TOA~Another Story   作:カルカロフ

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貴方が憎い

 そして翌日の昼。ルークとリグレット、アリエッタとシンクは既に空の旅に出ていた。

 

 悠久の蒼。太古から色褪せる事のない天幕の下、四羽の鳥型の魔物が飛ぶ。背中に人を乗せて。

 

 そしてその青の下、更に眼下に広がる藍の海。

 

 濃い色合いを見せる海の上には、戦艦が一隻。

 

 その中には、世界の主要人物が多く乗っていた。殆ど身分を隠しての旅であるので、その権力が使われるときはそれほど多くないが。

 

 機能的で内装など気を配った造りではないので、どこか慣れない者には閉塞感を感じさせた。

 

 その一人であるはずのガイは、譜業に目がなく少年のように目を輝かせながら戦艦内を自由に動き回っていた。

 

 「やっぱり凄いなタルタロスは」

 

 「殿方は、このような物がお好きなんですの?」

 

 「ナタリアだって人形好きだろう?」

 

 男の趣味は理解不能だというナタリアに、女の趣味は良く分からないというガイ。本来ならば主従の関係では無いが、ルークが居ない今、ガイの主は一時的にナタリアであり彼女の護衛を無事に成功させることが第一条件である。

 

 故にこの船に乗っている不安材料の気配を彼は鋭く感じ取る。

 

 「で、どうしたんだアッシュ。居るんだろ?」

 

 「え?」

 

 ガイが剣の柄に何気なく触れながら廊下の曲がり角に向かって語り掛ける。

 

 すると廊下の陰から一人の人物が無表情のまま出てきた。自分たちが知る七年前のルーク。そう彼本人から聞きそれでも素直に喜べない二人、特にナタリアはつい反射的に視線を逸らしてしまう。

 

 「……ネクロマンサーが呼んでいる。ベルケンドの港が見えたから探して来いと言われてな」

 

 「そうか。分かった。アッシュはどうするんだ? ベルケンドで用事が終わったら俺らに付いてくるのか?」

 

 「さあな。俺には俺のやり方がある。ヴァンのやろうとしていた事が気になるからな」

 

 首筋をピリッと感じる敵意のぶつかり合いに、ナタリアは一歩下がる。

 

 アッシュが、約束を交わしたルークが生きていてくれて嬉しいのに、殺してしまったルークへの罪悪感にアッシュの顔をまともに見れない。

 

 故にナタリアは、自分から声を掛ける事も出来ないでいた。だからこうしてガイと二人で船の中を歩いていたのだ。

 

 そんなナタリアの複雑な心情を知らないアッシュは、つい苛立ち、その攻撃的とも言える感情をガイが感じ取り警戒する悪循環が発生しているなど、ここに集う人物には理解できないでいた。

 

 「俺は先に行く。なるだけ早く来い」

 

 務めて冷たい声で言葉を置いていくアッシュに、ナタリアの心は一気に沈んだ。

 

 本当であれば、声を掛けて離れていた七年間の溝を少しでも埋めてしまいたいのに、触れるどころか見る事も出来ない。自分の不甲斐なさにため息を付いていると、ガイが操縦室に行こうと促した。

 

 どちらにしても、ただ悔いているよりは早く事態収束の為に動かなければならない。ナタリアは気持ちを切り替えてガイの後に続いた。

 

 そして一足先に操縦室に戻っていたアッシュは、苛立ちを飲み込んで席に座る。

 

 他の者たちは、あまりアッシュに関わろうとしない。六神将として動いていたせいでもあり、彼らはアッシュのレプリカと一緒に旅をしていた仲間たちだ。アッシュを見ていると『ルーク』を思い出して辛いのだろう。分かってはいたが歓迎はされないらしい。

 

 慢性的な緊張に包まれる中、ガイとナタリアが戻って来た事にジェイドはこれからの事は説明する。

 

 「それでは、アッシュの要望でベルケンドに行きます。ですがそこからは、ノープランです。アッシュはその後どうするんですか?」

 

 ジェイドの的確な質問に誰もがアッシュを見た。

 

 「俺は、ヴァンの企みを止める。レプリカ情報を大量に集めているみたいだが、何に使うか全く分からん。お前たちに付いていけば有益になるんだったら付いて行くだけだ」

 

 「そうですか。接近戦の人は重宝しますからね。私個人としては大歓迎です」

 

 「……だったら、ルークとしてキムラスカに帰るのか?」

 

 もしかすれば、付いてくると言うアッシュの発言にガイは苦しそうな表情で問う。

 

 ナタリアは、王女として一度バチカルに戻り停戦を国王である父に進言するのだ。その際、ファブレ公爵と会う事は絶対である。本物のルークは、彼だ。彼がもし、ファブレに戻る事があれば、七年間一緒に過ごしてきた『ルーク』の残滓が掻き消えてしまう。従者であり親友であるガイには、それはあまりにも耐えがたい。

 

 ナタリアも息を呑み、アッシュの答えを待つ。

 

 「俺は、聖なる焔の燃えカスだ。今更ルークだなんて言って戻るつもりもない」

 

 「アッシュはファブレに戻る気はないと、そう言う事か?」

 

 「被験者(オリジナル)がレプリカの代替品だなんて御免だ。俺は、極力戻る気はない」

 

 それ以上なにも言う事はないと言うように皆に背を向け、アッシュは窓から見えるベルケンドの港を睨み付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アッシュの指示に従い、ベルケンドに来た面々は、アッシュから聞かされた事実にそれぞれの反応を見せた。

 

 彼がなぜ態々ここに来たかと言うと、ベルケンドはヴァンが密かにレプリカ研究をしている施設として使っているからだ。まさか自国の街でそんな事が行われているとは知らなかったナタリアは驚愕し、ジェイドはほんの僅かな時間、無表情になった。

 

 真実を確かめるためにベルケンドにある研究所の扉を潜る。

 

 そこにいた人物に誰もが、己の武器に手を掛けた。

 

 「てめぇ、ヴァン!!」

 

 「ほぉ、アッシュか。それにティア」

 

 「……兄さん!!」

 

 ヴァンは傍らに居た老人と何かを話していたようだが、老人が足早にその場を去って何を話していたのかは謎だ。だがそれ以上に渦中の人物、ヴァン・グランツとのまさかの会合により本来の目的など忘れ、アッシュは剣を抜き放つ。

 

 「まさかこんな所で会うとはな。話してもらうぜ、お前の本当の企みを!!」

 

 「企みだと? 忘れたか、私は監視者だ。もとより預言(スコア)通りに全てを進めるよう仕向けるのが務め。ルークの死もアクゼリュス崩落も全てユリアの預言によるものだ。企みと言ったら、アッシュお前に生きて貰うことくらいか」

 

 多くの人間から送られる敵意にもヴァンは冷静に対処し、教え子であるアッシュを煙に巻く。

 

 話し合いだけならばヴァンも柄に手を掛けなくともよかったのだが、実の肉親であるティアからの敵意以上の殺意にヴァンは口元を歪める。

 

 「忘れてしまったの兄さん! 言っていたじゃない。預言に縛られて人が憎いって! それを変えるためにローレライ教団に入って神託の盾(オラクル)の総長になったんじゃないの!?」

 

 「ティア、ユリアの預言は何のためにある? より繁栄を望み人々の安寧を享受するためには、必要な流血もあると私は学んだ。これによりルークが死んだのは事実、これで戦争が起きるのは決められたも同然。今更どうするつもりだ? 敵討ちか?」

 

 ヴァンがティアの問いに答えていくと同時に、彼女は憎悪を募らせ、静かにナイフを抜く。

 

 その行動にヴァンも、素早く『ローレライの鍵』を構えた。

 

 今まで見たことのない形状の剣らしきものにジェイドや剣をそれなりに扱うアッシュやガイは目を細めそれを警戒した。

 

 特に剣を扱う二人からすれば、ヴァンが持っているそれは、剣でもあるがどちらかと言うと杖にも見える。譜術の媒介らしきものが柄にもはめ込まれ、形式だけの剣。

 

 だがあのヴァンが扱う代物だ。見た目だけで判断すれば、痛い目をみるだろう。

 

 「兄さん! 貴方が憎い! どうして止めなかったの!? どうして貴方を信じていたルークを、殺したの!!」

 

 正しく魂の叫び。だがヴァンはそれを一蹴した。

 

 「だからなんだ? 元よりルークの本質を誤解し、奴の本心をこれと言って気にも止めなかったのは、貴様たちだろう? それにアッシュ延命のための捨て駒だ。死ぬために生まれてきたレプリカが、本懐を成就したに過ぎん。助けたかったのならば、お前が手を差し伸べるべきだったのだティア」

 

 「言うに事を欠いて、ルークを亡命させようと周りに口封じをさせる口実を作ったのは貴方でしょう! 本質を間違えたと言うのではなく、ヴァン貴方が覆い隠したのをお忘れですの!?」

 

 ヴァンの反論にティアは口を噤む。本当であれば百も言いたいことがあった。だが、激情と悔しさと、色々な想いが混じり合い、ついに何一つ、彼女は言う事が出来なかった。

 

 そこにナタリアの叱責が飛ぶが、それもまたヴァンを追い詰めるには足りない。現に彼は顔色一つ変えなかったのだから。

 

 「ルークの亡命を知っていて、私の罪も聞いていた貴女が私と言う存在を見逃した。これについては、私と同罪とだと思いますがナタリア殿下? いえ、もう殿下では御座いませんな。なにせ母国から死亡したと宣言されたのですから」

 

 今までナタリアが感じていた罪の証。それはルークの亡命を聞き、七年前の誘拐事件の犯人がヴァンだと、あの地下牢で聞いていながら、アクゼリュスに共に行きたくて交渉材料として使った一部の真実。どうして白日の下に晒さなかったのか、ずっと後悔していた。

 

 刺し違えてでも兄を止めると誓ったティアは、それを出来ずに悔い、悲劇を回避できるかもしれない可能性を秘めていたナタリアは、己の未熟さに懺悔していた。その心の隙間を見透かして、ヴァンは皮肉そうに笑って見せる。

 

 「止めようと思えばいつでも止められたのは、寧ろお前たちだ。それを怠ったのも、お前たちだ。今更私に罵倒を浴びせてもそれは、自らに返ってくるだろう」

 

 「ヴァン! お前の本当の目的は、預言の成就なのか!? ならどうして俺のレプリカを造り、他の多くのレプリカ情報を集めて暗躍していた。俺にはお前が嘘を言っているようにしか聞こえない!」

 

 罪悪感に苛まれる想い人を背に庇いアッシュはヴァンに剣先を向ける。共に七年間の時間を過ごしたのだ。少しばかり相手の思っていることが分かる。だが今まで預言脱退を宣言して六神将を集め、自分の知らない所で何かをしていたヴァンを知っているアッシュからすれば、今のヴァンの変わりようが不気味で仕方ない。

 

 まるで操られているのではないかと感じてしまう。

 

 「嘘を付いている、か。そうだな。お前にはそう見えるのだろうな。私は、この剣を授けた者と出会い、考えを変える事が出来た。昔言っていた預言への復讐など考えていない。それ故にお前が追い求める計画の真実はつい今しがた破棄した」

 

 「やっぱり何かしようとしてたんじゃねぇか!」

 

 「言っただろう。既にもう過去の事だ。アッシュが思うような事などない。ただ預言通り戦争が起こりキムラスカが勝ち未曽有の繁栄を得るのみ。私が憎く止めたければ、戦争を止めるのだな。無論、出来ればの話だが」

 

 的確に傷口の傷を抉り、戦意喪失をさせヴァンは剣を納め、脇を通って外に出ようとするのをジェイドが呼び止める。

 

 「貴方に、二つほど気になる事があります。その剣はなんですか? そしてそれを授けたのは、一体誰なんです?」

 

 「ふん。答えるとでも? まぁ剣の詳細くらい教えてやろう。ローレライの鍵だ。信じられんならそれまでだ」

 

 本当にそれだけを言い残し、ヴァンは去っていく。それを誰も止められないまま。

 

 そしてヴァンが言い残した、『ローレライの鍵』という伝説にまでなった武具に誰もが頭を真っ白にした。

 

 嵐が過ぎ去った様な感覚から一番最初に抜け出したガイが、小さく皆に問う。

 

 「なぁ、これからどうする?」

 

 「僕は、戦争を止めるために一度ダアトに戻ります。導師の許可なく戦争は起こせませんし、一番早い抑止力になると思うのですが」

 

 「で、でもダアトは総長のお膝元ですよ? もしかしたらまた誘拐とか……」

 

 イオンの案が最も効果が早く出るが、あそこには六神将並び大詠師、ヴァンがいる。行った所であっさりイオンが捕まってしまう可能性も捨てきれない。

 

 アニスも心配そうに声を上げるが、その場の空気としては戦争回避を最優先にしているため、彼女の抵抗の意も空しく散る。それ以上にイオンが引かない。

 

 「アニス、それでも僕は行きます。ヴァンの企みが本当に預言の成就であるのならば、何か行動を起こします。僕も今まで中立と言っていたあのヴァンがいきなり大詠師派の様な発言をしたことに疑問を禁じ得ません。ここは、大きく動いてみるのが手でしょう」

 

 自らを餌として、イオンはダアト行きを強く主張した。

 

 それにその場の者が深く同意し、次の目的地が決まる。その中でアッシュがこのパーティーの大体のリーダーであるジェイドに声を掛けた。

 

 「今のヴァンの行動は俺にも予測不可だ。もうしばらく一緒に行動していいか?」

 

 「えぇ、どうぞ。私としても異論はありません。ですが付いてくるなら覚悟してください。もしかすれば『ルーク』に戻る事を。遅かれ早かれ、一度はバチカルに行くのですから」

 

 おそらく戦争を本当に回避するのであれば、アッシュにはルークを演じて貰う他ない。ルークが死んでいないのであれば本格的に大義名分を失う。

 

 「……分かった覚悟はしておこう」

 

 静かにそう返事をしてアッシュは、一人先に外に出る。

 

 ジェイド達も新たに目的を決めて、ダアトに向かうべくタルタロスの元に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アッシュ達がダアトに向かっている頃、ルーク達ネビリム訪問隊は、観光地であるケテルブルクにて装備や道具の確認をする。

 

 特に心配がない事を確認して、シンクが最後にコートを買って来た。

 

 冬国特有の強烈な寒さから身を守るために必要なのだ。特になぜか教団服が露出度高い女性二名の為にも。

 

 「さて、これで必要な物も揃ったし、行くか!」

 

 「思ったより暖かいです」

 

 「譜銃をどこに装備させるか」

 

 コートを着込んで素直にはしゃぐアリエッタと、武器の装着部分が隠れて素早く取り出せない事に四苦八苦しているリグレット。何と言うか、全てにおいて先ず戦闘を優先させるリグレットは実は、戦闘民族出身なのではないだろうかシンクは考える。

 

 「それでここからどこに向かう訳?」

 

 「取り敢えず、魔物で一度山を越える。そこから徒歩だ」

 

 ルークが地図を取り出し、赤ペンで地図の一部に丸を付ける。

 

 そこが目指す目的地なのだろう。ケテルブルクから行くとすれば大きな山を越えねばならない上に、思ったより遠い。

 

 四人は荷物をまとめて、街の外に出ると、アリエッタが新たに仲間にした寒さに強い鳥型の魔物の背に乗る。

 

 そして雪が降る中、四羽の鳥が大空に向かって羽ばたいた。

 

 冷たい冷気を頬に感じ、アリエッタは驚きの声を上げ、ルークは身を竦める。残り二人は無反応だった。

 

 眼下に広がる白銀の世界に、シンクも小さく感嘆の声を上げる。

 

 誰にも聞こえないが。

 

 視界が悪いなか大型の鳥モンスターは、アリエッタが指示する方向に飛ぶ、だが目的地があともう少しという所で、鳥たちが高度を下げ、不時着するように雪の上に降り立つ。

 

 アリエッタが慌てた様子で何とか言っているが、鳥たちは怯えたように悲鳴のような鳴き声を上げる。

 

 「どうしたアリエッタ? モンスターの様子がおかしいようだが」

 

 「え、えっとね、この子たちこの先にどうしても行きたくないんだって。怖いものが、いるみたいで、その」

 

 「仕方ない。アリエッタのせいではない。気にするな。こうなってしまったんだ徒歩で行くぞ」

 

 アリエッタが口元をぬいぐるみで隠しながら、戸惑っていたがリグレットが頭を撫で、落ち着かせる。

 

 これで空と言う移動手段を無くし、銀世界の真ん中を歩いて目的地に行くしかない。まだ太陽があるうちにたどり着きたいので、モンスターに約束の食べ物を与え、徒歩で出来るだけ早く移動する事にした。

 

 シンクは歩行のし難さに文句を言いながらコンパスと地図と周りの地形をリグレットと確認しながら目的地まで進んでいく。

 

 吹雪く様子は見受けられないが、山の気候は変わりやすい。ルークは心配していたが、特に荒れる事もなく無事に大きな洞窟に付いた。

 

 「はぁー。やっとだぜ」

 

 洞窟の奥には大きな譜陣と扉のような巨大な岩が鎮座していた。

 

 そして二つに裂けた岩の割れ目から感じる、恐ろしい気配にアリエッタは震え、咄嗟にリグレットの背後に隠れる。リグレットはコートを脱ぎ捨て、いつでも戦える状態にし、シンクも見れば同じようにコートを脱ぎ捨て拳を構えた。

 

 ルークは次々と武具たちを譜陣の対応するところに置き、最後の一つ、『魔剣ネビリム』を設置する前に後ろに問いかける。

 

 「準備出来てるか?」

 

 「戦闘準備は出来ているが、勝てる保証までは聞くな。正直自信がない」

 

 リグレットの吐き捨てるような物言いにシンクも頷いた。どうやら本当に勝てる自信がないのだろう。

 

 と言うか挑むこと自体、無謀なのをこの三人は快諾とまではいかないがそれでもついて来てくれた。ルークもその信頼に応えられるよう、ネビリムに対しての説得の言葉は用意してきた。

 

 選択肢として無いのは逃げるくらいか。

 

 ルークは、持っていた剣を譜陣に突き刺す。

 

 それと同時に、譜陣が輝き裂けた岩が内側から強引にこじ開けられる。その規格外の力にシンクは口角をひくつかせ、アリエッタは真っ青な顔で出てきた悪魔とも天使とも見える姿に固唾をのみ、リグレットは優雅な仕草で並べられた武具を一つ一つ手に取る化け物を唇を噛み締めて睨む。

 

 ルークは創世記時代に造られた武器を左手に持ったまま、警戒を怠らず、白髪に血の様な赤い瞳を持つ彼女の第一声を待った。

 

 そして、

 

 「あら、私を起こしたおバカさんは誰かと思えば、ローレライ教団の連中なのね」

 

 シンクやアリエッタ、リグレットの服の所々にある音響の様なマーク。それはローレライの騎士の証でもある。オリジナルネビリムの記憶を受け継ぐレプリカネビリムは、古い記憶の中にあるその紋様に所属を言い当てた。

 

 その反応にリグレットとシンクは、少し困惑した。

 

 最初の生体レプリカ・ネビリムは音素の偏りが酷く、理性を失いモンスターのようだと報告を受けていたが、今の彼女からは知性が窺える。

 

 言葉を使い。武具を手に取り、相手の思惑を探ろうとする姿は、人間だ。

 

 「私を復活させて、一体何が目的かしら? 古代の譜術知識? それとも生体レプリカ情報? 分からないわね。どこぞの馬鹿と違いローレライの連中なら理解できるでしょう? 私を復活させると言うのがどんな意味を持つのか?」

 

 「あぁ、分かってるよ。アンタ復活させたら大勢の人が死ぬかもしれないってくらい。でも長い間アンタは、何も出来ずただ記憶の中に引き籠るくらいだった。そこで知識を学び、知性を獲得し、理性と人格を手に入れる可能性に掛けてアンタに会いに来たんだ」

 

 「なるほど。ただのモンスターでは無くなった私に用があるのね。で、何かしら? 復活させてくれたお礼に特別に殺さないでおくわ。……あっちの二人の上質な第一音素と第六音素は欲しいけど」

 

 ルークの説明に納得して、ネビリムは優しく微笑む。

 

 どうやら戦う意志は無いようだ。だが、ネビリムは第一音素と第六音素を求め多くの譜術士を殺してきたのだ。極端に少ないそれを補うために。彼女が見てきた獲物の中でも今、目の前に居るアリエッタとリグレットは最上級の質を持った譜術士だ。食糧的な感覚で欲しいに違いない。

 

 ニタリと笑うネビリムにアリエッタとリグレットは心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。激しく動いてもいないのに二人は、呼吸が乱れた。

 

 六神将に名を連ね、多くの戦場を掛けてきた彼女たちでも耐えられない殺気の量。流石人智を超越した存在だ。

 

 「残念だけど、あの二人は駄目だ。それにネビリムには、ちょっと相談がある。さっくり言うと仲間になんねーか?」

 

 「……本当にさっくりしてるわね。もちろん答えはノーよ。私に有益な事があるようには思えないのだけど?」

 

 「俺らはアンタの産みの親であるジェイドと敵対する。認めて貰いたいんだろ? 自分が偽物もだとか本物だとかそんなんじゃなくて、ネビリムっていう個人として。知性も理性も得たアンタだ。辛いんじゃないか被験者の影に縛られるのは?」

 

 まるで自身の苦悩を募らせた封印の間をずっと見られていたかのようなルークの不気味な発言に、ネビリムは口元を歪める。

 

 だがそれは確かにネビリムが望んだことなのだ。唯一の存在として認められたい。たった一人の存在として確立されたい。

 

 もし、その切望がかなうならば、自身の産みの親であるジェイドに認められること。そう答えを導き出したのは、ネビリムだ。赤毛の少年が言ったジェイドとの敵対。知力では恐らくオリジナルと同等でしかないネビリムがオリジナルを超える方法は暴力のみ。

 

 故になんの遠慮もなくぶつかり合える立場は魅力だ。

 

 それにネビリムの考えに賛同する節を見せるこの青年の案に乗るのもいいだろう。

 

 だがしかし、

 

 「ジェイドと敵対するにしても、それなりに力は必要よね? 貴方達が貧弱なら私はたった一人でジェイドを殺しに行く。腕試しをしてあげるわ」

 

 「え? 結局そうなるの?」

 

 現実は一筋縄でいかない。

 

 譜術に関して天才であるジェイド。その力は一人でも侮れない上に強敵。ネビリムは彼らがジェイドに敵対するに相応しいかをテストすると言っているのだ。

 

 全てが大団円で終わりそうだったのにあっと言う間に立ち込める敵意。格段にその濃度は下がっても重圧に感じてしまう。

 

 そして、ルーク達とネビリムの壮絶な戦いが始まった。





ネビリム先生は出ないとか言っていたがあれは嘘だ!
というネタは置いといて、どうもすいませんでした。

個人的にヴァン先生の無双回(仮)はもうちょっと長くなる予定だったのですが、急遽短くして一話が5000字程度だったのでネビリム先生に出演して頂きました。

ヴァン先生の出演もちょい長くしたかったな……。むしろあのボイスで譜歌が聞きたいです。是非とも歌って下さいお願いします。アニメで一番期待したのに……。きっと譜歌を詠じてあの声で歌ってくれるって。

意外とヴァン先生が大好き。でもこの二次作読んで、私の好きなキャラがばれていない事を願う。
というか、あまり差別したくないので、平等に扱いたい、が人間なので偏っちゃうんだよね。そしてたぶんバレテルンダロウネ……。

…………誰でもいいからアビスで語り合いたい!! 再プレイしながら時々そう思う。

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