戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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世間はクリスマスでも、私はいつもと何も変わらぬ日々を過ごしています。だからこそ更新します。
同じ境遇の方々、私に勇気をください……っ!


―砂漠にて二つの出会い―

 

 

深淩の楔魔。

それは俺を含めた10の魔神による、ひとつの組織だ。ブレアードが創造もしくは召喚した魔神の強さはピンキリだが、それでも魔神が二桁もおり、しかもそれらが手を組んでいるというのは、大国に匹敵する戦力を意味している。過去にフェミリンスと戦い、死者が一人もいないというのはその証明だろう。

 

いくら地方神とはいえ、『神』であることに違いはない。神を相手に互角で戦えるとなると、それこそ最低でも大国クラスの質と量の揃った戦力が必要だ。しかも敵対している神と同等以上の神か、神に並ぶ力を持つ者が必須だ。

 

それを考えると、ブレアードはやはり優れた術者だと思う。性格はともかく。

まず魔神を創るという事自体がぶっ飛んでるし、力を抑えてた俺はともかくとしてザハーニウやパイモンを召喚したことも、驚きの一つだ。

 

とはいっても、彼は優れた術者だが魔神の視点から見ればそこまで強くはない。せいぜい、高評価しても中の下だ。そしてそれはもちろん深淩の楔魔も同じことが言える。

 

そこで突拍子もなく始めるが、そんな深淩の楔魔とブレアードについて、『今何をしているのか』と『俺からの評価』を、勝手ながら提示してみる。俺自身のことは除外して。

 

まずは俺たち深淩の楔魔の創造主、ブレアード・カッサレ。

現状:『野望の間』というブレアード迷宮の、最深部で力を溜めている。

評価:大魔術師を自称することはあり、人間からみれば超常の存在。だが『神核』を持つ者としては、弱い部類に入る。外道で最低な性格だけど、個人的には好感が持てるタイプ。行動や過程はともかく、諦めないところとか。

でも強さを見極めるのには苦手っぽい。

 

続いて深淩の楔魔・序列1位、ザハーニウ。

現状:ブレアード迷宮の一つで深淩の楔魔の本拠地、『ヴェルニアの楼』の最奥にいる。どうやら、封印は解けたらしい。

評価:深淩の楔魔でもトップクラスの強者。闇夜の眷属の将来を考えられる、王の器を持っている魔神。とてつもない巨躯。

俺と同じく『神の墓場』生まれで、現世に留まるには特別な儀式が必要であることが俺との違い。

俺が敬意を払っている、数少ない人物の一人。

 

次は深淩の楔魔・序列2位、カフラマリア。

現状:行方不明。どこにいるのか、さっぱり分からない。

評価:ザハーニウに並ぶ、もしかしたら超えているかもしれない力を持つ魔神。

主に火炎属性の魔術を多用し、場合によっては隕石召喚すら使う。格闘戦でも炎を纏った打撃を放つなど、炎を中心とした攻撃をしてくる。

そこまで詳しいわけじゃないので、これくらいしかない。つか、何でブレアードに従っていたのか分かんなかった。

 

深淩の楔魔・序列3位、ラーシェナ。

現状:ザハーニウと共に封印が解け、『ヴェルニアの楼』の最奥で待機している。

評価:翼をみて推測するに、堕天する前はたぶん中級程度の天使だと思う。だがそれも魔神になって神核を得ていることから、今では上級天使くらいの強さだろう。ただ、一撃の威力は微妙。多彩な連続攻撃を得意としている。

ブレアードに召喚されてたが、むしろ俺に従っていたような気がする。頭の固い生真面目な性格で、ルシファーが堕天しなければ堕天使になることはなかったと思う。

これから頼ろうと思っているくらいに信頼しているが、ブレアードに封印されてから今までの間、俺は彼女をずっと放っておいた訳で……恨まれてないか心配。

 

深淩の楔魔・序列4位、グラザ。

現状:故人。彼が死ぬってことを忘れてて助けられなかった。無念。

評価:深淩の楔魔で、唯一の友人だった男。

魔力も高く、ラーシェナほどではないが強かった。だがこれから先のことには関係ないので、彼の話はこれだけにする。

 

深淩の楔魔・序列5位、エヴリーヌ。

現状:封印が解けてからしばらく経つが、ずっとフェミリンス神殿で暴れまわっている。

評価:見た目は子供、頭脳も子供、精神的にも子供、強さは中級魔神。心身ともに幼いのに過剰な力を持っているためにちょい厄介。癇癪を起されると面倒になる。あと、将来的にはラーシェナに迫る実力を手に入れる潜在能力を秘めているように見えた。フェミリンスを恨んでいる一人。

俺を『お兄ちゃん』と呼んで慕ってくれた子だが、贅沢を言えばもう少し成長してから戦場に出したい。

封印されていた場所がフェミリンス神殿だったために、色々な意味で助けられなかったことを申し訳なく思う。ここ数百年、彼女を連れていたら良い意味で成長させられたはずだ。とにかく、これからに期待。俺を手伝ってくれるなら特に。

 

深淩の楔魔・序列6位、パイモン。

現状: つい先ほど、フェミリンス神殿でエヴリーヌと合流した。近くにイリーナがいるためか、暴走しそうなエヴリーヌを抑えている。

評価:深淩の楔魔の中で、一番敵にしたくないタイプ。単純な戦闘力ならカフラマリアの方が上だと思うが、頭の回転が速く優秀な策で搦め手などを使ってくるので戦い辛い。

だが、前記の通り一番敵にしたくはないが一番信用している人物だ。

正直に言うと、こいつの序列が6位というのは納得いかない。まあ目立たない立ち位置にいるから、暗躍するのには動きやすいだろうけど。

 

深淩の楔魔・序列7位、カファルー。

現状:どこかの誰かと同じく、行方不明。どこかに封印されている可能性がある。

評価:魔獣の王という肩書きが良く似合う、ザハーニウに次ぐ巨体を誇る馬の魔獣。

魔術に関しては全然ダメで、その身に纏う炎もカフラマリアには劣るなど、魔神としてはあんまり強くない部類だと思う。

身内に優しく敵には容赦なしという、そこら辺は動物とあまり変わらない性質。だが知能は人並みに高く、ラーシェナと特に仲が良い。

 

深淩の楔魔・序列8位、ゼフィラ。

現状:俺がいる、このマータ砂漠のどこかにいる。そこで封印されてたようだが解けたらしい。

評価:たぶん、深淩の楔魔最下位の実力者。俺の配下の歪魔ゲラーシムの方が強いんじゃね?

睡魔族のような格好をしているが、魔神らしいその傲慢な性格のせいで、ぶっちゃけもったいないことになってる。こう言ってはアレだが、最も関心が湧かなかった。典型的な下級魔神、といったところか。所詮は俺の推測にすぎないけど。

フェミリンスを恨んでいる一人。

 

深淩の楔魔・序列9位、ディアーネ。

現状: メンフィル王国にいる。捕らわれの身(?)。

評価:グラザに次いで良好な関係だったが、友……ではない。

己の実力を隠してはいたが、それでも精々カファルーかエヴリーヌと同程度。彼女の必殺技である『キル・ディアーネ』は自分の名前を入れてあるだけはあり油断出来ないが、範囲が狭いので避けるのは案外簡単だ。

ちなみに、俺とグラザとディアーネの3人はブレアードの封印から逃れた組であるのだが、こいつだけは途中で封印されてしまい、それ以降は何故か蟹が苦手になったらしい。

フェミリンスを恨んでいる一人で、色々とゼフィラと似通っている。でも本人同士は犬猿の仲。

 

…………。

 

とまあ、長々と偉そうにかつての仲間(だよな?)のことを評価していたのは、深淩の楔魔・序列10位の俺ことゼアノスです。

 

先述の通り、俺はマータ砂漠(にある迷宮)にいる。2時間くらい前に、倒れてしまったエクリア・フェミリンスをセリカと一緒に近くにあるダンジョン、『日陰の遺跡』に送ったばかりだ。俺が今いる所とはまた別の場所だ。

あそこには『魔獣ハグネ』という植物を取り込んだ魔獣など、ブレアードが創った合成獣が何匹か生息しているんだけども……せいぜい下級悪魔から中級悪魔程度の強さだから問題ねぇだろ。

 

そして深淩の楔魔について何故あそこまでグダグダ語っていたのかと言うと、ほとんどのやつらがブレアードからの封印から解き放たれたからだ。懐かしい魔力が様々な場所から一斉に上がったから気付いた。何名かは何処にいるのかさえ分かってないけどね。

ただそれだけで、深い意味はありません。

 

ここから向かって東北にはセリカ達を送った遺跡があり、その更に北にはフェミリンス神殿がある。そのフェミリンス神殿にはさっきまで、メンフィル王国の王でありグラザの息子である半魔人の、リウイ・マーシルンがいた。彼は『幻燐の姫将軍シリーズ』の主人公でもある。

 

リウイと一緒にフェミリンス一族で彼の妻であるイリーナ・マーシルンが。そして幼馴染らしい、カーリアンという闇夜の眷属の三人で、エヴリーヌが蘇った事によって起きた異変を見に行った際に対面。イリーナを見て殺そうと手下を放つも、呆気なく敗北。精神的に子供っぽいエヴリーヌは癇癪を起こして今度は自分が動こうとしたが、転移してきたパイモンによって止められてしまう。

 

……という一部始終を、俺の命令で上空から傍観していたブランシェの目を通して見ていました。とりあえずパイモン、グッジョブ。折角助けたのに5年も経たない内に死ぬとか勘弁してほしい。助けた時にさり気なく強化したから滅多なことでは死なないが、魔神相手なら死ねる。

 

「……戻ってきた、か」

 

セリカ達が南下している気配がして、思わず呟いた。彼らが向かう先にはパラダという街がある。

 

『神殺し』と『凶腕』はここ数百年間、表舞台に出ていない。だがこれから、この二つの名前は表に出るようになる。好き勝手に動く俺はともかく、セリカは可哀想だよなぁ。目立ちたくないのにさ。力ある者の宿命、ってやつか。難儀なもんだ。

 

「それにしても、あいつは一体どこにいるんだか……」

 

俺はそう独り言を呟いて、初めて訪れる迷宮内の探索を再開した。

 

 

 

―――――――――――――□

 

 

 

私がいるのは、『バラダ』という街。一面を砂によって覆われているマータ砂漠の中で、珍しくも人の住める場所だ。

 

幻燐戦争でカルッシャの王女は闇夜の眷属の国であるメンフィル王国に、半魔人の王、リウイ・マーシルンに敗れた。そのせいで最近ではその戦争の影響で居場所を失ってしまった亜人やら流れ者やらが何度か来ているので、治安は悪い。私は持ち前の明るさで、全く問題にならなかったんだけど……

 

「はぁ」

 

小汚い裏路地に入って、思わず溜め息をひとつ。

やるべき事が終わって暇になって、その暇を潰しにあっちにフラフラこっちにフラフラ。そして気が付いてみればバラダの街だ。

私ってば、暇だからとはいえ何でこんな所にいるんだろ。さっきのはそんな意味を込めた溜め息だ。

 

だがそんな考えも、この会話を聞いた途端に吹っ飛んでしまった。

 

「……? どうかしたか」

 

「外套の中から服がちらちら覗いている。街中だと余計目立つな」

 

「……他に着る服など、持っていない」

 

「何とかしないとな……お前もその格好では暑いだろうし、目立つ装飾が少しはみ出ている」

 

女性のような、低くはない声が二つ。何やらもう一人ほどの声が聞こえたような気もしたが、声がした先にいたのは二人だけ。そのことを疑問に思いながらも、私は明るく笑顔でその人達に話しかけた。

 

「ねね、ちょっといい?」

 

「……俺達か?」

 

「そそ、君達」

 

少しばかり警戒している様子の赤毛の剣士に、顔や体全体を隠すかのように外套を覆っている女性。

 

「何か用か?」

 

「用というかさ、君達こそ、こんな道端でうろちょろと何やってんの? ここはそんな安全な場所じゃないよ。腰に見えるものからして剣士らしいけど、腕は立つの?」

 

「それなりにな」

 

それなりに、か。ずいぶんな謙遜だね。ディル=リフィーナ全体でも最強クラスなのに。それとも、単に目立ちたくないだけかな?

 

「ふ~ん。じゃあそっちの人は……上品な歩き方からして、どっかのお姫様かな? 最近ではどこからか逃げてきた貴族とかも結構いるから、その独特な歩き方、覚えちゃったよ」

 

あははと笑いながら指摘すると、その上品な女の人は後ろへ下がってしまった。

 

(この娘、ちょっとした動作で見抜きおった。鋭い観察眼だの)

 

(だが私からは隙がないようには見えないぞ。まさかとは思うが、わざと……か?)

 

(いや、俺から見ても隙だらけだ。できればエクリアが着られる服を借りたいのだが)

 

口は全く動かしていないのに聞こえる三人の声。間違いない、これは心話だ。だからなのか、私に聞こえているとは思ってないらしい。でもおかげで彼女の名前が分かった。エクリアだね。セリカは前から知ってたけど……ってちょい待ち。三人の声? ここにはこの二人しかいないはずなのに……あ、そっか。魔神ハイシェラ、だっけ。まあ気にしなくてもいいか。

 

私が隙だらけなのは、私が彼らを警戒してないからだ。意味なく人を斬るようなやつじゃないって知ってるしさ。

 

「何かお困り? 私にできる事なら、少しは手伝うけど?」

 

「……分かった。なら少しの間でも、静かに過ごせる場所を教えてくれ。それと、出来れば彼女に着させられる服があれば分けて欲しい」

 

少しだけ考えたようだけど、どうやら頼ることを選んだみたい。

静かな場所は私が使ってる宿屋の紹介で良しとして、服は……ん?

 

(セリカ、よいのか?)

 

(ああ。だがこれ以上は関わらないつもりだ。エクリアもそれで良いか?)

 

(好きにしろ……)

 

どうやら彼の案は採用されるようです。にしても『関わらない』ときたか。

 

「とりあえず私が泊まってる宿に案内するよ。こっち来て」

 

手招きして裏路地から出るように促して、案内するために彼らよりも前を歩く。

 

「でもごめん、服は生憎と持ち合わせがないんだ。友達なら持ってるだろうからその娘に聞いてみるよ」

 

「そうか、助かる」

 

案内するのは『砂猫亭』という宿屋。ここに住んで更には仕事場としても使っている、この街唯一の友人がいるのだ。いればいいけど……

 

「あら、こんな時間に来るなんて珍しいわね。どうしたの?」

 

「あ、リンユ。よかった、君に用があったんだ」

 

「私に?」

 

 

私が探していた人物は、運良く丁度外から帰ってきたようだ。

彼女の名前はリンユ。結構人気のある娼婦で、街に来たばかりの私に色々と世話を焼いてくれた、優しい心の持ち主だ。人間の中では一番好きだね。

 

どんな用なのかと聞いてくるリンユにセリカらの事を紹介しようとしたが、そこで思い出した。

 

「そういえば君らの名前、聞いてなかったね。教えてくれない?」

 

互いに自己紹介すらしていなかったことを。これでもし普通に紹介していたら、何故知っているのかと、不審に思われるところだった。

 

「そうだったな。俺はセリカ。こっちは……カヤ、だ」

 

少し間を空けたあとに教えてくれたが、エクリアという本名を知ってる私からしたら偽名だとバレバレだ。まあつい最近までやってた戦争の当事者で、敗戦国の王族。しかも姫将軍だもんね。

 

偽らなかったら大変なことになってただろうし、と思い、突っ込まないでリンユにそのまま服のことについて頼む。

 

あと『カヤ』って名前、どっかで聞いたことあるような気がするんだよね。ハイシェラに心話で質問されたセリカ曰く、『誰の名前なのか知らないが、ふと頭に思い浮かんだ』らしいけど。

 

 

 

一通りリンユに話すと、案の定彼女は快く引き受けてくれた。情勢にも鋭い彼女はエクリアのことを何となくだが察してくれたようで、深く聞かないとも言っていた。その際に、常に仏頂面だったエクリアの顔に少しの安堵が出ていたのは、恐らく全員気がついたと思う。

 

「さて、と。リンユ、そろそろ私も仕事に行ってくるよ。色々とありがとね」

 

「いいわよ。ただ本番はしなくていいから、また客寄せお願いね?」

 

リンユのそんな簡単な報酬に苦笑いしながらもその場を離れようすると、セリカが私を見ていた。何だろう。

 

「どうかしたの?」

 

「宿とリンユを紹介してくれた事について、まだ礼を言ってなかったと思ってな」

 

「あー、そっか。でも気にしなくていいよ。お礼ならリンユにね」

 

「そうか……そう言うのならばそうしよう」

 

出会った当初から変わらない表情で、セリカは頷いた。

……エクリアは常時仏頂面だけど、セリカは常時無表情だな。なんて、くだらない事を考える。

 

「それじゃ、良い旅を。でも、君達とはまたどこかで会うような気がするよ」

 

笑顔で言う私に、セリカは極僅かに表情を変えた。困ったような顔……かな?

ハイシェラが『無いだろうがの』と言ったので、それと同じ考えだったからだと思う。

 

でもねハイシェラ。私達は必ずまたどこかで会うことになるよ。だって私は――

 

「私の名前は、ノワール。また会おうね、お二人さん!」

 

――凶腕の、主様(ゼアノス)の眷属なんだから。

 

 

 

 




>深淩の楔魔の説明
中には忘れている人もいるんじゃないかな、と思って書きました。
文字稼ぎ? 何のことです? そんな訳ないじゃないですか(・。・;

>イリーナ・マーシルン
>助けた時に強化
>滅多なことでは死なないが、魔神相手なら死ねる
凶腕による強化だということをお忘れなく。
一体どんな強化をしたんだ……

>折角助けたのに5年も経たない内に死ぬとか勘弁
実は『幻燐の姫将軍Ⅱ』の終わりから『戦女神VERITA』開始まで、約3年経ってます(公式)。

>ノワール
偶然にもセリカ達と出会いました。もちろん彼女はセリカ達の事をゼアノスから聞いているので、色々と知っています。
服も砂漠に適した服装だったので、ディストピアの関係者だとは思われていません。



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