機動プログラムを終え、そのまま射撃テストに入る。高速機動の中、如何に的に命中できるかを確かめる訳だが。
「この辺りは弾幕張って誤魔化すのが1番楽なんだがな」
機動戦で的に命中させるのは難しい。特に相手も同じ高速機動を行えば尚更だ。しかし、今更武器を交換してくれと言うつもりは無い。戦場に出れば今有る武器で何とかするしか無いのだから。
「当たらない距離なら当たる距離で戦えば良いだけさ」
自分に言い聞かせる。そしてカウントダウンが始まる。モニターから見える的の位置を確認して機動ルートを計算する。
『3、2、1、射撃プログラム開始します』
オペレーターの言葉を聞いて機体を動かす。最初は地表スレスレを飛行して行く。
「先ずは確実に当てる」
そのまま想像通りのルートを通りながら的に当てて行く。そして最後2つを無視してリロードする。そして上に浮いてる的に狙いを絞る。途中幾つかの的を外しながら、他の的に狙いを絞る。
そして大体の的を撃破した後、残ってる的を確認する。残ってる的の位置は殆ど直線状になってる。
「残弾も丁度ぐらいだな。さて、終わらせるか!」
そしてブースターを全開にしながら残ってる的を撃破して行く。そして、そのまま月の重力に引かれながら一気に急降下。最後はビームサーベルを引き抜きながら2つ同時に破壊する。
「ふう、終わったか。あ、ビームサーベル使っちゃったな」
射撃プログラムなのにビームサーベルを使ってしまった訳だからな。
『全目標の撃破を確認しました。それとビームサーベルは問題有りません。射撃プログラムとしての目標は殆ど達成してますので』
「なら良かったですよ。次はどんな試験になるので?」
『本日は此処までです。この後は機体の各部チェック、及び調整に入ります。恐らく次回搭乗する際はより動かし易くなってます』
そして機体を格納庫に移動させる。格納庫に戻ると直ぐにアナハイムの整備スタッフ達がジム・カスタムFbに群がる。その直ぐ近くにニナ・パープルトンさんも居た。
「お疲れ様です、コートニー中尉。素晴らしい機動でした」
「どうも。それにしても中々良い機体だと思いますよ。これを完全に扱い切れれば相手から捕捉される可能性は少なくなると思いますよ」
ミノフスキー粒子下の元での戦闘なら間違い無く厄介な機体だろう。但し、この機動性に耐えれるだけの根性は必要だろうけど。
「はい。それに、コートニー中尉のデータを引き継ぐ事が出来れば次の調整も早く進む事は間違い無いでしょう」
「次の機体への足掛かりな訳ですか。つまり、ガンダムの高機動型の完成に一役買ってると?」
「はい。私のガンダム…ゼフィランサスの宇宙戦仕様の完成になります」
「宇宙戦仕様ですか。確かに、地上でこのバックパックを使用しても本領発揮は無理ですね」
俺とパープルトンさんはジム・カスタムFbを見上げる。いや、パープルトンさんはジム・カスタムFbを通してゼフィランサスを見てるのだろう。
(しかし【私のガンダム】ね。ちょっと近寄り難い美人な人だな)
兵器は何処まで行っても兵器に変わりは無い。勿論使い方次第で良い事にも出来る。だが、今の時代でそれは難しいと言わざるを得ない。それを理解して無いからこそ言えた言葉なのだろう。
俺はそんな事を考えながらジム・カスタムFbを黙って見続けるのだった。
……
ジム・カスタムFbのテストを一通り終えると良い時間になっていた。しかし現在ロイヤルの改修作業中と言う事も有り一時的にAE社が保有するホテルに泊まる許可が降りた。
「流石AE社の持つホテルなだけ有って立派だな。然もホテル代は経費で落ちると来たもんだ」
中々立派なビジネスホテルでの寝泊まりだから嬉しい物がある。
「テスト機の搭乗に立派なビジネスホテルでの宿泊。中々運が良いんじゃ無いかな」
明日もジム・カスタムFbの試験が幾つか有る。だが、これだけ良い待遇をされたら嫌でも気合が入るものだ。暫く部屋でのんびり寛いでいるとドアがノックされる。誰かと思いドアを開けると。
「あ、シュウ中尉。もう食事は済ませましたか?」
「ルイス少尉?いえ、まだ済ませて無いです」
「でしたら、その…もし良ければ一緒に外食しませんか?」
珍しい事にルイス少尉から食事のお誘いが来た。然もちょっと頬を染めながらのお誘いだ。これは絶対に断る訳には行かない。
「勿論構わないですよ。では今から行きますか」
「はい!では一緒に行きましょう」
俺達は2人並んでエントランスに向かう。考えてみたらルイス少尉と2人っきりで何処かに行く事は殆ど無かったな。有っても陥落した宇宙要塞ソロモンの探索をした時位だし。
「そう言えばシュウ中尉の機動は凄かったですね。あの機動に追従出来るパイロットは中々居ませんよ」
「それはそれで問題があるんですけどね」
「あ、言われてみればそうですね。味方との連携とかですよね」
流石ルイス少尉だ。話がスムーズに進むから良いね。
「レイナ大尉とウィル少尉の機体はジム改ですからね。もし大尉の機体がスナイパーカスタムだったらまだ良かったけどな」
一年戦争時、地球連邦軍には様々なモビルスーツが生産された。そのお陰でジムのバリエーションは豊富過ぎて前線では整備や部品調達に不備が生じてしまった。また一年戦争の終結後、戦後復興の為に軍事予算削減を決定。その結果様々なモビルスーツ開発計画が中止、また統合する形になる。
宇宙世紀0081.10月13日【連邦軍再建計画】が可決した事によりモビルスーツの部品の規格化が進む。その結果RGM-79ジムはC型系列に絞り込まれる事になる。そして、その余波は現場の俺達兵士にも来た訳だ。元々RGM-79SCジム・スナイパーカスタムの生産数は少ない。よって真っ先に回収されてしまった訳だ。現在レイナ大尉の搭乗機はRGM-79Cジム改で落ち着いてる。
勿論今でもC型系列以外の機体を使用してる部隊は有ると此処に記載しておく。
「そうですね。今の機体では狙撃は難しいですよね」
「その通り。OSもセンサー関係も通常機と同じ。更にジェネレーター関係も下がってますからね」
1250kwのジェネレーターだとビーム兵器の射程が短い。勿論中〜近距離なら問題無い。しかし、遠距離となるとジム・スナイパーカスタムの1400kwクラスのジェネレーターは欲しい。
「ま、無い物ねだりしても仕方ないですよ。それに、レイナ大尉には専用武器があるから問題無いですよ」
「確かに。未だにあの弾幕は驚異ですよね」
そう、レイナ専用武器【90㎜ガトリングガン】は未だに現役だったりする。確かにあの弾幕の援護射撃は有難いし、敵からしたら厄介極まり無いだろう。
「まあ、レイナ大尉の弾幕を抜く方法は無い訳では無いですけどね」
「そうなんですか?」
「今の機体とやり方次第で充分対処出来ますから」
そんな事を話しながら外に向かう。すると其処に人影が現れる。
「フッフッフッ、この私を差し置いて行こうなんて2年早いわ!」
「流石レイナだね。その洞察力に惚れ惚れするよ」フサァ
其処にはレイナ大尉とアーヴィント少佐が居た。
「いや、俺が報告しただけなんすけど」
序でにウィル少尉も居た。と言うかお前が犯人か。
「あらら。まあ、皆と外食に行くのも悪く無いか。そうですよね?」
「……チッ。そうですね」
今、ルイス少尉から舌打ちをした音が聞こえた様な?しかしルイス少尉を見るといつも通りの笑顔だ。
「気の所為か」
「何が気の所為ですか?」
何でもないよと言い歩き出す。こうして俺達の日常は過ぎて行く。当たり前の日常こそ守るべき物だと噛み締めながら。
……
「それで?俺を置いてフォン・ブラウンを満喫したウィル・ルガード少尉殿は、一体何故俺を此処に?」
食事を終えて後はゆっくり休む時間帯。そんな時間に俺はウィル少尉に呼び出され部屋に来ていた。
「そ、そんな言い方しないで下さいよ」
「気にし無くて良いんだよ。安心しろよ恨み言何て言わないさ」
代わりに模擬戦の時に徹底的に鍛えてやる。徹底的にだ!!!手は抜かないからな!!!
「うっ…今、凄い悪寒が。と、兎に角中尉の為に良い物買って来たんで。どうぞお納め下さい」
黒いビニール袋に包まれた何かを渡される。俺はそれを無造作に受け取り中身を見る。
「どうせ下らない物なんだ……こ、此れは」
「如何ですか?結構良い物でしょう。今の職場にピッタリのシチュエーションですよ」
ウィル・ルガード少尉は自信満々な表情で言う。それは確かに今の職場にピッタリの物だった。
【憧れの女性パイロットが、貴方の為に手取り足取り色んな事を教えてあ・げ・る♡】
【気になるあの子はオペレーター。二人っきりで戦術指南♡】
と言った感じのエ○DVDが5枚位あるじゃないですか!
「ウィル少尉、お前…」
「分かってますって。ちゃんと似た子を選択してますから」グッ
グッドサインをするウィル少尉。俺はウィル少尉の肩に手を乗せる。此処は上官としてしっかりと指導せねば。
「良くやった。流石俺の優秀な後輩なだけは有る。今度模擬訓練の時は操作方法を重点的に見てやろう」
(馬鹿野郎!こんな破廉恥な物を堂々と持ってくるんじゃない!然も何気に二人に似てる所が最高じゃないか!)
「はい!ご指導の程宜しくお願いします!」
「うむ。安心しろ、無理しない様に指導してやるさ」
言ってる事と思ってる事が逆になってる事に気付かないシュウ中尉。いや、思ってる事も結局同じだから問題無いのだろうか?
こうしてシュウ中尉とウィル少尉はお互いの信頼関係をより強固な物にしたのだった。
この間ジム・スナイパーカスタムのジェネレーター数値調べたら1390kwあると知った。ガンダム超えちゃってるじゃーん!でもコア・ブロックが無い分構造に余裕が有るのかな?