窮天に輝くウルトラの星 【Ultraman×IS×The"C"】   作:朽葉周

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15 VSオルコット戦

 

 

 

馴染む、と、IS白桜に搭乗した彼――織斑一夏は、そう表現するしかない感覚を覚えていた。

白桜から流れ込むISのデータ。これまでマニュアルで覚えこもうとしていたISに関する基礎操縦方法に関するあれこれ。それらが全て白桜のイメージ・インターフェイスを介して、いやISというシステムその物を通して一夏の脳裏に送り込まれていた。

右手を上げて、その掌を動かす。と、それに追従するように――ではなく、まるで腕そのものを操っているかのような感覚で、この白桜のマニュピレーターを操作することができるのだ。

思考から機体への意志伝達に、タイムラグなどというモノは最早存在し居ていない。それどころか、一夏自身の身体を動かすよりも自在に身体を動かせているかもしれない、と一夏自身が思ってしまうほどだった。

「えーっと、先ずは機体と武装の把握だっけ?」

ISに触れて、一種の躁状態に成っていた一夏だが、そんな一夏の精神はこの一週間の修練、そしてその中で散々と言われ、脳裏に焼きついた『常に頭は冷静に』と言う言葉で何とか沈静化する。

思い出したのはデイブに言われた、先ず最初に機体のチェックを行なうという事。

白桜から一夏に流れ込むデータ。ソレを信じるのであるならば、この白桜という機体は白式と呼ばれる実験機を下地に、更に新機軸のシステムを搭載した、かなり実験的な側面を持つ機体と言うことになる。

機体自体の特徴は、反応速度と、従来機に比べた場合の凄まじいまでのエネルギー効率、更に太陽炉の放つエーテル粒子による抗重力・反応速度・防御力向上などなど。第三世代型を下地にしたと言うだけ有って、機動力と攻撃力も素晴らしいものがある。

武装に関して。織斑千冬の暮桜のワンオフアビリティー『雪片』を再現した『光雪片』。実体剣にエネルギーブレードを纏わせる隙の少ないブレードなのだが、問題は武装がソレ一つしか存在していないと言う点だ。正確には、空き容量にそれ以外の武装がインストールされていない、とも言うのだが。

簡単に言ってしまえば、エネルギー効率重視の機動型で尚且つ一発屋。なんて博打な機体だろう。要するに攻撃は回避して、全ての敵を寄って斬れというのだ。間違っても素人に宛がう機体ではない。

だがまぁ、と一夏は考える。逆に言えば、扱う武器は刀一本で良いのだ。少しデイブに銃火器に付いてのレクチャーを受けた一夏だったが、レティクルが如何だとかリロードのタイミングが云々、未来予測で如何こう、と言う話をされた時点で火器を扱う事は諦めている。少なくとも、今現在においては。

コレは寧ろ、余分が一切カットされた自分向けの機体なのだ。織斑一夏はそう思うことにした。

 

「ん、決着が付いたみたいだぞ」

不意にピット内に響く声に、ソレまで内側に向けていた意識を外側に、閉じていた瞼を見開く。

「勝者はモーゼスか。然しSE残量を見ると接戦だったようだな」

「はい。モーゼス君の機体はエネルギー消費の激しい機体ですから、もう少しコナー君が粘れていればあるいは……」

「ま、最大の問題は、仮にオルコットに勝てた場合、一夏がアレを如何攻略するか、って話に成るんだけどね」

「げっ、そっか、アレの相手することも有るのか」

真幸の言葉に思わず声を上げる一夏。そう、仮に、負ける心算は無いが、仮に一夏がオルコットを下した場合、その次に当るのは……。

「気が早いわ馬鹿者。第一、アレに当る前に、Aリーグの勝者は木原と戦うだろうが」

言う織斑千冬に、胡乱気な目を向ける真幸。そんな二人に首を傾げつつも、とりあえず目を向けるのは今これから始まる試合だと自らに気合を入れる。

「はぁ。そろそろ時間だな。一夏、最後に一言だけアドバイスがある」

と、そんな胡乱な視線を放っていた真幸が、小さく息を吐いて一夏に向き直った。

「おう」

「正直、お前じゃオルコットに勝つのはほぼ不可能だ。絶対とは言わないが、相手は国の顔である国家代表目指して、厳しい訓練を詰んできた相手。早々楽に勝たせてくれるような相手じゃない」

「…………」

「だがな。コレはISバトルだ。お前とオルコットの戦いじゃない。お前と白桜、オルコットとブルー・ティアーズの戦いだ」

言いながら一夏に近寄った真幸は、ペチンとその白銀のISの装甲を叩いた。

「白桜を信じろ。それはお前のためのISだ」

――それだけか? 思わずそう問いかけようとした一夏だったが、然し眼前に佇む真幸を見てやめた。

顔こそその大きなHMDに覆われて見えはしないが、けれども彼の醸し出す雰囲気は諧謔などではなく、間違いなく心の底からの言葉なのだと一夏に感じさせていた。

「……む、フィールドの設定が完了したらしい。織斑、いけるな?」

「ああ、万全だ」

織斑千冬にそう返した一夏は、次いでその視線を傍に立ち鋭い視線を向ける幼馴染へと向けた。

「箒」

「な、なんだ?」

「いって来る」

「あ……ああ。勝って来い」

そう幼馴染に告げた一夏は、そのまま白桜を制御し、ゲートからゆっくりと機体を飛ばす。

(……凄い、本当に身体を動かしてるみたいだ)

一夏が思い出すのは、この一週間の間に学んだISの基礎知識。ISは搭乗者から生体データを読み取り、ソレにあわせて機体を動かせる事ができる。

特に専用機と呼ばれる分類の機体は、コレに加えて操縦者の生体パターンを学ぶ事で、操縦者と一体化するかのごとく『同じもの』に成ろうとするのだ。

一夏の操る白桜は、現在進行形で初期化、そして最適化処理を行なっている。未だ一次移行すら終えていないというのに、既に自分の肉体並、いやもしかするとそれ以上かもしれないほどに動くのだ。

ゲートの開放を確認。同時に響く試合開始の合図。ソレを確認した一夏は、フィールドに向って白桜を一気に加速させたのだった。

 

 

    ◇

 

 

 

先ず機体を把握する為、軽く試す気持ちで白桜を動かし、HMD上に目標地点を設定。その場に向けて加速し、ピタリとその場で静止する。

ISならではの特異なマニューバなど何一つ知らない一夏は、然しもうその時点で基礎的な動きに関してはある程度の時間ISに登場した経験者にも並ぶほどの能力を得ていた。

「あら、逃げずに来ましたのね」

ふと意識に響いた声にハイパー・センサーを向けると、其処には青いISに身を包む金髪の少女が一人。

即座にHMD上に表示されるデータ。其処に表示されるのは、搭乗者:セシリアオルコット、そして機体名称であるブルー・ティアーズの文字。

本来コア・ネットワークは、対侵略者・怪獣戦において、全く所属が違う搭乗者同士が、即座にある程度の協調性を取れるよう、そのサポートの為に開発されたシステムだ。

これによって互いの情報を有る程度確認しあう事で、互いに特異な戦場を判断し、其々に割り振る、と言うのがこのシステムの本来の目的だった。

「逃げる必要性を感じなかったんでな」

「ふんっ。まぁいいですわ、ワタクシ、アナタに最後のチャンスをさし『恋愛原子核』でも装備しテイルの可と上げようかと思いまして」

「最後のチャンス?」

言葉を返しながら、一夏はその手に光雪片を展開する。パーソナライズ及び一次移行が完了していない現状では、未だ零落白夜を使用する事はできない。けれども白桜の基礎スペックはそれでも尚現行のISの中でも最上位に位置するほどの能力を持つのだ。

仮にオルコットが不意打ち気味に、その手に持つレーザーライフルを撃ってきたとして、それを回避する事など白桜には容易い事でしかない。

「ええ、ええ。ワタクシが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今此処で私に謝るというのであれば、許してあげない事も無くてよ」

――警戒。敵機FCS・当機をロック、セーフティー解除を確認。

白桜から流れ込んでくる膨大な情報量。今にも知恵熱を出してしまいそうなほどの情報量。何が言いたいのか良く解らないので三行で説明してほしい。

 

 ロックオンされました。

 敵機レーザーライフルの安全装置が解除されました。

 何時撃ってきてもおかしくありません

 舐められてます。とっとと片付けましょう

 

そうして表示されたデータを見て、一夏は思わず笑った。

「そういうのは、チャンスとは言わないな」

「そう? それは残念ですわ。それならば――」

オルコットの戯言に、此方も戯言を返しながら一夏は思う。嗚呼、俺は当りを引いた。良い相棒を引き当てたんだな、と。

――警告。 敵機初動を確認。レーザーライフル、来ます。

(オッケー相棒!)

「お別れですわね!」

ギュインッ! という耳朶に残る独特な砲声。予測どおりに放たれたその光を、一夏は何の問題も無く回避してみせた。

「なっ?!」

「動けエエエエええ!!!」

咆える一夏。その叫びに呼応するかのように、全身のエネルギーラインが発光しだす白桜。

イメージ・インターフェイスによって太陽炉が活性化する。あふれ出すエーテル粒子がまるで脈打つ様に白桜を巡り、言い表しようの無い凄味を醸し出す。

「光雪片!」

――抜刀

バシリと音を立てて顕現する光雪片。それは一本の、無骨にして野太い、反りを持つ大太刀だ。

一息でオルコットの懐までもぐりこんだ一夏は、そのままオルコットに向いその野立ちを振り下ろしたのだった。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「いや、一夏も中々の物じゃないか」

「ふん。あれは如何見ても機体性能に助けられているだけではないか」

ポツリと呟いた真幸の呟きに、そう返すのは隣に並び立つ織斑千冬。

「いやいや、確かに白桜の機体性能はぴか一だとは思うよ。けど、ソレを一夏が使えているってのも事実だ」

確かに一夏は、ISのマニューバの類は使えていな。然し、ソレは至極当然だ。何せ彼はまだIS搭乗回数が二~三回の、文字通りの素人なのだから。

ソレを鑑みれば、オルコットのレーザーライフルの射線を回避しつつ、尚且つ相手の間合いに踏み込もうと試みる姿は十分に及第点だろう、と。

「あくまで素人にしては、ならな。……然しそれにしても、一夏の動きが良すぎるような……。まさかハイパーセンサーの感度を上げているのか?」

ISに搭載されているハイパーセンサー。コレは宇宙空間での活動を想定して開発されたセンサーで、装着者に対して全天周囲の情報を脳に直接送り込む事が出来るというものだ。

このハイパーセンサーには幾つか設定が存在し、単純に人外の視界を得るものもあれば、キャノンボールのような高速での機動を想定した、人の認識速度を引き上げるようなシステムも存在している。

「まさか。幾らなんでも素人にそんな無茶はさせませんよ。あれは太陽炉の効果ですよ」

然し、このハイパーセンサーと言うのは優れた情報収集端末であるが、同時に『優れすぎた』情報収集端末である。普段真正面にしか視界を持たない人間が、いきなり三百六十度の視界を得て、ソレを理解しきれる筈が無く、幾ら情報を圧縮しても、ソレを脳が受け止め切れはしないのだ。

故にこれらハイパーセンサーの特殊運用というのは、センサーに有る程度慣れた中級者以上からのものとなるわけで、真幸はまさか一夏みたいな素人に、いきなりそんな拷問みたいな真似をするわけが無いと織斑千冬に否定の言葉を返したのだ。

「その、太陽炉と言うのはなんなんだ?」

「一言で言うなら、永久機関、かな?」

「なっ」

そうして続いた彼の言葉に、千冬は思わず息を飲み込んだ。永久機関。少なくとも現段階、地球人が得られては居ないとされるシステムだ。

近代に至って世界各地でエネルギー問題が沙汰に上る中、なんとかISやSMSによる宇宙開発が進行してきたためにエネルギー紛争は落ち着きを見せてはいるが、それでも火種と言う意味では未だに世界でくすぶる問題だ。

仮に永久機関などというモノが存在するのだとすれば、ソレは世界のエネルギー事情を一変させうる可能性がある。

「まぁ、太陽炉はあくまでエーテル粒子精製装置として設置されてるだけで、産出エネルギー量は大した物ではないんですよ。重要なのはエーテル粒子のほうで」

「エーテル粒子……あの機体の放つ光か。束が真っ当な代物を作るとは思っていないが、矢張りあの光には何か意味が有るのか?」

「というか、あの光こそが重要なシステムでして」

言いつつ、真幸はピット内で会場を映すモニターに注視する箒に気取られぬように少しだけ声を潜める。

「あのあのエーテル粒子、色々な性質がありまして、例えば機体を循環させる事で、機体そのものを一つの量子コンピューターのような物に仕立ててるんですよ」

「…………?」

「は、はは。まぁ織斑先生はあくまで操縦者ですからね」

首を傾げる千冬に、「要するに白桜は単体で凄いコンピューターにもなってるんです」と付け加える真幸。

実はコレとんでもなく凄い事で、確かに技術的に進歩しているこの世界では量子コンピュータも若干数ながら存在している。然しソレは、SMS級のようなマキシマドライブを扱い、尚且つ高度な制御能力の求められるシステムに、大型の代物として配置されるなど、現代においても限定的にしか運用されていない。

そんな量子コンピューターを、ISサイズにまでダウンサイジングできたというのがどれ程の偉業か。とはいえこのISを量子コンピューター化する技術は、あくまでもISコア依存である為、あまり汎用性も無かったりする。

それでもIS自体が量子コンピュータ化したことで、基本的な反応速度から通信速度、さらにはハイパーセンサーの搭乗者に対する負荷軽減にまで貢献しているのだ。

「で、更にこのエーテル粒子、搭乗者に色々なメリットがありまして、例えば重力軽減であったり、反射神経の強化であったり」

「……人体に負荷は無いのだろうな?」

「勿論(寧ろ進化を促すかもですけど)」

「何か言ったか?」

「いえ」

要するに従来のISとは一線を隔した凄いシステムで、その補助と言う側面も確かにあるのだ、と真幸はそう締めくくった。勿論小声の囁きを織斑千冬に気取られるようなヘマはせずに。

「いけえええええええ!!!!!! 其処だ一夏ぁぁぁ!!! たたっ斬れェェェェェ!!!!」

(――如何でも良いけど、えらくヒートアップしてるなぁ、篠ノ之さん)

「まぁ永久機関に関してはそのうち束さんが核融合炉を発表するから問題ないとして」

「おいちょっと待て……いや、待つな。聞かなかった。私は何も聞かなかった、いいな?」

「解ってますよ。んで、その白桜は確かに凄まじい機体なんですけど、現状のアレにはかなりリミッターがかかってます。軍事リミッタ、競技用リミッタ、TRANZAMリミッタ、その他諸々。素人には到底扱いきれないシステムなんだから仕方ないのは仕方ないんですけど」

けれども、そんなリミッタでガチガチに固められた状態で尚、ああしてオルコットと戦えているのは、間違いなく一夏自身の、技術以外の覚悟や想いみたいな部分があるのだ、とそう告げる真幸。

そんな真幸の言葉に、モニターに視線を向ける織斑千冬は、何処かほんの少しだけ嬉しそうに表情を緩めたのだった。

「おのれオルコット! そうではない一夏、グインではなくギュンッ! だギュンッ! っといけっ!! 違うそうじゃない危ない一夏ぁぁぁああああ!!!」

「や か ま し い !」

「ギャンッ!!!」

そうしてしんみりする織斑千冬の横。モニターに向けて親父の野次の如き声援を撒き散らしていた篠ノ之箒は、当然の帰結として織斑千冬の帳簿による脳天割りを喰らったのだった。

 

 

    ◇

 

 

 

そんな真幸たちのいるピットから少し離れた、選手向けの休憩室として用意された一室。其処には現在、先の組み合わせとして戦った二人の男性IS操縦者が並びベンチからモニターを凝視していた。

「すっご……」

思わず、といった様子で口からそんな言葉を零したのは一体どちらだったのだろうか。

「確か、一夏は未だISに触れて数度の素人、といっていたよな?」

「う、うん。そのはずだよ」

この一週間で一夏を名前で呼ぶようになったギルは、然し同時にそのあまりの凄まじさに目を丸く見開いてそう呟いた。

目の前で繰広げられる光景。それは、セシリア・オルコットのレーザーライフルをかいくぐり、乱れ舞うオールレンジ兵器『BT(ブルー・ティアーズ)』の光の雨を踊るようにかいくぐる一夏の白桜の姿だ。

ギルもデイビッドも、共に転生者、それも『原作知識もち』に分類される人間だ。そんな彼らだからこそ、織斑一夏という『主人公』は、素人ながらに有る程度前線で斬るだろう事は、原作知識を鑑みれば十分に予想できていた。

然しソレと同時に彼らは、今現在のこの世界を生きて、それなりの実力を持つIS操縦者なのだ。

オルコットは候補とはいえ代表。BTの適性値込みで選ばれたような物であるとはいえ、それでもその名を背負う重みと言うのは十分に理解し、故にオルコットの実力を下に見ているという事は無かった。

そして事実、セシリア・オルコットの実力は、彼ら二人に勝るとも劣らないほどの物を供えているようにも見えていた。

「……BTを扱いながらだと自分が動けないんじゃ無かったのか?」

「如何見ても、同時に両方を操ってるよね……?」

そう、彼らの視線の先、戦場が映し出されたモニターには、オールレンジ兵器を操りながら、その隙間を狙うように光の矢を次々撃ち放つオルコットの姿が映し出されている。

本来の『原作』であれば、セシリア・オルコットは『BT兵器』と『ブルー・ティアーズ』を同時に操作することができず、その隙を突かれたが故に織斑一夏に五分五分の戦いを挑まれる事と成ってしまった。

然し現在、この戦場に立つ彼女はそんな弱点など見せず、その姿は間違いなく一級品。BT兵器の歪曲レーザーこそ発動しては居ないが、それでもあれは間違いなく彼ら二人に匹敵する。

けれども、だがしかし。そんな事は問題ではない。候補といえども国家代表。脅威となるのは当たり前なのだ。

問題は、そんなセシリア・オルコットに、ドの付く素人である織斑一夏が拮抗できているという点なのだ。

「……これ、真幸が何かしたのかな?」

「奴は勉強面以外にはあまり口出しをしていなかった。一夏が善戦できているのは一概に機体のスペック差だろう、……と言い切りたいのだが」

「ソレだけには、見えないよね……」

二人が視線を向けるのは、戦場の俯瞰図。フィールド上空から望遠で戦場全体を見下ろしている映像だ。

その中でも二人が注目しているのは、織斑一夏が辿る軌道。地面ギリギリを飛んだかと思えば、今度はフィールド壁際ギリギリを飛ぶ。

円を書くようにじりじりと距離をつめつつ、アクセルワークによりその速度を一定に『保たない』事で、その照準を微妙に狂わせる。

一直線に突っ込んだかと思えば、じりじりと距離を詰めて、相手に精神的なプレッシャーを掛ける。

「如何見ても素人の操縦じゃないよね」

「……案外俺らの同類だったり……は、無いか。アレが演戯だというなら俺は人を見る目がなさ過ぎる」

可能性の一つとしてギルが提唱した物。織斑一夏が転生者なのではないか、というもの。けれどもソレは即座に、他ならぬギル自身によって否定される。

織斑一夏は鈍感大帝だ。その不思議な、それこそかの『恋愛原子核』でも装備しているのか、と言う程にモテ、尚且つそれら全てに一切気付かず華麗にスルーするという、全国の兄弟が血涙を流して呪詛を放ちたくなる特殊能力もちのイケメンだ。

前提として転生者は『元一般人』である可能性が高い。つまりは、『兄弟』の一人なのだ。そんな兄弟が織斑一夏を装う? 無理無理、何処かで必ずほころびが出る。

そして織斑一夏の装いは、紛れも無くド天然ッ!! そう、それは見間違いようの無いほどにッッ!!!

「……でも、だとしたら何なんだろうね」

「技術的には未熟。けれども判断としては上々。機体スペックは特上。解らん」

二人の目に映る映像。ブレードを振るう一夏の姿は、足場の無い空中戦に慣れていない人間の物で、ブレード一本振るうにしても無駄が多い。

然し同時に、一夏は常に地面かフィールド壁面の傍を移動している。コレは間違いなくBT対策だろう。BTは空間兵器。その脅威は死角から複数の攻撃が来るという点だ。然しソレは逆に言ってしまえば、死角が無ければ問題に成らないという事だ。

常に地面や壁で死角を削れば、警戒するべきは少なくとも一面は削られるのだ。そして恐ろしい事に、この織斑一夏はBT兵器の動きを有る程度制限する事で、見事にその攻撃を回避し続けている。

技術的には未熟。然し戦術的にはまるで誰かに情報支援を得ているかのごとく考えさせられる物がある。

「確かに一夏が頑張ってたのは知ってるけど、それだけであそこまでいけるものなのかな?」

「……いや、案外ソレかも知れんな」

「え? 如何いうこと?」

「誰かが一夏をオペレートしているのかもしれん」

「え、でも原則IS戦は一対一、セコンドは無しじゃ……」

「無論。仮にオペレーターなりセコンドなりが居たとしても、あの動きを指示するには少なくとも前線を経験した一流どころが要る。が、ソレができるのは今この場には、織斑先生と山田先生しかいない」

――然し、とギルは言葉を区切る。話に出た山田麻耶副担任は、現在オルコット側のピットに居り、織斑側のピットに要る織斑千冬教諭はそういった点で身内を贔屓する事の無い人だ。

「なら、誰が……」

「案外、あのISが一夏を教導しているのかもしれんな」

「ISが……教導?」

ポツリとギルが零した言葉に、デイビッドは改めてその視線をモニターに向ける。

其処には、ついにオルコットとの距離を詰め、今にも彼女に斬りかからんとする一夏の姿が映し出されていた。

 

 

 

    ◇

 

 

 

――敵ISのオールレンジ兵器を確認。現状のランナーでは対処不可能と判断します。

(対策は!)

――地表、及び壁面を背に行動してください。其方からの攻撃は来ません

(それ以外の攻撃は)

――回避してください

セシリア・オルコットの駆るブルー・ティアーズの放つオールレンジ兵器BT。その攻撃は、間違いなく素人でしかない一夏には厳しいものであった。

一夏とてアニメくらいは見る。今も昔もやっているリアルロボット系の太祖であるアニメにもこの手の兵器は登場し、大抵の場合これら遠隔多角攻撃は敵の切り札的な扱いにされる事が多い。

アニメの主人公達は、ソレまでの経験や積み重ねた技術でこれら超兵器を攻略していくわけなのだが、生憎ISに触れて未だ二度三度目でしかない一夏には、この攻撃を回避する事は到底無理に等しい。

確かにこの白桜のスペックは従来機のそれを圧倒するのだろう。然し、だからといって全てがなんとでもなるかと言うとそうではない。

一夏が思い出したのは、プラスチック製の車のフレームに、モーターと電池を突っ込んで実際に走らせる有名なホビー。友人である五反田弾と共に、一夏も少し遊んだ事がある。

あの玩具にしたって、単純に早ければ、軽ければ、パワーがあれば良いというわけではない。速過ぎれば暴走し、軽ければ飛び上がり、力があれば重くなる。重要なのはバランスと、戦場(コース)に最適な戦術(セッティング)なのだ。

その点で言うと、一夏は完全に機体のスペックを持て余していた。所詮素人でしかない一夏だ。幾ら相手の攻撃を捉えていたとしても、其処から如何対応するべきかと言う『判断力』が養われていないのだ。

それでも、なら無理だと両手を上げて降伏するか、と問われると、一夏は否と応えただろう。

確かにIS学園に来る前の一夏であれば、例え敗北したとしても、その結果を淡々と受け止められて居ただろう。けれどもソレは一夏が強いからと言うわけではなく、彼がISと言うものに何のこだわりも無かったからだ。

けれども一夏はこの一週間IS学園で多くを学び、今此処に立っている。此処に立つまでに、幾人もの人たちに支えられて、この場に立ったのだ。

覚悟なんて無い。でも、負けられない想いはある――ッッ!!

「ッオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」

そんな時だ。迫るBTに向けて唯一の武装である光雪片を振るおうとしたところで、何故か一夏の脳裏には、出撃前に真幸にいわれた言葉が浮かび上がっていた。

『白桜を信じろ。それはお前のためのISだ』

(ッ、白桜!)

――左腕を盾に、地面に向けて逃げてください。

即座に、白桜からの指示通り、左腕を盾にしつつ、そのまま真直ぐ地面に向けて飛び降りる。途端背後からレーザーが雨霰と降り注ぐが、一夏はそれを小さく動いて回避していく。

――激しく動く必要はありません。敵機の照準は直線的です。小さな動きで十分回避が可能です。

その言葉の通り、一夏が軽く爪先で蹴る程度の感覚でスラスターを吹かせると、つい先ほどまでその場に一夏が居た空間をレーザーが素通りしていく。

(如何いうことだ、代表候補生の照準がそんなに粗いのか?)

――敵ISは当機とは違い、操縦者による単独制御型(ワンマン・オペレーションタイプ)です。故に全てを同時に、かつ精密に制御するには限界が有るのでしょう。

なるほど、と内心頷く一夏。確かにあれらオールレンジ兵器の全てを意志一つで制御しているのだとするならば、其々の照準が多少甘くなるのは理解できる。寧ろそれで此方に当てて来ているのが恐ろしいくらいでは有るが。

「あら、今ので墜ちたかと思いましたのに、回避しきるとは驚きですわ」

「は、未だ未だこれから驚かしてやるよ!」

即座に回避行動を取り、オルコットの放ったレーザーライフルの光線を回避仕切った一夏。なんとか危機を脱したところで、改めて盾にした左腕の損害状況をそっと確認する。と、何発か直撃を食らったというのに、白桜の左腕には小さな焦げ目が一つ有るだけだ。

(どうなってるんだ?)

――白桜は元々接近戦を想定された機体です。特に相手との接近が想定されるであろう腕部は、特に強度が高く設定されています。

(へぇ、殴り合いもできそうだな)

――可能です。が、攻撃力は現時点でも光雪片にも劣る為、利点はないかと。

確かに、唯一の武器である光雪片を振るうにしても、肝心の腕が壊れやすくちゃ意味が無いよな、と納得した一夏は、改めて正面に佇むオルコットへと視線を向けた。

負けられない。けど、俺には勝てない。でも、俺達ならあるいは――。

(白桜、どうすればアイツをぶっ飛ばせる!?)

――まず、焦らないでください。

そうして一夏は、白桜の指示に従いながら、どうにかBTの雨霰のようなレーザーを掻い潜り、じわりじわりと円を描くようにゆっくりと距離を詰め始めた。

白桜も指摘する通り、操縦者としての技量は圧倒的にオルコットが上回っている。幸い搭乗者が狙撃型である為、距離をつめれば何とか成る可能性があり、更に機体スペック的には此方が圧倒している。然しそれでも勝つにはかなり厳しい戦いなのだ。

故にオルコットを落とすには、此方の利点を生かし、相手の利点を殺す必要が在る。

じわりじわりと遠回りに、ゆっくりと距離を詰める事でオルコットの精神を削り苛立たせ、その攻撃を大雑把にさせていく。

同時に一夏は回避に専念する事で、ISに関する基本的な挙動を白桜から学び取っていった。

コレは相手が狙撃型という事も幸いした。相手が近接型であれば、こんな事を考えている間にも重い一撃を受けて沈んでいたかもしれないのだから。

「チィッ! 素人がちょこまかとっ!!」

「折角誘われたからな、精々踊り回ってやるさ!!」

クルクルと回りながら、まるで踊るように宙を舞う一夏。実のところは顔のすぐ傍を通ったりするレーザーの光で一杯一杯だったりするのだが、ソレは男の意地で歯を食いしばって堪える。

(恐怖を我が物とすることが勇気と言うものだ、だっけ)

――理解不能。

(なら行動で示すさ!)

――了解しました。

旨の内での白桜とのやり取り。そんな他愛の無いやり取りで、緊張に凍りつきそうな頭をほぐしつつ、オルコットの銃撃を見極める。

既に十数分。未だ未だじっくり行きたいというのが一夏の本音だが、身体スペック的にも訓練生としての訓練を詰むオルコットに比べ、一夏は大分劣ってしまう。

オルコットの銃撃も、此方の挑発で大分乱れてきた。体力の余裕も考えれば、そろそろ勝負を仕掛ける頃合だろう。

「っ、其処だあっ!!」

そうして巡り巡って訪れた勝機。それは、一夏が地表ギリギリを移動していたことで、不用意に近付いたBTの一機が地面に激突したのだ。オルコットは自らの失敗に驚いたか、一瞬BTの制御を手放してしまう。その瞬間一夏のブレードによって、もう一機のBTが爆散した。

「なっ、ワタクシのBTをっ!?」

「ぅオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」

咆える。一夏の気合と共に噴出される、四機のスラスターから放たれる光の粒子。はじけるような光に推されて進む一夏。

「おおおおおっ!!!」

「くっ、BT!!」

一気に間合いをつめた一夏は、そのまま更に距離をつめる。

即座にオルコットもBTで迎撃を仕掛けるが、焦りからか制御が甘くなったBTは、今の一夏には良い獲物であった。

残る二機のうち一機を光雪片で切裂いた後、背後から迫る最後のBTに後蹴りを叩き込む。途端に爆散するBTの、その爆発を更に足場に、再び加速。そうしてついに一夏は、ついにオルコットを刃の間合いに捉えた――ッッ!!

「オルコットォォオ!!!」

「――かかりましたわね」

その瞬間! 一夏の背筋にひんやりとした物が走った! まるで燃え滾るココロに、冷たい冬場の水をぶっ掛けられたような、言い様の無い不快感ッッ!!

(不味い、何かわからないが、圧倒的に不味いッッ!! オルコットの顔は追い詰められた顔ではない、あれは獲物を仕留める狩人の顔だッッ!!)

「お生憎様、ワタクシのBTは六機ありましてよ!!」

途端、BTの腰部から広がるスカート状のアーマー、そのタンクのような突起が動き、ふわりと動いた。

(回避――駄目だ、加速が付き過ぎている!! 今からではかわし切れないッッ!! そして更に、あれは今までのBTとは違う。俺の認識が正しいのなら、あれは間違いなく――ミサイルッッ!!)

一夏は知っている。ミサイルと言う兵器の恐ろしさを。嘗て日本を襲った、世界各国から放たれた幾百ものミサイル。白騎士によって迎撃こそされたものの、その威力は現代の怪獣戦においても現役で活躍できるほどの物。

余波だけでも甚大な被害を齎すであろうソレ。ソレが今一夏の真正面から向ってくるのだ。このままでは直撃することは間違いなかった。

 

「白桜ッッ!!」

――搭乗者のデータ収集が完了。これより一次移行(ファーストシフト)を開始します。

 

ミサイルが直撃する瞬間。叫ぶ――いや、咆える一夏は、白く染まる視界の中で、そんな声を聞いた。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「一夏っ!!」

篠ノ之箒の叫びがピット内に響く。

「大丈夫だよ。直前でギリギリ回避行動を取ってた。それに――」

叫ぶ箒を宥めようとしたのは、その近くでモニターを見ていた真幸だ。が、肝心の箒は真幸の声など聞こえておらず、真幸は小さく苦笑して言葉を切る。

その場に居合わせる人間の視界は、試合が行なわれているフィールドを映すモニター。その中でも、フィールド中央に漂う黒煙に当てられている。

「――ふん」

そんな中。徐々に引いていく黒煙を眺めていた織斑千冬が、不意にそう鼻を鳴らした。

その皮肉気な表情の中に、何処か安堵したような色が混ざっていた事に気づいたのは真幸ただ一人だったが、真幸もソレを口にする程空気が読めないわけではない。

「機体にすくわれたな、馬鹿者め」

「ま、運も実力の内、ってね」

そうして。ゆっくりと引いていく黒雲が、突如として八方に弾け飛んだ。

黒雲の中から現れ出たるは、純白の装甲(ヨロイ)を身を纏い、桜色の光帯を全身に走らせた、輝くような一機のISがあった。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「おほほほ!! 褒めて差し上げますわ! このセシリア・オルコット相手に20分ジャスト! 素人にしては持ったほうですわよ!!」

嘲笑。何処かから聞こえてくるその声に、けれども一夏の精神は小石ほどの波紋も起きない。

――キィィィン!!!!

なぜならば一夏の精神波、その何処からとも無く聞こえてきた美しい音色に心を奪われていたのだから。

それは産声だったのだと、一夏は知らず心の中で理解していた。

そう、産声だ。鋼の産声、闘争の叫び。

この戦いに限った事ではない。これから、この先。ISというモノに関わった一夏は、既に自分が後に引けないのだと、このIS学園に来た一週間で理解している。

伝説的なニブチンではあるが、頭の出来自体はそれほど悪くも無い一夏は、その事をこの一週間で散々頭の中に叩き込まれている。

故に、覚悟こそ無くても、進む意志だけは持っていた。

そう、これはこの先、ISに関わる事になった一夏の戦いの始まり。ソレを告げる白桜の産声だと、一夏は確信していたッッ!!!

ブンッ、と振るわれる白桜の右腕。その手に握られた光雪片の放つ剣気によって、一夏を覆う黒煙が弾け飛んだ。

「なっ、ま、まさか一次移行(ファーストシフト)?!」

そうして雲の中から現れた機体を見て、距離をとっていたオルコットが叫ぶ。

一次移行によって白桜の姿は変化した。銀に近い白の装甲は、雪のような純白に。そして身体中を走っていた光のエネルギーラインは、その色をほんのりと桜色に染めて。

機体全体が、それまで何処か『ISに着られていた』ような姿から、まるで一夏のために誂えたかのような鎧へと変化していた。

「あ、アナタ、今まで初期設定だけの機体で戦っていたと言うんですの!?」

「――どうやら、そういう事らしい」

そうして一夏は告げる。この場、この時を以って、漸くこの白桜は一夏の専用機になったのだ、と。

右手に握る光雪片を両手で握り、正眼に構える。

今や光雪片はその名に劣らず、うっすらとその刀身に桜色の光を宿していた。

「……あぁ、全く。つくづく思い知らされる」

雪片。それは嘗て織斑千冬が世界で戦った折に振るった武装。彼女は嘗て、その一本の剣で世界の頂点に立ったのだ。

そうして漸く一夏は知る。一次移行が完了した事により開示された情報。其処に記されていたのだ。光雪片とはつまり、雪片から受け継がれた『力』なのだと。

「俺は世界で最高の姉さんを持ったんだな」

三年前、六年前――そして、自らの人生を振り返って。そうして一夏が感じたのは“愛”ッッ!! 唯一の家族であり、不器用な姉から受けた無限の愛情――ッッ!!

一夏は知っている。知っているが尚その場に至って思い知らされたのだッ! 自分が如何に愛されているのかを。言葉にしない彼女がどれ程に自らを想ってくれているのかをッッ!!!

故に、この時に至って、一夏はついに覚悟を決めたッッ!! 戦う覚悟を、守る為に剣を取る事をッッッ!!!!!!!!!

「俺も、俺の家族を守る」

「は? アナタ、何をおっしゃって……」

「行くぜオルコット、此処から先は最高速度だッッ!!」

「ッ、ブルー・ティアーズ!!」

「咆えろ白桜ッッ!!」

互いに叫ぶのは自らの愛機の名。主の声に応えるかのように、二機のISは其々に動き出す。

ブルー・ティアーズは即座にミサイルを再装填、直後それを白桜に向けて打ち出した。

対する白桜は、静かにその刀身に送るエネルギーを溜める。

(ああ、使い方は解ってるさ)

そう、一夏は知っている。嘗て姉に隠れて忍び見て、そして今また自らの動きを学び取るべく、データディスクが擦り切れるほどに繰り返し見た映像。

それは自らの姉の戦う姿。一夏にとってソレこそが理想であり、自らが学び取り、何時か越えるべき最強の姿。

今未熟な一夏は、その未熟を補う為に姉の影をココロにに宿すッッ!!

 

――斬ッ!!――

 

圧倒ッ!! 小さく回転した一夏は、最低限の機動でミサイルを回避し、更にすれ違い様にその弾頭を本体から切り離すッッ!!

嘗て織斑千冬が使った螺旋機動ッ! ソレを一夏は見よう見真似で、勝つ実戦においてぶっつけ本番で実践して見せたのだッ!!

「くっ!?」

「ハッ!!」

キンッッ!!!

響くのは澄んだ氷の弾けるような音。振り下ろされた一夏の光雪片は、まるでバターのように何の抵抗も無く、オルコットの構えるレーザーライフル、スターライトMk.Ⅱを真っ二つに両断した。

「くっ、インターセプターッッ!!」

「行くぜ白桜ッッ!!」

――零落白夜、セット。

レーザーライフルを切り落とされたオルコットは即座に近距離用ナイフを呼び出す。然し一夏はソレを気にもかけず、ただ白桜を呼ぶ。

即座に変化は現れる。薄らと光雪片を覆う桜色の輝きが光を増し、目にもまぶしいほどの輝きを放つ。

「これで終わりだッ、オルコットぉッ!!!」

 

ザンッ!!!

 

ナイフごと問答無用で叩き斬るその一撃は、そのままブルー・ティアーズ本体にまで直撃した。

途端白桜の零落白夜によってエネルギーを根こそぎ削りとられたブルー・ティアーズは、その直後に絶対防御を発動。そのすべてのエネルギーを使い果たし、吹き飛ばされるまま緩やかに曲線を描き、地面へと軟着陸していった。

 

『試合終了!! ――勝者、織斑一夏っ!!』

 

そうして響く試合終了の声に、漸く一夏は構えた腕を下ろした。

――戦闘終了。我々の勝利です。

「ああ、お疲れ様白桜。それと、サポート有難うな」

――コレが私の役目です。

そんな素っ気無い白桜の返答に、けれども一夏は小さく苦笑して感謝の念を伝える。戦いの中で、白桜が必死に素人である一夏をサポートしていたのは、他ならぬ彼自身が知っているのだから。

『あー、もしもし一夏』

「ん、真幸か? どうした?」

『どうした、っていうかさ。折角勝ったんだ。勝者なら手を上げてやれ』

不意に一夏の耳に響く声。どうやら白桜の通信機に話しかけてきたのだろうと、声から真幸と判断して問い掛ける一夏に、真幸はそう言葉を続ける。

言われて少し考えた一夏は、けれども確かに、いま少しこの時ばかりは勝利を誇っても良いだろうと、光雪片を握る右腕を高く空に掲げて。

その途端、会場に割れんばかりの歓声が響き渡ったのだった。

 

 

 

 




■白桜
独立戦闘支援ユニット搭載。
■『白桜を信じろ。それはお前のためのISだ』
アズラッドォォォオ!!!
■オルコットさん
くせぇぇぇ!! コイツはクセェ!! かませ犬の臭いがプンプンしやがるッ!!
■エーテル粒子
GN粒子の事。本作においては別にガンダムの中枢システムではない為、別名が与えられた。因みにある程度オルタとの互換性もある。
喜べ、お前も人類革新計画の一翼を担っているのだ!

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