「俺、シグナム先生と結婚する!」   作:Vitaかわいきつら

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作者に剣道知識はありません。間違っていたら申し訳ない……。
ちなみにヒロインをシグナムだけにするかフェイトとヴィヴィオ(変身)を入れるかは未定です。
どうぞ、見ていってください。


プロローグ

剣道は剣の理法の修練による人間形成の道である。

 

 

『剣道を正しく学び

心身を錬磨して 旺盛なる気力を養い

剣道の特性を通じて

礼節をとうとび 信義を重んじ

誠を尽くして 常に自己の修養に努め

以って 国家社会を愛して

広く人類の平和繁栄に 寄与せんとするものである』

剣道修練の心構えとして、以上を全日本剣道連盟が制定している。

 

 

すなわち剣道とは競うものではなく、常に己を精神、身体、人格を養うために存在する。

 

 

これから語る1人の少年は、その理念を確かに持っていた。

彼は強き心、強き体、そして強き力を求める。

だがそれは手段であり目的ではなかった。

彼の目的を語るためにまずは彼の剣の道、その始まりから話すことにしよう。

 

 

裕福な家庭に1人の子供が生まれた。

 

これから語る少年、その人である。

 

両親は「健やかであれ」「鋭き剣のような男であれ」と

 

「健」

 

と名付ける。

 

健は至って平凡な子供であった。

歩き始めたのも話し始めたのも早かったということない。平均程度だ。

両親は言葉を話したり文字を理解する我が子を「この子は天才だ」と思うことがしばしばあったが、健が平凡であることに変わりはない。

 

ただし、彼にも非凡なところがあった。未就学児である時には分からないことだったが。

 

1つが容姿。

 

有名大学を卒業し一流企業へと就職した父親には多くの女性が求愛した。

父親は性格より外見を重視する人物だったらしく、「可愛いから」と今の母親と婚約。

母親の遺伝を強く受け継いだ健は、整った顔立ちで異性から中々人気者になる。

それは中学卒業後の話。

 

 

 

 

もう1つは、健が小学3年生の秋から冬にかけての間。

1人の女性との出会いが、健の内なる「才能」を咲かせることになる。

 

 

父親は健が小学生になると同時に剣道を始めることを勧めた。

近所に剣道教室があり、そこの師範と父親が旧知の仲であったことが関係している。

 

健にとって剣道はまたとない娯楽になった。

この年頃の男児にとって長くて堅い棒状のものを振り回すことは得体の知れない快楽を生み出すものだ。決していやらしい意味ではなく。

 

しかし剣道を辞めようと考えていたこともある。

 

同級生のほとんどが違うスポーツに夢中になり始めたからだ。

野球、ドッジボール、キックベース、その他にもたくさん。

中でも人気があったのは、サッカー。

駅前の喫茶店のオーナーが監督を勤めるサッカーチームが小学校の近くにあり、同級生の幾人かはそこに所属した。

健はサッカーに興味がなかったが、同級生の話す「時々監督がケーキや食事をご馳走してくれる」という話に惹かれる。

監督の娘とその友人が凄く可愛い、という話もあったが健には食べ物の話題しか頭に入らなかった。

まだまだ色気より食い気、花より団子である。

 

その健を「団子より花」に至らしめる人物こそが、彼の才能の開花させる女性である。

出会いは意外にも早く健が小学3年生、秋。

 

 

夏が終わり、まだ暑さの残る剣道場で竹刀を振っていたときのこと。

1人の女性が剣道場に入ってきた。

 

女性は美しかった。

おそらく欧米人であろう。ストロベリーブロンドの長い髪を後頭部でまとめ、身長のわりに小さい顔。

反対に目は大きく、その瞳からは強い意志を感じるほど。

もっとも、健や他の門下生達はただ「綺麗な人」という評価をしたに過ぎないが。

 

女性は一言、見学してもかまわないかと言った。

師範は流暢に日本語を話す外国人であろう女性を不審に思ったものの、おそらく日本文化に興味を持ってここに来たのだろうと考え、許可した。

女性は礼を言い、道場の隅へ向かい立ったまま見学する。

正座はしないであろうと思っていたが座ることすらしないと多少驚かせたものの、子供達に鍛練を再開するように促した。

 

子供達は女性に意識がいってしまいまともに練習することが出来ず、師範に激を飛ばされる。

それでも変わる事無く、仕方なく休憩をとることに。

師範が休憩、と言えばたちまち女性の周りは子供達で覆られ、そして質問責め。

 

女性は「シグナム」と名乗った。

それが姓であるのか名であるのか、外国の文化に疎い師範には判断が付けられなかったが、子供達にはそんなことはどうでもよい。

ある程度成熟した者は「シグナムさん」、そうでない者は「おねえさん」と女性を呼ぶ。

飛び交う質問にシグナムは困惑するものの、子供達のこの質問だけは素早く答えた。

 

「どうしてここ、剣術道場にきたのか」。

 

 

目的を早い段階で知ってもらう為か、別の思惑があったのか。あるいは思惑などなかったのか。

それは分からないが、とにかくこう答えた。

 

「こちらの剣がどういうものなのか興味があった」と。

 

 

子供達気が付かなかったが、師範だけは言葉の背景を感付くことが出来た。

 

こちらの、と言った。

すなわち女性は故郷で剣術を嗜む、あるいは良く知っているのだろう。

女性の出身国が分からない以上、何の剣術なのか予想することは難しかったものの、なるほど、確かに女性からは立ち振舞い方から「武人」を感じさせる。

 

"この女性は剣術、あるいは武術を嗜んでいる"

 

そう結論付けた師範は提案する。良ければ一緒に稽古をしてみないか、と。

 

シグナムは快諾し、道場内の体型に見合った防具を、子供達が教えながら身に付ける。

防具を付け竹刀を握ったシグナムはそれだけで立派な剣道家に見えるほど、えもいわれぬ空気を纏っていた。

 

 

稽古が再開される。

シグナムは剣道の基本的なルール、「面打ち」等を子供達から教わる。

健はその中で「胴打ち」を教えた。

 

剣道は、ただ竹刀を相手に当てればいいというわけではない。

頭部、腕部、胴体部、それぞれに付けた防具に竹刀の「有効打突部」で打突しなければならない。

 

「有効打突部」とは、平たく言えば刀における刃の切っ先である。

竹刀には弦が張っており、弦側が刀の峰にあたる。

つまり、弦の反対側。

これを有効部位に打突し、残心――――打突後の油断ない身構えと心構えのこと――――を残すことで始めて有効な1打になる。

 

健が教えた「胴打ち」とは胴体部の防具、「胴」に有効打を入れることである。

「胴打ち」は通常相手の右胴部を払う。

手の握りから左胴部に当てる方が良いように思えるが

、一説によると武士が左側に帯刀していたからであり……と、今は割愛。

 

左胴部に当てるものは「逆胴」と呼ばれる。

健はシグナムにそれを教えることはなかった。

そもそも、知らなかった。

胴打ちというものは常に相手の右側を狙うものである、と思っていた。

 

健がその存在を知るのは、奇しくも自分が胴打ちを教えたシグナムからであった。

 

シグナムは胴打ち同様、面打ち――頭部の防具、面を打つこと――と、小手打ち――腕部の防具、小手を打つこと――を子供達から教わった。

ひとしきり教わった後、シグナムは師範にむかい、こう言った。

 

あなたの実力がみたい、と。

 

師範は快諾するが、すぐに後悔することになる。

 

師範はいくらか大人の面打ちや胴打ちを見てみたいのだろうと考えていたが、どうやらそうではないらしい。

 

実戦の中での動きを見たいと言うのだ。

 

これには少しばかり困惑した。

実力が拮抗するもの同士の模擬試合、互角稽古を見せるにも相手がいない。

 

 

師範は強い。

すでに階級にして6段をもち、全日本大会で入賞したこともあるほど。

県大会ベスト8の実力をもつ現役高校生もこの道場に通っているが、それでも実力差は有り、そもそも今日この場にいるのは小学生以下だ。

そう伝えればシグナムは

 

「ならば私と戦ってほしい」

 

と言う。

師範は断ったが子供達に囃し立てられ、あれよあれよという間に試合をすることが決まってしまった。

 

いくら武術の経験がある者でも、今日初めて竹刀を握ったであろう女性を竹刀で叩くのは抵抗がある。

師範は後悔した。

 

どうしてこうなった、と。

 

 

 

2人は道場中央で対立する。

 

こうなってしまっては仕方がない、と師範はわり切る。

 

抵抗はあるが剣道がどれ程のものなのか知ってもらおう。

その為に本気とはいかないまでも近い力で竹刀を振る。

そう決めた。

 

 

師範は竹刀を中段に構える。シグナムも同じく、構える。

 

対立して、師範は思う。

 

このシグナムという女性――強い。

 

構えからは隙が感じられなかった。

これほどのものは久しく見ていない。

どんな武術を身に付けてきたのかは分からないが、その道でもトップクラスの実力なのだろうと思う。

先ほどまでの考えを改める。全力でやろうと。

 

 

子供の1人に開始の合図を出させる。

同時に竹刀を振り上げ、踏み込み、面に目がけて振り下ろす。

 

優れた剣道家の竹刀を振るスピードは、常軌を逸する。

 

竹刀は物によるが120センチメートル近い長さ、450グラム程である。それを羽を振るうかのようになるために竹刀を振り続けた剣道家達。

 

彼らの竹刀を振り上げ、面を打ち込む迄にかかる時間は、僅か0.15秒。

 

トップにもなれば0.1秒だ。

 

 

師範の剣速も、超一流達のものと遜色ない。

 

それを放った。

 

だがシグナムは

 

それを受けとめてみせた。

 

 

 

 

子供達から歓声があがる。

シグナムのような美しい女性が、師範の一撃を止めた。

全国レベルの試合を生で見たことのない子供達は師範が一番強いと思っていた。

それを、止めた。

それだけでワクワクするものだ。

次第に子供達はシグナムに応援を送る。

頑張れシグナムさん、お姉さん、と。

 

 

そんな中、健だけは「とある一点」だけを見つめていた。

 

 

 

 

師範は打ち込み続ける。小手、面、胴。

基本的なものはやってみたものの、全て止められた。

 

シグナムが打ち込んでくることはなかった。

こちらの技術を出来るだけ多く見たいのだろう、と師範は考える。

 

ならば、と構えを変える。

 

先ほどまで本気ではあったものの、それがベストパフォーマンスだったわけではない。

 

竹刀を振り上げたまま、固定。

 

 

上段の構え。

 

 

天の構えとも、火の構えとも呼ばれている。

攻撃に特化した構えであり、師範がもっとも好むものである。

 

格上の相手を相手にするには向いていないとされるが、師範は自身がシグナムに劣っているとは思っていない。

 

故の、上段だった。

 

 

行きます、と声をかける。

 

シン、と道場内が静まる。子供達も、それを見守っていた。師範を、シグナムを。

 

そして、健は――。

 

 

 

 

 

 

師範は竹刀を振る。

 

それは風の如く。

あるいは、火の如く。

 

目で追うのも難しい程の速度。相手を蹂躙するはずの姿は、まさに烈火。

 

 

相手を倒すために振られたその刀は。

 

シグナムの刀に当たることすらなく、空を切った。

 

 

師範はシグナムが“ブレて”見えた。

そして、今までそこにいたのは幻だったのか、とすら思う。それほどのスピードで躱された。

 

 

シグナムは師範の刀を僅かにかがんで、右側に避けた。

 

本来であればシグナムはそれを受けとめる気でいた。

だが出来なかった。体が勝手に動いたのだ。

 

師範の刀は、それほどの勢いであった。

天晴れ、と心の中で師範を称える。

 

そして師範のがら空きになった“左胴部”に竹刀を打ち込む。

 

 

――鮮やかな「逆胴」。

 

そして残心。

 

 

師範とシグナムの試合は、そこで終わった。

 

 

ワッと声をあげ、子供達はシグナムのそばに走り寄る。凄い、凄い、と皆が繰り返し、面を取ったシグナムを少し照れさせた。

 

子供達はシグナムの逆胴に心を奪われていた。

師範とシグナムの戦いは、子供達の胸に深く刻まれる。

力も、技術も。

 

その全てが魅力的に見えた。

 

 

 

 

 

しかし健は、健だけは。

 

 

逆胴は確かに凄いと思った。だがそれより健が集中して見ていた部分。

師範の上段でも、シグナムの逆胴でもなく。

 

健は見てしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シグナムの胸が、大きく弾むのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何のことはない。

 

健の非凡な「才」とは。

 

 

 

大きなおっぱいが好きなだけ。ただそれだけのこと。

 




✕ 才能
◯ 性癖

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