

夢の残骸だと、誇らしげに、切なげに言い放ち、笑い続ける。

 

(あぁ~クソッ……鍛錬増やすしかねぇなコレ。)

 

釈迦堂刑部は熱に浮された様に、小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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