戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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注意その1。
かなり改変しました。その2は後書きに。

それと、こんなにも遅くなってしまいました。すみません。


—女神、初の対峙—

 

 

セリカがメルキア王国へ向かったと聞いて、俺はそこへ行こうと思っていた。だがどうにもきな臭くなってきたので、一度ディストピアへ戻った後、ニース地方へと向かった。別名を竜領域とも言い、竜の棲むリブリィール山脈のある地方だ。

 

なぜそこへ向かったのかというと、汚染されている存在の気配を感じたからだ。だから勘に従ったのだが、その判断は間違っていなかった。渓谷の谷間の奥から、山並みの大きさの水精が見えたのだ。

それを討伐するためか、セリカやレクシュミ、白銀公の姿もあった。しかも……あれは空の勇士か? “アレ”に狂わされている物だと思っていたが……正気に戻ったか。

 

「ゼアノスか。なぜここにいる?」

 

「ん? ああ、セリカか。何か嫌なことが起こりそうだと思って来ただけだ。幸か不幸か、その勘は的中したらしいが。あの水精が何なのか、分かるか?」

 

「あれは、腐海の大魔術師と名乗っていた魔術師の作った精霊らしいわ。混沌の女神(アーライナ)の力を使って、本能で不浄を喰らうように合成したみたい。ヴァリエルフが何人か、自ら進んで生贄になってたわ。話を聞いていたら、騙されたとか言っていたわよ」

 

俺の質問に答えたのは、もう俺に慣れたらしいシャマーラ。順応力が高いな。

 

「……水の巫女でも創れると思っていたのかね」

 

近年のメルキアには瘴気が蔓延している。川の水でも飲んだのなら、狂うか死ぬかのどちらかしかない。メルキアを救いたいという気持ちに付け込まれたのかもな。不浄を喰らうように合成したのなら、国を救えると唆されて。

ちなみにヴァリエルフとは、ダークエルフだと思えばいい。

 

あ、それと空の勇士のことだが、やはりセリカが助けたらしい。聞いてみたら一部始終を詳しく教えてくれた。

 

まあそれはともかく、セリカ等は問題の水精を谷の合間に閉じ込める為、様々な個所に結界装置を設置する予定らしい。ここは竜領域と言われるだけあって、竜族の亜人間ドラゴニュートや、水や風の悪魔があちこちにいる。

よくよく見てみれば、それらの魔物の死体があちこちに散乱している。そこにかすかに残っているのは、ハイシェラの魔力。セリカのためなのか、またしても先回りして倒していたようだ。

 

「ゼアノス、一つ頼まれて欲しいのだが」

 

「何だ?」

 

「できればあの水精のことで、協力してほしい」

 

「……あれを?」

 

聞くと、頷いて肯定を示すセリカ。結界装置を仕掛けているが、戦闘になるのかならないのか、まだ分かっていない。だから戦闘になった際は、共に戦ってほしい。ということらしい。

 

「全く問題ない、引き受けよう」

 

そしてそれは中々に面白そうだったので、俺は嬉々として肯定。

ここ100年近くは魔導鎧やら創造体などの機工関係を弄っていたので、戦うという事柄が全くなかった。だから少し欲求不満なわけだ。

 

途中、セリカの使い魔とのイベントが少しあった。

ペルルには懐かしがられて抱きつかれ、リ・クティナとは勅封の斜宮について話し合い、リタ・セミフとは……特に何もなかった。残念。

 

ただ、空の勇士からは最大限の警戒の視線を受けた。彼女と俺は初めて会うという事もあるし、俺は魔神だ。信じられないというのも納得できるのだが、空気が重くなってしまって居心地が悪い。

 

ペルルが必要以上に、リ・クティナもそれなりに弁護してくれたが、あまり意味がない。結果的には、セリカが大丈夫だと言った事で落ち着いた。

 

そして最後の装置を設置し終わるのとほぼ同時に、例の水精は完全に姿を現した。

狂った水精を見たセリカらは、当然のことながら戦闘態勢に入る。水精はとても鈍重にのそのそと、しかし確実にこちらへ近づいて来る。

 

そして、ようやっと結界装置の中心へと辿り着く。その瞬間に結界が発動して、水精は身動きがとれなくなった。結界の圧力に耐え切れなかったようで分裂してしまったが、感じる邪気は変わらない。

 

ノロノロと複数の水精らが蠢き、セリカは飛燕剣の態勢に入る。

そして技の射程内に入ったらしい狂った水精に、セリカが攻撃を仕掛ける。それに続くように、使い魔達が技や魔術を一斉に繰り出していく。

 

セリカ・シルフィルの、一直線状の敵を切り刻む高速剣【沙綾円舞剣】

パズモ・ネメシスの、天から無数の光弾を敵に浴びせる【爆裂光弾】

ペルルの、虚を突いて自ら回転攻撃を与える高速技【恐怖の逆ごろごろ】。

リタ・セミフの、地を這う衝撃波を周囲に放つ範囲攻撃【玄武の鎌撃】

ナベリウスの、闇世界へ引き込んで闇魔力の打撃を与える【ティルワンの闇界】

空の勇士の、一時的に竜に変身して純粋系のブレスを放つ【メルトブレス】

 

その全てが強大な威力を持っており、水精の周辺にいた魔物は即座に消え失せた。

唯一、ペルルの技の名前が頼りないような印象を受けるが、その実とんでもない威力を誇っている。侮ると痛い目に合う。

 

「……中々やるな。流石は神殺しとその使い魔だ、とでも言うべきか?」

 

「うわ、やっぱりみんな凄い……よし! 私も!」

 

「って聞いてねぇし……うわ、怖っ!」

 

みんなに続いて突っ込もうとするシャマーラだが、見ていて非常に怖い。何が怖いって、あの娘は普通の人間だ。その人間が、ひょいひょいと魔物の攻撃を避けながら水精へと向かっているのだ。傍から見ればいつ当たってしまうのかヒヤヒヤする。そういう意味で怖い。

 

そしてさっきセリカに協力するという約束をした事を思い出して、今にもシャマーラへ襲い掛かりそうな水精へ狙いを定める。

 

―アウエラの裁き―

 

高純粋の物質破壊球が、一体の狂った水精に命中し、巨大な穴が開いたその水精は地に伏した。それに気付いたらしいシャマーラが、驚いたような表情でこちらを見る。

 

視線を一瞬だけセリカの方へ向けて、もう一度シャマーラと目を合わせる。つまり速く向こうへ行けというメッセージを送ったわけだ。

それはしっかりと伝わったようで、笑顔で頭を下げて、またしても走って行った。なんとも元気なやつだ。

 

ついでに、万が一でも水精に他の場所へ移動されないように、特殊な結界を張る。

俺以外では、外側と内側のどちらからだろうと通り抜けられぬ結界だ。これでこの水精共を作ったヴァリ=エルフの残党がいたとしても邪魔されることはないし、水精も付近から遠くへは行けなくなった、という訳だ。

 

 

 

元は巨躯だったが結界によって小さく分離していた、狂った水精。その存在は、セリカが今まさに剣を振り下ろそうとしているのが、最後の一体となっている。

一体一体の質がとても高く、分離していたせいで数も多かったので時間が掛かっていたが、ようやく終わらせることができた。

 

……と、一同が安堵の態勢を見せた、その時だった。

 

「具現せよ、美しき力よ!」

 

どこからともなく声が響き、同時に邪気が現れた。それも、水精を閉じ込めていた結界の中に。元々結界の内側にいたのか、あいつらは結界の中にいる。

 

それはともかく、邪気を発しているのは、今までに何回も見たあいつだ。相変わらず、今でもセリカを追っているらしい。

ヤツは突然どこからともなく湧き出て、俺達が倒した水精の残骸を、上から覆うようにして食べ始めた。それを見ている大半の人物は、邪気に当てられて、恐怖で動きが止まってしまっていた。

 

「この結界は嬉しい誤算でした。おかげで、最低限の邪魔者で貴女を手に入れられる!」

 

アレと一緒にいる魔術師、アビルースの声がまたしても聞こえる。どうやら俺は今回、偶然にもあいつらの手助けをしてしまったようだ。まあこれぐらいなら大丈夫だと思うから反省はそんなにしないけど。

 

どうやらアビルースは、欲望を餌にして操られているらしい。アレはセリカの居場所を探り当てることができ、彼は利用されているのだと、セリカと白銀公が話している。

 

生贄により大地の毒素を取り込んだ水精。それを、元はアイドスだった邪気の塊は餌として喰らった。これによって、水精が持っていた力や知識、知恵が加わってしまったことが予想できる。その証拠に、アレは言葉を発している。

 

「アァ…体、を…おおぉぉん怨、怨……我に…合う……から、だ…」

 

『我に合う身体』だと?

……ああ、そうか。あいつはアイドスから発生した存在。そしてセリカは、基になったアイドスの神器…”ウツワ”を身体に宿している。しかも肉体自体は古神で、アイドスの姉神のものだ。これ以上ない、最上の身体ということか。

 

暗く穿った双眸が、セリカを捕らえた。セリカは魔術で抵抗するが、じわじわとソレは近づいていく。無数の邪悪な触手を絡み付け、取り込まんとさらに這い寄る。

 

「ははは! やった! やりました! ついに女神を捕まえた!」

 

「セリカっ、セリカっ、セリカっ! やだっ、どこ? どこにいるのっ、セリカぁぁっ!」

 

アビルースの歓喜とシャマーラの悲鳴が、そこら中に響き渡る。

そんな時に俺が何をしていたのかというと、何も傍観していたわけではない。先ほど俺が作った結界のせいで、こちらに来ようとしていた誰かさんが来られなかったらしい。だから、それを壊しているのだ。これは俺じゃないと壊せないから。

 

そして、パリンっ、という音が聞こえた。結界が割れた音だ。それを確認した、こちらに来ようとしていた誰かさん……ハイシェラは、セリカの下へと跳ぶ。

 

「目を覚ますのじゃ! セリカ・シルフィル!」

 

ハイシェラが攻撃し、その衝撃でセリカは絡められていた腕から逃れた。そのままハイシェラに抱きしめられ、引きずり出される。その隙を狙ってアビルースが魔術を放とうとするも、共にいたアムドシアスが魔力を放ち、逆に弾き飛ばされた。

 

それを見て、俺はアムドシアスの所へと向かう。

 

「アムドシアス、お前がハイシェラを助けるとはな……かなり意外だ」

 

「勘違いするな、我はそやつを助けたのではない! オメールの遺跡にて、神殺しには助けてもらった恩がある。その借りを返したまでのこと! 我はもう手を貸さん!」

 

「ふ~ん」

 

「……御主、信じておらぬな?」

 

「いやいや、お前がそう言うならそうなんだろうさ。信じるよ」

 

「そうか、ならば良い」

 

うん、嘘だけど。どうせ、何かあったらまた助けるんだろうな。

 

「ハイシェラ。おかげで助かった、感謝する」

 

「その言葉で、前にオメールの遺跡で我から逃げたことは許そう! そして、見よ! 奴はまだあそこでのたうっておる!」

 

俺とアムドシアスが話しているその隣では、セリカとハイシェラがこういう会話をしていた。オメール遺跡でセリカと一度会ったらしいが、その際にセリカは逃げてしまったらしい。それを今の謝罪の言葉で許す、と言っている。

 

そしてハイシェラが指を向けた先では、

 

「おおぉぉ、怨、怨、おぉお怨……」

 

「ああ、私の女神よ……どこへ行くのです……くっ、セリカ、貴女はひとつになるべき存在だ。どこにいようとも分かりますからね!」

 

そんな声と共に、アレが嘆きの声を上げながら地中に染み込んでいった。アビルースもその後を追うように、捨て台詞を吐きながら転移魔術で消えていく。

 

そして俺は一人、”得体の知れないモノ”について考える。

 

「アイドスから生まれただけあって、その性質は古神。怒り、憎しみといった負の感情で力を増幅し、周囲に撒き散らして狂気を呼ぶモノ。そんな存在に一つだけ心当たりがあるが……。だがこれは推測、いや、憶測にすぎないが……」

 

ありえないとは思うが、それしか思いつかなくなり、俺は思わずアレの名前を言い放つ。

 

「まさかアレは……古神【アンリ・マユ】か……?」

 

 

 




注意その2。
【Fate】とはクロスしていません。存在がピッタリだったから、この名前にしました。

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