読み易ければ今後は全話をこのように改行したいと思います。
皆様が楽しんで頂ければ幸いです
ではどうぞ・・・
アリーナの映像が管制室へと届く。
既に準備は出来ている…そう言外に語るほどに向かい合っている両者は気力に満ちていた。
第3世代型IS甲龍
燃費と安定性を第一に設計されており、機体カラーは赤み掛った黒。待機形態は右手に付けた黒のブレスレットとなる。正式名称は「シェンロン」。武装は大型の青龍刀である双天牙月(そうてんがげつ)が2基装備されており、連結することで投擲武器としても使用できる。そして背面部に装備されたスパイク付きのアンロックユニット龍咆(りゅうほう)は空間自体に圧力をかけ砲身を作り、衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲。
食堂での言葉通り、一夏が本気をだして自分と戦うつもりである事を鈴は感じ取った。何故なら鈴は知っているからだ。
あの雰囲気を、そしてあの眼を…。
『それでは両者、試合を開始して下さい!』
「おらぁぁああああ!!!」
「はぁぁぁあああああ!!!」
それぞれの獲物が刃を交えた。鈴は2本の青龍刀を巧みに操り連撃を繰り出す。一方の一夏は雪片と機動力で連撃を捌きながら一瞬の隙を見つけて剛の一撃を入れようと立ちまわる。開始早々から白熱した試合が展開された。
ここで鈴が鍔迫り合いの状態を嫌い一旦距離を取る。
が、この隙を一夏は見逃さなかった。
「チェストォォォオオオ」
「な!?」
ブーストで一瞬の内に鈴との距離を縮め、上段から気合を込めて雪片を振り下ろした。
「くっ!!??」
鈴は咄嗟に獲物をクロスさせ刃の腹で受け止める事で機体へのダメージは受けなかったが、受け止めた双天牙月には決して小さくない皹が眼で確認出来た。
まともに食らったらヤバかった…。鈴は内心で冷や汗をかいていた。
互いに距離が離れる。再度一夏が鈴との距離を縮め、鈴は己を奮い立たせるように叫んだ。
「まだまだ勝負はこれからよ!!」
管制室
「一体何が起こったんだ…見えない何かが一夏を攻撃した?」
管制室からモニターを見て箒が疑問を口にし、それにセシリアが答えた。
「あれは『衝撃砲』ですわ。空間自体に圧縮をかけ砲身を生成、余剰で生じる衝撃を砲弾として打ち出す。わたくしのブルーティアーズと同じ第3世代兵器ですわ」
さらにここで山田先生の捕捉が入った
「付け加えとロック機能はハイパーセンサーを利用してる上に砲身の斜角はほぼ無制限みたいですね」
モニターを見ると一夏は隙を窺うように上下左右から接近を試みるが、その度に龍砲によって牽制を入れられ近づく事も容易に出来なくなっている。遠距離攻撃が選択肢にない白式の装備では、まず接近しないと何も始まらないのだ。この状況は誰の目から見ても一夏は苦戦していた。
「一夏…」
「一夏さん…」
モニター越しに見る一夏の苦い表情を箒とセシリアは心配する。
「ふむ、確かに苦戦はしているようだが、私はそれ程に悲観的な状況には思えないがな」
ここで初めて織斑先生が口を開いた。そして口にした言葉は予想外の言葉だった。
「それはどういう事でしょうか?」
「なに簡単な話だ。織斑は少しづつだが攻略法をつかみかけている。よく見てみなさい」
一夏は鈴に向かって短く小刻みなブーストを使うことで狙いを一点に集中させずに相手の懐に入り攻撃を敢行する。
離れようともがく鈴を決して離さずに近接戦闘を行っていた。
「凄いですわ。あれだけ攻めあぐねていたのに…急にどうしたんでしょうか」
「原理としては単純なものだ。目視によってロックされるならば、それ以上の速さとフェイントを合わせた機動を駆使して相手を翻弄すればと考えたのだろう。撃たせてしまえば手を出せないと悟った織斑は撃たせないようにするにはどうしたらと考えた結果なのだろうな」
セシリアの問いに簡単に説明する織斑先生。
「しかし本当にすごいことは、これ程の機動をたった3ヶ月しか乗っていない織斑がやってのけたことだ。恐ろしいほどの成長スピードだ……」
この場の誰もが口をつぐんだ。かつてISの祭典モンドグロッソにおいて輝かしいほどの成績を納めた彼女、ブリュンヒルデからの言葉を笑い話に捉えるものは誰もいなかったのだ。
「しかしこれで一夏の勝ちの目が見えてきましたね」
「そうだな、ここで油断さえしなければ時間の問題だろう。あいつ自身も決して詰めの甘いやつではないからその心配もないが、勝ちを急いで足元を掬われないかだけが気がかりな点だな…」
「あ、やっぱり織斑先生も弟さんのことは心配なんですね」
ここで山田先生が場の空気を和ませようと茶化した様に織斑先生に問いかけた。
「……」
彼女が目を細め、一瞬のうちに山田先生の後ろに回り込むと柔らかそうな両方の頬を白く美しい細い指で引っ張ったのだ
「いひゃい!いひゃいですよ!?おりむりゃふぇんふぇい!!!」
「何ですか?山田先生。よく聞こえませんよ。もっとはっきり喋ってください」
「ごめんなひゃい!ごめんなひゃい!ひゃかしてしゅみましぇんでした!!」
ここでようやく織斑先生は溜息を一つはいて指を頬から離したのだ。山田先生は両頬を抑えながら悶絶している。
「私は身内がネタにされるのは嫌いなのだ……。よく覚えておくように」
「ふぁ、ふぁい……」
山田先生が力なく答えた側で箒とセシリアが苦笑いしていた。
一方、アリーナでは試合が最終局面に入っていた。
「次で決めるぞ。鈴」
「上等よ!かかってきなさい!!」
正面から相対する2人。一夏は雪片を正眼に構え、鈴は連結した双天牙月を片手で上段に構えながらその時を待った。
一陣の風を気に同時に動き出した2人だったが、アリーナの中央に放たれた大出力のビーム砲がアリーナ全体に走ったのだった。
いかがだったでしょうか?
感想並びに評価をお待ちしています。
ではまた次回