IS~転~   作:パスタン

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大分時間が掛かりました。
申し訳ありません。
皆様が楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・


姉弟対決

 どうも、格納庫で機体の最終チェックをしている織斑一夏です。

 

 あのサプライズマッチ決定から2週間が過ぎ、いよいよその当日を向かえた訳だが…。

 

 どこからか試合を聞きつけた研究所の職員たちが試合会場であるアリーナにいるのだ。それも一人や二人ではない。一体何処にいたのやら、詰めかけた職員は少なく見積もっても100人はいる。分からなくもないが自重してほしい。そんな若干の憂鬱感を持ちながら、俺は機体のチェックに勤しんでいる。

 

「システムチェック……オールグリーン。近接ブレード『葵』……状態良好。打鉄の最終チェック完了……ふぅ〜〜」

 

 試合前の状態チェックが、たった今終わった所である。傍らでは、簪がブースターの調整をしてくれている。

 

「一夏、ブースターの最終チェックも終わったよ」

 

簪の言葉に俺も頷く

 

「ありがとう簪。でも自分の訓練まで休んで大丈夫?」

 

 そう簪は、この日のために自分の訓練を休んで、俺の機体のサポートをしてくれている。

 

 そう言う俺に対して簪は、にこやかに返答した。

 

「大丈夫。ちゃんと休みの申請は出してあるから…」

 

「それに…」

 

「それに?」

 

「大切な友達を助けない友達はいない…でしょ?」

 

 以前俺が言ったセリフを、簪にイタズラっぽい笑みを浮かべて言われてしまった。

 

「はは、こりぁ一本取られたな」

 

「ふふふ」

 

 ついつい、互いに笑みが零れてしまう。試合前で高揚していた気持ちが幾分か落ち着きを取り戻しつつある。

 

 無理もない…相手は公式戦無敗の王者、ブリュンヒルデの名を冠する我が姉織斑千冬だ。そんな王者がISを操縦し始めて間も無いヒヨッコ同然の俺の相手をしてくれる。IS乗りにとってこれ程の名誉は無いだろう。

 

「一夏、少し聞いて欲しいことがあるの…」

 

 突然簪が真剣な表情で話し始める・

 

「うん」

 

「私にもね…一つ歳の離れたお姉ちゃんがいるの」

 

 恐らく更識楯無さん(さらしきたてなし)の事だろう

 

「うん」

 

「お姉ちゃんはね、ロシアの国家代表。性格も明るく優しくて…私とは正反対なの…」

 

「…」

 

「そんな完璧なお姉ちゃんと私は、いつも比べられていた。…そして私は、いつの間にか劣等感の塊になって自分の心を閉ざしていたの」

 

「一夏…」

 

「ん?」

 

「あなたがこれから戦う人は、世界最強のブリュンヒルデ。そして…あなたのお姉さんでもある。…怖くは無いの」

 

 分からなくもない。俺も学校で「ブリュンヒルデの弟」と言われることが多々あったのも事実だ。そんな事を幼少時代から言われ続けていれば心を閉ざしてしまうのも何ら不思議な話ではない…。

 

 かといって、こんな状態まで放置していた更識先輩を責める気も起きない。恐らくだが、どちらもどうにかしなきゃいけないと考えながらも、互いに触れ合うのが怖くなってしまったのではないだろうか…。エヴァの金髪博士曰く「ハリネズミのジレンマ状態」だったと推測できる。まぁ、ここは素直に答えましょうか

 

「怖いよ」

 

「え?」

 

「昔から姉さんの戦いをまじかで見てきたからね。…その強さは誰よりも知ってるつもりだよ。」

 

 縦横無尽に駆け巡る機動、その細腕のどこから来るか分からない信じられない一撃、例を挙げればそれこそいつまでも語れる自信がある程に姉さんの戦いを見てきた…。

 

「…」

 

「でも、それ以上に楽しみでもある」

 

「…楽しみ?」

 

「今の自分の力がどれだけ通用するのか…まぁ〜これは試験だから実力の二割も出さないと思うけどね。」

 

「一夏…」

 

 そんな時に通信からアリーナ入場の知らせが届く、最後にこれだけ簪に伝えよう。今の彼女なら分かってくれるはずだ。

 

「見ててくれ簪」

 

「…」

 

「俺の勇気を…」

 

「!?」

 

 

 

「織斑一夏、『打鉄』行きます!!!」

 

 ちなみにこれは、某機動戦士風です。

 

 

 

 

「来たか…」

 

 誰に言うでもなく千冬は呟く。双方が乗る機体・武器ともに同じもので揃えている。

 

 両者が所定の位置に着くと双方のISに通信が入った。

 

「本日、試験の判定をする山田真耶『やまだまや』です。ルールの説明をします。制限時間は1時間1本勝負。シールドエネルギーが0あるいは手持ちの武器が破壊された場合、その時点で試合終了とします。双方よろしいでしょうか?」

 

 お互いに頷く事で了解の意を伝える。

 

「……」

「……」

 

 静寂…、両者は語らない。眼をつむり、1つ深呼吸を入れた一夏の雰囲気が変わる。次いで開かれたその眼光からは、目の前の相手を打倒さんとする確固たる決意が滲み出ている様であった。

 

 そのまま一夏は無言で近接ブレード「葵」を鞘から引き抜き、正眼に構える。それを見た千冬はニヤリと笑い、持っていたブレードを上段に構えた

 

「言葉は…、不要か」

「推して参る」

 

研ぎ澄まされた雰囲気の中、真耶の声が双方に響き渡る

 

 

 

 

「試合開始!!!」

 

 

 

 

 開始の言葉とともに両者が近づき正面から振り上げたブレードがぶつかる。一回、二回、三回と、互いのブレードがぶつかり合う。ブレード同士がぶつかる音は、一種の音楽の様な錯覚すら覚える。

 

 一夏の戦闘スタイルは「柔」・「剛」・「流」を併せ得たバランスタイプだ。 

 不用意な攻撃が来れば「柔」の技を持って相手をいなし、一撃を加える。逆に相手が亀の様に防御に徹するならば、一撃で断ち切るような「剛」の技を持って相手を倒す。更に相手との戦力差など状況によっては、機動力を生かした「流」によって相手の機先を制するような戦い方をする。

 

 本来ならば一夏は、早々にこの打ち合いから脱出し「柔」か「流」のスタイルで戦いの流れをこちらに引き寄せる考えでいた。…が、甘かった。早さと力を併せ持った千冬の「剛」の剣に一夏は打ち合いをするしか選択が無くなってしまったのだ。

 

 1つ1つの攻撃の重さもさることながら、剣の返しが早くこちらは反応するのがやっとという状態に追い込まれていた。この状況で下手にスタイルを変えれば大きな代償を支払ってしまうのは明白だった。姉弟は同じようなスタイルでありながら、その技量は想像を超えた差があるのだ。

 

 何とか追い付いているがジリ貧だ。このままではいずれ押しつぶされる。それを分かった上で一夏は冷静に相手を見据えた。

 

 

そして「それは」起きた。

 

 千冬が袈裟切りを出した瞬間、一夏が動いた。両手で持っていたブレードの左手を離し、腰に備えられている鞘を手に持ち向かってくるブレードに平行になる様に合わせ千冬の攻撃をいなしたのだ。

 

「!?」

 

 若干よろめく千冬に一夏は右手のブレードを千冬の脇腹に放つ。瞬時に態勢を立て直した千冬が左に飛ぶ。

 

 この試合で両者が初めて離れた。双方が一定の距離を空けしばしの間の後、千冬が笑みを浮かべながら一夏に語りかける。

 

 

「先制は奪われてしまったか…」

 

 初めは、千冬の言葉に観戦者達は訳が分からないと言った表情を浮かべていたが、モニターに表示されている両者のシールドエネルギーを見てその表情を一変させた。本当に微量ながら千冬のシールドエネルギーが減っているのだ。受けたダメージは人間で言えば特に問題のない掠り傷である。

 

 しかし、ISを乗り始めて僅か一月半しか経過していない素人が最強の称号を欲しいままにしたブリュンヒルデに手傷を負わせたのだ。

 

 その意味は推して測るべきであろう。

 

 観客達の歓声の中、双方は初めて言葉を交わす。

 

「狙ってやったのか?」

 

「数ある可能性の一つに入れてただけさ。打ち合えば必ず追い詰められるのは分かっていたからね」

 

「ほう」

 

「下手に下がればキツイ一撃を貰うのは目に見えてたし、あの状況はさっきの距離で我慢強く勝負に徹するしかなかったんだ」

 

 一夏の答えを聞いた千冬は更に笑みを深める。

 

「言うは易し、行うは難しだ。分かっていても私と打ち合おうとする度胸のある奴は、国家代表でもどれだけいるか分からんな」

 

「ヒヨッコには勿体ない賛辞だね」

 

 一夏は、苦笑いを浮かべる。

 

「褒めるべき所は褒めるさ。私の場合、若干そのハードルは高いがな…」

 

 一夏の笑みが引きつる。

 

 両者が再び構える。千冬は先ほどと変わり、ブレードを正眼の構えにする。

 

「さて、お次は機動だ。」

 

 言うや否や、千冬は爆発的な加速力で一夏に迫る。その動きに合わせる様に一夏はバックブーストを掛けながら払い切りを放つ。が、そこから千冬は廻り込むような機動を加え一夏の左肩を強かに打ち据え通り過ぎる。

 

「ぐっ!!」

 

 痛みに思わず声が出るが、ヒット&アウェイの如く瞬時に方向転換した千冬が更にブーストをかけて迫る。堪らず一夏は上昇しそれを避けるが、更に千冬は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使いその軌道を一夏へと向けて迫る。

 

「ちっ!?」

 

 迫るブレードに一夏はブレードの反りの部分に手を当て防御の構えを取る。

瞬間、まるでトラックが全速力で突っ込んできたような衝撃をその身に受けながら遥か後方に下がる。ブーストを吹かす事で何とかシールドへの激突は防げたが、先ほどの攻防で少なからずシールドエネルギーを消費してしまった。

 

 守ったら負ける攻めるしかない!!

 

 再びブーストを吹かしながら向かってくる千冬。負けじと一夏もブーストを吹かしながら互いに交錯する一瞬にブレードを振るう。

 

「ぐわ!!!」

 

 だが一夏の攻撃は避けられ、代わりに千冬のブレードが一夏を捉える。機動力では勝負にならない事を知りながらも、あれに対抗する術(すべ)を持たない一夏は、千冬のブレードの軌道を先読みし、いなす要領で千冬の剣をさばく高速機動戦に従事するしかなかった。

 

 それども3回に1回は攻撃が当たってしまう事から一夏のシールドエネルギー残量は確実に減少していった…。

 

 そして更に悪い事は続く。

 

 突如、一夏の打鉄から警告音が鳴り響いた。

 

 

「警告!!警告!!近接ブレード『葵』の耐久力が限界に近づいています!!完全破壊の可能性95%!!」

 

 

 無機質なモニターからの警告は最悪な報告を一夏に伝える。

 

「馬鹿な!?」

 

 高速戦闘を続けながら、慌てて「葵」のステータスをチェックすると所謂「鎬(しのぎ)」の部分だけ危険領域である赤色に染まっていた。他の部位も注意領域の黄色に染まっていたが何かがおかしいと一夏は本能的に感じた。

 

 そして衝撃的な結論に至った。あれだけ縦横無尽に駆け巡っていた千冬が静かに佇んでいる。それはまるで生徒に解答を求める教師の様に…。

 

 先程とは逆に一夏が千冬に質問する。

 

「最初っから…鎬だけを狙って打ち込んでいたんだね」

 

「正解だ」

 

 千冬は静かに簡潔に述べた。

 

「あの速さで、同じ所に当てるなんて…。正気の沙汰じゃないよ」

 

 一夏の弱々しい悪態に千冬が涼しい顔で答えた。

 

「難しい事ではない。国家代表でも同じ芸当が出来る奴に心当たりがある」

 

「そっか…」

 

 国家代表の凄さに若干の眩暈を感じる一夏に千冬は投げかけた。

 

「さてどうする?」

 

 恐らく降参の意も含んだ選択を投げかけたのだろう。だが一夏は不敵な笑みを浮かべ言い放つ。

 

「…降参はしない」

 

 そう言うって地上に降りていく一夏を千冬が追う。両者が一定の距離を置く形になる。一夏が鞘に「葵」を納め抜刀術の構えを取る。

 

「ほう、私に抜刀術で挑むか?」

 

 千冬の真剣な問いに一夏が答える。

 

「高速機動戦では勝ち目はナシ。その上『葵』がこんな状態では、打ち合う事も出来ない…。加えて俺のシールドエネルギーも限界に近い。…ならば一撃必殺の抜刀術に賭けるしかない」

 

「お前の判断は正しい。だが、随分と分の悪い賭けになるな…」

 

 一夏は、不敵な笑みを浮かべて切り返す。

 

「嫌いじゃないさ!!」

 

「…ふっふふふ。そうか」

 

 千冬も同様に抜刀の構えを取る。 

 

 観客も一様に静まり返る。今の二人の戦いは、ある種「神聖」な雰囲気を醸し出している。誰も邪魔が出来ない状況…。互いが構えを取りしばしの時間が過ぎていく。

 

 

 

 

 刹那、互いに砂煙をあげながらイグニッション・ブーストを発動し、交錯するその一瞬、一夏は持てる己の力の全てをを壊れかけの刀に乗せ、横薙ぎに振り抜きそのまま通り過ぎて行った。

 

 砂煙が収まり、両者の姿が現れる。互いにブレードを振りぬいた状態で止まっていた。

 

 しかし、一夏のブレードは、ほぼ中間点から綺麗に折られていた…。

 

 その瞬間、アリーナに真耶の声が響く。

 

「し、試合終了!!織斑一夏機、ブレード破壊及びシールド残量0!!よってこの試合『織斑千冬』の勝利です!!!」

 

 その宣言がされた瞬間、全ての観客が立った。所謂スタンディングオベーションの状態でアリーナから歓声と惜しみない拍手が両者にいつまでも送られた。




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ではまた次回

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