戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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—戦女神の生誕とこれから—

 

 

 

アストライアとセリカの戦いは、今もなお続いている。普通ならば人間であるセリカが敵うわけないのだが、今の彼はアストライアの神気に匹敵する邪気を纏っている。そのおかげで、力が拮抗している。

だが、明らかにそれはおかしい。今のアストライアの力は、イオとほぼ同等に感じられる。何せイオは自分で戦うタイプじゃないし、アストライアも古神の中では弱い部類に入る。第一級神ではあるものの、戦うための神じゃないからだ。

しかし今セリカと戦っている彼女は、そのイオよりも弱く感じる。

 

俺はこのあと彼女がどうなるのかを知っていた。だから別れの際に、『また会おう』という言葉を選んだ。アストライアは、自分の愛する人間を殺せない。そして、邪気によって操られた人間(セリカ)は、彼女を討つだろう。無意識だろうが、彼女はかなり手加減してしまっている。

 

リブラクルースと、スティルヴァーレの打ち合う音が響く。だがそれも、終わりへ近づいてきている。アストライアを護っている神力の障壁に、小さな綻びが生じたのだ。

 

「コレデ、最後ダ!」

 

セリカは既に、スティルヴァーレに支配されていた。いつもとは違うセリカの口調でそう言って、魔力が剣先の一点に集まり、アストライアへと突き進んだ。複数の身を護る障壁が壊されるが、それでもアストライアは抵抗せず、その剣を受け入れた。彼女には、セリカを殺すことが出来ないから。

 

だが、それだけでは終わらなかった。なんとセリカが持つスティルヴァーレから、焔が溢れだし、一瞬で二人が業火に包まれた。

あいつは『自分で解決したい』と言った。だからこの先を決めるのはあいつで、俺ではない。だからこそ、俺は何もしない。

 

業火に包まれている二人は、そのまま会話をしていた。セリカを操る”ウツワ”は剣を手放そうとするが、突然現れた別の魔力によって妨げられた。バリハルトか、その神殿の人間が邪魔をしているのだろう。

 

アストライアは、それでも話し掛け続けていた。その声に”ウツワ”は返答し、なぜアストライアのことを裏切者と呼んでいたのかがわかった。アイドスは、アストライアが人間の邪の感情から逃げても、彼女は逃げずに救おうと頑張り続けた。現神をも信じ、手を取り合って人を救おうとしていた。だがその結果、人の邪の感情に心を侵され、あのような姿になってしまった、と。逃げたアストライアを、彼女は心の底で恨んでいたらしい。俺と別れた後も続けたアイドスと、逃げたアストライアの悲劇。

 

……”得体の知れないモノ”はアイドスと切り離したが、核である”ウツワ”はそうではなく、アイドスの意思が微かに残っていたということか。邪に侵されて、憎しみの感情が上乗せされてしまったのかもしれない。

 

2人を纏う炎の質が変わったのを感じ、思考を停止して彼らをもう一度見る。2人は先ほどの炎とは違う、神聖な炎に包まれていた。あれが”聖なる裁きの炎”だろう。神々しくも猛々しい炎が二人の身を包み、邪気を浄化していく。

 

俺は無心で、下方で渦巻く聖なる炎を見つめた。裁きの炎は火炎魔術で放つ炎とは違い、神々しさがある。そのまま見ていると、”声”が聞こえた。心話ではなく、一方的に何かを告げようとする声だ。

 

(ゼアノス。どうか、セリカを支えてあげて……)

 

その言葉が言い終わると同時に、裁きの炎に変化が起こった。二人だけを包んでいたそれは、勢いをさらに増して燃え上がった。そして炎が、俺のいる空にまで上昇してきた。

俺はその炎から、逃げるようにして避ける。当たっても意味が無いとは思うが、これはセリカとアストライア以外が触るのは気が向かないと思ったからだ。

 

 

 

—————————————☆

 

 

 

炎は弱まっていき、ついさっき鎮火した。アストライアの放った”聖なる裁きの炎”は上昇しただけでなく、下にある山と宮殿を貫いていた。炎による煙はないが崩れてしまったので、セリカがどこにいるのかわからなくなってしまった。気配を探れたらいいのだが、あちこちに人の気配があるのでわかりにくい。さっきの炎を見てやってきた、バリハルトの神官が大勢来たのだ。

 

聳え立った炎のせいで見つかりそうだったので、ここに来た。どこかというと、勅封の斜宮のすぐ北にある内海の上空だ。ここにいればセリカもいずれ来るだろうと思ったので、待っている。探すのは諦めた。

 

 

 

そして少し時が経ち、内海に浮かぶものが見えた。船だ。その船上に、見覚えのある顔が立っていた。『腕』で姿を隠しながら近づけば、ハッキリと見えた。

 

「あれはアストライア……か?」

 

そう、アストライアだ。だが服装が違うし、何より魂が違う。あれはアストライアではなく、セリカだ。

 

原作と同じように、セリカに身体を与えたらしい。俺の知って得いる未来は、見事に当たっていた。正直、外れたほうが良かったと思っている。

 

そのセリカは今、一人の武装している神官と話をしている。前に一度、俺も見たことがある男の神官。たしか、ラジスラヴァのいた洞窟で会ったやつだ。

話し合いは段々と激しさを増していき、そして、神官が呪文を唱え始めた。

 

「この呪文は……自分を神に捧げるつもりか!」

 

俺には現神の呪文はわからない。だから聞き流していたのだが、セリカのその言葉を聞いて、すぐさま陸方面へ逃げた。神へ身体を捧げるなんてことをすれば、非常に強い術が、それこそ神の力が顕現する。本物には程遠いし俺にはほとんど意味が無いが、今は力を封印しているからちょっとまずい。だから逃げる。

セリカ? 主人公だから放っておいても大丈夫だろ。

 

 

 

 

 

陸まで逃げ延びてから、この行動は正解だったことを悟る。途端に天候が怪しくなっていき、風と雨が吹き荒れてきた。段々と威力が強まっていき、それが嵐と化すまでに時間はかからなかった。これはバリハルトの力だ。あの神官は、どうやら本当に身体を捧げたようだ

 

過ぎた信仰は人を狂わせる。しかも、バリハルトは古神を殺すためならそれすら黙認している。ひどい神もいたもんだ。だが生贄を使った術は、非常に強力だ。今起きているこの嵐は、普通の嵐よりも荒々し……かったのだが、少しずつ風雨が弱くなってきている。パズモ・ネメシスというアストライアの使い魔の気配がするので、たぶんセリカが召喚したのだろう。アストライアの身体を持っているなら、パズモを呼べても不思議じゃない。あの子の力なら、止めることは出来なくても、弱めることは可能だ。

 

ちなみに俺の使い魔は、二柱の魔神だ。

一柱は、輪廻神ラテンニール。遥か昔にベルゼビュード宮殿で痛めつけてゲットしたやつだ。ラヴィーネのいた遺跡以来使ってないけど、久しぶりに出そうかな。暴れられなくて不満だろうし。

それともう一柱は、ソロモンの魔神、アスタロト。神の墓場で俺を襲ってきた奴。

 

それにしても、セリカはこれから大変だ。現神陣営からは邪神として、一部以外の古神からは同胞殺しとして。そして魔神からは神の身体を求めて、ずっと狙われ続けるのだろう。

 

俺の使徒のイオとラヴィーネならともかく、事情を知らない他の古神はもちろんのことで、魔神は力を求めて身体を狙う。現神は古神の身体を持つセリカを、邪神として扱って敵対するだろう。すなわち、世界のほとんどがセリカの敵だ。

 

そして俺自身がこれからどうするのかだが、正直、どうしようか迷っている。数少ない友であるアストライアの頼みを聞きたいという思いもあるし、原作を――だいぶ変わるかもしれないが――楽しみたいという思いもある。

そして何よりも、強者である主人公(セリカ)と戦ってみたいという、魔族としての欲求もかなりある。

 

一番効率がいいのは、このまま彼の仲間になることだ。そうすればストーリーを楽しめるし、アストライアからの頼みをちゃんと成立することができる。

でも、その考えはかなり悩む。決められたストーリーの中で支え続けるなど、なんというか面白味に欠ける。

 

二つ目に考えたのは、敵になることだ。そうすることである意味楽しめるし、戦うという事柄をすることにより、誰かに殺されないように育てるということもできる。仲間になって一緒に修行とかをする方法でもいいのだが、それよりもやはり実戦の方が強くなれるだろう。……運が悪ければ俺が死ぬけど。

どっちにしても、メリットとデメリットがあるんだよなぁ。

 

ああ、それと話題を変えることになるが、いつのまにかバリハルトの嵐が消えた。

突然現れた巨大な魔力を持つ者……おそらくハイシェラが吹き飛ばしたので、晴れとまではいかないが、雲は徐々になくなってきている。

 

流石と言うべきか、わざわざ消さなくても時間が経てば消えるのだから短気と言うべきなのか……いや、戦闘狂だからなのか?

 

何が言いたいのかというと、そんな逃避をしてしまうほど、俺は悩んでいるという訳だ。

 

 

 

だがまあ色々と考えた結果、俺は一応セリカの仲間になることにした。何で『一応』なのかというと、凶腕の時は古神を殺されたとして敵になるからだ。いや、普通の時でも、場合によっては敵側になる。何故かって? 面白そうだから。それ以外に理由はいらない。とはいえ、しばらくは敵にならないだろうがな。少なくとも、深凌の楔魔が復活するまでは。

この案でのデメリットは、信用されなくなるという事だな。敵になったり仲間に復帰したりするやつを信じるなんて、少なくても俺にはできない。

 

ノワールに心話を使い、ブレニア内海の東にあってディジェネール地方の北東にある地方、アヴァタール地方を中心にセリカを探せと伝える。ノワールはセリカのことを知らないので、現在のセリカの姿を想像し、その想像を直接心話に乗せて伝えることで教えた。

 

この方法はあいつが俺の眷属、というか分身であるからこそ出来たことで、他には同じ分身であるブランシェにしか使えない。

 

(じゃあこの男を……これ男? 探せばいいんだね? 主様!)

 

(ああ、男だ。出来ればお前はアヴァタールの南の方面を頼む。ディジェネールにいたから、多分南の方にいるはずだ)

 

(了解!)

 

(それと全く関係のない話だが、以前に国を造れって言ったよな? 城とかあんのか?)

 

(もちろん! とても立派な城を造ったんだよ! ……途中で何度かブランシェが来て、あーだこーだ命令してきたからさ……はぁ)

 

それはそれは、本当に文字通り”立派”なのが出来ているんだろうな。あいつ非常に生真面目だし。特に俺が関わると。

 

(そっか、ありがとな。おかげで俺もやりたいことが出来る)

 

(やりたいこと……? まあいいや、どうせ後で驚かすって言って、教えてくれなさそうだし。でしょ?)

 

(よくわかったな、その通りだ。後で教えてやるから、セリカの捜索を頼む)

 

(了解!)

 

これで言うべきことは言ったので、心話を止める。ただ何か忘れているような……。

 

「……アヴァタール。あそこには水の巫女とかいう神がいたはずですが、堕天使が勝手に行っても良いのでしょうか? 山脈には竜族もいますが」

 

「ああ、忘れていたのはそれか」

 

さっき呼び寄せていたイオの言葉で思い出した。今のアヴァタールには、三つの勢力が存在している。

 

一つは今出てきた水の巫女。水の精霊が神格化したような存在で、誰も住めなさそうな土地を大都市に変えた地方神だ。領内ならば、水があれば何でもできるとも言われている。本名は知らないし、他の事柄も一切知らない。もしかしたら、【水の巫女】というのが名前なのかもしれないが。

蛇足だが、かつてブレアードと敵対した姫神フェミリンス。

彼女も地方神であるが、水の巫女はそれすら超える力を持っているらしい。

 

二つ目は空の勇士。こいつの本名も知らない。そもそも原作で名前出たっけ? 若い竜族の戦士で、大きな力を持っているそうだ。リブリィール山脈には昔から竜族がいるが、その中でも若いが特に強いとの噂だ。

 

最後は俺も戦ったことのある魔神、ハイシェラ。地の魔神と呼ばれ、ここら一帯では非常に有名だ。だがまあブランシェとノワールは、今の俺より強い。俺は今自分にリミッターを付けているから、あいつらのどちらかと戦えば負ける。そしてハイシェラはそんな俺と互角。空の勇士もハイシェラ並らしい。だからノワールなら大丈夫だ。

水の巫女の実力は不明だが、こちらから手出ししなければ問題ないだろう。

 

「大丈夫でしょうか?」

 

「まあ大丈夫だろ。水の巫女はともかく、俺の眷属が魔神や竜族に負けるとは思えない」

 

「……たしかにそうですね」

 

「だろ?」 

 

軽く笑い、歪の回廊を展開。ブランシェの指揮の下、ノワールが造ったというディジェネール地方の城へ転移した。誰にも教えていない、城の魔改造をするために。

 

 

 

 


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