前半は説明文になってます。それと今回出てきた名前が、全員出て来るとは限りません。
とりあえず戦力はこんなもの、という事ですので。
セリカが封印されてから、どれほどの年月が流れただろうか。100年は経ったと思う。人が一生を終えるには充分な時間だが、俺などの魔神にとっては大したことない。アイドスも未だに起きないし。だがそれは原因が分かっているから無問題。
セリカが復活するまでは、国の戦力を高めておこうと思い、様々な魔族を徴集している。
もちろん魔族だけでなく、創造体も集めている。
魔族で言えば、文字通り下級の悪魔であるレッサーデーモン。
基本の暗黒属性は当たり前として、地脈、氷結、火炎、電撃の四種の下級悪魔もいる。
その逆の上級を意味するグレーターデーモンも、五種全部が俺の配下にいる。
それと、卵鞘悪魔の異名を持つオーウムデーモンもいる。オーウムデーモンは卵を抱え込んでいる悪魔族で、その卵からは属性に適した”デーモン”が産まれる。レッサーデーモンが最も高確率だが、稀にグレーターデーモンすらも産む。場合によってはオーウムデーモン自体が産まれることも、少なくはない。こいつも属性が五種類に分かれている。
それと偶然に見つけた生物も、俺は手に入れることができた。名前をラーグスネールという魔獣(?)なのだが、その姿は巨大な
たった一体のこいつが歩くだけで、小さな国1つを壊滅させることができる。そのぐらいデカい。頭だけでも巨人3人分はある。しかも蝸牛なので、身体の多くは硬い貝殻で覆われている。だから物理攻撃などは効き難い。全体の動きを封じるなりしなければ、並の魔神であっても倒せない。
こんな凄まじい移動型戦略生物だが、俺は5体も見つけた。一体目は大陸の西方にある広大な洞窟内を、自由に歩き回っているところを捕まえた。二体目はそこから北方の国の地下迷宮の中で、魔神に捕らえられて餌になりかけていたのを助け、配下に加えた。他3体は適当に旅をしていたら見つけたので、詳しくは覚えてない。
そして重要なのが、ラーグスネールを食べようとしていた魔神だ。そいつの見た目は大きな鴉で、名をハルファスという。ソロモン72柱の序列38番だ。
古神にも分類される古い魔神で、アムドシアスやナベリウス、パイモンの元仲間である。
そんなすごい魔神(戦力)を俺が放っておくわけもなく、こいつもまた仲間入りした。
ソロモン72柱。また出会えたら真っ先に勧誘しておこう。九割方がはぐれ魔神だから見つけるのが面倒だけど。
……しかし悲しきかな、天使の数が圧倒的に少ない。ここにいる天使は古神側とはいえ、魔族とは元々相容れない存在だ。一応光陣営のための居場所を用意したが、幸先不安だ。
創造体に関しては、ソルガッシュとかいう物体を見つけた。これもラーグスネールと同じ、戦略的な存在だ。これは設置型だけど、こいつが放つ光分子砲をまともに受ければ消し飛ぶ。魔神であっても、障壁を張っていないと消滅するかもしれない。
魔族も創造体も他にこれら以外にいるが……とりあえずは一旦閑話休題。
俺の本拠地は、ディジェネール地方にある。だから他の国は、滅多な事では見つけることができない。ディジェネールは亜人間領域とも呼ばれているし、魔族や闇夜の眷属の量が多く、質も高い。人間にとっては未開の地であり、ケレース地方以上に恐怖の地なのだ。
なので俺は凶腕の名を使い、ディジェネールにて建国したことを世に広めた。この地なら人間族にとって不利なことがないし、むしろ好き勝手に暴れるディジェネールの魔族らを統一するのだから、人間にとっても嫌な事ばかりではない。
俺個人どころか国規模での戦力を増やしているから警戒はされるだろうが、コソコソと裏で隠れながら何かをするよりは警戒されないだろう。攻撃を仕掛けてくる馬鹿も少ないだろうし。
建立した国の名は、ディストピア帝国。そして驚くなかれ、領土はディジェネール地方の全域。つまり、ラウルバーシュ大陸最大の国となった。
アストライアの聖域である勅封の斜宮を護るためにも、この処置は必要だった。故に、セリカが封印される前にリ・クティナと話は済ませ、ナーガ族の領域も領土にすることを認めさせている。
現神側からのコンタクトはもちろんあった。複数の神殿からの使者がディジェネールの近くまで来て、”凶腕”ではなく”ゼアノス”が対応した。
こちらの意見は、昔から何も変わっていない。『やられたらやり返す』それだけ。過剰ともいえる戦力は、万が一にも現神が凶腕を殺そうとした場合に備えてのことだ。
そう説明し、納得はできていないのだろうが、本当のことなので早々に帰ってもらった。
闇陣営の神殿は、どうにかして同盟を組もうと躍起になっていた。だがそうすると光陣営側から何を言われるのか分からないので、中立の神以外と組むつもりはないと答えておいた。
使者は大勢いたが、その中で一人、目が離せない存在がいた。気になるというわけではなく。俺が知っている人間だったからだ。
それは、マーズテリア神殿の聖女ルナ=クリア。
薄れている知識の中で数少なく覚えている、重要な人物の1人。懐かしさも感じる女。
しかしその事を本人が知っているはずもなく、今は顔合わせ程度しか面識はない。だが彼女がいるという事は、間もなくセリカの封印が解けるのではないか。
「ゼアノス様、よろしいでしょうか?」
考え事をしている最中に俺に話しかけたのは、雑兵の悪魔族。俺の正体=凶腕だというのを知っているのは、俺が信用した者だけ。だから俺は周囲から、凶腕への連絡役だと思われている。凶腕の顔を知りたがる馬鹿が、時々俺のことを殺そうとしてくるが……リミッターを外すまでもなく処分した。
「ん? ああ、いいぞ。また凶腕との面談希望か?」
「いえ、今回はゼアノス様に御用がある様子です。ハイシェラ、と申しておりました」
「ハイシェラだと? あいつが今頃何でここに……分かった。下がっていいぞ」
一礼し、俺のいる部屋からそいつが出ていく気配を感じる。
それを再度確認し、歪の回廊で客間まで移動する。
「む? ゼアノスか。久しぶりだの」
「久しぶりだな、ハイシェラ。……それにアムドシアス、俺のことは覚えているか?」
「頭に霞が掛かっているようにハッキリとはせんが……我は御主のことを知っておるぞ」
アムドシアスはオメールの遺跡で、機工戦姫によって一時的に記憶を消されたらしい。
機工戦姫とは機工女神の劣化版のような物で、装備した者を生贄にして稼働する兵器だ。俺も何機か所持しているが、身体にその鎧を纏ってしまえば、記憶を消去され、機工兵器に変えられてしまう。
もし彼女が魔神でなかったなら、全ての記憶を消されていたかもしれない。
「どんな形でも覚えてくれていたなら重畳。ほれ、こいつをやる」
「一体何を……これは……なんと美しい」
今俺が彼女に渡したのは、インドリトの指輪だ。かつて勇者ヴィルトと戦った際に、アムドシアスがハイシェラを倒すために使い、回りまわって俺のものになった。あの時の事は覚えていないようだし、喜んでくれるなら何よりだ。元々渡すために手に入れたのだから。
「指輪に魅入っている一角公は放っておくとして、本題に入るとしようか。凶腕ではなく俺に用とは、一体何があった?」
「なに、言葉一つで済む出来事が起きただけだの。……セリカ・シルフィルが起きたぞ」
やはりそうだったか。ルナ=クリアが聖女だという事は、セリカも起きると思っていた。それは間違いではなかったようだ。
「そうか」
「……ここまで驚かないことに、逆に我が驚いたぞ」
「そろそろだな、という予感が前からあった。だからだ。で、それを伝えるためだけにここに来たのか?」
「うむ。御主にはあの転移があるから、我はもう行くぞ。ほれアムドシアス、いつまで指輪なんぞを見ておる。急ぐぞ!」
「ま、待てハイシェラ! この指輪の価値が分からぬのか!? ……!!」
後半の声が全く聞こえなくなったが、気にしない。あいつの美を愛する考えは病的だ。気にしたら負け。
とりあえず、急いでケレース地方へ戻ろうとするハイシェラを呼び止めて、歪の回廊でケレースまで送っておいた。しかしハイシェラめ、折角なんだから、出した茶くらい飲んでいけよ。
—————————————◇
客であるハイシェラに出したが飲んでくれなかった紅茶を俺が飲み、歪の回廊を使用。転移した先は、レウィニア神権国の首都、プレイアの城の中の庭園。水の巫女のいる聖域だ。1対1で話がしたいらしく、ハイシェラが帰ってからすぐにレウィニアからの使者が来たのだ。
彼女と俺は、
今回は俺があの”得体の知れないモノ”の討伐に手を貸す代わりに、俺がこれからやることをいくつか黙認してもらうことになった。
あいつは今もなおセリカを追っている。アイドスは抜き取ったので、アレにアイドスの意思は無い。それなのに何故追うのか。あいつの今の正体を知りたいが、そちらを探る必要もありそうだ。
水の巫女の話によれば、セリカは魔術城砦カラータに向かっているらしい。
同行者としてシャマーラ・クルップという人間がおり、レウィニアの騎士の1人であるレクシュミが付いて行ったと聞いた。
歪の回廊で先回りし、外には見張りがいたので、またしても回廊で中に侵入する。
ここ最近、この城砦付近で行方不明者が続出しているので、できれば原因を突き止めて欲しいとも言われている。非常に面倒な仕掛けを解除して奥に進むと、城砦にある転移門とは気配の違う大きな転移門を発見。周囲には、衣服の切れ端や装飾品が散らばっている。行方不明になった人間の遺品だろう。
しかしこの転移門を発動させるには、魔力が足りていないようだ。詳しく調査するために、お馴染みの『腕』を伸ばして……
「それにしても、ここに来るまで全然魔物を見かけませんね」
「だが魔物の死体がいくつかあった。何者かが無断で侵入しているかもしれない」
『腕』を引っ込めた。複数の人間が、すぐ近くの違う転移門から転移してきたからだ。
そこと俺のいる場所は直線状であるため、紅い鎧の騎士の目と俺の目が合う。一瞬だけ驚く表情を見せたが、一秒が経過するよりも早く戦士の顔になり、剣を抜いた。そしてそれは、一緒にいた人間ともう一人……セリカ・シルフィルも同じだった。
見た目からして騎士姿の女がレクシュミで、盗賊のような女がシャマーラだろう。
「私はレウィニアの騎士、レクシュミ・パラムベル。そこで何をしている? その散乱している物は、お前が何かをしたからなのか?」
どうやら俺が行方不明事件の犯人に疑われてしまったようだ。
「二つ目の質問の答えなら、違うと答えておこう。一つ目の答えは、この転移門を調べている。それだけだ」
「ここは本来立ち入り禁止のはずだが? そもそも、お前は何者だ」
「俺の名はゼアノス。ディストピアの魔神だ」
「!!」
ディストピアの魔神。これを聞いて驚かない者は滅多にいないだろう。ディジェネール地方の全てを統治している国。その国の王は、誰でも知っている凶腕だ。
つまりは凶腕の国の者、それも魔神がいるのだ。
「……かの国の魔神が、レウィニアに何用だ」
「何用も何も、我らの国に水の巫女が直接依頼してきたから俺はここにいる」
「な、何だと! 巫女様が!?」
「そうだ。……にしても俺を見て反応しないとは、記憶を失ったというのは本当らしいな、セリカ?」
驚いているレクシュミからセリカに視線を変えて、言葉を放つ。今まで始終無表情だったが、それを聞いて目が少し見開いた。
「お前は、俺を知っているのか?」
「ああ、知っているさ。お前の使い魔であるリ・クティナ、リタ・セミフ、ペルル、パズモ・ネメシスに聞いてみたらどうだ? パズモは答えてくれるかどうか、分からないけどな」
セリカは早速、三つの召喚石を取り出した。少しの間その石に集中し、顔を上げた。
「確かに三人とも、お前のことを知っていると言っている。それに俺も……知っている、気がする」
「……ゼアノスと言ったな。先の言葉は、凶腕に懸けて誓えるか?」
「誓える。後で水の巫女に聞いてみたらいい。あの神とは利害が一致すれば、その度に依頼を受けたり、逆にこちらから依頼をしたりしている。凶腕と水の巫女は、昔からの知り合いらしいのでね」
ディストピアの魔神が凶腕に懸けて誓うというのは、レウィニアでなら水の巫女に懸けているのと同じ。言うなれば、『神に懸けて誓う』ってやつだ。
自分の国のトップに懸けたのだから、これは嘘ではないのかと、レクシュミは考えているのだろう。その反面、俺は自分で魔神だといった。魔神の言葉を完全に信じるのは……という思いもあるはずだ。
だからなのか、彼女はさっきから何かを悩むような表情をしている。そして何かを思いついたのか、セリカとシャマーラの二人に耳打ちをする。セリカはすぐに了承し、シャマーラは少し悩んだ後に、「セリカがいいなら、私もいいです」と言った。どうするのかが決まったらしい。
「魔神ゼアノス。その言葉が真実であるのかどうか、自分の目で確かめる。我らと行動を共にしてくれないか?」
「なるほど。お前もここの調査に来たのだろうから、監視を兼ねてというわけか?」
「そうだ。彼らを巻き込んでしまうのは申し訳ないが、お前を完全には信じられない」
どうであろうとも、俺に不利なことは一切ない。そもそも下心があるわけでも、悪事を考えているわけでもないので、ハッキリ言えばどうでもいい。
「別に構わない」
俺の返答にレクシュミは頷き、セリカとシャマーラを連れてこちらに近づいた。
シャマーラはかなり緊張しているようだが、無理もない。魔神など、一生の内に一回出会っただけで、不幸自慢ができる。普通は会わないからな。
あと五百年も経てば、ディジェネール地方で当り前のように見られるようになるだろうけど。いや、それはそれで嫌だな……止めておこう。
俺はレクシュミに、行方不明者はこの転移門の先へ連れて行かれているという予測を伝える。城砦のもっと奥にも、危なっかしそうな亡霊の気配がするが……これは雑魚だ。
ノワールに心話でこの事を教え、解決させておく。残るは転移門から異所へ行くだけなのだが、魔力が足りてないせいで転移ができない。
仕方ないので、面倒だが周囲に無数に存在する死霊や魔霊の魔力を奪い、そのまま転移門に無理矢理流し入れる。
「これでこの先へ行ける。準備は出来たか?」
俺の言葉に、一同は頷く。若干一名震えながらだったが、みんなはそれを敢えて気づかない振り。それを確認し、陣の上に乗る。
そして俺達は転移するのだが、俺は気が付いた。この先には、あの”得体の知れないモノ”の気配がする。さらには、俺の知っている魔神の気配も感じる。
……中々に楽しくなりそうだ。