姪が生まれたりで色々あったもんで更新がちょい遅れました。
今回は閑話です。見なくともあまり今後に影響のないほのぼの?な話。
微妙にキャラがぶれてます。
「ヴィータちゃんって見た目よりずっと大人なんですよね?」
先日のランスター撃墜より数日後の昼食時。ニンニクと唐辛子(地球のものとは厳密に言えば異なる物)等で味付けされたパスタを口へ運びながら健はふと気が付いたことを言葉にする。
「そうね。ヴィータちゃんや私達は大分昔から生きているから、進藤くんよりずっとお姉さんよ」
「稼働時期だけで言えばそう長くはないがお前の祖父母よりも、ずっとな」
答えたのはシャマルとシグナム。横にいる狼、ザフィーラを合わせた4人で食事中だ。別のテーブルにはランスターら新人グループ。彼女達のテーブルの上には凄まじい量のパスタが盛られた皿が2枚。ナカジマとエリオのものだ。2人は大男というわけでもないのにかなりの大食漢である。特にナカジマはいい年齢の女性であるが、体重等は気にしないのだろうか、と健も初めて見た時は気にしたものだ。健に近づいてきた女性というのは、誰も彼もカロリーを気にしていたものだった為に、余計に。
健もナカジマ達ほどではないが多く盛られたパスタを食べ進みながら、話を続ける。
「年上となると、呼び方や話し方を変えた方がいいんでしょうか。それに俺はヴィータちゃん達から保護を受けている立場ですし」
健の現在の立場は正規の管理局員でも嘱託でも、民間協力者ない。ロストロギアの影響を受けて保護されているだけだ。故に、健は基本的にここの局員達に敬語で話す。エリオやキャロ、ヴィータやリインに対してはどう努力しても「ただの子供」にしか見えず、敬語が使えなかった。彼ら彼女らの魔法を幾度と見ても、なお、である。
「どうだろうな。無理をしてまで変える必要はないと思うが……」
「ヴィータちゃん、子供扱いされるの嫌いだから……はやてちゃん以外からは……」
シグナム達が難しい顔をしているところへ、スッとテーブルの上へ食事が乗ったお盆が1つ、置かれた。置いたのは件の少女、ヴィータだ。よぅ、とそこにいた人達に一声かけ、椅子に座る。
「あたしは構わねーぞ。今のままの呼び方で」
どうやら先の会話が聞こえていたようだ。そう言ってからパスタを口に運ぶヴィータ。彼女のものは唐辛子が少ないようにも見える。
「いいの……ですか?」
なんとか敬語を使って話す健にヴィータは、おぅ、と小さく頷く。
「扱いを変えようとしただけで十分だ。お前はあたしの部下ってわけじゃねーしな」
この会話を聞いていたのか、ナカジマが興味深そうにこちらを見ている。その視線に気付いてか「部下で舐めた口きくならアイゼンの頑固な汚れにしてやるけどな」と加え、ナカジマは罰が悪そうに彼女の前にある食事に目を向けた。
ヴィータの言葉に健は彼女への評価を高いところまで上げた。彼女なりにコンプレックスがあるであろうことを、寛大な心で許したことを。健から感嘆の声が小さく漏れた。
「……んだよ」
「いや、ヴィータちゃんって本当に大人だね」
今度はヴィータが驚く。健の感嘆の声を、馬鹿にしていると受け取りやや不機嫌に返したところ出てきたのがこの言葉だったからだ。『大人。』
これはヴィータにとって憧れの言葉でもある。無理をしてブラックコーヒーを飲んだ時も、ファミリーレストランで大好きなオムライスを頼まずに焼き魚定食を頼んだ時も言われなかった一言。
その一言に、ヴィータは――
「そ、そうか? いや、良くわかってるじゃねーか! いやー進藤! お前はたいした奴だ!」
――すっかり気分を良くしてしまった。
「おっし、あたしのデザートをやろう! なんたってあたしは大人だからな!」
生クリームとフルーツが乗った小皿を健のお盆へ移動させる。その行動に「やっぱり子供なんだな」と思う健であった。
シャマルがいい笑顔をしていると、そこに3人の女性が近寄ってくる。
「お、珍しいやん。ヴィータがデザートを人に譲るなんて。何かあったん?」
「こんにちはー」
八神、高町、テスタロッサだ。3人の休憩時間が重なったらしく同時に現れた。シャマルが先ほどのやりとりを説明すると3人はいい笑顔を浮かべた。
「進藤くん、なかなかヴィータの扱い方を心がけてるなぁ。シグナムからヴィータ狙いに切り替えたん?」
ただし、八神は少しだけ意地悪い笑顔。
健は八神のことが苦手である。好きか嫌いかでいえば好きだ。嫌いではない。
以前のロストロギアの影響で健は昔の八神のことを鮮明に覚えている。その時は、今のように意地の悪い笑顔を浮かべるような少女ではなかった。今とのギャップにより苦手意識が植え付けられる。
「何いってるんですか八神さん。俺は先生一筋ですよ」
顔色を変えずに返す。その際シグナムを見るが彼女も顔色1つ変えず、健はまたしても不満を覚えた。
「うーん、つまらんなぁ」
八神は八神なりに不満があり、それを見ていた高町達は苦笑する。八神が“健で遊んでいる”ことを彼女達は分かっている。
すると、八神は何かを思いついたようで口角を釣り上げる。
「なぁ進藤くん? 私のこと名字やなくて名前で呼んでくれん? はやて、って」
「はぁ……八神さんが良いならそうさせて貰いますけど、どうしたんですか急に」
唐突なセリフに驚きつつも了承するも、脈絡のなさに疑問をもつ。八神は狸の尻尾、というより小悪魔チックな尻尾を生やして(本当に生えているわけではない)微笑む。
「いやぁ、進藤くんがシグナムと結婚するなら私達、家族やん? 早めに慣らしておいた方がえぇかなーって」
ヴィータとシャマルは口に含んでいたものを吐き出し、健はなるほど、と頷く。テスタロッサ達は「はやての家族なら、私達とも深い仲だから私達も名前で呼ぼう」と提案。 しかしながら、シグナムは。
カチリ、と金属製のフォークをテーブルの上に置く音。置いたのはもちろんシグナムだ。
普段とは異なる雰囲気を作り出した彼女は、同じテーブルだけではなく同室の全員を身に纏った空気だけで黙らせた。
「主」
問いかけに、八神はビクリとする。シグナムが怒っていることを感じ取れたのは八神がシグナムの主だからではなく、それだけの気迫があったからだ。
「主は、私が進藤に負ける、と。そう仰るのですか」
健とシグナムの間には、1つの約束がある。
「進藤がシグナムに剣道で勝てば結婚する」という10年前からの約束。
2人が結婚するということは、すなわちシグナムは健に敗北を記している。
シグナムは、八神がそれを意図しての発言だと思ったのだ。
シグナムは八神に対して怒ることなど、そうは無い。
今回シグナムが怒ったのは、八神が彼女に、騎士として信頼していない、と感じ取った。それが理由。
もっとも、怒るというより悲しみの感情に近いのだけれど。
八神は慌てた。彼女の守護騎士がここまで八神に対して不機嫌になることなど、記憶の中では一度きり。
ヴィータが大事にとっておいた、とある店の限定アイスを間違えて食べてしまった時だけ。あの時は高町の両親が経営する翠屋のシュークリーム5つで機嫌を取り戻したが。
シグナムに至っては初めてであり対処の仕方がわからなかった。
「い、嫌やなシグナム。シグナムが一対一で負けるはずがないやろ? でも進藤くんかてずっとシグナムのこと想ってるんやし、そういうことにならんとは限らんやん?」
そもそも、八神の先の一言、結婚するかもしれないというのは本心からの言葉ではない。
健は少なくとも10年はシグナムを追い続けている男。他の女性を追ったことがないことも、友人からの情報で伝わっている。
だがロストロギアの影響でそれも変化してしまって、健は女性特有の豊かな実りが好きになってしまっている(と八神は考えている)。
最低限、それを治療して、出来れば魔導師としての実力も執務官クラスは欲しい。そうでもなければ大事な家族を嫁にやることなど出来ないと、そう考える。
もちろん守護騎士が自身の意志で誰かと共に生きたい、と強く願ったうえで、だ。
そうなるうえで、守護騎士が恋愛に目覚めることは必須だ。
今のところ守護騎士達がそういった恋愛事情を八神に話したことはない。
人として恋愛してもらいたいという願いも、彼女にはあり、きっかけになればと焚き付けたのだが。それは失敗したようで。
八神や、シャマルのフォローにも耳を貸さなくなってしまった。
健はと言うと何か思いついたようで、先ほどの八神と同じく口角を上げる。
「八神さん……いえ、はやてさんの言う通りですね。どうか皆さん、俺のことも『健』とお呼びください」
と焚き付け。
「貴様……。良いだろう。訓練場にこい。実力差を思い知らせてやろう」
シグナムは怒る。
――こんなはずやなかったんやけどなぁ。
八神の呟きは、高町とテスタロッサだけに聞こえた。
おまけ
「それじゃ、私のことはなのはで」
「わかりました。なのはさん」
シグナムをどうにか落ち着かせ各人への呼び方を確かめあう。健はだいたい「健」か「健くん」と呼ばれることに。シグナムからは変わらずに「進藤」と。
健としてもシグナムからの呼ばれ方を変えてもらう気はない。変えるときは、結婚が決まった時だけだ。
八神と守護騎士、それに高町が確認しあい、同テーブル場で残っているのはテスタロッサだけだ。
だが……
「私はフェイトって呼んでください」
テスタロッサの言葉に、健は一向に頷かず、視線があわず。
健はテスタロッサのことが八神とは別ベクトルで苦手だ。
好きか嫌いかで言われれば、好き。それもかなりの位置で。
苦手な理由、好きな理由は敢えて語らない。
(どうしようなのは。私、彼に失礼なことでもしちゃったのかな?)
(うーん……わからないなぁ……)
健の様子を見て高町、テスタロッサが念話でやりとりをする。テスタロッサの疑念は分からないでもないが、彼女は悪くない。「悪」があるとするならば、それは彼女の、数多の男を魅了する豊満な体だけだ。
そういう点では健の反応は仕方ない。仕方ないのである。
「あの……?」
耐えかねたテスタロッサが声をかけてみると、健は一旦背けていた顔を彼女へ向けるがすぐに下を向き左右へブンブンと頭を振る。
またか、とそこにいた一同が思う。
ロストロギアの影響か、時々こうして頭を振る健。理由はいまだに分からないが、八神だけは明確に理解していたりする。というか、あれだけあからさまな視線に気が付かない友人、部下、家族に八神は小さな不安感を覚えている。
もっともあからさまだと感じるのは八神が「健の同胞」であるからであり、健の視線はそうそう見破れるものではないのだが。
いつまでも硬直状態が続くもので、しょうがない、と八神は助け船を出すことにした。先ほどのお返しも込めて。
(健くん?)
(やが……はやてさん。なんですか?)
(健くん、ゆーたよな?『シグナム一筋』って)
瞬間、健は八神を見やる。凄まじい速度だったもので周りは驚いている。
だがそれ以上に健は驚いている。
――バレた!?
気を付けていたはずだが、それを看破されてしまった。シグナムの家族である八神に、自分の視線を。
家族であるなら当然シグナムの耳に入るであろう。「健が女性の胸に見惚れている」ことを。
嫌な汗が流れる。誤魔化すにも先の反応で、八神の推測は正解であると伝えてしまった。どうすれば――。
(八神さん、違うんです!これは……とにかく違うんです! 俺は本当に先生が……)
(あはは、わかっとるよ。とにかく、このままだと怪しまれてまうで?)
何をどう分かっているのか。それはともかく、八神が助けてくれようとしているのは健にもなんとなく理解出来た。
(……どうすれば、いいですか)
(普通にフェイトちゃんを名前で呼べばえぇやん。フェイトちゃんに気があることバレたくないなら、普通が一番やで)
(気があるとかそんなんじゃ……わかりました。それで、俺は八神さんに何をすればいいんですか?)
(は?)
八神には健の言葉がわからなかった。八神が健に何かを求めているようだが、繋がりが分からない。
――あぁ、そういうこと。
健は、八神から脅しをかけられていると思っている。「シグナムに伝えられたくなければ」と。
――私って信用ないなぁ。
(あはは……別になんもせんでえぇよ? 保護してる人の秘密を誰かに言ったりするほど口は軽くないでー。フェイトちゃんに害を及ぼすようなら話は別やけど)
(そう……ですか。ありがとうございます。じゃあ何故揺さぶりをかけたんですか?)
(いや、面白くなるかなーって)
一旦は評価を上げた八神だが、すぐさま落とされた。
これが彼女が彼女たる由縁である。
「あの……?」
念話の間中、黙ってくれていたテスタロッサがようやく声をかける。八神と念話をしていたのは、その場の全員にバレている。視線で丸分かりだ。さすがに内容までは分かっていないが。
「すみませんテスタロッサさん。これからはフェイトさんと呼ばせてもらうので、俺もどうか健と呼んでください」
「は、はい。 よろしく、健」
ようやく名前を呼ばれたことを安堵してか、これまた普通の男を魅了する笑顔を浮かべたテスタロッサ。
だが健の視線は、もちろん。
地文で名字読みと名前読みのキャラの差は、健の呼び方という設定だったりします。
シグナム、ヴィータ、キャロ、エリオ等に対して高町、テスタロッサ、八神等。ハラオウンでなくテスタロッサなのも、シグナムにまねてのテスタロッサ呼びでしたので。
次回は時間をぶっとばしてヴィヴィオタソとの会合。修行編とかいりません!