戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

45 / 56
お久ぶりでございます。遅くなりました。詳細は活動報告にて。
活動報告でアンケートを取ったところ、外伝よりも本編を進めて欲しいという答えの方が多かったので、そうします。
次回は……いつになるのかなぁ……。

それと、いつ仲間になったのかが分からないキャラが出てきます。それらの経緯は外伝に出す予定ですので、そちらの方もお待ちください。


戦女神VERITA編
―ディストピアの現状―


ラウルバーシュ大陸の中央より南寄りにある、ディジェネール地方。その地下には現在、ブレアードが創った迷宮以上の広さを持つ、巨大な迷宮があった。

 

ディジェネール地方の下方に存在する地下世界の名前は、【歪みの主根】。

元々はディジェネールの北西に位置していたが、かつてゼアノスがルナ=クリアと『歪魔が多い土地を、土地ごとディストピアに移動させる』という話をしていた。それが了承されたので、目を付けていたその地域を即座に転移したのだ。

 

だが肝心のゼアノスは、約300年前から姿を消している。神殿の総意(歪魔が多い土地をディストピアに移動させるという意見に対する答)を伝えに来たルナ=クリアによれば、神の墓場へ落ちてしまったという。そのことに、悲しみの感情を持った者は皆無に等しかった。

彼が凶腕であることを知っている者は、彼がその程度で死ぬとは思っていない。知らない者は死んだと思っていたが、魔族らしく『死ぬのが悪い』という考えなので、悲しまなかった。

 

そしてゼアノスがいなくても準備はしてあったので、転移するのに問題は全くなかった。

だが、そのあとが問題だったのだ。

 

【歪みの主根】は、ディル=リフィーナが創世した時に生まれた【歪み】が集まっている土地だ。二つの世界が融合して生まれた世界の、【歪み】。それを緩衝する役割を担っている。それを知った者は、こう思ったのだ。

 

――世界の緩衝たる歪みをそのままに、ある一定の秩序と均衡を与えることは出来ないだろうか。歪みの大地を支配するならば、それは同時に世界を支配することにもならないだろうか――

 

と。

 

それからというもの、人間はその土地を神の力で迷宮と化し、支配しようと準備を進めていた。

そこで出てきたのが、ディストピアの魔族だ。後は神を呼び出すだけだという時に……いや、実際は呼んでいた。神が来るよりも早く、魔族が転移させてしまったのだ。

 

北方の霜天の盆地(ツェル=レアロス)という場所の地方神。名を、氷結の女神、ヴァシーナ。フェミリンスと同じ、現神に属している地方神だ。

彼女の氷結の力で、歪みの圧力によって高熱を発する地下迷宮を人の行き来できる環境へと整える。そこまで考え、実行まであと僅かという所で邪魔をされたのだ。その怒りは激しく、『了解を得ていて契約通りに人間がいない場所だけ』を得たという大義名分があっても、治まらなかった。治まるはずがなかった。

 

それでも一時期は、争いにまで発展しなかった。いちゃもんをつけた所で、ディストピアは契約をしっかりと守っていた。ここで戦争になれば非があるのは人間側になり、凶腕が出てくるのは必至だからだ。

 

それでも、感情の爆発が抑えられない者が命令を無視して飛び出すのは、稀にだがあることだ。

誰もがその者の生存を諦めたが、その者は帰ってきた。傷だらけで無事とは言い難いが、それでも生きていたのだ。

 

凶腕が見逃すはずもないと、そこに疑問を持つ者が増えた。同時に、凶腕がいないのではないかと、当りを付ける者まで現れたのだ。

 

神殿が調べてみれば、凶腕はここ300年もの間、一度も表に出ていない。

……それを好機と見たのは、一つの神殿だけではなかった。大きな賭けに出たのだ。

 

凶腕がいない事を前提に考えて、戦争を起こすことを決めたのだ。最初にそれの参加の意を明らかにしたのは、【歪みの主根】のことで苦汁を飲まされた、【三太陽神】の神殿だった。次点で……とはいってもほぼ同時に参加することを決めたのは、バリハルト神殿だった。

 

【三太陽神】とは、主神アークリオン。主神の息子アークパリス。主神の娘パルシ・ネイのこと。

アークパリスは騎士の神でもあり、バリハルトとは信仰者同士の仲が悪い事で有名である。それでもこの時は、三神戦争よろしく協力し合って戦争を始めた。神そのものは参戦できなかったが、それらの神格者達が徒党を組んでいた。

 

その結果……ディストピアの完全な敗北。

ブランシェとノワールは丁度その頃に北のレスペレントという地方にいたので、戦争に参加できず。数柱の魔神はいたものの、四つの神殿が相手では勝ち目が無く。天使はそもそも魔族とは別の場所にいたので、しかも共闘なんて出来るわけもなく、参加していなかったので数は減っていない。

ゼアノスはいないので凶腕が戦場に出ることもなく、あっという間に勝敗は決した。

 

ところが、神殿側にとっての利益はあまりなかった。なぜなら、【歪みの主根】が見つからなかったのだ。

もはや廃墟となったディストピアの城を背に、戦争には勝てても目的のものが見つからないので、負けた気分で戦争の勝利者は帰って行った。

 

魔族や亜人の領域であるディジェネール地方を、統治しようと考える者は皆無だった。

ディストピアが滅亡すれば、今度は魔族や亜人が我先にと新たなリーダーになるべく、争いを始めるだろう。そんなことに干渉して、兵力を減らすのはバカのすることだからだ。

 

……。

 

だが、【歪みの主根】はそこにあった。場所を変えずに、同じ所に存在していた。

戦争中に、勝ち目がないことを悟った者は数多くいる。それらは皆、【歪みの主根】に逃げ延びていた。そして、帰って来たブランシェとノワールが、各々の部下に命じて特殊な結界を作り出していた。古神の配下だった魔族と天使が、上司の命令で嫌々ながらも協力して作った結界。それは、古神の勢力がいれば感知できたもの。現神勢力には、どうあっても見つけられないようになっているものだった。

 

戦争で逃げていた者は意外と多く、どのくらいかと問われれば、相手が大国であっても戦争で勝てるのではないかというほどの戦力がいた。それも凶腕だけではなく、ゼアノスにも忠誠を誓っている者が過半数を占めていたのだ。もう半数は天使なので、ゼアノスに対する忠誠は無い。ブランシェに従っているのであまり変わらないが、古神の英雄たる凶腕には従う方針らしい。

 

 

 

―――――――――――――○

 

 

 

ゼアノスの種族でもある、歪魔。彼と同じ種族たる歪魔が3人、階層にすれば地下50階ほどにもなる場所に集合している。

 

3人の中央に立ち、大剣を地面に刺して気品すら感じられる男、ゲラーシム。

その手に持つのは、暗黒剣ザウルーラ。持ち主に呪いを掛けることで有名な剣だ。そんな剣を持ちながらも平然としている彼は、魔神には及ばないがそれに近い実力を持っている。遥か昔から、歪みの中心地で歪魔を統治していた実力者だ。

 

左側にいるのは、サーカスの時に使うような大きなボールに座っている、ミレーヌ・プロア。

見た目こそ普通の女子型の歪魔と変わらないが、その身に宿す魔力は尋常ではない。戦闘力はゲラーシム以下だが、単純な魔力量ならば超えている。武器では短剣やナイフでの攻撃を得意としているようだ。

 

最後に、弓矢を持った有翼の妖艶な歪魔、マーゴット。

3人の中では最弱だが、歪魔全体として見れば上位に値している。しかも魔族にしては非常に珍しく、神聖術をも扱う事が出来る。翼の形が天使や堕天使に酷似していることから、もしかしたら堕天使だったのかもしれない。

 

そんな3人は、【歪みの主根】の今の支配者に呼ばれていた。ゲラーシムはその存在を見つけたので、声を掛ける。

 

「我々に何か用かな? ノワール殿」

 

「ん~? あ、待ってたよ。うん、ちょっと聞きたいことがあってね」

 

堕天使ノワール。魔導鎧と魔導銃を扱う、超大な力を持った凶腕の眷属。その力は、単体で小国を滅ぼすことができるほど。緊張感のない喋り方をするが、一部の現神を超えた実力者。

 

「ミレーヌ達に聞きたいこと? なになに?」

 

「あ、もしかしたらミレーヌだけ関係ないかも、ゴメンね。いや、コイツのことなんだけどさぁ」

 

そう言って足元の魔法陣に魔力を放つと、巨大な物体が突然現れた。転移されたのだ。

 

「歪みを操る力はゼアノス並みなんだけどね。やっぱそんだけの力を秘めているからなのか、全く言う事を聞いてくれないんだよ」

 

「……」

 

「なるほど……そういうことですか……」

 

「あはは、確かにこれはミレーヌには関係ないね~」

 

転移されてきたのは、かつて【歪みの主根】を支配していた歪魔、魔神アラストール。

竜の姿をした恐るべき存在で、この地下世界の覇権を争って350年ほど前に……ゼアノスが己の種族を知り、この地に目を付けた際に倒されたはずの魔神だ。

 

ゼアノスが確かに倒したはずなのだが、十数年経って様子を見に来た頃には【歪みの主根】の最下層で蘇っていたのだ。その完璧な復活具合は、直接見たゼアノスが『お前はラテンニールか!?』と思わず突っ込んでしまったほどだという。

 

「どうやら理性が無いみたいでね、どうするか決めかねてたんだ。で、どうせなら同じ歪魔の君らに決めてもらおうと思って。ほら、ゼアノスがいないしさ。いたのなら彼の魔力供給源になったかもしれないけど……あ? そっか、それまで封印しておけばいいのか。よし決まり! さぁさぁ手伝って!」

 

「はは、りょうか~い」

 

呼んでおきながら自己完結してしまうノワールを前に、しかし真面目とはお世辞にも言えない性格のミレーヌは、ケラケラ笑いながら了承する。

対して歪魔にしては非常に……そう、非常に珍しく比較的真面目な性格の二名は……

 

「クスクス」

 

「……ふっ」

 

それぞれ思う所はあるが、悩みが一切なさそうな前方の二者を見て、マーゴットは笑い、ゲラーシムは溜息を吐きそうになるが、結局は口元を笑いの形に歪ませたのであった。

 

 

 

―――――――――――――★

 

 

 

所変わって、ディジェネールの地下ではなくその逆。上空にも、地下とほぼ同等の戦力が集まっていた。

 

【ヴィーンゴールヴ宮殿】と呼ばれる、天空に浮かんだ古の宮殿だ。

ディジェネールと【歪みの主根】があった場所の、丁度真ん中辺りにあった【カドラ廃坑】という地に封印されていたのを、古神に縁があるものを探していたブランシェが偶然見つけ、解放したのだ。

 

【戦乙女シュベルトライテ】なんて稀有な存在まで封印されているが、そこは全く手をつけていない。というより意志疎通はできたのだが、彼女の希望により封印したままの状態だ。むしろ意識が表に出ないように強めている。彼女自身が、自分が決めた主以外には従いたくないというので、万が一侵入者が来た場合に勝手に支配されないように、そのように施している。それでも膨大な魔力を持つ者が生贄にされたとしたら、復活するかもしれないが。

 

そしてここにも、合計で4つの人影があった。

3つの影が、1人に……熾天使たるブランシェに跪いている。

 

名前をそれぞれ、メヒーシャ、ルファディエル、エリザスレインという。

順に、(第七)天使・(第六)天使・(第五)天使である。

 

「よく来てくれた。特にエリザスレイン、君が来てくれたのは予想外だ。メロディアーナと共に、あちらに残ると思っていたよ」

 

「正直に申しますと、あの地にこれ以上滞在しすぎては無駄な介入をしてしまいそうでしたので……ブランシェ様に着いて行くことを決めました」

 

頭を垂れながら、水色の長い髪を持つ力天使は淡々と言葉を放つ。

エリザスレインは、顔を上げれば童顔という表現が正しい顔立ちをしている。しかし彼女は意外と行動派であり、更には彼女の持論からして、こちらに来たのは確かに正しいかもしれないと、ブランシェは苦笑する。

 

あのままでは『無駄な介入』をしてしまうのは誰が見ても分かりきったことであったし、そんなことで凶腕がいない今、いくら相手取ることは可能でも、あの大国相手と戦争になるのは避けたかったのだ。

 

「私としても本当に驚きました。どう説得しようかと悩んでいたら、エリザスレイン様が自分からあの地を離れると仰った際は」

 

クスリと軽く笑いながらそう言ったのは、能天使ルファディエル。

前に一度、狭間の宮殿でゼアノスやセリカと出会った、あの天使である。

 

その言葉にエリザスレインが顔を上げ、むぅ、と頬を膨らませた。

 

「その言い草……私の事をどう見ていたのかがよ~く分かったわ、ルファディエル」

 

「私以外もそうだと思いますよ? ね、メヒーシャ?」

 

話を聞いていただけで突然声を掛けられた権天使の表情に、驚きの色が加わった。

 

「そ、そこで私に振るのですか? ですが、まあ、そうですね……ルファディエル様の言葉を否定できない私がいます……」

 

「へぇ、貴女もそう言うのね」

 

そう言って、半眼で2人を睨むエリザスレイン。

 

地下の堕天使や歪魔ほどではないが、段々と会話が軽くなっている。

それを、ノワールから『生真面目天使』とまで言われたブランシェは、『ジーーーッ』と凝視する。その視線に気が付いたのか、三者が同時に再び頭を下げた。

 

「も、申し訳ありません! ブランシェ様!」

 

とはいえ、何もブランシェが特別真面目過ぎるのではない。本来、天使は基本的に真面目である。

ただ、人間と接した経験を多く持つ天使は、他の個体と比べて些か軽い傾向がある。業務だけでなく会話をする楽しみを知っているからではないか、とはブランシェの主たるゼアノスの言だ。

 

故に。

 

「そうだな……私を会話に混ぜれば許そう」

 

先程のメヒーシャの驚きが微粒子レベルに思えるほど、驚愕を顕わにする天使3名。

だがルファディエルはすぐさま切り替え、話し始めた。

 

「では、こんな話はどうでしょうか。ディル=リフィーナ創世以前、日本という国にいた人間の事なのですが……実はメヒーシャと」

 

「お、お待ちくださいルファディエル様!! 一体何を言うおつもりですか!?」

 

「いえ、言いなさいルファディエル。これは命令よ」

 

「エリザスレイン様に命令されたとなれば、話さない訳にもいきませんね……メヒーシャ、お姉ちゃんって私を呼んでくれれば、そのことを忘れるかもしれないけど?」

 

「く、この話題はいつまで続くというのですか……っ」

 

「ブランシェ様も興味ありますわよね?」

 

「うむ。エリザスレインの言う通り、非常に興味がある」

 

「ブランシェ様……」

 

顔を真っ赤にし、手で隠してしまったメヒーシャ。彼女とルファディエルは大昔、ゼアノスと殺し合った仲だという。何があったのか、詳しくは知らない。今は恨みもないようなので、気にしていない。

 

「そう言えば、この宮殿には戦乙女がいたようですが……大丈夫なのですか?」

 

「互いに種族は違えど、彼女も『神の使い』であることには変わらない。神のためにも貸して欲しいと、そう言ったら使うことを許してくれたのだ」

 

「なるほど。確かに私達もあの方も、『神の使い』ですね……」

 

こんな簡単な談話で、だが確かに『楽しい』という思いを感じたブランシェ。

これの究極は堕天だが、この程度の『楽』で堕天使になる訳もない。部下との交流を深める意味もあり、長い間話し続けた。

 

 

 

 

 

地下と天空で、それぞれが物事を進めていたその時。

……ディストピアだった地上に、1つの歪みが発生した。

 

 

 

 

 




>戦争で勝てるのではないかというほどの戦力
ノワールや逃げ延びた魔族、元々【歪みの主根】にいた魔物や歪魔がいれば、苦戦はしても余程の事が無ければ負けないだろう、という考え。


>ヴィーンゴールヴ宮殿
>戦乙女シュベルトライテ
知名度は低いと思われる。無印戦女神のラスダンとラスボス。知らない人のために補足。
ヴィーンゴールヴは北欧神話に出てくる宮殿のことで、シュベルトライテはヴァルキリーの名前。
イルザーブなんていなかった……。


>ゲラーシム、ミレーヌ、マーゴット
外伝では出番の予定はなし。どうやって仲間になったのも、特に描写無し。敢えて書くなら、『己よりも強大な歪魔=ゼアノス』に勧誘され、喜んで配下となり、従っている。


>メヒーシャ、ルファディエル、エリザスレイン
外伝で登場予定。ルファディエルは凶腕の正体を知っているらしいが、他は……?


>ブランシェ
実は部下3名より遥かに年下。
……ある意味、今回で少し成長?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。