戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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—告白と返答—

 

 

 

Side・アストライア

 

私達は、今までゼアノスに隠し事をしていた。それは、私達が古神だということだ。

 

知っている人は古神の名前も知ってるから、必然的に偽名を名乗ることになり、例外なく彼にもその偽名を教えていた。

私、アストライアはサティアという名前で、妹のアイドスはセシリアと名乗っていた。

でも、それも今日でお終い。アイドスが今日、私達の正体を話すと決めたから。

 

「「私達は……古神なの」」

 

言った。言ってしまった。

雰囲気でわかる。アイドスも私と同じくらい緊張していたことが。

ゼアノスは一瞬ポカンとした顔になって、そして……

 

「クックック、ハーッハッハッハッハ!」

 

大笑いした。

え? な、なに?

 

「アッハッハッハ! ヤッバイ、はら、腹痛ぇ! ハッハッハ!」

 

ベッドを転がりながら、叩きながら笑っているゼアノス。何がそんなに面白いのかわからないけど、ここまで笑ってる姿を見るのは初めてだ。

 

「あの、ゼアノス? どうしたの?」

 

アイドスが心配そうに聞いた。

確かにあんなふうに笑っているのを見れば、心配になってくる。

 

でも折角の告白を、拒絶ではないのは嬉しいけど、そんな笑いで済まされるのはなんか複雑……。

 

「ああ、悪いな。だけど何だ、お前らそんなこと気にしてたのか?」

 

「そ、そんなことって…」

 

一大決心で言ったのに、それが『そんなこと』?

 

「お前らが古神だったなんて、初めて会った時に気付いたよ。現在進行形で神気を隠しきれてなかったからな」

 

絶句した。

ばれないように今まで必死に隠してきたのに、それが初対面の時点で気が付いていたなんて。アイドスも私と同じようで、目を見開いている。

確かに、完璧に神気を隠すことなんて不可能。それでも私達は、——彼が我が家に来てからは特に——必死に隠してきた。それなのに、この人は気が付いた。

 

「なら、私達の名前のことも……?」

 

震えた声で、アイドスが問いかける。

私もそれを聞こうとしていた。『古神だとわかったのなら、名前が偽物だということにも気が付いたの?』と。

案の定、彼の答えは予想通りだった。

 

「ああ、わかってたさ。お前らが偽名を使ってたことぐらいな。そうだろ? アストライアにアイドス?」

 

二度目の絶句。

正体がばれたことだけならまだしも、本当の名前まで知ってるなんて……

 

「な、何で私達の本名を知ってるの?」

 

「前に一度、お前らから姉がいることを聞いた。赤毛で三姉妹の古神なんてのは、少なくとも俺はお前らしか知らん。だからわかった。長女はレア、次女はアストライア、三女がアイドス。だろ? 何か間違ってるか?」

 

アイドスの当たり前の問いに、いとも簡単にゼアノスは語る。私もその条件にあてはまるのは、私達しか知らない。でも……

 

「私達が古神だとわかってたのに、怖くなかったの? もう、古神は邪神だなんて言われてるのに、何でここから出て行かなかったの?」

 

「忘れてるらしいから言うが、俺は10年前……いや、11年前以降のことは知らないんだからさ、怖がる要素がない」

 

そうだった。彼は、海に流されてここに着いたんだった。すっかり忘れてた。

そう思って謝ろうとしたが、次の彼の言葉を聞いてそれどころではなくなった。

 

「何より、ルシファー達も怖くなかったから、古神が怖いなんて思えねえよ。あいつらとは仲良かったしな」

 

「ごめんなさ……………………え?」

 

「る…ルシファー!?」

 

「……」

 

な、なに? その『しまった』って顔は?

 

 

 

Side・ゼアノス

 

 

 

まずい、非常にまずい! 思わず熾天魔王のことを言っちまった!

あいつらも古神だったからつい口が滑っちまった!

 

「……えーと、ゼアノス? 貴方、何者?」

 

そうだよなあ、そうくるよなあ。この姉妹は俺のことを人間だと思ってるんだから、あいつのことを知ってる、しかも仲が良いなんてのはありえないだろう。というか、考えられないよな。

 

「あ“〜、言うつもりはなかったんだが、お前らは俺がすでに知ってた事とはいえ、秘密を教えてくれた。だから俺も、今まで言わなかったことを言おうと思う。……まず一つ。俺は人間じゃない、魔神だ」

 

「……そう。だから、私達のことを知っても怖がらなかったのね? ということは、自分に自信があるってこと?」

 

「それはそのまま二つ目の秘密に繋がる。……そうだ、俺は自分の力にかなりの自信がある。何せ俺は」

 

———ビュン———

 

という音と共に、両肩からそれぞれ『腕』を出現させる。

 

「……これだからな」

 

凶腕。それは黒と白の腕を生やす魔神を示す言葉。普通の両腕以外にも『腕』を持つ者はいるだろうが、黒と白、という独特な色合いを持つ者はいない。

いるとするならば、それこそ本物だけだ。

 

万が一、その色を持つ『腕』を生やした男が目の前にいるとなれば、其の者が本物だと気付ける。もしわからない者がいたのなら、そいつは余程頭が残念なことになっているのだろう。

そしてこの姉妹は『残念な頭の持ち主』ではなかったので、俺の正体に気付いたようだ。

 

「そ、それじゃ……貴方があの、凶腕なの?」

 

「『あの』がどれを指しているのかわからないが、六柱の現神と同時に戦って勝ったのは俺だ」

 

とはいえ、そんな厨二的な二つ名を持っとる奴なんざ、俺以外にはいないだろうけどね。

 

「待って。ということは、家が海に沈んだっていうのは嘘だったの?」

 

「嘘ではないぞ? 俺の家はベルゼビュート宮殿だったんだが、見事に墜落しやがったからな。今では空中から海の底だ。ちなみに俺はそこで、次に起きたら何処にいて、どんな時代になってるかなと思って宮殿内(・・・)で寝てたんだ。で、起きたらこの家だったってこと」

 

「……ある意味、嘘よりも性質が悪いわね。それにしても、まさか貴方があの英雄だったなんて、世界ってわからないことだらけなのね」

 

アイドスは結構普通に接してきたな……少しは驚いたりするかと思ったんだが………

このアストライアみたいに。

 

「え、え? ゼアノスがあの凶腕? ということは私、英雄と一緒に住んでたの? あれ?」

 

はいそうです一緒に住んでました。だから戻ってきてください。トリップしないでください。

 

 

 

彼女が元に戻るまでアイドスと何気ない話をしていたが、アストライアが元に戻ったのはそれから10分後のことだった。

 

「お姉様、落ち着いた?」

 

「落ち着いたけど、何でアイドスはそんなに冷静でいられたの?」

 

「最初は私も驚いたわよ。でも、ゼアノスならおかしくないって、なんか納得しちゃったの。色々と理不尽だったし」

 

「ひでえ」

 

理不尽って、そこまで言わなくても……。

ただ教えてくれたことが全部お前より上手になっただけじゃないか。……ん? これ結構酷い? 逆の立場なら……おおう、俺、立ち直れる自信がねえ。

 

「納得できちゃうわね」

 

お前もか、アストライア。

 

「ふふふ。私よりも、アイドスの方がよっぽどゼアノスのことを理解してるわよね。……ねえ、ゼアノス。貴方は魔神なのよね? だったら、ここで一緒にずっと暮らさない? 私達は全員、寿命が果てしないんだから、ね?」

 

「………」

 

やっぱり、そうくるか。

なんとなく予想してたけど、俺はその申し出を受ける気はないんだ……悪い。

 

「すまんがそれは辞退する。俺は世界を回ってみたいんだ。今の世界がどんな形なのか、知ってみたい」

 

「でも! 「待ってお姉様」…アイドス?」

 

反論しようとしたアストライアを止めたのは、以外なことにアイドスだった。まあ以外も何も、ここには俺とアストライアを除けばアイドスしかいないわけだから、誰が言ったのかは簡単にわかる。

 

「どうして止めるの? 貴女も私と同じように、彼がいなくなったら悲しいし、寂しいでしょ?」

 

「うん。とても悲しいし、寂しいわ。「なら!」……でもね、お姉様。私は、彼のやりたいことを優先させてあげたいの。それこそ、いつかはまた会えるんだから。だから……」

 

「……貴女は本当に、ゼアノスが好きなのね」

 

「うん。……ゼアノス、聞いてたでしょ? 私は、貴方が好き。でも返事はまだ言わないで。これの返事は、貴方の旅が終わって、その後私に会えた時。その時に、返事を頂戴?」

 

眩しい笑顔で、アイドスはそう言ってきた。

前世を含め、こんな真正面から告白されたことなんて無い。だから、俺はこの返答に困った。

 

正直なことを言えば、俺も彼女に惹かれている。まだ恋愛的な意味での『好き』にはなってはいないが、それでも彼女が俺に好きだと言ってくれて、とても嬉しかった。

 

「わかった。俺もなんて言ったらいいのか、まだわかってないからそうしてくれると助かる。だけど、再会できるまでには考えておくよ。それまで、待ってて」

 

「うん、もちろん!」

 

さっきの笑顔とはまた違った笑顔。それを見て、俺もつられて笑う。だがその直後に彼女が言った言葉で、俺は硬直してしまった。

 

「それじゃあ、私だけじゃなくて、お姉様のことも考えておいてくれない?」

 

「ちょ、ちょっとアイドス!?」

 

「……………は?」

 

今何つった? お姉様のこと? お姉様って誰のこと?

言った人=アイドス。お姉様=アイドスの姉。アイドスの姉=アストライア。お姉様のことも考えておいてくれない? =アストライアのことも考えてくれない?

 

これを現状で整理して推理すると、アイドスはつまりこう言いたいわけだ。

 

『アストライアもゼアノスのことが好きだから、再開する前までに、その答えを出しておいてくれない?』

 

と。

いやいや何の冗談ですかそれは?

アストライアが俺を好き? そんなことありえんでしょう。ねえアストライアさ……何故に君は私の服を摘まんでるのですか?

 

「えっと、そうなの?」

 

「……」 —コクリ—

 

無言で頷いて肯定を示すアストライア。

困った、非常に困った。俺は大分原作知識が薄れてきているが、彼女が主人公の恋人だったということは覚えている。だからこそまずい。このままでは崩壊どころではない。……最低だが、ここはこうしよう。

 

「アストライア。悪いけど、お前には今すぐ返答できる。……すまん」

 

「っ!」

 

「え!? な、何で!?」

 

傷ついたような、それでいてわかっていたような雰囲気のアストライアと、心底困惑しているアイドス。

 

「ゼアノス! 何でお姉様は駄目なの!? 何で!? お姉様、貴方のこと本当に好きなんだよ!? なのに、なのに!!」

 

混乱して、色々な感情がごちゃ混ぜになってしまっているアイドスを止めたのは、さっきとは打って変わってアストライアだった。

 

「……だから、さっきも言ったじゃないの、アイドス。彼は、私のことをそういう目では見てないって」

 

「た、確かにそう言ってたけど……」

 

「気づいてたのか?」

 

「うん。貴方の私を見る目と、アイドスを見る目が違ったもの。アイドスには、女性相応に向ける視線。私には、それこそ家族に向けるような視線だったから、なんとなくわかってた」

 

そうだったのか……俺は彼女のことを、そう言う風に見てたのか…自分でも気が付かなかった。恐らく、将来セリカの恋人になると()っていたから、こうなってしまったんだろう。

 

「あ〜あ。私の初恋、実らなかったなあ。でも、きっぱり言ってくれてありがと。うじうじと言われるよりも、よっぽどましだよ。……で、でも、その分……アイドスにはいい返事、をしなさい、よ? 私を、振ったんだから、ね?」

 

後半は涙顔でそう言ってくる。そんな顔を見てると、罪悪感が湧いてくる。

俺があんなことを、宮殿で海に流されるようなことをしなければ、俺は彼女らとは会わず、こんな辛い思いをさせずに済んだかもしれない。

 

「お姉様……」

 

「だ、大丈夫。大丈夫だよ、アイドス。ちょっと、悲しかっただけだから。……でも、でも……」

 

そこまで言うと、アストライアは俺に抱きついてきた。彼女が俺の腰辺りに腕を回して、離れないようにしている状態だ。

 

「ごめん、もう少しこうしてて」

 

「……ああ」

 

このように5分そうしていると、急にアストライアが質問してきた。

 

「……ゼアノス。貴方は、キス、したことある?」

 

「ん? どうしたんだ急に……キスはしたこと……ないな」

 

ベルゼビュート宮殿で、アスモデウスと性の交わりをしたことはあるが、それだけはやらなかった。あいつは強請(ねだ)ったが、俺がいつも拒否していたからだ。

拒否した理由は特にないが、何故かあいつとだけはやりたくなかった。

 

「そっか、実はね、私もまだ未経験なんだ。だから貴方のファーストキス、私にくれない? 私もあげるから。……せめて初めてのキスは、初恋の人にしたいの」

 

いい? と、アストライアはアイドスにも聞く。アイドスは渋々といった感じでだが、頷いた。そして次に、俺にも聞いてくる。

 

「わかった。だがいいんだな? 未来の恋人じゃなくて、この俺で。それと、キスだけだぞ。それ以上は何を言われても絶対にやらないからな?」

 

「それで構わないわ。本当はそれ以上もしてほしかったけど、もう望まない。キスしてくれたら、貴方のことは諦めるわ」

 

「……わかった」

 

そこまで言って、俺たちは目を閉じ、互いの唇を合わせる。

薄っすらと目を開けると、そこには涙を流した女神が見えた。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

俺、アストライア、アイドスの三者の沈黙が、妙に心地悪い。唇を離すと、名残惜しそうな目でこちらを向いてくる。

だがここはあえてもうしない。彼女はこれで諦めると言ったのだから、これ以上をする気はない。

 

と、何やら気になってアストライアの後方を見れば、赤い髪の毛を逆立てているアイドスがいた。

 

 

 

 


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