窮天に輝くウルトラの星 【Ultraman×IS×The"C"】   作:朽葉周

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02 窮天『アークプリズム』

 

 

ソレからの俺の生活は、劇的に変わった――と言うわけでもない。

何時も通りの日常を送る中で、空いた時間にディラクから受け継いだ力――ウルトラの力、束さんはこれを『変じる/オルタ』と呼んでるのだが、その力を扱う訓練を行なっている。

それ以外は何時も通り学校で授業を受けるフリをしながら新装備の構想だったり太陽炉の設計案だったり、再びウルトラマンに出会ったときに備えて研究しているあるモノの開発データだったりをノートに纏める、そんな生活。

放課後になれば束さんと合流して情報交換したり、新型機構の開発に関して意見を出し合ったり、もしくは『オルタ』を制御する訓練だったり、アークを介してブーストした力を扱う訓練だったり。

ただ、ある時期とつぜん束さんに貰ったデバイス。メガネのように見えるそれは、実は網膜投影型ディスプレイで。ソレを使って学校にいながら謎回線で束さんと連絡を取ったり、設計データのやり取りを出来るようになっていた。

そうして、そんなある日の事。いつものように力の扱いに関して訓練をしていると、不意にメガネのモダン……耳に引っ掛ける部分から骨伝導スピーカーで呼び出し音が伝わってきた。

如何したのかと通信を受けると、どうやらメールだったらしく、至急研究室まで来て欲しいという一文が記されていた。

研究室――つまり束さんの資質とは別に与えられた、束さん専用の研究スペース(と言う名のプレハブ小屋(の地下に建設された秘密基地))だ。

大分力の扱いに慣れていた俺は、即座に指示に従って篠ノ之神社、その生活スペースの更に端に存在しているプレハブ小屋へと足を運んだ。

「束さん、居る?」

『しただよー!』

聞こえてくる声に、プレハブ小屋の一角に視線を向ける。其処には光学迷彩で巧妙に擬装された地下スペースへの入り口がある。因みに俺には脳量子波だとかメガネHMDの機能だとかで余り意味は無かったりする。

声に導かれるまま早速地下の研究スペースへと足を運ぶ。たどり着いた其処は、いつもと変わらない地下秘密基地スペースで。薄暗い室内に、所々に設置されたモニターの薄暗い光がぼんやりと光って……って、薄暗い?

この秘密基地、束さんのお手製の地下スペースではあるが、その完成度は下手な研究施設よりも高い。旋盤を初めとした多数の工作機械もあれば、束サンお手製のスパコンがあったり、生活用の電源・水道設備まで整っている辺りこの人何者だというレベルである。

そう、この地下、ちゃんと電源も通っているし、ちゃんと室内を明るく照らす事は出来る筈なのだ。

「あははー、さすがまーくん、すぐに気付いちゃうか」

「……来ましたよ束さん」

そうして振り向いた先に立つ束さん。その瞳はキラキラと金色に輝いていて。……そう、この人、イノベイター因子を植えつけたら、あっという間にイノベイター化してしまったのだ。

太陽炉の刺激云々は如何したのだといいたかったのだが、どうやら最前線でアークを研究していた際に、アークの発する何某かの影響を受けて覚醒したのではないか、とうのが束さん自身の考察だ。

まぁ近くに俺が存在していたし、俺とアークの共鳴実験にも何度も立ち会っていたのだ。刺激と言うなら束さんは存分に味わっていたのだろう。

「で、何を隠してるんです束さん?」

「せっかちは損で演出は大事なんだよっ♪ まぁ、まーくんも我慢できないだろうし、早速お披露目しようかなっ!」

妙にテンションの高い束さんの姿に少し首を傾げつつも、機嫌の良さそうな束さんの姿に少しだけほっこりした気持ちになったり。

「それじゃ、いっつしょ~たぁ~いむ!」

パチン、と鳴らされる指の音。それにあわせて照らされる秘密基地の中。付けられたスポットライトは、その中心に鎮座する一つの機械の塊を照らし出していた。

「……これは? パワードスーツ?」

其処に鎮座していた鉄の塊。中央部分に人の乗り込めそうな場所のあるその機械の塊は、けれどもパワードスーツと呼ぶには少し、いやかなり奇妙な姿をしていた。

なぜならそのパワードスーツには脚が無く、同時にパワードスーツと言うには着込む外装が余りにも少なく人肌が多々露出しそうなほどだ。

更に言うならばパワードスーツであるはずのその機体は足が無く、更にスラスターのような機械が本体部分らしき場所からにょきにょきと多数生えているのだ。

「ふっふっふ、これこそが、長年の束さんの研究成果に加え、アークから得られたフィードバックデータを元に組み上げた新世代地球防衛装備、インフィニット・ストラトスなのだーっ!!」

「…………え?」

インフィニット・ストラトス。その単語を聞いた途端、不意に前世の記憶があふれ出した。そういえば、そんな名前のライトノベルを、大昔に読んだような記憶が……。

……え? 大天災、篠ノ之束? え? インフィニット・ストラトス、 ISぅぅぅ!!???

「ささ、早速乗ってみて欲しいんだ!」

「え、ちょ、ええっ!?」

思い出したその記憶の内容。流石に作品タイトルを呼ばれれば、ウルトラの光持ちのイノベイターである俺の頭脳は、見事記憶に埋もれた前世の知識をサルベージして見せた。

そんな記憶の内容に内心でパニックを起す俺だったのだが、束さんはそんな俺の内心のパニックなど知ったことではないとばかりに、俺をそのISの前へと誘導していった。

「……うわー」

「ふふふ、この子の名前はIS試製零号『アークプリズム』っていうんだよ!」

「『アーク』プリズム?」

「そうっ! この子にはアークを搭載してるんだよ。つまりこの子は、ずっと待たせてたまーくんの地球防衛装備なのだーっ!!」

ドーン!!、と研究室内のスピーカーに態々効果音を流させながら、格好をつけてそんな事を言い放つ束さん。

正確にはこのアークプリズムと言う機体は、アークを詰んでいるのではなく、アークを精製した『コア』を動力源として起動するパワードスーツなのだとか。

コアに適合する搭乗者が登場することでコアからエネルギーを引き出し、そのエネルギーを以って完成制御システムにより宙を自在に舞い、そのエネルギーシールドによって地上は勿論宇宙での活動すら可能なのだとか。

「普通の人が使ったらそこが限界なんだけど、殊まーくんが使うに限っては事情が変わってくるわけなんだよ」

そう、このコアはアークを精製したものなのだ。つまり、俺のウルトラの光と共鳴することが出来る、らしい。

そんな説明を続ける束さんは、饒舌に舌を動かしながら、俺を機体へといざなって、そのまま着々と装着準備を進めていく。

で、そんな束さんの説明を聞いているうちに、俺の精神も漸く落ち着き始めてきた。

よくよく考えてみれば、この世界ウルトラマンだとかイノベイターである俺が存在していたりする世界なのだ。俺の知識の中にあるラノベ、もしくはアニメであるインフィニット・ストラトスの世界とは別物と考えたほうが良いだろう。というか、アニメ世界にトリップとか。大昔の俺なら大喜びだったんだろうけどさ……。

もし仮に、この世界がアニメ通りの進展……つまり、女性上位の社会構造の到来が果たされるのであれば、男である俺にとっては間違いなく生活し辛い未来を迎えることになる。

だがしかし、同時に現在こうして開発されているISは、間違いなくオルタの増幅装置、つまり『俺の専用装備』として開発されているのだ。

――要するに男である俺が動かすこと前提なのだ。

「と、出来た。まーくん、動かしてみてくれる?」

不意に意識が現実に引き戻される。見れば、いつの間にか俺の躯はISの内側へと収まっていた。顔面にはフルフェイス型のバイザーが装着されて、視界は網膜に投影される間接視界型のようだ。

「動かすって、どうやれば?」

「えっとね、難しいことは考えなくて良いよ。基本パワードスーツ。思ったとおりに動いてくれるから」

言われて、とりあえず右手を動かしてみる。と、大仰な金属の手をはめた腕は、予想に反してあっさり動かすことが出来た。……パワーアシストが入っているにしても、違和感が無さ過ぎる。流石束さん、いい仕事をしている。

「あれ? でも、この機体、足がない……ってもしかしなくても、飛べるの?」

「むふふー! 勿論だよんっ! さー、れっついまじん!」

テンション高いなーなんて思いつつ、いつもオルタを使って空を飛んでいるときの感覚をイメージする。と、不意にISは地面から浮き上がる。

いつもの重力から開放される感覚。それを、オルタを使わずとも得られたことに驚き、思わず眼を丸くする。

「おぉぉぉ!! すっごい! マジで飛んだよー!!」

「……っておい!?」

「いやぁ、私は開発者であって、テストパイロットじゃないからね」

「俺だってテストパイロットに成った覚えは無いんですがっ!!」

「まぁいーじゃんいーじゃん! ってキタキタキタキター!! うひゃー! やっぱり実機を動かせば得られるデータは桁違いだね!!」

本当はもう少し苦情を申し立てようかと考えていたのだが、既に束さんは得られる計測データに夢中なようで、既にこちらを見ていない。

まぁいいか、なんて思いながら、少しだけ思考を飛ばす。

このIS……確かアークプリズムと言う名前の機体。束さんはこの機体をIS試製零号と称した。つまりコレは、実働機の前、データ取りのための試験機、もしくは試作機に相当する代物なのだろう。

そして試作機である以上、正式機を開発する意思はあるという事。つまり、やはり、このISは量産されるのだろう。束さんも言っていた。地球防衛装備なのだと。

ということは、だ。矢張り流れとして、女尊男卑になる可能性が消えずに残っているわけだ。男性である俺としては、男女平等とは言わないが、無闇矢鱈に男性が卑下される社会なんて迎えたくない。

……これは、試験段階のアレの開発を、少し急ぐべきかもしれない。

「うひょー!! ってちがうっ!! まーくん、その状態で力を使ってみてくれる?」

「了解、やってみます」

そんな事を考えていると、漸く正気に戻った束さんが、奇声を上げるのを切り上げて、再び此方に行動を支持してくる。

漸く本命である、ウルトラの力の増幅・制御装置としての機能。ソレを試すべく、束さんに言われたとおり、集中して内側から力を溢れさせる。

途端、頭に響くコアの波長。自らの力の波長を、コアの放つ波長にあわせるようなイメージで……。

「ま、またキター!!!」

あふれ出す黄金の輝き。それは俺の躯から、そして俺の纏うISからあふれ出す。

俺の力をISのコア、いや違う、ISそのものが増幅させているかのように、強烈な光を撒き散らしているのだ。

「す、凄い、基礎駆動モードの理論エネルギー値の数十倍!? もう意味わかんないレベルですっごいよぉぉお!!!」

「束さん、あんまりそんな声上げないで、はしたないから」

はしたないというよりも、寧ろちょっとエロい。

とりあえず悶絶している束さんは放っておいて、機体の感覚を調べるべく、軽く機体を動かしてみる。

先ず軽く体を動かして、問題が無い事を確認。同時に体を動かしながらでも、普段に比べて格段に容易くオルタを扱うことが出来ているのも確認した。

なるほど確かに。まだ空中で実際に活動したわけではないのだが、それでも少なくとも、俺の力の補助装置と言う役割は、十分以上に果たしてくれるだろう。

「おぉぉぉ!! 凄い、コレだけのデータが有れば、もっとちゃんとした機体に改良できるよ! そうすればこのISも汎用機に出来るかも!!」

「とりあえず、束さん。もう少し広い空間でコレを動かしてみたいんだけど」

「おぉ、そっか! データ取りするにしても、ちゃんと空間機動の実データも欲しいもんね! それじゃ早速海でも行こうか!」

「え、いや外でやるの!?」

「大丈夫! こんなことも有ろうかと、とりあえずそのアークプリズムには不可視化光学迷彩を実装してるんだよ! ソレがダメでも、まーくんは転移できるでしょ!」

何かサラッと現行科学を上回るものを搭載したとか束さんが言っていたがスルーして。

そうして束さんに引っ張られるまま、謎のニンジン型ロケットに乗り込んで、そのまま海(太平洋某所)へと移動した俺は、束さん指導の下延々とISの実動データ取りに付き合わされることになったのだった。

 

 

 

 

そうして束さんと一緒になんどもアークプリズムでのデータ取りを続けていったある日のこと。再び呼び出された俺は、ついにISが汎用機として完成した、という報告を束さんから受け取った。

いつものように到着した束さんちの秘密基地。其処に鎮座しているIS試製零号『アークプリズム』。その姿は、最初期に比べて大分改造が進んでおり、何処か試作品くさかった嘗ての姿に比べ、現在のソレは何処か芸術品にも似た美しさを備えている。

「おっ、来たねまーくん! それじゃ、とりあえずいつもみたいに装着してくれる?」

「りょーかい」

言われるまま、俺はいつものようにアークプリズムを身に纏う。既に何度もこの手順はこなしている為、既に有る程度は為れたものだ。

背中を預けるように身を任せ、後はシステムが自動的にフィッティングを行なってくれる。これ、開発当初は全部手動で調整しなきゃならなかったんだから、その頃の手間に比べて完成した今と比べると。

パパッと装備を身に纏い、最後にバイザー型のHMDを装備して、と。

「出来たよ束さん」

「よぉーし、それじゃ次は、正式版に進化したアークプリズムの最初の機能、パーソナライズ、一次移行を始めるよー!! そーれぽちっとな♪」

「え、うおっ、まぶしっ!!」

ピッと端末のスイッチを押した束さん。途端俺の装着していたアークプリズムが白い光を撒き散らし、瞬間その姿は先程までのニビ色から大きく姿を変えていた。

赤と白。何処かで見たツートンカラーに仕上がったその姿。角を持ちながらもシンプルなそのデザインは、芸術品でありながら同時に兵器としての屈強さをも備えたように見えて。

顔を覆うバイザーも、目を覆う部分がクリアグリーンに輝いていて、なんだか鋭角で格好良くなっている。

「どうどう、凄いでしょ! 驚いたでしょ!! これがISの正式版に搭載される機能、パーソナライズ!!」

「お、おぉ、ちょっと、いや結構、ううんかなり驚いた」

どうなってるんだコレ? と束さんに問い掛けると、束さんは「良くぞ聞いてくれた!」と嬉しそうにニコニコ語りだした。

「このコア、アークの精製品なのは知ってるでしょ?」

「うん。だからこそ俺の装備に成ったんだよね」

「そうそう。でもこのコアって、私が当初予測してた以上にスペックの高い代物だったんだ」

曰く、このコアが精製できなければ、このISと言うシステムは、其々バラバラの、イナーシャルコントロールシステムや、イメージフィードバックシステムなんかの、其々独立した装置として完結してしまっていたかもしれない。

けれどもこのコア、コレが登場したことにより、それらをコンパクトに纏めつつも、十二分に動力を得られるコンパクトなエネルギー源を手に入れられたのだ。このコアが無ければ、間違いなくISは完成しなかったと断言できる。束さんはそういいきった。

けれども、けれどもだ。このISのコア、元がウルトラマンの肉体であったというだけあって、そこからエネルギーを引き出せる人間との相性と言うのが途轍もなくピーキーだったのだとか。

現時点で純精製されたコアを扱えるのは、俺と束さん、それに束さんの親友である『ちーちゃん』さんだけだったそうだ。

現時点ではそれでいい。けれども、何時かは人類は自らの手で地球を守る必要がある。そのためには、この高すぎるハードルを何とかしてある程度まで引き下げる必要があったのだとか。

まぁ、兵器というのは誰でも使えてこそ一流なのだ。使い手を選ぶなんていうのは『兵器』としては失格だ。まぁ、本当は兵器として扱われないほうが良いんだろうけどさ。

「其処で私は考えたんだよっ! 人間の精神だけじゃコアからエネルギーを引き出しきれない。なら、コア自身にエネルギーを引き出させたら如何かな、ってね!」

そうして束さんが行なったのが、コアに対して自意識を芽生えさせる、と言う処理。

元々束さんが開発していたプログラムの一つ、学習型のAI。コアはそもそもそれだけで一つの完結した量子コンピュータのような代物だ。そこにAIの種を解き放てば、何時か人間を上回る精神を持つ存在が誕生するかもしれない、なんて考えながら。

その結果は見事に成功。束さんの企みどおり、コアに芽生えた自意識は、虚ろながらもその搭乗者から感情を学び、その搭乗者にコア自ら力を貸すことで、その制限を大幅に引き下げることに成功したのだ。

「でもね、問題点が無いわけじゃないんだ」

コアとの適性条件は、コアの自意識の発生により大きくそのハードルが下げられた。けれどもそれは、同時に一つの問題点を生み出してしまう。

それが、ISコアが男性に反応しないという点。

束さんが意識したわけではなく、何故か、そう何故かISコアに自意識が芽生えたにも拘らず、男性で反応するのは依然俺だけなのだ。

まぁ比較例が少ないというのも有るし、俺の場合は俺に反応しているというよりも、ウルトラの力に対して共鳴しているのかもしれないのだが。

――やはり危惧したとおり、女尊男卑の切欠が出来てしまったか。

内心で小さく危惧を募らせつつも、とりあえず束さんの言葉に頷いておく。束さん自身は、いずれはこの問題点を解決して、ISを本当の汎用機に仕上る心算らしい。出来れば本当にそうなって欲しいものだ。

「まぁ、少なくとも現時点では、俺が戦う為の補助装備としては使えるんだよね?」

「ソレはもう。何度も何度もテストしてたわけだし、そのアークプリズムだけじゃなくて、その子の兄妹たちだって使えると思うよ」

「なら何も問題は無いね」

少なくとも、俺が戦える内は。

束さんがISを開発する中で、俺は延々と戦う為の準備を続けてきた。空中機動、格闘技能、遠距離戦闘演習。他にも色々開発したりして、そうして今、漸く準備が整ったのだから。

そんな事を考えながら、軽くアークプリズムの挙動テストを続ける。一次移行を終えて、赤と白のツートンカラーに姿を変えたアークプリズム。形状が微妙に変化したことで、慣性モーメントも変異したのかと思ったのだが、どうやらその辺りはISのほうが自動的に調整してくれたらしく、たいした違和感もない。

見事なものだ、何て思いつつ、取り敢えずのテストが完了したことを以って、一度アークプリズムから降りようと思ったところで、不意に束さんから待ったが掛かった。

「何か問題があったの?」

「そうじゃないよ。アークプリズムじゃなくてね、いつもの降車手順じゃなくて、正式版になったことで『待機状態』の使用が可能になってるんだよ!」

折角だから使ってみてくれという束さん。具体的にどうやるのだろうかと思っていると、アークプリズムの方が勝手に待機状態に成ろうと判断したらしく、突如ISは白い光の粒子になって、そのまま圧縮。小さな光の塊になって、俺の目の前へと集まった。

そうして集まった白い光は、赤と白、アークプリズムと同じ、ツートンカラーの腕輪へと姿を変えていた。中々おしゃれだな、なんて考えながら、ふわりと宙を舞うその腕輪を受け取り、そのまま自らの左手首へと装着した。

「うんうん、ちゃんと待機状態に成ったみたいだね!」

「これは、何時でもアークプリズムを呼び出せるの?」

「うんうん。待機状態の間に最低限の事故修復とかエネルギーの再充填とかをしてくれるんだけど、事故修復はともかく、エネルギーに関しては何時でも呼び出せるよ」

何せISのエネルギーとはつまり、俺のウルトラの力、オルタとほぼ同質の物なのだ。俺とコアのエネルギーは、互いに共鳴しあうことで無限にその力を増幅させることが出来る。つまり実質的に疲労や負傷以外の原因で俺が戦闘不能に陥ることは先ず無いと考えてもいい。

若干チートアイテム臭くなってしまっているが、まぁそれはおれが光の力をディラクから受け継いだ時点空の話で。それに戦闘力を除けば、俺よりも束さんのが余程チートだ。何せ、束さんディラクと出会ってからISを完成させるまでに一年もかけていないのだ。

いくら事前からの技術蓄積があったとはいえ、これがどれだけチートなことか。スペースシャトルの概観を見て、そこからいきなりソユーズを開発するくらい無茶な仕事をして見せたのだ。……話が逸れた。

改めて俺の腕に収まったアークプリズムを軽く撫でながら、ふと何かを感じて視線を腕から持ち上げる。

と、其処には俺の見たことの無いISが一機、主を持たないままその場に鎮座していた。

「……これは?」

「ふふふ、気になる? その子はIS正式版第一号、『白騎士』だよ」

その言葉に思わず目を細める。なるほどコレが白騎士。世界最初にして最強とされた、原初の存在。……まぁ、この世界における原初の存在は、アークプリズムだったりするのだが。

「実はね、このISを汎用機として開発するに当って、ちーちゃんにも色々協力してもらってたんだ。その子は一般人が使うための機体。私がそもそも目指してた、宇宙活動用のパワードスーツとして開発した機体なんだよ」

そう言って楽しそうに笑う束さん。なるほど、まぁたしかに機体開発に関して、データ収集源を俺一人に固定してしまうと、どうしてもデータの偏りが発生するのは目に見えている。サンプルの分母を増やすのは決して間違った選択ではないだろう。

まぁ、俺達の活動目的の前提上、事が起こるそのときまでは慎重に情報漏れを防ぐ必要があるのだけれども、束さんは意外にその辺り確りと処置してくれているので大丈夫だろう。

「ちーちゃん、というと、例の」

「そ、織斑千冬でちーちゃん。私の親友だよ」

実は俺、この束さんと接触を持つようになって一年近く過ごしているが、未だに束さんの家族以外の、束さんの友人枠との接触は行なっていない。それどころか、束さんの家族とすらも、最低限の接触意外は行なっていないのだ。

と言うのも、後に俺の情報が表へ出ることを防ぐ為。俺と言う存在の痕跡を可能な限り消しているのだ。いずれ起こるであろう戦い。その最中に俺の存在が露見しないとも限らない。そんな時の為にも、できるだけアキレス腱は少ないほうがいい。

……もしそんなときが来れば、間違いなく俺はアキレス腱に釣られて転ぶだろう事は目に見えているのだから。

「私はまーくんの事、普通に友達だってしょうかいしたいんだけどねー」

「何時かはそうなれると思うよ。でも、今はまだ……」

「うん、仕方ないね」

俺の言葉に束さんは苦笑しながら頷いてくれる。束さんは理解してくれているのだ、俺が途轍もなく臆病者であるという事を。自分が傷つくことも、自分の友人が傷つくのも、どちらも俺はいやなのだ。

だからこそ俺は、自分から積極的に友達を作らない。どこぞのヒーローの如く『人間強度』云々と語る心算はないけれども、よわっちい俺には両手で足りる程度の友達が居れば十分だと思う。……まぁ、現時点で両手の数ほども居ないんだけど。……自分で言ってて、落ち込む。

「ま、それならそれで、アークプリズムの完成祝いに、何処か一緒に遊びに行こうか! パーッと!!」

「お、おぅ、パーッと!」

言うや否や、束さんは俺の手を取って強引に地下の秘密基地から連れ出した。

この強引だけど、人の心を確りと気遣ってくれる格好いいお姉さん。原作のソレと違って、俺の友達の束さんはとてもいい人なのだ。

そんな束さんと二人並んで連れ立って、結局その日は二人並んで遊びまわったのだった。




■オルタ
ウルトラの光、もしくはその力を指す。光を受けて『変わり行く』真幸を称して転じる(オルタ)と束が命名。ひいては束の悪ふざけで真幸の暗号名に。

■メガネ型HMD
通信機になったり傾向ディスプレイになったりする便利アイテム。レンズに映像を投影するわけではなく、レンズから網膜に情報を投影したりする。

■インフィニット・ストラトス
コレを見るまで真幸は二次元とリップだと気付かなかった。
機能的には原作のソレと大体同じ。但し機嫌は宇宙活動用のパワードスーツではなく、宇宙人や怪獣を想定した、地球防衛用装備。
ISコアはアークを精製したものであり、IS適性は光に慣れる可能性の高さを指す。
女性しか使えないのではなく、本来『真幸専用』であったものを解析し、その制限の幅を広げた結果、『何故か女性に』のみ間口が広がった。

■IS試製零号機『アークプリズム』
真幸専用に開発された、ISの原型機。ISというカテゴリが出来る前に開発された機体。
基本的に真幸とコアが共鳴する事で無限にエネルギーを増幅させることが出来る為、真幸のスタミナ切れ以外にエネルギーがきれることはない。
後のISに比較し、搭乗者が人間を辞めている事情を鑑みて、かなり搭乗者保護機能が緩い。その為、もし仮に万が一他人がアークプリズムを起動させることが出来たとしても、起動させた瞬間に即死するという鬼畜使用の機体である。

■篠ノ之束(イノベイター)
イノベイター化した束さん。普通に人の心を何となく読んでくる。
コミュ障が対話能力で直るかと思ったら、先読みのし過ぎで引かれて逆に悪化したでござる。げせぬ。但しそれでも以前に比べれば気遣いも出来る様になったため、付き合いのある人物は増えたらしい。

■秘密基地
=ロマン

■織斑家
篠ノ之家の友人兄妹。束さんの友達。
但し真幸は織斑家と直接的に接触があるわけではない。

■パーッと遊びに行った二人
そんな二人を目撃した箒ちゃんは、何か得体の知れないものを見る目で自分の姉を見ていたのだった。

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