戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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メリークリスマス。
でも私の心はメニー(many)苦しみます。

……つまらないダジャレでごめんなさい。


—渡る為の話し合い—

 

 

空気が震えた振動と、人間なら目が見えなくなるほどの膨大な光。一瞬しか感じなかったが、これは魔力によって出たものだ。周囲にいた獣や魔物は、それらを感じですたこらと逃げた。その代わりに、夜になるころには新しく、そして珍しい人物が現れたが。

 

「あなたが……地の魔神の盟友、ゼアノスですね?」

 

「ハイシェラに聞いたのか……ああ、そうだ。俺もお前のこと知ってるぞ。白銀公だな?」

 

白銀公。ターペ=エトフやオメール山の近くにある珊瑚森(トライスメイル)のエルフの長だ。

 

「そちらも、魔神ハイシェラより聞いたようですね。何故ここに?」

 

「ハイシェラが……いや、神殺しがこの中へ入って行ったからだ」

 

「……凶腕の命による監視……ですか?」

 

「いいや、自分の意思だ。そう言うお前は何故?」

 

「”神殺し”を封印しに、です」

 

詳しく聞くと、二つの理由があった。

白銀公は何らかの方法で、この遺跡の中で起こった事を視ていたらしい。その内部を視るに、セリカ・シルフィルは復活した。が、極度の魔力不足にある。もしこのまま世界に解き放てば間違いなく、諸国の生ある者が息絶えるまで精気を喰らい続けるから。これが一つ目。眠り続ければ、永い時間は必要だが魔力を得ていくらしい。警告を無視して遺跡に入った者や、引きつけられた魔物からも得られる。だから過剰な心配はいらないとのこと。

 

二つ目の理由は、誰にも触れないようにする事でセリカを守る、というものだ。

肉体的に守るだけでなく、何者かに操られて”兵器”として利用されることを、未然に防ぐ為でもある。真の意味で女神の力を守り通せるのは、”セリカ”自身より他にないからだ。最悪の場合、世界を滅ぼす存在になってしまうことも想定できる。

もしそうなったら凶腕として俺があいつを元に戻すから問題ないだろうが……セリカの悪名は増してしまう。だから俺はこの案に賛成した。

 

「ん? 御主、ゼアノスか?」

 

セリカの身体を封印するために遺跡に入った白銀公を待っていると、その声が聞こえた。

ここ五十余年は聞いていない声と見なかった体だが、その魔力と魂が同じだった為、すぐに気が付いた。

 

「やっと来たか、ハイシェラ。ああ、白銀公も一緒か」

 

地の魔神と共に出てきたのは、女魔神とトライスメイルの長。そして数人の術者だ。セリカを封印するために来たエルフだろう。

 

「うむ、まさかここに御主がいるとは思わなかったがの。さて、御主達もようやく、我から離れることができたの」

 

ハイシェラはその手に持つ三つの石に語りかける。召喚石にだ。セリカの魔力を使わせないためか、ハイシェラは残り少ないだろう魔力を石に送る。するとその召喚に応じ、ペルルとリ・クティナ、リタが現れる。

 

「長きに渡って我に力を貸してくれたこと、礼を言おう」

 

「えぇぇっ!? おれいーっ!?」

 

「御主の口からそのような言葉が出るとは思わなんだな」

 

ハイシェラの礼の言葉に、ペルルとリ・クティナは驚きを隠そうともしない。その一般的に失礼な反応に、ハイシェラは少しだけ気分を害したようだが、彼女らには”それなり”に感謝しているらしい。

 

ハイシェラが感謝……だと……。

 

「……なんだの、ゼアノス。その視線は」

 

「ハイシェラ、現神に頼るのはお前のプライドが許さないだろうが、今すぐイーリュンの神殿へ行ってこい。あの失礼な反応で機嫌を悪くしないお前なんてお前じゃない」

 

「御主が一番失礼だの!!」

 

ブンッ! と、大きく剣を薙いできた。今のあいつは魔力がすっからかんなのだが、アレを受けたら常人なら即死だ。でも俺は魔神。そんな一撃をまともにくらうことは無く、剣で受け止める。

 

俺が変な挑発をして、ハイシェラが攻撃してきて、俺が防御。ここ数十年繰り返し行った、軽いスキンシップだ。

 

「ちぃ、こいつめ……まあ良い。それで、御主らはどうするつもりじゃ」

 

召喚されたセリカの使い魔達に、これからどうするのかを聞くハイシェラ。答えは聞くまでもなく、ここに残ってセリカを守る、だった。答えを言い切った三者は、それぞれ笑みを浮かべて姿を消してゆく。セリカは世界からは嫌われているが、何人かからは好かれているようだ。

 

「貴女はこれよりどうするのですか?」

 

白銀公のその問いに、ハイシェラは少しの間世話になると答えた。その期限は、今寝ているアムドシアスが目覚めるまで。平和なだけな森はつまらないと言っていた。何とも彼女らしい。

 

次に、俺にも同じ質問をしてきた。これからどうするのか。そんなものは決まっていないが、定まっていることが一つある。

 

「取り敢えず、ハイシェラとは別行動だ。俺達の同盟期間は『セリカ・シルフィルが女神の身体を取り戻すまで』だからな」

 

つまり、トライスメイルにも行かないという事だ。これからは敵同士。敵と敵が同じ陣地にいるわけにもいかない。ハイシェラもそれには好戦的な笑顔で答えてくれた。

 

「魔神ゼアノス、最後に聞きたいことがあります。貴方は一体どのような種類の魔神なのか、自身で存じていますか?」

 

「魔神の種類だと?」

 

「そうです。例えば前に魔神ハイシェラと私が共闘し、倒したトライスメイルの魔神、バーティガヌ。あれは、植物や木に関する魔族や魔獣。その類の魔神でした」

 

魔神とは結局の所、神格位を得た魔族。人間が神格位を得れば神格者となるのと同じだ。しかし魔族には、人間とは違って多くの種族がいる。その種族の数だけ、魔神の種類もある。ならば俺の種族は何なのだろうか。白銀公の言いたいことはそういうことだ。

 

そう言われてみれば、確かにそうかもしれない。深凌の楔魔の仲間であるゼフィラは、どう見ても睡魔族だ。パイモンやラーシェナは堕天使という、元々は天使の特例だが、ザハーニウだって巨人の神格位持ちなのかもしれないな。カファルーも馬型魔獣の、だ。

……他の多数はさっぱしわからんが。

 

……じゃあ、俺は?

 

「考えたこともないな……だが何でそれを知りたがる?」

 

「精霊の声によれば、貴方は害の少ない魔神だと聞き及んでいます。ですが貴方と同じ種族の全てが、我々にとっても害の少ない魔族なのか、分からないからです」

 

「なるほどな。なら取引をしよう。俺は自分の種族を探し、それをお前に教える。その対価として、俺は一時だけトライスメイルへ入っても良い。そういう許可をくれ」

 

「我々は他種族と関わり過ぎることを是としませんが、その知識と引き換えならば、多少の事柄であれば大目に見ましょう。我が神ルリエンも、黙認されています」

 

微笑むように白銀公は頷き、昇っている朝日を背にトライスメイルへ向けて歩き始めた。

ハイシェラも、それに続くように歩く。アムドシアスは未だに目覚めず、ハイシェラに背負われている。何とも丸くなったものだ。以前のあいつなら引きずっているだろうに、セリカの影響でも受けたのだろうか。

 

俺はここから少し離れる。具体的には、遺跡を守っているセリカの使い魔達に見つからない場所。そこまで移動し、周囲に”水”が無いことを念のために確認。そして、指をパチンと鳴らす。呼び寄せるためだ。俺の配下の堕天使を。ノワールは忙しそうなので、今は呼ばない。

 

「この遺跡の周辺に警戒態勢を敷いておくよう、ノワールに付いている者以外に伝えろ。エルフが来るかもしれんが、不干渉を貫け。あとは鳥人の娘、ナーガの女、霊体の少女もいるが、彼女らには俺の指示だと言っておけ」

 

「はっ!」

 

すぐに出現した堕天使は、俺の言葉が終わると同時に飛翔していった。

こんな指示を出したのは、”得体の知れないモノ”が来てしまった際、セリカの使い魔である彼女らだけでは、とても対処することは出来ないと思ったからだ。

 

一応、エルフの住んでいるトライスメイルには、俺の配下の堕天使や合成魔獣を見張りとして配置することを通知しておく。何が原因で戦いに発展するか分からないからな。

こんなことでエルフの信仰する現神、ルリエンと争いになるなんて御免だ。

 

……バリハルト相手にはかなりおちゃらけてたけど、あれはご愛嬌だ。俺ってばあいつが嫌いだから、ついやってしまった。後悔はしてないけど。

 

こんなことを思い出しながら、俺は帰ることにした。俺の本拠地であり、数多くの部下と仲間が集っている場所――ディジェネール地方へ。そして今回の遺跡のように、古い時代の遺跡の発掘もさせてみようと思った瞬間でもある。

魔導鎧に魔導銃、それに創造体。他にも悪魔族を調達しよう。

 

だがそれら以上に、大きな課題が出来た。そう、俺の魔族としての種族。それを探すのも、これまた面白い一興だ。しばらくは面白味がないが……その後が楽しみだ。

 

 

 

Side・トライスメイル

 

 

 

ゼアノスがディジェネール地方へ帰還したのと同時刻。

ハイシェラとアムドシアスは、白銀公に別れの挨拶もなく、風のように去っていった。その後もゼアノスの使者を名乗る堕天使が通達してきたが、その堕天使と騒がしい二柱の魔神が去ったことで、森は今や穏やかな風と、清らかな水の流れる音しか聞こえない。

 

白銀公が流れる水へ足を進めると、水の精霊を通じて、かの地にある巫女の声が響く。

レウィニア神権国の首都、プレイア。都を見下ろす丘の上にそびえ立つ、白亜の城。そのもっとも奥にある聖地に、水の巫女はいた。

 

白銀公と水の巫女は、今回の”神殺し”のことで話し合っている。

”神殺し”は厄災の種。ソレは忌むべき存在。しかしその種がどのような実を熟すのかは、セリカ・シルフィルによる。ならば悪しき実りとならぬように、導こうと。

 

水の巫女が”神殺し”へ祈りの言葉を口にし、辺りを光がつつんだ。その光の中で、水の精霊を通じた言葉はゆったりと溶けて消えていった。

 

だから白銀公は水の巫女の、この言葉を聞くことは出来なかった。

 

「狭間の魔神、凶腕のゼアノス。貴方の存在が、セリカへどのような影響を与えるのか。……そして貴方は、何を望むのですか」

 

水の巫女は再び祈る。”凶腕”という川が、”神殺し”という川と混ざり、全てを呑み込み破壊する、濁流と化さないことを。

 

 

 

 

 


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