俺は真剣でダラッと生きたい   作:B-in

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二十話

 

 

 

 

 

 

 

釈迦堂刑部。川神院師範代にして戦闘狂としてそれなりに名の通っている男である。

 

この男は闘争を好み、そしてその闘争の果てに勝利する事を望む。最初から勝てない相手に戦いを挑む事は無い。腕試し程度の気持ちで川神鉄心に挑むのは彼の修行風景の一つである。

 

嘗て、暴れ者として有名な少年が居た。

 

周りに敵う相手等居らず。誰も助けようとはしない。

 

周りから期待される事無く諦められ、親からも見捨てられた。

 

捨てられた、諦められた少年は何を思ったか?

 

親を憎んだか? 周りを憎んだか? それとも悲しんだか?

 

否である。

 

ただ、そんなモノだろうとしか思わなかった。

 

人の町を外れちょっとした小島へ移っての生活。

 

時折、町に出てチンピラやヤクザ者を殴り金を儲ける。海で魚を取り、山で獣を狩り、野草等を採る。

 

独りの世界で自己完結してしまった少年は、特に理由もなく暴力を振るった。

 

喧嘩をする度、相手を殴り倒す度に思う事は詰らないと言う事。

 

ごく稀に現れる強者との戦い以外にはそんな事しか感じられなかった。世界はとても小さかったが広かった。

 

己の知らない拳や蹴りを繰り出すモノが徐々に自分の前に現れ始めた。

 

とても、楽しかった。自分より弱い相手が、何処かで修めた技を使い自分を追い詰める事すらある。そんな相手と拳を交わし、勝利を得る。

 

その達成感や充実感は女を抱くよりも気持ちが良いモノだった。

 

闘争。素晴らしい。何と素晴らしいモノなのだろう。

 

そんな中、ふらりと一人の老人が現れた。その時はこう思った

 

(何だ? 今更になって話し合いでもするのか?)

 

生まれた町の連中の誰か。そいつが来た位にしか気に留め無かった。だが、老人が口を開き発した言葉に失笑と苦笑を洩らし死にたがりが来たと思いなおした。

 

「お前さんかの? 最近暴れまくっとると言う小僧は?」

 

「ハハっ、じーさん。アンタ誰だ? アンタ見たいな老い耄れが来るようなとこじゃねーぞ?」

 

追い返そう。そう思った。詰らないと言う前にめんどくさい。殺しでもしたら刑務所送りだ。

 

(まぁ、それでも変わらねぇか。)

 

今の生活。さしたる強者も居らず唯食って寝て暴れる。ソレが刑務所の出の事に変わるだけだ。例え、ソレが原因で死刑に成ろうとも構わない。生きていて詰らないのならば、死んでしまえばそれで終わりだ。

 

「ハッハッハッ、老い耄れか。確かにワシは老い耄れじゃが…そんな老い耄れじゃから分かる事が在るもんじゃて。小僧、お前さん。詰らんのじゃろう?」

 

ソレは確実に図星だった。言葉が出ない、ただ身構えた。

 

何に? なぜに? 簡単だ老い耄れと言った人間から発せられる闘氣にだ。

 

「おいおい、じーさん何もんだよ」

 

「なーに、ただの武神じゃよ。うむうむ、資質は最高、才能も在るの。小僧、詰らん人生歩んどらんでその力を磨いて見らんか?」

 

冷や汗が止まらなかった。だが、心の底から歓喜が湧いて来た。

 

「なぁ爺さんよぉ。武神とか言ったか? アンタ俺より強いって言うなら行ってやるよ。さぁ!! やろうぜ!!」

 

「カッカッカッ!! 撥ねっ返りはソレで良い!! 世界の広さを教えてやろう!!」

 

決着は十秒も経たずに訪れた。

 

拳を握り、踏み込み、気を失った。それだけだ。

 

ドッドッドッドッ!!

 

刻まれる痛みと衝撃のリズムを聞きながら昔の事を思い出した刑部は、自分の口元が緩むのを我慢できずに居た。

 

(あ~あ、何をやってんだろうねぇ。俺は)

 

楽しい。

 

「川神流・富士砕き!!」

 

「渇ッッ!!」

 

蹴りがただの気合いで吹き飛ばされる。

 

「ハハッ、笑っちまう。全然歯がたたねぇ!!」

 

「当たり前じゃこの大馬鹿もん。ワシはお前の師じゃぞ?」

 

確かに。刑部はそう思った。だからこそ

 

「弟子ってのは師を乗り越えるもんさ」

 

「十年早いわ撥ねっ返り」

 

「それじゃぁ十年縮めようぜ!! ジジイ!!」

 

「阿呆。五年引き延ばしてやるわい。」

 

刑部は技を使わない。使えない。そんな溜めを見せてしまえば一撃で終わる。

 

武神が手加減しているからこの程度なのだ。

 

手加減されているから喰らいつけるのだ。今の自分では絶対に一撃も当てられない。ソレが武神・川神鉄心なのだ。

 

「それにしてもな、釈迦堂よ」

 

「なんだ」

 

無数の拳の弾幕を避けながら言う武神に刑部は汗を垂らしながら返す。

 

「ワシは意外にも思っておるんじゃよ。お主が百夜の為に手を出す事をの」

 

刑部自身も同じだ。教え子でもある百代成らば自分もそんな事は思わない。

 

「ハハッ、確かになぁ。なんで出て来たんだか…」

 

出会い、と言っても川神百夜が生まれる前から川神院に居た。食事も馳走に成って居る身であり幼い頃から視界にはずっと映っていた。

 

最初は…

 

(そうだ、珍しくルーの野郎とジジイと酒を飲んだ日か)

 

翌々思い返してみれば百夜の七五三だ。酔った自分達を眺めながら詰まらなそうに『外から氣を集めた』のを見た時からだ。

 

(ぞくぞくしたねぇ)

 

背筋が凍ったとも言って良い。あの頃でアレ。あの時はコレから武術を学び力を着けて行った…と、良く考えたモノだった。

 

(だが、違うな。もっと…そう)

 

近いと感じたのだ。

 

思いに耽ったからか、拳を受け流すのに失敗し一撃貰う。それだけで体力を半分以上もって行かれた。

 

「雑念が混じっておるぞ?」

 

武神の言葉に込み上げてくるモノを呑み込んで返す。

 

「へっ、生憎と何時も雑念だらけなんですわ。俺って」

 

(あぁ、今ので一番良い言葉が浮かんできた。)

 

似てるのだ。この川神院の中で一番自分に似ている人間が川神百夜なのだ。否、過去の暴れ者に成る前の自分に似ている。違う所は自分よりも賢い所だろう。

 

今の自分に後悔は無い。ただ、興味が在るのだ。

 

川神百夜がどうなるのかが…

 

自分と同じように闘争に明け暮れても良い。

 

それはソレで自分が楽しめる。

 

だが…

 

「なぁ、ジジイ。百夜がよぉ、野球してる姿って見た事在るか?」

 

「まぁ、道場と学校が忙しくてのぉ。お主が撮って来たビデオか九鬼の執事が渡してくれるビデオを見るぐらいじゃよ。」

 

「詰まらない顔してんだろ?」

 

「あぁ、本当にの」

 

このままでも良いと思ってる自分が居る。川神百夜は恐ろしい。本当に恐ろしいが何と言うか放っては置けないのだ。時々見てやらないとどうも気に成る。

 

「じゃぁよ。百夜が試合前に何してるか知ってるか?」

 

「試合の準備や準備体操じゃろ?」

 

違う。違うんだよ、ジジイ。

 

「違うねぇ。全く持って違う。戦ってるんだよ。人間じゃねえ、人じゃねえ。『運』って言うのと戦って準備してるんだ。一回見てみな、俺はゾクゾクした。」

 

「ほ~…何ともまぁ、要領の良い。嫌、可哀想なぐらいの才能じゃの」

 

全く持ってその通りだ。あれじゃ詰まらねぇ、練習も適当なんだろうと思ってたさ。

 

「でもよぉ、意外と真面目に練習してやがんだ。勝ったらマジで嬉しそうにしてんだよ。」

 

そう。勝つために全力何だよ。百夜はよぉ。審判まで攻撃対象にして精神攻撃までして、卑怯だの何だの言われても平然としてんだ。周り敵だらけにしても勝ちに行くんだよ。

 

そんな人間なんだよ。心配に成るわな、こんな俺でもよぉ。

 

「ジジイ、アンタは百夜に真剣(マジ)で生きて欲しいって言うがよ。良いじゃねぇか、別に。良いじゃねぇか、アイツは初めて負けたんだ。自分に負けたんだ。もうチョイ気長に見てやろうぜ」

 

俺はそんな事されなかった。直ぐに切り捨てられた。刑部は顔を思い出しそう思う。

 

気味悪そうに自分を見る両親にその他の奴等。

 

輪には入れない。だから強く成った。そしたら余計に輪から外れた。自業自得だと自分で分かってる。我を通し続けた結果だ。

 

川神院に入って少しは妥協する事を覚えた。だが、ソレで強く成れたとは思わない。ただ、忘れていた事を思い出した。どうりで、今も武神に手も足も出ない筈だと釈迦堂刑部は拳を握り込んだ。

 

「…それではいかんのじゃよ釈迦堂。アレは天邪鬼の怠け者じゃ。放って置いたらそのままで良いやと考えてしまうじゃろう」

 

「そりゃそうだ。百夜は怖がりだからな」

 

だから、今も輪の中に居る。んでもって面倒臭がりだから、何時の間にかこっちの手を掴んで自分の隣りに引きずり込みやがる。百代の相手をするのもキツイっちゃキツイんだがなぁ。餌をちらつかせやがるから、中々離れられないんだ。刑部はそう心の中で吐くと一言付け加えた。

 

「アイツの近くが過し易いってのも性質が悪いんだよなぁ」

 

「それだけの為に百夜を放っては置けんのじゃよ。」

 

(そりゃ、そうだ)

 

コレは釈迦堂刑部の都合で在り、川神鉄心の都合では無いのだから。

 

「釈迦堂、何が言いたいかハッキリと言葉にだしてみよ。」

 

そう言われても、良く分からない。言葉に表すには曖昧過ぎる感情…絆の様なものを言葉で言い表すのは難しい事だ。

 

「なんつーのかなぁ」

 

思い浮かんだ言葉どうにも青臭いモノだった。

 

「ムカつくんだよなぁ。俺も人の事言えないし、理解しちまったからよ。」

 

思い浮かび明確に成った言葉が青臭過ぎて、刑部は更に強く拳を握り込んだ。

 

「大人の理由で!! 餓鬼を無理矢理どうこうしようってのがよ!!」

 

体力の半分以上を削られ、技を出す溜めも作る暇も無い武神に叫びながら突き進む。

 

(あぁ、クソっ!! 青臭ぇ!! でも思い出しちまったんだチクショウが!! )

 

こんなキャラじゃねぇーよと内心叫びながらも、一番最初に覚えたモノを繰り出す。

 

(強く成りたかった!! 大人なんて奴等に良い様に扱われるのが気にくわなかった!! 目にモノ見せてやりたかった!!)

 

押し手と引き手は正しく反比例に、しっかりと大地を踏みしめ、呼吸を合わせる。

 

ソレは技では無い。ただソレを練磨し、一つ二つと壁を超えたから昇華された。基本中の基本だった。

 

(川神流ぅぅぅ!!)

 

故に武神は構えた。後一歩の距離。ソレが自分の射程距離

 

「無双正拳突きぃぃぃ!!」

 

「ぬぅ?!」

 

この日初めて、武神は驚愕の声を上げた。

 

衝撃と共に手応えの無い感触を味合う。壁にぶつかり受け身を取るも加減が聞かずに前に飛び出しうつ伏せに成る恰好で地面に倒れる。

 

(あぁ、やべ。当分飯が食えそうにもねぇ)

 

柄じゃ無い事なんてするもんじゃねぇや。刑部は思いながら気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

「釈迦堂、そりゃぁ父性愛と言う奴じゃよ。道理で…強くなっとる筈じゃて」

 

小さい、ホントに囁くように小さい武神の言葉が誰の耳にも入らず流れて行った。

 

 

 

 

 

Side 百夜

 

 

 

釈迦堂さんマジカッコイイ。

 

「家のジジイが強すぎる件」

 

「当たり前だ。我が師!! ヒュームとは嘗てライバルだったらしいからな!!」

 

もうヤダこの世界。

 

「それで? どーして君達まで来るかねぇ。」

 

「いや、寧ろ俺が聞きたい。どーして身内と!! しかもあの最強爺さんとDV?!」

 

「そうですよ。貴方と英雄君がテロに合ったと聞いて僕達がどれ程心配したか!!」

 

「我が強敵(とも)の祖父から話が有ると電話が在ったからな!! この先の進路の事ならば九鬼が保証するぞ!! と言いに来たのだが?」

 

よし、最初から行こう。

1. 何かやらかしたっぽい

2. ぴんぴんしてます。起きた時は恥ずかしい話…勃起してましてね

3. 働きたくないでござる

                                   」

 

「てな具合ですが?」

 

それが、何か?

 

いや、もう誤魔化してますがね?

 

「はしょり過ぎだろ」

 

「無事なら僕は何も文句は在りませんが」

 

「何故だ!! 九鬼では不満なのか?!」

 

「うっさいハゲ。」

 

「お前って俺に厳しいよね!! まぁ、無事で安心したわ。」

 

うっさいハゲ。こっちくんな。縋りたくなる。

 

「それで? 本当はどうしたんですか?」

 

「いや、どうもこうも「こ奴は今腐っているのだ!!」おい、バッテンデコ」

 

もぉ、何なのこの人!! いい加減に疲れて来た。

 

「誰がバッテンデコだ!! 我は九鬼!! 九鬼揚羽だ!!」

 

「あ、姉上。落ち着いて下さい」

 

「コレが落ち着いていられるか!! この男は全てを投げ出して腐ろうとしているのだ!! 友で在るお前の事もなにもかも捨てて腐ろうとしているのだ!! 」

 

あぁ、もう。本人に言っちまいやがった。くっそ、どうする。

 

「どう言う事だ。百夜」

 

っ、メンドクセー

 

「そのまんま? 野球出来ないお前に価値何てねーし? もともとボッチ気味だったし? 疲れたんだよ。もー誰とも関わりたくないの」

 

とっと帰れ。んでリハビリでもしてろ。

 

「ソレは、僕達も…と言う事ですか?」

 

「そうでーす。もう、特にお前等面倒臭いんだよ。」

 

家に帰って家族会議でもするか密告しろ。このイケメン

 

「おい、小雪はどうするんだよ」

 

「最初に言っただろうがこのハゲ。背負えよ。お前らが近くに居りゃあ、あの白子も幸せだろ。」

 

お前は毛根の心配でもしてろ。

 

「はい、そう言う訳でもう終わり。俺はコレから明日に向かって…」

 

どうする? 逃げる? 逃げてどうする?

 

何も無い。どうしよう。このままジジイのDVを受ける。多分追放される。

 

後者の方が楽だな。取りあえず、向こうさんが何かさせようとするだろうし。普通に生活できるかもしれない。でも、その後はどうしよう?

 

漠然とした不安がある。一時的に解放されたモノがまたやって来た。

 

「逃げる。と言うのは無理ですよ?」

 

「は?」

 

葵冬馬が苦笑を浮かべて言う。何で笑ってる?

 

「そうだな。逃げても意味が無いな」

 

「正しくその通りだ!!」

 

準と英雄も同じだ。苦笑と言うよりしたり顔で言う。

 

「いやいや、問題の先送りが「ゴキ」ッ?! ターーー!!」

 

頭頂部が痛い。ゴキっていった。更にガスっていった

 

「暴力反対!!」

 

「まだ分からぬか!!」

 

「分かるかボケぇ?!」

 

拳を握りしめる九鬼のねーちゃんに言う。マジでコイツ…シバキ倒してやろうか?

 

三人に向けて後ろを向いたのが悪いのか? 後ろからも叩かれた。頭と背中と尻に衝撃が奔る。

 

俺の体は前に突き飛ばされる様に動く訳で、顔面が何だかふっくら柔らかいモノに当たる。

 

そのまま、頭をホールドされる。

 

(ヤバい、この人の力ならこのまま脳漿をぶちまけろ!! に成ってしまう?!)

 

そのまま、体ごと百八十度回転。下手したら死んでしまいます。

 

「は? 何? お前等泣いてんの?」

 

「当たり前でしょう!! 僕達が…僕達がドレだけ心配したと思ってるんですか?!」

 

「べ、別に? 俺泣いてねぇーし? 涙なんか流して無いし? 夜も遅いから欠伸しただけだし!!」

 

いや、それ、涙ですから。なに? お前等泣くとねぇーよ。マジでねぇーよ

 

「百夜よ。貴様が我等をどう思うが貴様の勝手だ。そして、我等が貴様の事をどう思おうが我等の勝手なのだ!!」

 

「そうです。君は僕達の友達です。貴方がどう思おうが僕達はそう思っています」

 

「それに、俺たちゃお前と友達辞めるなんて一度も言ってねぇしな。」

 

「おま?! ストーカーと変わんねーぞ?!」

 

ギリギリと頭の側面から掛かる圧力が増えた。痛い、マジ痛い。

 

「イダダダダダダダダ!!」

 

「認めよ!! お前は友を欲している!! どう、取り繕おうが脈で我には分かるぞ!!」

 

また、百八十度回転。

 

「何故逃げる!! 貴様の周りには貴様を受け入れる者が四人も居る!! あそこで武神に挑む者もお前の為に闘っているのだ!! 前を向け!!」

 

体ごと動かされる。ジジイにボコボコにやられている釈迦堂のおっちゃんが見える。

 

いや、もう逃げろよ。おっちゃんだって分かってるだろ? 勝てないって。前にも言ってたじゃん。勝てない相手に戦いを挑む、負ける戦いは嫌いだって言ってたじゃないか。

 

なんだよ。なんでそんなに必死こいてるんだよ。おい

 

「ムカつくんだよなぁ。俺も人の事言えないし、理解しちまってるからよ。」

 

だったら、逃げろよ。もう良いって、釈迦堂さん。あんたカッコイイよ。頑張ったよ。強いよ。だからもう良いって。

 

「大人の理由で!! 餓鬼を無理矢理どうこうしようってのがよ!!」

 

ちがう。違うんだよ。俺は…もう面倒臭いから疲れたからどうにかして欲しいだけで…

 

「何も思わぬか!! あの方はお前の為に闘って居るんだ!!」

 

うるさい。お前等に何が分かる。何が…何が…分かる。

 

「前を向け!! あの方を見ろ!! 我を見ろ!! 世界に目を向けろ!! 川神百夜!!」

 

「うるさい!! ごちゃごちゃと喚くな!!」

 

分かってるんだよ。ただ逃げてるのも、アンタ等全員の事が羨ましいのも、ただ妬んでるのも!!

 

「逃げて悪いか!! なにもかもかなぐり捨てて悪いか!! あぁ、アンタはカッコイイよ、光ってるよ眩しいよ!! 冬馬も準も英雄も!! お前等全員凄ぇ羨ましいよ!!」

 

とっと失望でも何でもして愛想着かせてどっかに行ってくれ

 

「やりたい事が有るんだろ!! 夢が有るんだろ!! 俺に構ってる暇が在るならそっちを優先しろよ!! 俺には無いんだよ!!」

 

足元からうぞうぞと不安が押し寄せる。

 

「ヴィジョンが無いんだよ!! 夢も!! やりたい事も!! 何も無いんだよ!!」

 

生きてるのが怖いんだよ。

 

「やっと、我を見たな」

 

「えぇ、やっと悩みが聞けました。ねぇ準?」

 

「だな、若。」

 

「ハハハ!! 我が強敵は誰にも弱みを見せようとしないからな!!」

 

「畜生。お前等さっさと帰れ馬鹿!!」

 

どいつもこいつも、妬ましい。

 

「やりたい事が無いなら探せばよい!! 川神百夜!! 我と供に来い!! そこで探せ!!」

 

「姉上!! 百夜は我が連れて行くのです!! こればかりは譲れません!!」

 

「いえいえ、お二人とも何も無いと言うのならば今から勉強すれば医者に成る事も可能と言う事です。家の病院に来てくれるととても助かるんですよ。主に僕達が」

 

「その通りだ。小雪も居るしな。お前も一緒に背負ってくれよ百夜。やっぱ俺達だけじゃキツイんだわ」

 

こ、こいつら…

 

「諦めよ。川神百夜よ。怖いと思うのは人として当然の事だ。だが、ソレは乗り越えられるモノだ。一人で無理なら友を頼れ!! お前には居るだろう此処に友が四人も!!」

 

「…強いから言えるんだよそんな事はさ。昼にも言っただろうが、アンタが言うのは強者の理屈だ。臆病者の弱者には無理なんだよ!! それで見つからなかったらどうするんだ!! 他の奴にもっと迷惑かけてソレで見つかるのかよ!! 続くんだぞ!! そんなのは御免だって言ってんだ!!」

 

逆に胸倉を掴んで、引き寄せて言う。所詮は可能性の話ってか? そうだよ。それだけだよ。それだけの話だよ!! でもなぁ、世の中にはソレが怖くて何も出来ない人間が居るんだよ!!

 

「見つかる!!」

 

「何でそんな事が言える!!」

 

「我は九鬼ぞ!! 王たる九鬼ぞ!! それで見つからぬのならば我が見つけてやる!!」

 

「馬鹿にしてんのか? あっ? 所詮は大きい新興の財閥程度だろうが!! 歴史がねぇ、重みがねぇ、大体築いたのはお前等の親父とソレに着いて行ったお袋さんだろうが!! 力も何もねぇ名前だけが偉そうな事ぬかしてんじゃねぇぞ!! だいたい!! 九鬼じゃ無くてもそんな事言えるのか手前ぇは!!」

 

「言える!!」

 

顔をズイっと更に近づけてハッキリと言う。強いと思う。凄いと思う。大きいと思う。綺麗だと思う

此処まで自分に自信を持って言える事が凄い。なんでそんな事が言えるのかが分からない。目の中には確信に満ちた光がちゃんと在って、その言葉は覇気に満ちていた。

 

「…何で」

 

「九鬼で無くとも我は我ぞ!! 我は揚羽よ!! 九鬼で無くとも揚羽は我ぞ!! 我が揚羽よ!! 我は何も変わらぬ!! 誰しも我には成れぬ!! 我は揚羽以外の何者にも成れぬ!! だから言える!!」

 

あぁ、それか。

 

「くっだらねぇ。ぜんぜん納得できねぇ。無茶苦茶だろそれ」

 

「だが、事実だ。」

 

「っ? ヒューム…我を連れ戻すか?」

 

「いいえ、揚羽様。私は貴女を連れ戻しません。コレは王たる者への試練の一つ。私は貴女を害敵害悪より護る剣です。」

 

「ならば、何故来た。見守って居れば良いだろう。」

 

「何、其処の餓鬼に一つ教えてやろうかと思いまして」

 

「何をだ」

 

「釈迦堂刑部に異常は無いと言う事をです。まぁ、暫く固形の物は食べられない様ですが…才気があっても所詮は赤子。鍛錬不足ですな。あぁ、後一つ。小僧、お前はやられたらやられっぱなしを許す様な人間だったか?」

 

やられっぱなし? ジジイにか? 仕方がないだろう。アレは無理だ。痛い上に何をしようが俺が疲れるだけだ。

 

「そうですよ、百夜。貴方はやられたら十倍返しする人間でしょう?」

 

「いやいや、流石にコイツでも其処まで………するな。うん、百夜ーお前はそう言う人間だ。」

 

「寧ろ駆逐するな!!」

 

「お前等フルボッコ過ぎるだろソレ。なにか? 最強ジジイに当たって来いってか? いい加減にしろよ!! テロの時もフルボッコだったのにそれ以上とやってられるか!!」

 

「それなら…どうします? 我慢は毒です。特に貴方には…本当はどうしたいかなんて決まって居るんでしょ?」

 

決まって居るんでしょう? 決まってねぇーよ。だからこんな風に成ってるんだよ。

 

「百夜よ、好きにやれ!! 何後は我が責任を持つ!!」

 

「その通りだ!! お前はお前のまま自由にやれ!! ソレでこそ我が強敵(とも)よ!!」

 

お前はお前の儘?

 

俺は俺の儘?

 

俺はなんだ?

 

(アギ・スプリングフィールドから生まれた何か)

 

俺は何だ?

 

(川神百夜)

 

本当にそうか? 

 

(じゃあ、何だ?)

 

知らない。分からない。

 

袋小路だ。面倒臭く成って来た。答えなんて知らない。まるでXの値を何の式も用いずに答えよと言われてる様だ。

 

そこで気づく。

 

(うわぁ、正に黒歴史。)

 

声質は取っておこう。

 

「なぁ、九鬼のねーちゃん」

 

「何だ? それと名前で呼ぶ事を許してやる!!」

 

うわーい。器が大きいねぇ。あっと言わせたくなるわ。

 

あ~思い出した。まだ、やり返してねぇ事が在ったわ。あの野郎は殺しとかんと俺が危ない。夢を壊しやがったし、アイツが全ての元凶だよ。

 

白子の事も有ったわ。アレは責任持たんと行かんな~。

 

にしても、我ながら何ともくだらないんだろうか。いや、うん。開き直りと言って良い。俺は誰か? 分かる訳が無い。だって記録は在るけど記憶が無いんだもの。

 

自己を自己と認識できるモノが川神百夜としてのモノしか無いんだもの。人間を人間と認識するには五体揃った人間の体が必要だ。自己を自己と認識するにはソレまで積み重ね、経験してきた体験と記憶が必要だ。つまり、俺は川神百夜だって事に成る。

 

アイデンティティ何て最初から持ってたんだ。物凄く馬鹿らしい。その上厨二臭いと言うか厨二過ぎる悩みだ。いや、悩みじゃなくシチュエーションか。

 

(…俺、大和の事笑えねぇ)

 

レコーダーは破棄…しないで置こう。ソレはそれ、コレはコレだ。うん。

 

其処で、考える事が在る。正確には確かめる事が在る。俺はどういう人間か、と言うまた厨二臭い事だ。

 

結論を言ってしまえば友達の出来ない寂しがり屋の自己中心的な人間の癖して臆病者の根性無し。だから、目の前で知らない人がカツアゲされてても無視して知らんぷりする。流石に殺人とかに成ったら警察に連絡したり助けたりすると思うけど。まぁ、そういう普通の行動をする人間だ。

 

でも自己中だから、自分の良い様に成らないとムカつく。やられたら倍以上でやり返す。臆病だから絶対に二度とそんな事が出来ないようにする。力が在るからそうする。うん。

 

好奇心に負けてやり過ぎもするし、そんで後悔もする。罪悪感も感じるけど怖いから逃げるし誤魔化す。当然嘘も吐く。

 

寂しいから周りに居る友人は無くしたくないから良い顔するし、護りたいと思う。そいつらが何かされたら怒る。

 

(めっちゃくちゃ矛盾した人間だ。非合理過ぎる。)

 

なんか、自分の最低っぷりと言うか、ダメっぷりを認識してしまって…うわぁってなる。何コレ? 最低人間やん。もうちょっと真面目に生きよう。出来るだけのんびりとサボりながら生きよう。

 

冬馬達の友情値が高すぎるのが何だか心に痛い。

 

自殺補助に放火の罪も有る。後、過剰防衛。最後のは後悔も何もしてない。だって自分が一番かわいいのは変わらない。

 

それに、恐らくだけど

 

(俺って戦闘狂って言うか勝ち狂い? の気があるっぽい。勃起してたし…)

 

多分Mでは無い。戦いの興奮で起っきしたんだと思う。

 

(うっし。もう大丈夫。将来したい事はその内見つかるさ。好き勝手やろう。んでもって出来るだけ責任も持とう。本気でこいつ等に見放されたら鬱で死ぬ。割とマジで。)

 

「……何しても良いんだな?」

 

「好きにやって見よ!! 我が!! 我等姉弟が許す!!」

 

「OK。やっぱ、貴女はカッコイイや揚羽さん。」

 

先ずは一発やっておこう。

 

「九鬼揚羽!! アンタに惚れた!! 結婚してくれ!!」

 

「うむ!! ん? おっ?! ふぇ?」

 

ちゅっとバッテン傷にデコチュー

 

おぉ、おぉ顔が真っ赤になって…ヒュームのおっさんの青筋が切れそうにっ!!

 

「ちょっとジジイ殴ってくるわ!!」

 

べ、別にヒュームが怖くて逃げたんじゃないんだからね!!

 

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

Side 冬馬

 

ようやく元の百夜に戻った様ですね…

 

「なぁ、若。アイツ自重しなく成るんじゃねぇか?」

 

そう言う準の言葉に確かにと思いますが、彼はソレで良いんだと思います。彼は良くも悪くも自分に素直で僕達の事をふとした拍子に気にかけて、変なお節介をして…結局は自分のしたい様にする。

 

そんな彼で良いんです。そんな彼の近くが面白くて楽しいんですから。僕達と考える事が違うから。止めても最後までやってしまおうとするから、飽きないんです。

 

「いいじゃないですか、準。運の良い事に九鬼のバックアップを得れたんですから、自重もしなくなります。」

 

「だから、俺達も巻き込まれるじゃないですかー!! ヤダー!!」

 

「もう、巻き込まれてますよ? 小雪の一件でね」

 

「まぁ、そうだけどよ。実際どうするんかねぇーアイツは。周りは敵だらけだろ…学校とかでは違うが、野球関係とかはよ」

 

「九鬼がいますよ。僕達も居ます。何よりも百夜は叩かれたら大人げなく全力でやり返す人間ですが…馬鹿な人間の小さい小さい事は無視してしまうでしょうしね。それに…」

 

「楽しそうじゃないですか。彼自身が」

 

「あ~…まぁ、あんだけ楽しそうに殴り合ってるし…殴り合ってるぅぅぅ!!」

 

「そんなに驚くことですか?」

 

「いや、だって、若?!」

 

今更ですよ準。元々捻子が飛んでたんですから彼は、でなければ…あんな風に生きられません。

 

綺麗汚ない関係なく。自分がしたい方へ行く。矛盾しているくせに自分のルールで生きている。法を破る事に躊躇はなくて、禁忌を破る事にさえ戸惑わない。気まぐれに良い事をして、その逆もする。自由に生きている。

 

彼は世界にただ一人、自由に生きている。僕にはそんな生き方は出来ません。怖いですし、何より躊躇してしまいますから。彼の様にズバッと決めれません。ぐだぐだしている時も有るでしょうが…決めたら一直線ですしね。

 

「準。自重する百夜をどう思います?」

 

「気持ち悪い」

 

即答ですね~フフフ。そう言う事なんですよ。

 

「ね?」

 

「ハァ~…確かに自由気ままに生きてるアイツの方がらしいわ。」

 

百夜はコレから何をするんでしょうか? もし、僕が…僕達が両親の事を打ち明けたらどうしてくれるんでしょうか?

 

いっその事打ち明けてしまいたい。そうすればと期待する気持ちが有ります。我ながら友情に打算が入っているのが何ともらしいと感じてしまう。

 

(これも血なのでしょうか?)

 

その事に反感を覚えるも、呑み込む。事実ですから…僕の中の確かな真実ですから。本当なら直ぐにでも縋りたい。

 

(そういえば…お前等面倒臭いといってましたね…)

 

もしかしたら、百夜は僕達の両親の事まで把握しているのかもしれません。もしそうなら…彼が踏み出した様に、次は僕達が踏み出す番なのかも知れないですね。

 

 

 

月が少しずつ動くのを見て、僕はそんな事を考えました。もし、百夜が夢を見つけて…其処に僕の居場所が在るのなら

 

「それは、とても素敵な事なんでしょうねぇ」

 

「? 何がだ、若?」

 

「百夜が一緒に居たら将来も楽しいんでしょうねぇと言う事ですよ。準」

 

「そうか? 流石に大人に成ったらアイツも多少は落ち着くだろ? 多分、きっと…メイビー?」

 

ソレは未来で知る事ですよ。準。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦う大人の背中って本当にカッコイイと思う。

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