TOA~Another Story   作:カルカロフ

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発案は計画的に

 光る粒子が音もなく、上へ上へと吹き上がる。とても神秘的な光景でありながら、どこか機械的である。

 それもそうだろう。この光は、人工的に吹き上がっているのだから。

 この光景を生み出す装置に、ルークは一本の剣の様な杖の様な、どっちつかずの物を掲げる。

 すると、音響の形をした装置の上に、文字盤が浮かぶ。こうなれば、本格的に人工的だ。

 

 

 目の前の結果にルークは満足すると、剣を降ろす。

 すると、文字盤は綺麗に消え去った。

 

 「よし、完璧だ。ヴァンどうだ、ユリア式は?」

 

 「ふむ、もう反応しないな。私であれティアでも動く事もあるまい」

 

 「思ったより早くに終わったな。どうする? どっかで時間でも潰すか?」

 

 ローレライの鍵をくるくると回しながらルークはカレンダーと睨めっこする。

 このセフィロト改造計画の終了は、あと十五日くらい掛かるものだと踏んでいたが、ネビリムの貪欲の知識の吸収と理解の速さが功をそうし、たった十日で全てが終わった。その間、世界情勢を見て、マルクトが戦争の準備をし、逆にキムラスカが戦争の準備を遅らせる不思議な構図が出来上がっていた。

 

 導師の入れ知恵か何かだろうというのが、三人の意見である。

 

 さらに時間の余裕が出来たのは、僥倖だ。

 

 「そこは、個々の戦力増幅のために修行ではないのか?」

 

 「頭が固いなぁ。もっとゆとりを持とうぜ? つってもどこに行っても顔を隠さなきゃいけないから、実質フェレス島に戻るのがベストだけど」

 

 「世界セフィロトツアーなんてどうかしら?」

 

 「却下」

 

 余った時間の行方を話し合っていると個人の性格が見え隠れした。

 ヴァンは堅実に修行を提案し、ルークは楽しく過ごそうと言い出し、ネビリムは趣味に走ると言うものだった。

 協調性のない集団を烏合の衆と言うが、個々の存在が卓越もしくは、超越しているので、このくらいで彼らが乱れる事は無い。

 

 「さて、マジでどうする? 俺的には、こっそりアッシュ達の行動を覗き見したいんだけど?」

 

 「それは別に構わんが、もっと工夫することはないのか? セフィロトの改造は必要不可欠だと理解したがもっと世界にインパクトを与える為の作戦を練るべきだ」

 

 「と言っても、私達少数だからこそこそする事の方が絶対向いてるわよね? それに、世界の奴らに預言のあり方を疑問視して貰うなら、モースを捕まえて洗いざらい吐かせるのがベストでしょう」

 

 結局は、これからについて真剣に話し合う。

 

 「モースねぇ。あいつあんまり好きじゃなんだよな」

 

 「あれに好感を持てたら貴方、人を止めてるわよ?」

 

 「ひっでーな。あれに好感持たなくても人止めてるぞ。そうだな、ならキムラスカ襲撃と同時にマルクトも襲撃するか。演技が得意そうな奴にグランコクマを担当させたいんだけど」

 

 メモ帳を取り出し、小さな作戦会議を開く。そこにヴァンが疑問の声を挟んだ。

 

 「なぜグランコクマを襲撃させるのだ? それも個人で」

 

 「ちょっと危険度上げるけど、そっちの方がインパクトでかいだろ? 防御を固めた筈の街に一人でで潜入し一人で壊滅寸前まで追い込む。すると、俺たちの存在をマルクトは、どうしても無視できなくなる。ついでに預言についてちょっぴり暴露演説して貰いたいから、実力者兼演劇者がいい」

 

 「うーん。私は駄目ね。オリジナルの方がピオニーと面識あるし。なんかバレちゃいそう」

 

 個人能力最強のネビリムであるが、ピオニーは彼女の可愛い生徒だ。うっかり、情が湧く可能性が捨てきれない。それに、ルークの経験上、ピオニーは外交面での頭の回転数はピカイチだ。つまり人と話す事において彼の目を欺くのは、至難の業である。

 故に、ボロの出やすい人物は論外。アリエッタには、無理だろう。

 

 「…………ラルゴも嘘は付けない性分だしな」

 

 「ラルゴは、根が良心的だからな。話術には、向かんだろう。カウンセリング的な意味合いならば話は別だが」

 

 ルークとヴァンの意見が一致する。

 彼らが思い浮かべる人物は、心優しき獅子なのだ。壮大な嘘など彼の口から出る事は無い。

 となると、残りは二名。

 この二人は、こと人を騙すことなら得な方だ。

 

 あの二人はどこか皮肉屋で素直じゃなくて、心の隠し方を熟知している。真っ赤なウソを吐くのではなく、本当を交えた事を言う。

 どちらかにグランコクマを襲撃させようかと、思い悩んでいるとネビリムが一つの案を出した。

 

 「どうせなら、ダアトも襲撃しない?」

 

 「え? なんでだよ?」

 

 ルークの声音には、やる意味がないだろうという響きが含まれている。

 それを見越してか、ネビリムは一冊のノートを取り出した。

 

 「リグレットから今のダアトとか、世界の事とか聞いたのだけど『導師派』なんて言う派閥があるのでしょう? 預言は絶対では無く、人がより良く生きるための道具であるって主旨の。やっぱり預言通りを謡う魔王ローレライが見逃す筈ないわよね?」

 

 「確かにそうだけど、別に一々相手にするほど大きなもんでもないだろ?」

 

 ルークは、教団内の派閥割合をそこそこ熟知しているが導師派は大詠師派に及ばないお飾り勢力だ。

 あれが、今後の作戦に異常をきたす力を秘めているとは、どうにも思えない。

 

 首を捻って他になにか重要な事でもあったかと悩んでいると、ネビリムが目的のページを見つけたのか、そこを広げて指さした。

 

 「今回の導師の国をやんわりと押さえつける手腕を考えるに、六神将と主席総長がいなくなった教団を放置するはずないわ。私なら、この人物を呼び戻すわよ」

 

 指し示された名前にルークは、そんな奴もいたなぁ、と呟きを零した。ヴァンは、苦虫を噛み潰したような表情でその名を読む。

 

 「カンタビレか。確かにその可能性も無きにしも非ず、だな。一応奴は導師派だ。招集されていると考えてもいいだろう」

 

 「……マジか。あっちも、もしかしたら戦力増強されんのか」

 

 「その場合、一番考慮すべきはリグレットの精神状態だろう。なにかとぶつかり合っていたからな」

 

 ヴァンの疲れたような表情から察するに割と本気でカンタビレとリグレットの仲は最悪だったのだろう。

 犬猿の仲の二人の関係は、一人の弟子で繋がっているのだから運命とは悪戯好きもいいところである。

 

 ネビリムは、ノートを閉じてルークのメモ帳に作戦の概要を書いていく。

 

 「ダアトの襲撃は、カンタビレ帰還の有無とそれに関する情報ってところかしら。カンタビレが居たのなら戦力としてどうなのか偵察含めた方がいいでしょう」

 

 「んー、だったら毎度ぶつかり合っていたリグレットよりシンクの方が適任かな?」

 

 「ならば、ダアトにはシンクを向かわせるとして、アリエッタとラルゴはどうする?」

 

 作戦を具体的にしていく三人は、着実に世界を震撼させる過程を形にして行った。

 どうやって相手の戦力の力量を図るか。どうやって存在を誇示するか。

 案を出し、話し合い、ようやく一つの物として固まったので、ルーク達は腰を上げた。

 

 「そんじゃ、帰って作戦を伝えるか。知らせるにしても早い方がいいだろ」

 

 それを聞いてヴァンとネビリムは立ち上がる。

 自然と後ろに続く形になったが、二人は特に疑問に思う事は無い。

 それは、二人がルークの事をリーダーであると認めているからなのだろう。

 

 そして背後を任せるルークの凛然とした態度は、そんな二人を守るべき部下であると無言で認めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海を漂うレプリカで複製されたフェレス島。そこの広場でシンクは、大の字で寝転がっていた。

 別に昼寝をしている訳ではない。

 その証拠に、広場には硝煙の臭いに、砕けた石壁、削れた石造りの道路、つまりは破壊痕で満ちていた。

 

 そしてなにより、

 

 「……あの女狐」

 

 決して浅くない傷がシンクの肩から腹に掛けて走っている。

 その殆どが既に治療済みで、蚯蚓腫れのように薄い桃色の肉が傷を塞いでいた。

 下手に動くと、痛みがぶり返すだろう。それに血を失いすぎて起き上がる気力は既にない。

 

 空を眺めながらシンクは、つい三十分ほど前の殺し合いを思い出そうとして、三つの影が降りて来るのを見て思考を別の方へ流す。

 よく見れば、それは見慣れた移動用の魔物で、その背に乗っていたのは、ここ最近見ていなかった人物たちだった。

 

 「あぁ、お帰り。随分早い帰還じゃないか。セフィロトの安定化は上手く行ったの?」

 

 「まあな。だから帰って来たんだろ。それは置いといて、お前何してんだ?」

 

 「女狐にやられた」

 

ルークは、シンクの傷が剣の類である事が分かり、不思議そうに首を捻る。

 

 「たぶんリグレットの事だよな? しかもそれ、剣の切り傷だろ。接近戦でお前が負けるだなんて俄に信じられないんだけど」

 

 だが、思い返せば、リグレットは封印術(アンチフォンスロット)が掛かっていたとしてもジェイドを蹴り飛ばしたり、アッシュとルークのコンビネーション双牙斬を涼しい顔で避けたり、ガイと張り合えるくらい高所から飛び降りても元気に戦闘する奴だ。

 その気になれば接近戦の方が強いのではないだろうか。

 

 思い返しながらルークは身震いした。

 

 「うん。シンク、お前は悪くない。きっと相手が悪かったんだ」

 

 「いや、正攻法で負けた訳じゃないから。言っておくけど、六神将でこと接近戦ならラルゴにだって負けないよ」

 

 呻きながら、シンクは起き上がるとルークの後ろに控えていたヴァンをじろりと睨む。

 

 「ていうか知らなかったんだけど。なんであの女、アルバート流の剣術使えるのさ」

 

 「なるほど、意表を突かれたか」

 

 シンクの苦言に何か納得したヴァンは、首の後ろを撫でる。

 なんと言えばいいのか迷っていた。

 

 「そもそも、初代導師はフレイル・アルバートだからな。教団の基本武術の殆どがアルバート流やシグムント流の流れを組んでいる。おそらくリグレットもそこから学んだのだろう。譜銃もつい最近ようやく実戦投入された武器だ。五年ほど前だったら剣を使っていたと記憶してある」

 

 「随分多才な奴だな。それとも器用貧乏なのか?」

 

 「器用なのは認めるが、使いどころが難しい人材ではない。弱点や短所を補う工夫を自分で講じているからな。むしろ用件など頼んでおけば全て終わっている時の方が多い」

 

 話を聞く限り、随分リグレットは重宝しているらしい。

 思えば、シンクが六神将になって二年あるかないかだ。リグレットは二年くらい前にヴァンの片腕として迎えられた。この二人は、ラルゴやディストよりも遥かに新参者だが、その実力は折り紙つきである。

 方や参謀長官。方や主席総長の右腕。

 そんな者たちが、そこらの凡人と同等であるはずがない。

 

 素直にルークはリグレットとシンクの評価を改めた。

 こうして大怪我までして、特訓をしているのだから感謝もしなくてはならない。

 

 「その傷、随分中途半端だな。治してやろうか?」

 

 「いいよ別に。リグレットに治療してもらったし。それより、リグレットの方を治療したら?」

 

 既にこの場に居ない人物を心配しているのかシンクは辺りを見渡す。

 近くに居ないと分かると、忌々しそうに舌打ちをした。

 

 「あのバカ。僕の治療を優先したな」

 

 「勝手に話を進めんなよ。で、どうしたんだ?」

 

 「リグレットに斬られた時、最後に苦し紛れに一発お見舞いしたんだよ。たぶん当たった」

 

 そう言って突き出した右手には、色のくすんだ赤がべっとりと張り付いていた。

 

 「脇腹抉ったんじゃないかな?」

 

 特に気にしていない様子で語るシンクにヴァンとルークは、それぞれこめかみと目頭を押さえる。

 なんと言えばいいのか、どう言えばいいのか。

 修行をしていろと言ったが、命を削り合うようなやり方をしろと言った覚えはない。

 どこか命を張った真剣勝負を繰り広げる馬鹿さに、ルークも言葉を詰まらせた。

 

 一体シンクとリグレットは、何をするつもりなのか。

 

 「馬鹿だろ。つーか命投げ出せって言った覚え無いぞ」

 

 「それなら、僕に言うんじゃなくてリグレットに言ってよ。疾風雷閃舞を決めて勝ったと思ったら、リヴァイブ使っててギリギリ生き残って斬りつけて来たんだからあの女」

 

 「発想がこえ―な。死なないなら大丈夫って、相手じゃなくて自分に使う言葉だったっけ?」

 

 捨て身どころか命を捨てている。

 そんな強い印象を抱くような戦い方だ。自分の命を駒として扱うその冷徹さは、ルークでも悪寒が走る。

 

 「……どうしてアイツは生き急ぐかな」

 

 「ふむ、それは私が当の昔に死んでいるからだろうな」

 

 呆れたルークの声に、抑揚のない冷たい声が返答する。

 女性にしては、少々低めの、だがよく響く声は、彼女しかいないだろう。

 

 「おい、ちょっとは身を案じろよ。これからなんだぞ」

 

 「それは、ツッコミ待ちか? 私から見れば、お前の方がよっぽど命を投げ出しているがな」

 

 「あ、生きてた。思ったよりは平気そうじゃん」

 

 彼女は細くしなやか金糸の髪を高い位置で纏め、それは風の前でふわりと舞う。

 厳冬の冬の色を注ぎ込んだ冷厳の靑色の瞳は、ルークを一瞥しヴァンに向き直ると、既に癖づいた敬礼をする。

 

 「お疲れ様です閣下。予定より随分、早い帰還ですが、何か問題が発生しましたか?」

 

 「いや、逆に予定よりも状況がいい。なにも問題は無い」

 

 「こちらも、予定通り進行しております。ラルゴとシンクの接近戦強化と、アリエッタへの譜術の指南はつつがなく終了しました」

 

 「お前の方はどうだリグレット?」

 

 ヴァンの重い声に、リグレットは一瞬呼吸を止めた。

 

 「第七音素を使った回復の譜術は、習得完了しました。リヴァイブの発動も確認済みです。禁譜指定された譜術の習得はこれからです」

 

 その為の死合だったか、と誰もが心の中で呟いた。

 もし、それで術が失敗していれば、リグレットは大怪我では済まなかっただろう。恐らくは致命傷か。

 

 どこかしら非難の響きを含んだヴァンの声音に、リグレットの顔色は悪くなる。

 変化を感じ取ったヴァンは、大きめのため息を付くと鋭く睨んだ。

 

 「私が何を言いたいか分かるな?」

 

 「はい。今後は、慎重に事を進めます」

 

 「強くは言わん。それは、お前が分別と理解を重要視しているからだ」

 

 「申し訳ございません……」

 

 いつもの毅然とした姿が嘘のように、リグレットは畏縮していた。ヴァンからの咎めと言うのはそれ程重い意味合いをもつものなのだろうか。

 それとも、短い言葉の中に、彼女たちだけが理解できる意味がふくまれていたのだろうか。

 

 心からへし折れてしまいそうな、不安に駆られるその姿に思わずルークの目が彷徨う。

 直視していると、こっちまで悲しくなってしまいそうだったからだ。

 

 「閣下、最後に一つここを暫く離れる許可を下さい」

 

 「それは、ルークに決定権があるな。どうする?」

 

 「ん、おう。まずはどこに行くかと用件だ。それで考える」

 

 それを言うと、リグレットは懐から一枚のメモ帳を取り出し、ルークに見せる。

 書かれていたのは、主に医療品とちょっとした日用雑貨や調味料と食料品だった。

 

 「物資が足りない。そこまで長いしないかも知れないが、拠点がカツカツであるよりは多めがいいだろう。出来れば、買い出しに行きたいのだが。三日くらい」

 

 「随分、医療品が多いな。ここってそんなに設備悪いのか?」

 

 「元よりそこまで重要視していた拠点ではないからな。整備不良だ。直せる奴も雲隠れ。新調するしかあるまい」

 

 言い終わるとリグレットは、暇そうに座っているシンクの前に腰を下ろし、詠唱する。

 その言葉だけで彼女が何をしようとしているのか、ルークは分かった。

 

 単体に掛ける癒しの譜術としては上級譜術だ。

 

 「(みこと)を育む女神の抱擁――――」

 

 ――――キュア

 優しい光に包まれたシンクが、傷口に手を当てると、そこには傷の痕も無かった。

 

 「治療が遅くなった済まない」

 

 「目が覚めると隣で死んでる、だなんて嫌だからね。どちらかと言えば、さっさと自分の回復を優先して貰いたいんだけど」

 

 「私より血を吹き出していた奴が何を言う」

 

 そう言ってリグレットは立ち上がり、ルークの前に立つとメモを受け取った。

 

 「で、どうなんだ?」

 

 「あぁ、先ずはこれからの方針について話したい。その後、買い物だな」

 

 リグレットはルークの指示に頷き、建物の中へと歩を進める。

 既に中ではネビリムが皆を呼び集めているだろう。

 

 シンクも緩慢な動作で起き上がると、大きくため息をつく。

 

 「作戦会議ねぇ。アンタが考える作戦は、なんか嫌な予感しかしないんだけど」

 

 「なんでだよ?」

 

 「世界に喧嘩を売る作戦でしょう? きっと無茶ぶりするんだ」

 

 もう決められた事を嘆くようにシンクは、また大きなため息を一つ。

 反論できないルークは、眉根を寄せ、渋い顔をした。

 それを見てシンクは、嫌な感は変によく当たるもんだ、と嘆く。

 

 「全く、どうしてそう無茶をしたがるんだ」

 

 「勝算があるからだ」

 

 自信満々に胸を張るルークは、大空の彼方に散りばめられた預言の石を指さした。

 

 「あれをただの石ころに出来る勝算がな」

 

 「それで失敗したら散々馬鹿にして笑ってやる。覚悟しといてよね」

 

 軽く肘鉄を脇腹に食らわせて、シンクも建物の中へ入る。

 

 何故かしら、ルークの言葉が世迷言に聞こえないのが悲しかった。

 それはきっと、彼が本当に真剣に取り組んでいるからだろう。

 ちょっとの無茶くらい答えてやらなければと、思わせる程に愚直な彼を少しでも手伝えればと思いながら、シンクは会議室の椅子に座った。

 

 「よーし、集まったな。それじゃ、今後の方針を言うぞ。メモの用意はいいか?」

 

 久しぶりに帰って来たルークにアリエッタが笑顔でお帰り、と言って来た。

 その頭を撫でまわしている間に、生真面目なリグレットがメモを取る用意をする。

 帰って来たばかりで、疲れているだろうからと気を利かせたラルゴが紅茶を各々に配り終え、そしてルークが口を開く。

 

 「お前たちには、ダアトとマルクトを強襲してもらう!」

 

 一瞬の静寂。

 

 「ふざけんなぁぁぁぁッ!!」

 

 シンクの怒号と、リグレットが持っていたペンをルークに投げつけた。

 

 「ちょ、おま、待て!? 落ち着け、先ずは話をしよう!!」

 

 思っていた以上の反撃にルークも逃げ回る。

 そして、シンクが拳を握るのと、リグレットが譜銃に手を掛けるのは、同時だった。

 

 過激すぎる反撃の裏には、信頼をちょっぴり裏切られたような切なさと、この馬鹿を信頼しようと思った自分の馬鹿さ加減を呪った想いが詰まっているとは誰も知らない。

 それは、ルーク然り、シンクとリグレットもそうだ。

 

 「アンタを信じるのを止めるよ! ちょっとくらい無茶して応えようと思ったけど、国を相手にしろとか。死ねッ!!」

 

 「全く持って同感だ。消えなさいッ!」

 

 「おいぃぃ!? 弁明の余地も無いのかよッ!!?」

 

 割と元気な面々を見ながら、ラルゴは微笑み、ネビリムはニヤニヤと笑っていた。

 アリエッタは、三人が仲良く鬼ごっこをしているのだと思い、ヴァンは、普段ならあり得ない二人の様子に少しばかり驚き、微かな寂しさを漂わせる。

 

 「誰か助けてぇぇぇぇえええっ!!」


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