IS~転~   作:パスタン

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皆さんが楽しんで頂ければ幸いです
ではどうぞ・・・


セシリアとの戦い2

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 白式からの要求に一夏は迷わずボタンを押す。刹那、脳内に膨大な情報が流入する。通常なら人の脳では耐えられない情報量を苦も無く理解していく。

 

 眩く光が段々と収束していき、白式はその姿を現した。くすんでいた白は純白へ、全体的なフォルムは美しく洗礼されたものへ、肩部の高出力スラスターは天使の翼を連想させる様なある種の荘厳さあるいは神秘さを帯びた物へと変貌した。

 

「まさか…一次移行(ファーストシフト)!?あなたは今まで初期設定だけの機体で戦っていたというのですか!?」

 

 一夏は答えない。反対に一夏は彼女の名を呼ぶ。

 

「セシリア・オルコット…」

 

 ただ名前を呼ばれただけ、それなのにセシリアは心臓を掴まれたような感覚に陥った。

 

「君の言っている事も正しい」

 

「あ、あなたは何を…?」

 

 言葉の意味を理解できないセシリアの問いに構わず一夏は続ける。

 

「ISの誕生よってそれまでの男女の立場が逆転し、世界の風潮で俺達『男』は君たちにとって弱く、そして取るに足らない存在としか認識されなくなってしまった…」

 

「…だけど、訂正しなければいけないことがある」

 

 一夏の瞳が真っ直ぐとセシリアを射抜く。

 

「男という生き物は…大切な存在の為なら己の命を賭して戦う事が出来る!例えそれが、敵わない存在であろうともだ」

 

「っ!?」

 息を飲むセシリア。尚も言葉を紡ぎながら一夏は進化したブレード「雪片弍型」の切っ先をセシリアに向けた。

 

「俺のこの想いも信念も誇りも矜持も…誰であろうと穢せはしない!!ここから先は一歩たりとも譲らんぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

「「……」」

 

「おい2人とも、呆けている場合ではないぞ」

 

「「はっ!!」」

 

 全く、恋する乙女の顔だな。だが無理もないか…。一夏の言葉の一つ一つが2人の心へと響いたのだろう。それは私とて例外ではない。

 

 もし「言霊」という現象が存在するならば今のはまさにそれなのだろう。

 

 あの頃から何も変わっていない。誰よりも穏やであり、誰よりも苛烈であり、そして誰よりも「深い闇」とともに生きることを選んだ存在。表面上はうまく隠しているつもりだろうが、見くびってもらっては困る。幼い頃から見てきたからこそ分かるんだ。

 

 お前が私の想像つかないものを抱えていることを…。私がそれを指摘しないのは、その闇がお前に順応しているからだ。恐らく拒絶や抑え込むのではなく、受け入れたからこそ成せる技なのだろう。何はともあれ私はお前を信じる。

 

 かつて、私を守るためには戦ってくれたお前を…ただ信じるだけさ。

 

「ん?」

 

 ふと妙に静かな山田君が気になって視線そちらに向けて見た。

 

「…」

 

 おい、山田君。なんで君までそんな顔をしているんだ?私は手に持っていた出席簿を山田君目掛けて振り下ろした。

 

バシーーーン‼

 

「へぶ⁉」

 

「山田君。君も呆けている場合じゃないぞ」

 

「はひ、す、すみません!」

 

 

さぁ、見せてみろ一夏!お前の「力」を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファーストシフトを終えた白式の性能が頭の中に入ってくる。恐ろしいほどの性能だ…。油断はしないが…確信がある。

 

 この勝負俺の勝ちだ。

 

「いくぞ!セシリア・オルコット!!」

 

「どこまでも…私を!!」

 

 今だに健在な3機のビットが俺を襲う。しかし怖くはない。

 

 通常ブーストでそれらの攻撃を避ける。

 

「なっ!!」

 

 ファーストシフト前のスピードと比較にならない程の速さで近くのビットを叩き切る。意識がより鮮明になりビットの動きがしっかりと見える。そのまま動揺してコントロールを失った二つのビットを続けざまに破壊。

 

「まだですわ!!」

 

 言葉と同時に腰に装備された2機のミサイルビットが、こちらに迫る。だが焦りはない。イグニッションブーストを使用しすれ違い様にミサイルを破壊、爆発的なスピードでセシリアに迫る。

 

「このーー!!」

 

 そんな叫びと共にスターライトmkⅢのビームが俺に向かって放たれた。イグニッションブーストを使用している俺は方向転換が出来ない。

 

でも…、白式なら答えてくれるはずだ!!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 ここで白式のスピードが更に増す。かつて姉さんが使用したダブルイグニッションブーストが成功したのだ。ワンオフアビリティー「零落白夜」を発動。ブレードか展開し刀身が美しいビーム状に変化する。

 

 そのまま迫り来るビームの射線上にブレードを縦に振り抜く。

 

「あっあぁ…!!」

 

 セシリアが驚愕する。ビームを文字通りに「斬る」という非現実的な事が目の前で起こったのだ。そうしてる間に俺の攻撃範囲に入った。

 

「これが…、織斑一夏だ!!」

 

 そう言いながら横一閃にセシリアを切り裂いた。

 

 直後にブザーがなる。

 

 

 

 

 

「試合終了!勝者織斑一夏!!」

 

 

 

 

 

アリーナに一際大きな歓声が響いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「うっ…」

 

 格納庫に帰投すると同時に白式が待機状態になり、俺は片膝をついた。予想以上の疲労感だ。身体が鉛のように思い…。

 

「「一夏!?」」

 

 焦ったように箒と簪が駆け寄ってくる。

 

「だ、大丈夫か一夏!?」

 

「どこか痛めたの!」

 

「いや、予想以上の疲労感で…、どうやらガス欠らしい」

 

 慌てる2人に力なく笑いかける。いやはや、我ながら締まらないな〜。二人の肩を借りて立ち上がると山田先生と織斑先生が立っていた。

 

「よくやったな織斑。今日は…ゆっくりと休むんだぞ」

 

 優しく微笑み頭を撫でながら労う織斑先生。ちょっと恥ずかしいけど俺も満更でもない。

 

「織斑君、私も感動しました!」

 

 興奮した表情で笑みを浮かべる山田先生。2人に言われてようやく実感が湧いた。

 

 俺は、勝てたんだな。嬉しいが込み上げ、自然と頬が釣り上がる。

 

「はい、ありがとうございました」

 

「さぁ、一夏行こう」

 

 そうして俺は2人と共に帰路へと着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 シャワーのノズルから熱い湯が吹き出す。水滴が私の肌に当たって弾ける。心地良い感覚が私の全身を包むが、心は今だに混迷の中にある。

 

「負けた…」

 

 自然と口から零れた言葉だがそれを否定する気持ちは一切起こらない…。この1週間、彼は勝つために必死に努力をしたのだろう。後悔よりも先に彼に対する申し訳なさが心に浮かんだ。私は何をしていたのだろうか?彼は自分が持つ全ての力を私にぶつけた。

 

 でも…自分はどうだった?自分の思うようにいかなければ幼子(おさなご)のように周囲に喚き散らし、挙げ句の果てに相手を慢心して挑み、そして負けた。

 

 そして試合開始から私を捉え離さなかったあの目、私には覚えがある。私がまだ幼い頃、両親と共に博物館で見た動物「狼」だ。悠然と岩の上に佇むその姿はどこか犯してはならない荘厳さがあった。そしてその目は、まるで生きているかの如く輝いていた。死して尚も誇り高いその出で立ちに心を奪われた私は閉館時間までそこを動かなかった。

 

「……」

 

 思えばこの2年間で多くの事があった。突然の事故で他界した両親。その財産を守るために必死になって勉強した。ISもその一環でチャレンジした結果、適性A+を残した。それから専用機「ブルーティアーズ」の候補に選抜された。

 

 

 そして…この日本で出会ってしまった。

 

 

「織斑、一夏…」

 

 誇り高い狼の瞳を持つ男性、若きサムライ…。話がしたい。謝りたい。彼だけではなくクラスの皆にも。

 

 私は居ても立っても居られなくなり、彼の部屋へと向かった。

 

 

 

 

「う……、うーーーん」

 

 視界が開ける。覚醒時特有の気だるさが残るも、ある程度は体力が回復したようだ。あたりを見回して気が付いた。

 

「箒?」

 

 どうやら留守のようだ…。食事にでも行ったのだろうか?そんな風に考えていると、ふと視界に入った右手のブレスレット。白式の待機状態だ。

 

「………」

 

 今回俺が勝てたのは白式のお陰だ…。いや、正確には白式の性能と彼女たちの協力がなければ自分は負けていた。

 

「これからもよろしく…相棒」

 

 自身の更なる成長を誓いながら白式に語りかける。見間違えかもしれないが俺の言葉に応えるかのように一瞬光ったようだった。

 

 

 

 

トントン

 

 

 突然のノックが来訪者を知らせる。誰だろうか?

 

「はーい、今開けますよ~」

 

 そう言いながら俺がゆっくりとドアを開けるとそこに若干緊張したセシリアさんが立っていた。

 

「ご、ごきげんよう…」

 

「オルコットさん?」

 

「あ、あの今…お時間よろしいでしょうか?」

 

 以前の高飛車な態度が鳴りをひそめている…。何か大事な話があるのかな?

 

 そう推測した俺は笑顔で答えた

 

 

「立ち話も何だし…。中へどうぞ」

 




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