ではどうぞ・・・。
疲労困憊の一夏を簪と2人で支えながら寮への道を歩く。
夕暮れ時の太陽がゆっくりと水平線に沈むのと同様に、私達の歩みもゆっくりとしたものだ。しかし不満はない。むしろずっとこの時間が続けば良いとさえ思ってしまう。不謹慎かもしれないが愛する人の支えになっているという思いが私の心を満たしている。一夏の重さ…それが暖かく心地良い幸福感を生み出している。
なんて幸せなんだろうか。
「箒、簪…」
急な一夏の言葉に私は内心で飛び上がりそうな程にびっくりしてしまった。反対を見ると簪も少し動揺した顔をしている。
「ありがとう、あの1週間が無ければ…、俺は負けていたよ」
静かにでも心の底からの感想なのだろう。一夏からの感謝の言葉に自然と頬が釣り上がる。
「ああ、気にするな。それよりも格好良かったぞ」
「うん、素敵だった…」
「そっか、最後は締まらなかったけどね」
苦笑いを浮かべる一夏だが、その表情は嬉しさを噛み締めているようだった。
「ふぅ〜」
「はぁ〜」
私と簪は、人の少ないラウンジでお茶を飲んでいる。一夏は部屋へと着くなりそのまま自分のベットで眠ってしまった。余程疲れていたのだろう、あれだけの激戦だから無理もないか。
「箒…」
「ん?」
「私たちが2人っきりになるのは初めてかもしれない…」
言われてみれば確かにそうだな。基本的には3人でいたしな。
「その…聞きたいことがあるの」
「?」
なんだろう?私も簪も不器用な方だから3人で話していても話題を振る事があまりなかったな。
…もう少し色々と話題作りができるようにしたいな。
「箒も…一夏の事が…好きなんだよね?」
呼吸が止まった…。突然のカミングアウトだ。彼女の「も」と言う言葉が、私の心に重くのしかかった。
…いや、本当は分かっていた。一夏と話している時の簪は本当に楽しそうだった。それだけで十分だ。
簪も一夏のことを好きなんだ。
「ああ、私は一夏のことが好きだ。…愛している」
そうだ、この気持ちに嘘はつけない。真っ直ぐに簪に伝えた。
「やっぱり…そうだったんだね」
簪が苦笑いをしながらため息をつく。
「簪も、やはり一夏のことを好きなんだな?」
「うん、その…一夏は私とって恩人なの」
それから簪が話出した。一夏との出会い、臆病な自分に友達の作り方を教えたこと、生徒会長である姉に劣等感を感じていた自分に織斑先生と戦うことで身を持って立ち向かう勇気を示してくれたこと…。
「これが、私が一夏を好きになった理由」
「そうか…変わらないな」
「え?」
「実は私も一夏に救われたんだ。」
私も簪に一夏との出会いを話した。最初は私が一方的に敵視していたこと、そんな自分に一夏は変わらずに接してくれたこと、私を守るために男子4人を相手に戦ったこと…。
「なんて言うか…」
「ん?」
どうして簪は複雑な表情をしているんだ?私は渇いた口を潤すためにお茶を飲む。
「正義のヒーローが颯爽と助けに来てくれたんだね。羨ましい」
「ぶはー‼」
思わず飲みかけのお茶を吹き出してしまった。あ、虹が綺麗だな〜。じゃなくて‼‼
「と、と、突然何を言い出すんだ!」
今の自分は頬に熱が集まるのを感じながら、元凶に食ってかかる。
「だって…箒のピンチに颯爽と駆けつけて悪の4人組を倒しちゃったんでしょ?それってアニメの世界みたいよ」
「う、うーん。確かにそうだが…」
一夏がヒ、ヒーローか間違ってはいないが…そう考えると何だか急に恥ずかしくなるな。
「その、私は一夏が好きだけど箒とは友達でいたいの」
「…」
「ダメかな?」
言い終わると急に小さくなってしまう簪。全く何を心配しているのか知らないが
私の答えは1つだ。
「そんなことないさ。私たちはいつまでも友達だ。…そしてライバルだ」
何のとは言わない。簪は一瞬驚くが、いつになく強気な笑みを浮かべる。
「負けないよ」
「私だって」
「「ふふふ、あはははは」」
何だか良いな。転校ばかりしていた私にとっては新鮮だ。IS学園に来て本当によかった。
「それでは、1年1組のクラス代表は織斑君に決定しました。1つながりで縁起がいいですね」
山田先生の発言に皆が拍手をする。クラス代表は特に問題なく俺に決まった。自身の努力で勝ち得たから嬉しさも大きい。
「あの、織斑先生。1つよろしいでしょうか」
挙手をするセシリア
「オルコットか、どうかしたのか?」
彼女は立ち上がり教卓まで進むと、クラスのみんなに向かって頭を下げた
「先日はクラスの皆さんだけでなく日本の方を侮辱するような発言をしてしまい大変申し訳ありませんでした。深く謝罪いたしますわ」
突然の謝罪にクラスの皆も戸惑う。さてと、フォローに回りますか。俺も立ち上がりセシリアの隣に移動する。
「皆の戸惑いも最もだと思うけど、俺からもお願いします。セシリアを許してあげて欲しい。この通りだ。」
そう言って俺も皆に向かって頭を下げた。
パチパチパチ。
どこからか拍手がなる。不思議に思い顔を上げると何とそれはあの時に一番怒っていた箒からだった。そこからのほほんさん、谷本さん、相川さん、最後は全員が拍手をしていた。どうやら皆が受け入れてくれたようだ。
「オルコット」
「は、はい」
千冬姉さんから呼ばれて、セシリアは少し萎縮しながらも返事をする。
「これで懲りたようだから私から言うことはない。今後は代表候補性として、その肩書きの重みを十分に理解し、精進しなさい。わかったか?」
「はい!」
セシリアの力強い返事に姉さんも満足したようだ。
では二人とも席に戻りなさい、という姉さんの言葉で俺達は自分の席に着く。
「それではクラス代表は織斑一夏に決定だ。織斑にはクラス代表としての頑張りに期待する。では授業を始めよう」
これにて原作1・2話が終了
次回は皆大好き鈴ちゃん登場?
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