戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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今回で【戦女神ZERO】編は終了です。ありがとうございました!


そして……



このアンリ・マユとの戦闘で、自身も知らなかったゼアノスの秘密が明かされるッ!!
括目せよッ!!





―狭間の宮殿・結―

 

 

互いのことをよく知っているわけではない。息を合わせられるほどの時間を一緒にいた訳でもない。それでも、永い時を生きれば会うことがあるだろう。たとえ初対面だとしても、何故か呼吸が合う人物と。

 

俺にとってはセリカがそれだった。セリカにとっても、俺がそうだろう。でなければこんな複雑な複合技ができるわけない。練習していたならまだしも、していないのだから。

 

セリカよりもハイシェラの方が共にいた時間は長いだろうし、互いの事を知っているだろう。だけどそれでも、ハイシェラとここまでコンビネーションが良いかと聞かれれば、迷わずに『No』と答える。

 

「予想以上の出来栄えだな」

 

「ああ……俺は左に。ゼアノスは右を!」

 

「了解だ!」

 

【紅燐剣舞連】を放つと、それは無数の斬撃となり、アンリ・マユが生み出した分身を細切れにしていく。それでも完全に滅することは出来なかった。

 

「おおおおお怨ッ! おおおおぉぉぉぉぉおおお怨ッ!」

 

俺達が左右に分かれると、中央にいた牙の形状をした邪神の分体が、不気味な声を荒げながら後方の仲間へ突っ込んでいく。

それでも、心配は微塵もない。そこにいるのは、俺達よりも戦いの経験が多い二人だ。

 

「我が美しき技を喰らうがよい、大放電ッ!!」

 

「…ちね………」

 

アムドシアスは得意な電撃魔術を、ナベリウスはソロモンの力を源に放つ魔術槍である【死愛の魔槍】で、襲い来る牙に放つ。

その威力は高く、牙は霧散していったのだが……ナベリウスの幼児言葉はどうにかならないものか。何か脱力してしまう。

 

「下がれ!!」

 

上空から聞こえる、空の勇士の声。それぞれ左右で触手や人型の分体を斬っていた俺とセリカは、迷わず後退する。

 

「はぁッ!!」

 

空の勇士の姿が、翼と角以外は人間と変わらない見た目が、完全な(ドラゴン)のそれになる。その姿は龍なだけはあり、猛々しい。

これは一時的に変身し、純粋系のブレスを放つ【アウエラブレス】。隅々にまでブレスは広がり、アンリ・マユの分体のいくつかが消滅した。

 

それでも次々に湧き出る邪気は限りない分体を作り、その数は無数と言えるほどに増え続ける。『冥き途』で湧き出る不死体を相手にしたこともあったが、こいつらは不死体よりも質が高いので苦労する。

 

「ほらほらほらほらぁ!!」

 

俺は宙に浮いて、【速魔弾ルオナ】や【闇弾】など、低威力でも詠唱時間が短い魔術を連発する。どうも勇士達と戦ってから、やたらテンションが上がるのだが……。

やっぱり、魔族の血、かねぇ?

 

最後尾ではパズモと白銀公が治癒、強化、戦意上昇の魔術で皆を補助。

最前列では俺、セリカ、レクシュミ、リタ、ペルル、空の勇士が様々な攻撃で突破。

その二つの間で、アムドシアスとナベリウス、リ・クティナが攻撃と治癒の魔術で援護している。この舞台には結界を展開してあるため魔物が一切入ってこないので、背後から襲撃されることは無い。正に理想的なパーティと言えるだろう。

 

だが相手も、黙ってやられているはずがない。

様々な属性を持った鉤爪による攻撃や、攻撃魔術。邪神の癖に本体は光の槍や神聖魔術を多用し、暗黒魔術を時々放ってくる。尾を模っている分体だけは、本体の後ろから治癒魔術で回復させている。それもあって、倒し掛けた分体が再生し続けている。

 

「オオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

それでもなお、形勢は変わらない。少しずつ、少しずつ前進する俺達に対し、追い込まれていくアンリ・マユ。感情があるのか激昂したような声らしき音を出し、本体と分体の全てが一点に向かって魔術を放った。

 

目標は……俺だ。冷却、火炎、地脈、電撃、暗黒、神聖、万能。それぞれの属性を持つ魔術が、俺に襲いかかる。基本魔術だけなので一つ一つの威力は小さいが、もし当たれば魔神でも重傷は確定だろう。

 

「しゃらくさいわッ!!」

 

それに対して俺は防御の姿勢を取らず、敢えて攻撃することにした。相殺を狙っているからだ。繰り出す技は、【沙綾円舞剣】。一点突破ならこれが最適だろう。

案の定、アンリ・マユには届かなかったが、相殺しきることには成功した。

 

「俺を狙ったのは間違いだったな、お返しのついでに終わらせてやる」

 

俺はそう言って今度は双剣を背負い込み、詠唱に入る。

俺がよく使う魔術の大概は、詠唱時間をあまり必要としない。だがこれは数秒間の詠唱 が必須なので、近くにいたリタに目配せする。それの意味を理解してくれたのか、俺に向かってくる分体を薙ぎ払ってくれた。

 

「ありがとな、リタ。助かった」

 

礼を言うと、軽く頭を下げてきた。律儀な幽霊だな。

それはともかく、俺の準備は完了。あとは皆が離れれば……と思ったけど、俺の発した魔力を感じて既に離れてた。

 

「決めろ! ゼアノス!」

 

自らに襲い来る人型を殴り飛ばしながら、空の勇士が俺に向けてそう言った。

……彼女が俺の名前を呼ぶのって初めてじゃないか?

 

「ゼアノス……頼む……!」

 

続いてセリカからも、声援を貰う。

 

「行くぞ……消え失せろ!!」

 

詠唱も終わり、莫大な力を持つ物体が、俺の魔力によって顕現された。

 

― 豪隕石召喚 ―

 

それが、この魔術の名称だ。

万能属性、つまり純粋魔術の高位術には、【小隕石召喚】や【大隕石召喚】というものがある。だが俺が今使った魔術は、万能属性ではなく、無属性の術。

 

無属性。文字通り属性が無く、属性によるダメージ補正が掛からない特殊な属性だ。

無属性魔術を使える者は非常に少なく、この属性の魔術自体がとても珍しい。

 

「ガアアアッ!! 身体をぉぉぉ……怨、怨、身体をぉぉぉぉ……」

 

俺が顕現させた無数の隕石が、再生し続ける邪神に降り注ぎ、蹂躙する。

それどころか、宮殿の一部も崩壊し始めた。だがこれは、俺の魔術の影響ではない。

という事は、これは……

 

「不完全燃焼になるが、死ぬよりはマシか……セリカ」

 

ポツリと呟いて、セリカを呼ぶ。クイクイと手を動かして、こっちに来いと伝える。

ちなみにアンリ・マユは、消滅してない。神核が見えているので、後はそれを、邪気を払うために『聖なる裁きの炎』で浄化するのが、セリカの仕事だ。狭間の宮殿での処刑は、それが失敗した際の保険。そしてあわよくば、『神殺し』も処刑しようという現神の考えによるものだ。

 

そして現在、宮殿は崩れ始めている。現神による処刑が始まったのだ。失敗したわけでもないのに、そこまでしてセリカを殺したいのか?

……っと、セリカが来たか。

 

「ゼアノス、どうかしたのか?」

 

「先に謝っておこう、すまない。そして、いつかまた会おう」

 

「何を言って……がぁっ!」

 

(せ、セリカっ!!)

 

セリカが言い切る前に、俺は自分の右手をセリカの腹に突っ込んだ。

俺の手には『腕』が絡まっている。それによって魂を弄っているので、肉体的な痛みだけでなく、精神的な痛みも加わるので、今までにない激痛に襲われているのだろう。

 

(セリカ、しっかりするだの!!)

 

ハイシェラが必死に呼びかけるが……あ、痛みで気絶した。

 

「な……何をしている!!!」

 

近くにいたレクシュミが、俺のしたことを見て斬り掛かって来る。俺もすべき事が丁度終わったので、手を引っ込めて跳躍し、剣を避けた。

俺という支えを無くしたせいか、意識のないセリカが倒れかけたが、レクシュミがそのまま自分の肩で支えた。

 

セリカの身を守るように、アムドシアス以外のメンバーがセリカの前に立つ。アムドシアスはどうすればいいのか分からないのか、俺とセリカの顔を交互に見ているだけ。

……俺の使い魔なんだからこっち来いよ。

 

「いきなり行動に移したのは悪かったが、案ずるな。セリカは気絶しただけで、俺はこれを抜き取っただけだ」

 

右手に持っているソレを、皆に見るように翳す。手の平に収まってしまう程度の大きさしかないソレは、心臓のようにドクドクと鼓動している。

 

「それは……何ですか……?」

 

それを見ながら聞いてきたのは、リタだった。

俺はリ・クティナなら知ってると思ったんだが……知らないか。

 

「これはまだ穢れているが……【雨露の器(ウツロノウツワ)】だ」

 

「ウツロノウツワ……?」

 

「まさか、それがそうなのか!?」

 

ペルルが首を傾げ、リ・クティナが声を荒げる。

 

「そう。慈悲の大女神アイドスの神核でもある。セリカの魂と同化していたから、取ったってわけ」

 

「ならばあの荒事のような真似はしなくとも……そのせいで我々は誤解してしまったのですし……」

 

「いやいや、白銀公の言う事は尤もだが、時間が無くてね。あんな荒療治でなければ、それこそ間に合わなくなる」

 

「時間が無いじゃと?」

 

空の勇士が疑問を口にするが、俺が答えるよりも早く、その答えが勝手に現れた。

アンリ・マユに近い足場が、真下に落ちて行ったのだ。

 

「……まさか、これは!」

 

「そう、そのまさかだ。現神の処刑が始まった。セリカを担いでさっさと宮殿から脱出しな。アンリ・マユは、逃げないように俺が見張っておく。セリカが『聖なる裁きの炎』を使って浄化するのが最適だが、こうなったらもう間に合わん」

 

宮殿の一部が落ちたことにより、宮殿の全体が振動し始めた。そして話をしている間にも、アンリ・マユは再生している。

 

「く、ですがゼアノス、貴方はどうするのですか。このままでは貴方までもが、異界の狭間に落ちてしまいます」

 

「そ、そうだよゼアノス! ディストピアに連れて行ってくれるって、約束したじゃないかぁ!!」

 

「……狭間の宮殿の真下にある地は、俺の生まれた場所でね」

 

俺にどうするのかを聞いてきた白銀公とペルルに、神の墓場は俺の出生の地だという事を伝える。

予想通りと言うか何というか、皆の顔は驚きの一色だ。

ハイシェラは今まで全く声が聞こえなかったが、この時だけは驚きの声が聞こえた。

俺とは会話できないと思ってるから黙ってたんだろうけど。

 

「俺は異界に落ちると言うより、故郷に帰るだけだ、心配するな。ペルルも、その事は俺の部下に命令しておくさ……ってことだから早く行けぇ! 手遅れになる前に!」

 

より一層、振動が激しくなったので大声を出した。

皆が俺に礼を示したり頭を下げたりしてから駆けだすのを確認してから、アムドシアスに向かって小包を投げる。

 

「主としての命令だ、それを絶対にディストピアへ持って行け。一つも落とすなよ!」

 

「これは……そういうことか。引き受けたぞ、ゼアノス!」

 

アムドシアスに渡したのは、俺の使い魔達の召喚石だ。神の墓場に落ちるのだから、弱くなってしまうあいつらを連れて行くわけにはいかない。

ラテンニールだけは俺が持ってるけどな。何かの役に立つかもしれないし。

 

何か大事なことを忘れている気がするが、時間がもう少ない。あいつらが完全に見えなくなってから、『腕』を展開。アンリ・マユを押さえつける。

 

俺の『腕』の力で、『アンリ・マユ』という存在を別の存在に変えるというのが、俺が今している事だ。だがこれは万能ではあっても全能ではないので、仮にも神の存在を変えるとなると、少し時間が掛かる。こいつの抵抗もあるし、その分余計に。

 

その時間を使って、眷属であるブランシェとノワール。そして使徒のイオに、ペルルのこと。ついでにアンリ・マユと戦う直前に出会った俺の正体を知っていた能天使が、新しくディストピアに入ることを心話で伝えておく。

俺の正体を知っていた、という事実は言ってない。そのせいで余計な混乱は招きたくないからな。

 

ちなみに、今はアンリ・マユの存在を変えている最中だが、足場は既に崩れたので俺も落下している。アンリ・マユを掴んで変化させながら落ちている。

これが思ったよりも反発力が中々強く、思うようにいかない。

 

そして予想外な事が起きる。その反発力が最大限に強くなった時だ。強烈な意志の力と俺の力が、衝突し合った。

こういう意志の力は、思わぬ事態を引き起こすことがある。アストライアを憎む邪神に身体を乗っ取られたセリカが、サティアを思う意志の力で我を取り戻したように。

 

衝突した二つの力は、どこまでも不安定なこの次元に大きな『歪み』を創った。

俺や歪魔の使う歪みではなく、『空間』ではない『何か』を飛び越える歪みだ。

 

「何だ……これは……?」

 

先の抵抗で力尽きたのか、アンリ・マユを掌中に収めることには成功した。

そして好奇心を抑えきれず、『歪み』に近づく。ここは神の墓場と狭間の宮殿があった場所の、丁度真中に位置する。ただの歪みのはずがない。

 

「……」

 

出来る限り解析するため、様々な術式を出して調べに入る。

こいうのはパイモンが得意なのだが、あいつは今、封印術によって石化中。俺よりも頭の良さような使い魔は、ここにはいない。

 

色々と試したが、頭ではなく力で解決する俺の頭では解析は不可能だった。

最後の手として、『腕』で直接触って調べてみることに。

 

「これって、もしかして……」

 

性質は何となく理解した。もし正解なら、天文学的確率よりも低い確率で、偶然と偶然が重なって出来た奇跡だ。だが問題なのは、どこに繋がっているのか、だ。

さすがにそれは、現地に行かなくては調べようがない。

 

あーでもない、こーでもないと悩んでいると、巨大な物体の影に呑まれた。何事かと上を見れば、忘れていたが宮殿が落下していた。それを見て呆気にとられていて、宮殿が全て落ちたことで、この次元の圧力が高まった事に気付くのが遅くなった。

 

「ん~、何だ? って、ヤバ!」

 

目の前にある『歪み』が収縮している。これの何がヤバいのか。

その説明の前に、【超新星(スーパーノヴァ)】という現象を知っているだろうか?

面倒な理屈を省いてかなり簡略すれば『星が収縮して宇宙で大爆発を起こす』というものなのだが、この目の前にある『歪み』に起こっている現象も、まさにそれだ。

 

段々と小さくなり、巨人族でも楽々入れそうだった『歪み』は、今では人間の握り拳程までに縮んでいる。早く逃げなければ巻き込まれ……あぁ、遅かったか。

 

あの『歪み』が、大きく広がってこちらに迫る。俺が飛ぶ速度よりも早い。

これは間に合わないと諦めて『歪み』に呑まれた俺が、最後に言ったこと。それは、

 

「あ、歪みの回廊で逃げればよかった」

 

だった。

 

 

 





>このアンリ・マユとの戦闘で、自身も知らなかったゼアノスの秘密が明かされるッ!!
>括目せよッ!!
この前書きを素直に信じた、そこの貴方。(四月)バカです。(投稿日が4月1日)
……謝らないよっ!


>アムドシアスに渡した
>何か大事なことを忘れている気がする
この後、原作ではアムドシアスはどうなったでしょうか? 知らない人もいるかもしれないので、そこは書きません。


>衝突した二つの力は、どこまでも不安定なこの次元に大きな『歪み』を創った
【神の墓場】は異界であり現世とは時間の流れが違うので、元々何でもありの世界であるここなら、そんな現象も起こるんじゃないかな、と。
何せこの世界、間違った術式を使うと異界の邪神(らしきモノ)が降臨してしまうような世界ですから。


この後どうなるのかって?
実は【戦女神ZERO】から【幻燐シリーズ】までにかなり長い空白期があって、その間ゼアノスに何をさせようか悩んでたんだよね……
なので、閑章だと思ってくれれば嬉しいです。たぶん十話くらいになるかと。

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