「俺、シグナム先生と結婚する!」   作:Vitaかわいきつら

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刀ではなく剣でしたね。ご指摘ありがとうございます。両刃の刀。まさしく矛盾。

それとすみません。今回はコメ返信は無しで。努力についての見解は人それぞれで、ぶつかりあいになるかもしれませんし。
デバイスは和名ではないものにします。

第5話、どうぞ。


第5話

ランスターは健の言葉を反芻する。自分は努力の天才である、と。

 

彼女は、どんな形であれ天才と呼ばれるなど今までなく、自分でそう考えたことすらなかった。

多量の魔力も、レアスキルもない。あるのは彼女の兄から教わった射撃技術と、人並み程度の幻術だけ。

どう贔屓目に見ても、「それだけでは」天才とは言えないだろう。

 

ランスターの本領は、クレバーな戦術の組み立てと、精密な射撃だ。

だから彼女は無意識に憧れたのかもしれない。ド派手な砲撃、圧倒的な戦闘センス、「彼女だけの」技に。

 

それらがなくては「天才」ではない。天才とは、そういうものだと。彼女は、そう考えていた。

 

その天才達が数多く存在するこの世界の中ででも、彼女は証明したかった。

彼女の射撃は、兄から受け継いだ射撃技術は、どんな相手でも射ち貫く、天才達に引けをとらないものであると。

憧れた才を、彼女が持っていなくとも、だ。

 

 

健の言葉はそんなランスターにとって青天の霹靂とも呼べるものだった。まさか自分がその「天才」達の領域に足を踏み入れていたとは、思いもしなかった。

健の言葉が真実であるかはランスターには判断が出来なかったが、彼女はすんなりと受け止めた。

仮に自身が天才であるなら、それはそれで良かった。

彼女の目的は、証明だ。

 

 

努力の天才。

 

 

彼女が憧れた才ではない。

結局、努力をしなければ何も変わらない。だが、結構じゃないか。努力で、何かが変わるのなら。証明出来るのなら。

 

 

努力するしかない。

 

 

それが、努力の天才にできるたった1つの方法だから。

 

 

ランスターの努力は、その日のうちから行われた。日が変わる直前まで練習を行い、シャワーを浴び、寝る。翌日は早朝4時に起床し、また練習。

 

ランスターのパートナー、スバル・ナカジマも参加した。

努力すべきは自分だけだが、パートナーがいれば練習の幅も広がり質も向上する。

ランスターの性格のおかげで、感謝の言葉が彼女の口から出ることはなかったが、心の中で感謝した。

ランスターはまず手札の数を増やすにした。現状での、単純な戦力をあげるために。

魔力刃を形成する、接近戦用のもの。

ナカジマとの連携で、ウィングロードという空中での足場造りの道路のようなものを階段上に張り、ランスターも空中へ行けるようにするもの。

魔力刃は中距離では太刀打ち出来ない相手のため。ウィングロードは言わずもがな、機動力の低いランスターが動き回れるようになるために。

 

練習は厳しさを増す。

早朝深夜の自主練習だけではなく、日中の訓練もあるのだ。

それでも決して質を落とさずに訓練をこなすランスターは、なるほど、確かに努力の天才であった。

 

 

数日後の模擬戦で練習の成果を出す。それがランスター達のとりあえずの目標となった。

 

彼女達の相手であり上司、教導官の高町なのはに一泡ふかせること。その為に試行錯誤を繰り返す。

日付が変わるまで練習、日が昇るまで練習。

当然、苦しかった。吐き出すこともあった。それでもランスターは努力を続ける。

 

彼女は、それしか出来ないと思っていたから。

 

 

 

模擬戦当日。

 

ランスターとナカジマ対高町なのは。普段共に訓練をしているエリオとキャロは一旦見学。

彼らとは分隊が異なる。ランスター、ナカジマは高町率いる「スターズ」、エリオ達はテスタロッサ率いる「ライトニング」である。

 

今回は数日間自主練習を共に行ったランスターとナカジマのコンビであり、練習の成果は、きっと出せると2人は信じていた。

 

 

 

 

模擬戦が始まる。

 

 

 

 

高町なのはは困惑していた。

模擬戦の相手が、どうにもおかしい。

ランスターの射撃には力がこめられていないし、ナカジマのウィングロードの軌道は考えて作られているようには見えないし、危険な特攻もしてくる。

高町が教えてきた訓練内容とは、全く別物の動きだ。

また、ナカジマの特攻。高町がナカジマに目がけ魔力球を放つも、器用にかわす。

みるみるうちに距離が詰まり、激突。魔力のぶつかり合いにより、煙が生じる。

 

 

――今だ!

 

 

煙に生じて、魔力刃で高町の頭上から襲い掛かるランスターの姿。

 

これこそが、彼女達の集大成であった。ナカジマの機動力と特攻力を使い、相手の意識をそちらへ向けて、射撃主体のはずのランスターが近距離での魔力刃による攻撃。

 

「対高町なのは用戦術」とも言える、彼女達の努力の結晶。努力の結果である。

 

 

 

 

高町はすぐさま上を見やる。

ランスターを止めようと、腕を上げ――。

 

 

 

 

高町の真後ろから、またランスターの姿が。

 

頭上のランスターは、幻術。囮だ。

 

 

ランスターは、天才というものを自分なりに分析していた。

天より与えられる才とは、どんなものであるのか。

若干19歳にして、空戦Sランクオーバー、高町なのは一等空射。「努力の天才」ではない、真の天才。

 

彼女を打ち破るには、裏をかくだけではダメだ。裏の裏をとる。

それが、ランスターの導き出した答え。努力の天才にできる、精一杯の努力。

 

 

 

 

ランスターの魔力刃は、高町なのはに突き刺さる――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――はずだった。

 

 

 

 

ランスターの誤算はただ1つ。

 

天才という存在を、甘く見ていたこと。

 

高町なのはは砲撃専門の魔導師と言っていいほど、彼女の魔法は重火器に近い。抜群の防御と破壊力は、戦車のようなものだ。

だから見誤った。彼女は、接近戦は苦手なのだと。

高町が接近戦が苦手かと言われれば、答えはNO。圧倒的過ぎる砲撃、誘導弾に比べれば劣る程度。

事実、彼女が魔法に触れて間もないころ、近接の高速戦闘を得意としたテスタロッサの背後を取ることすらあった。

それを可能とするのは、反射速度。見てから考え、行動するまでの時間の短さ。彼女の父から受け継いだ、戦いの遺伝子。

 

 

 

故に、ランスターの一撃を止めることは容易であった。

この後、ランスターは高町なのはの砲撃を受け、撃墜。

罪状は、教導に対する反逆。

 

ランスターの誤算はもう1つあった。

それは、高町なのはは、「教導官」であること。高町は嘆いたのだ。彼女の教導が無意味であるかのように振る舞う教え子達の姿に。高町の教えは、「必ず生きて帰ってくること」。ランスター達には、高町の信念は伝わっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

健はその日もデバイスを振り続けていた。模擬戦があると聞いて興味を示したが、今の自分が必要なのは実戦を見ることではなく、魔法をスムーズに使えるようになることだと理解していた。

 

だから、練習後、ロビーに帰るとランスターが頬を腫らしていた姿を見て驚いた。少なくとも今までの訓練では、腫れている所を見たことはなかった。

今日の模擬戦は、それほど白熱したものだったのだろうか、と考えた。

 

ランスターが頬を腫らしたのは模擬戦で、ではない。

高町により撃墜された後、数時間眠りこんだランスターが起きてしばらく。

六課に出動要請が入り、新人達は待機命令。ランスターは模擬戦の一件から待機から外れるように言われて、反論。シグナムに喝を入れられ頬を腫らし、現在にいたる。

 

 

驚いている健に、シグナムが「お前もこい」とソファーに座らされる。

シグナム、シャマル、テスタロッサや高町の補佐を行っているシャーリー、新人達4人がそこにいた。

シャーリーは進藤を見て、進藤さんにも見せるんですか、とシグナムに問う。

健には何がなんだか分からなかったが、シグナムは神妙な面持ちで頷き「高町には私が後で頭を下げる」と言う姿を見て、心を引き締める。重要な話であることは理解出来たから。

 

彼らが見たのは高町なのはの過去。

 

まだ小学生くらいの年齢であろう高町の姿。

身に纏った制服は、近くの私立小のものだと判断する。どうやら健と高町は同じ市内、または隣町に住んでいたようだ。

おそらく、健とシグナムが出会った頃と同時期であろう少女が、巨大な魔力砲を放つ姿が映し出される。

新人達と健は騒めく。自分と同じかそれ以下の少女がここまでのものを使っているのだ。驚かないはずがない。

 

画面は次々と変わる。

シグナムやヴィータが高町、テスタロッサと戦う姿。銀色の髪の女性に突撃する姿。

 

そして、病院のベッドに横たわり、呼吸器を付けられている姿。

 

高町なのはは天才だ。才能だけではなく、努力する天才。

幼き日に魔法に触れ、数々の戦いを繰り返し。

敗北すれば、愛機のレイジングハートと共にシミュレーションをし、トレーニング。

命懸けの戦を幾度と乗り越え平穏を手に入れてからも管理局の仕事へ向かう。まだ学生の身分であった彼女は学校へも行き、仕事との合間にもトレーニング。

やっていたことはランスターと同じか、それ以上の努力。

 

ただ、まだ成人していない少女の体はその努力についていけず。

 

 

その結果が、ベッドに横たわる彼女の姿。

二度と歩けなくなるかもしれなくなる、大怪我。

 

高町は自身の過去を教訓とし、教え子に伝えようとしていた。

自分のような思いをして欲しくないから。彼女の教導は、そういうものだ。

 

 

 

 

 

 

「自分の力を越えてでも、無理してやらなきゃいけないことは確かにあるよ」

 

映像が終わり、シャマルが同時に呟き、シグナムが続く。

 

「だが、お前がミスを犯したあの場面は、どうしても射たねばならん状況だったか。 あのミスはいったい誰の為だ。今日の模擬戦は、何の為だ」

 

俯く4人に、私達から伝えることはそれだけだ、と言い席を立つシグナム達。

 

健はそれを追い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことがあったんですか……」

 

シグナムから事の終始を聞いた健。

ランスターの暴走とも言える行為は、もしかしたら、と思い、自分とランスターの対話をシグナムに伝える。

 

「やっぱり、俺のせいで思いつめてしまったんでしょうか……」

 

「さて、な。あれは元よりそういう人間であっただけかもしれん」

 

「……それでも、後でランスターさんに謝ります」

 

「そうか。それでお前達の気が済むのならそうするといい」

 

健はほぅ、と息を吐き出し窓から見える月に目を向ける。

 

「俺……甘かったです。魔法って使う人と使い方次第で、危険なものになるんですね。思い知らされました」

 

シグナムは満足そうに頷く。彼女が先の映像を健に見せた目的をきちんと理解した教え子に対して。

健は命懸けの戦いとは無縁の人生を送ってきている。魔法というものがどういうものであるのか理解出来ていなく、シグナムはそれを感じとっていた。

 

「怖気付いたか?」

 

シグナムの問いは単純だ。

一歩間違えば死に直面するこの世界で生きていく覚悟はあるか。

もちろん、一般人として生活する分には地球での生活と危険度は大差ない。それどころかこちらの方が安全なくらいだ。

ただ、戦いの道を選ぶのならばそうはいかない。シグナムの考えている世界は、戦いの世界。健はシグナムの問いに正直に答える。

 

「怖くないと言えば嘘になります。怪我をするのも、死ぬのも嫌ですからね」

 

でも、と続く。

 

「それでも俺はこの世界に、シグナム先生の隣に居たいです。怖くても、傷ついても。それが俺の人生ですから」

 

そうか、とだけ答えるシグナム。

健は半分プロポーズの気持ちで言ったのだが、顔色1つ変えないシグナムに少し不満を覚えた。

 

今度は逆に、健が問う。

 

「シグナム先生は、大怪我したりは、しませんよね?」

 

健の中で、シグナムはどの世界でも一番の実力者であると思っている。彼女より強い人を見たことがないというのが、そう至らしめる理由だ。

だから彼女が誰かに負ける姿が、イメージ出来ない。

健がシグナムに問うた内容は、シグナムは誰にも負けないから、というだけでなく。単純に愛する女性に傷ついて欲しくない。それだけだ。

 

 

シグナムはそんな想いと裏腹に、否定の言葉を返す。分からない、と。

 

「こんな仕事場だ。何が起こるとも限らん。そんな中で傷を絶対に負わないというのは不可能だ」

 

健が暗い表情を浮かべるのを見てか、シグナムは、だがと付け加えた。

 

「私は守護騎士だ。主を看取るその時まで絶対に死なん。主はやてを、最後の最後まで守り切る。それが私の存在意義だからな」

 

 

そこまで言って、シグナムも窓の外を見る。彼女の笑顔は夜空にこうこうと輝く月のようで。

 

――ついでだ。お前のことも、守ってやるさ。

 

 

健は初めて、彼女の笑顔に心を奪われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日早朝のこと。健はランスターに謝罪に向かった。

ランスターさん、と声をかけると走りよって来る。

先日のことを謝まろう、無責任なセリフだったと。口を開こうとすると。

 

 

「すみませんでしたっ!」

 

 

と何故かランスターの謝罪が先に入り、きっちり45度の礼もついてきた。

ランスターの服装は以前同様、白地の訓練着。俊敏な礼についてきた彼女の胸の大きな揺れを強調し、健の視線を釘付けにする。

 

「あ、あの、ランスターさん!?」

 

「私、進藤さんの言葉をねじ曲げて受け取ってました。努力の天才は、がむしゃらに努力するしかないって」

 

「頭! 頭上げてください!」

 

必死なセリフとは裏腹に、視線は空と胸を行き来している。

 

「そういうことじゃないんですよね。努力するにも、方法と程度があるって」

 

「は、はい……」

 

ランスターの礼はようやく解かれ、目を合わせようとする。健の目線は一定の位置にあらず、なかなか合うことはなかったが。

 

「ありがとうございます。進藤さんと、なのはさん達のおかげでようやく私自身と向き合えるようになりました」

 

「い、いえ。俺も、何も知らないくせにランスターさんに変なことを言って苦しめてしまって。すみませんでした」

 

「そんなことありません。あれで良かったんだと思います」

 

そう言うランスターには笑みが浮かんでいる。本心で思っているようだ、と判断する。

 

「これから、お互い『努力の天才』として、頑張っていきましょう。皆で一緒に、強くなりましょう!」

 

 

失礼します! と再び礼をして、遠くで見ていたナカジマのところへ帰っていった。

先日の一件でランスターも自分も一段階強くなれたかな、と健は思う。この調子なら、お互い道を誤ることはないだろうとも。

 

 

――皆で一緒に強くなろう、か。

 

 

健は最後のランスターの胸の揺れを思い浮かべながら、彼女の言葉を反芻した。




「ティアナが何をやらかしたのだろう」と期待していた人、ごめんなさい。
健がしたのは地球での立会でOHANASHIフラグを折ったのを再構築しただけです。微妙に一歩先にいきましたが。

ティアナヒロイン回と見せかけた健のパワーアップフラグ。ティアナがヒロインになるには情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ、そしてなによりもおっぱいが足りません。

しかしこの主人公、今までやったことはシグナムのOPIに惚れる→再会&敗北→逃走→ロストロギアに巻き込まれる→シグナムから生い立ちを聞く→逃走→ティアナに爆弾を投げつける。
ダメだこいつ……はやくなんとかしないと……。
一応地球内ではかなりの強キャラ設定なんですがね。地球人最強という設定ながら周りのパワーインフレについていけない地球人くらいの無駄設定。
健は美人な嫁さんをゲットできるのでしょうか。あの地球人のように。

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