戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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—機工文明の遺産が眠る神殿—

 

 

 

転移で逃げてから少し経ち、イオがようやく落ち着いた。

結構慌てていたのだが、よくそれで転移を失敗しなかったな。

 

「落ち着いたか?」

 

「はい……それでゼアノス様、その女性は……?」

 

「……レアの妹の、アイドスだ」

 

「その娘が……?」

 

久しぶりにアイドスを見れて、思わず泣きそうになった。どうやら俺は、自分で思っていた以上にアイドスに惹かれていたらしい。長い間会っていなかったのにな。

落ち着いてから彼女の顔を見たら、まだ目を開けていないがとても安心した。記憶の中の彼女と、何ら変わりなかったからだ。

 

「そうだ。……それで、ここは?」

 

転移先はイオに任せたので、ここがどこなのか俺は把握していない。

 

「ここはあの谷より、僅かに離れた場所です。丁度ここは山脈の間なので、人間には見つからないでしょう」

 

どうやら気を使ってくれたらしい。俺としてもアイドスを公の場に晒したくなかったから、ここは感謝しなきゃな。未だに目を覚ましてないから。

今の彼女は肉体を持たない、精神だけの存在。さらに、神の中核というべき核が無い。

つまり目を覚まさないということは、精神に何らかの異常があるということだ。今まで邪悪なモノに憑りつかれていたことを考えれば、当たり前かもしれない。

 

『腕』を使えばすぐに覚醒するのだろうけど、彼女には使いたくなかった。この力は、因果を変える力。それによってたとえ結果が良かったとしても、アイドスを歪ませたくなかった。

 

「ありがとな、イオ」

 

「褒めていただき、至極光栄です」

 

畏まって頭を下げるイオを見て、本当に気が利くな、と再度思う。

確かにここならば、人に見つかることは滅多にないだろう。

 

そこで、何やら変な魔力のうねりを感じた。今まで生きていた中で、一度も感じたことのない質を持つ魔力だ。

ここはオウスト内海とブレニア内海に挟まれている地であり、ブレニア内海の北西部に位置している。ということは……

 

ここの近くには、“アレ”の一人がいたような気がする。

そして俺ですら知らない、変わった質の魔力。まさか……

 

— ルン=アウエラ —

 

純粋魔術の中でも最上位に値する超越爆発魔術、【ルン=アウエラ】を発動。

それにより、山が崩れていく。消えていく、という表現でもおかしくないのが怖い所だ。

 

「一体、何を……?」

 

「後で話す。だからお前も、ここら一帯を壊すのを手伝ってくれ」

 

イオは頷き、俺にならって魔術を放つ。

魔神ラテンニールを召喚し、こいつにも手伝ってもらう。人手(この場合は神手か?)は多い方が良いし。

 

この騒ぎを聞きつけたバリハルト神殿の人間が来るかもしれないが、そうなる前には撤退するつもり。間に合わなかったらどうするのかって? 武力最高、これだけ教えとく。

 

とはいえ、いくら鍛えているとはいえただの人間がここまで来るのに、最低でも一時間は掛かる。……神格者なら別だろうが。

それに準備するのにも時間はかかるだろう。だからその心配も杞憂で済む。何せこんな上位魔術を使っているのだから、目的のものを探すのに一時間も掛かる訳がない。

 

「ゼアノス様……わたくしも途中から気が付いていましたが、これは、まさか……?」

 

「ああ、お前の予想通りだろう。やっぱりな」

 

「……我にハ良くわからヌ」

 

ラテンニールはポツリと呟く。

ちゃんと話せるのか心配だったけど、話せるようだった。まあ、発音が悪いせいで少し聞き取り難いし、完全に従属しているわけでもない。たまに反抗するし。

 

「お前にもわかるように、後で話してやるさ。とにかく、今は付いてこい」

 

「ワかっタ」

 

アイドスの原作知識と共に、場所が近くであることから思い出した神殿。時間のせいで埋もれていたが、見つけだすことに成功した。

俺が捜していたのは………これだ。

 

瓦礫に埋もれて見えなかったが、今ではくっきりと見える扉がそこにはあった。

 

 

 

—————————————☆

 

 

 

牢屋のごとき暗く沈んだ地下を、俺たちは歩いている。

静寂が周りを支配し、足音が出る度に、一つ一つが異常に響き渡っていく。

魔物も一向に出現する気配もなく、寂しいほどに生物の気配が皆無だ。

 

未だ目覚めずにいるアイドスだが、俺が背負って運んでいる。胸が押し付けられているのでとても役得です。

念のためにイオとラテンニールに周囲の警戒を任せ、いつ目が覚めてもいいようにしている。だがそれも杞憂に終わり、心配するまでもなく先に進めた。最後まで妨害となるものが一切いなかったからだ。

 

「……これ、貰ってもいいよな?」

 

そして今俺の目線の先にあるのは、魔導鎧。いくつかここに落ちている。

だけどここにいるであろうアイツ(・・・)に関係あるとはいえ、何で落ちているんだ? ここ、一応現神が管理していたんじゃないのか?

 

ノワールの強化のためにと、いくつかある魔導鎧をかき集める。ブランシェの強化はどうするのかって? 魔剣……というより聖剣をいくつか渡せばいい。というか現神から渡されたらしい。さすがは熾天使、現神からの期待は大だね。俺の眷属なのに。

 

今では、様々な地方に行ったり来たりらしい。連絡して来た時に愚痴ってきた。

真面目なあいつが愚痴るとは……と思ったけど、あいつの根っこの部分は俺と同じ闇夜の眷属。現神に仕えて嬉しいわけがないよね。それもバリハルトに仕えているらしいし。

 

何度も閨を共にしないかと誘われた、とも言っていた。

というかそれ、裁きの女神ヴィリナにばれたらやばくね? 主にバリハルトが。

ヴィリナはバリハルトの妻で、不義を働いたバリハルトを神の墓場に落とした、なんて言われている鬼嫁らしい。何と恐ろしいことか。

 

話が脱線してしまったが、つまり、ブランシェはもう強化する必要があまりないんだよ。

 

ノワールがディジェネール地方にいるのは、前にも言った通りだ。堕天使だけでなく、あそこには悪魔族が大量にいるので、まずはそこで勢力を集めるとのこと。

魔導鎧はそれが成功した際のプレゼントにするつもり。

 

それと弓矢じゃ弱くて威力に問題があると言っていたので、そのことも考えてある。何故か知らんが、ここには魔導銃まであったので、それを渡す。

暗黒魔術と魔導銃と魔導鎧。完全に遠距離タイプだ。でも鎧を着けていることには変わりないので、遠距離型なのに防御力も高いっていう高性能。しかも元々は体術で戦っていたので、接近戦も問題なし。敵さん涙目だなこりゃ。

 

あー、でもこれだとノワールを贔屓しすぎだな……折角ブランシェも嫌々現神の下で頑張っているんだから、あいつにも褒美をやらないと。うん、考えておこう。

 

近距離のブランシェと遠距離のノワール。チームを組ませたらとても強いだろうな。

今度は中距離型でも創ってみるか? 天使でも堕天使でもなく、その中間の存在、何かないかな?

 

「……ん?」

 

気に入った物を収集していると、急遽ノワールが心話をしてきた。

どうやら合成魔獣が1億を突破したので、もっと創りたいとのこと。だがそれでは元々の数が少なくなってしまうので、狩りの許可が欲しいというものだった。

ちなみにこの『狩り』というのは、人間の材料集めの事だ。

 

許可? 出すわけないだろう。これ以上やったら世界の強弱関係が崩れ去るわ!!

……今更か?

 

まあいい。いや、良くはないけど……うん、まあいい。

とにかく、狩りは駄目だけど合成に関しては許可を出した。ノワールとブランシェが頑張っているので、今度褒美をやると教えたら、さらにハイテンションになっていたことを追記しておく。

 

ずっと神殿の中を歩いていると、やっと最終地点が見えた。辿り着いた最深部。そこはまるで独房のような雰囲気を持っていた。

入り口の傍に篝火(かがりび)が二つ。あとは何の光もない闇の迷宮の最奥で、中央に鎮座しているおとなしそうな少女がいた。

 

「やはり、ここにいたのですね」

 

「俺の推測通り、か」

 

音も無く眠るように座っているのは、イオと同じ古神七魔神の一柱、ラヴィーヌ。

古神だが、機工女神に分類される真なる女神だ。

 

「……ゼアノス様、彼女を?」

 

「頼む」

 

「はい」

 

イオは頷き、ラヴィーヌのもとへ駆けて行く。

 

「起きなさい、冥幽のラヴィーヌ。今が目覚めの(とき)です」

 

「……」

 

イオの言葉に反応し、彼女は薄っすらと目を開けていく。ただ、その口からは言葉が全く聞こえなかった。かなり無口だ。

 

「……」

 

「おはよう、とでも言っておこうか? ラヴィーヌ。俺はゼアノスだ」

 

「ゼア、ノス? ……おはようございます」

 

……返してくるとは予想外だった。

 

俺はラヴィーヌとの面識が全くと言っていいほど皆無だったので、それからはイオが色々と説明していた。主に俺の。

どうでもいいことから恥ずかしい事まで、それこそ出会ってから今までのことを全部記憶しているんじゃ? と思うほどに語っていた。

 

長くなりそうなので、ラテンニールを使ってちょっとしたことを試すことにした。

俺は今までもこれからも、リミッターを外すことはあまりない。魔神というだけで敵になるのは限られているが、今の俺なら倒せるという強者もいるはずだ。だからラテンニールの能力を、俺も使えるようにコピーしてみようと思った。

神核が壊されても、蘇ることが出来るという能力を。

 

方法は簡単。ラテンニールの頭に俺の『手』を置いて、俺の頭にも同じように乗せるだけ。あとは勝手に、『腕』を通して俺にラテンニールの能力が入ってくる、ということだ。それで一応、それは完了したのだが……

 

「……今一、実感がわかない」

 

ということだ。

かなりいい能力なのだが欠点が一つある。死ななければ発動できないために、ちゃんとコピー出来たのか不安なのだ。俺の『腕』だから、問題はないと思うけど。

 

「ゼアノス様、よろしいですか?」

 

ふと聞こえるイオの声。

どうやらラヴィーヌとの話は終わったらしい。

 

「ああ、構わないが……俺のこと、話したのか?」

 

「はい。ラヴィーヌには、ゼアノス様が凶腕様であることも教えました。ラヴィーヌの能力はゼアノス様の力になると思いましたので」

 

「よろしくお願いします、ゼアノス様」

 

無表情な顔でお辞儀してきた。機工女神、機械だから表情の変化は乏しいのか?

というか女神が魔神に頭を下げるって……いや、今更か。イオも女神だし。

 

「ラヴィーヌの能力? どんなものだ?」

 

「ラヴィーヌは実質、機工女神なのです。ですから様々な物と融合し、同化、復元させることができます」

 

そういえば、そうだったか。忘れていることが多いな……。

 

「なるほど……今はまだ思いつかんが、必要になったときには頼もう。よろしく」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

これで二人目の古神をゲットできた。しかしイオ、何を話したら古神を配下にできるんだよ? ……いや、ラヴィーヌが周りに流されやすいのか? 機工女神だから、機械のように命令されれば実行、なのかね? ……わからん。

 

でももしそうだとしたら、万が一俺の下から奪われたら、奪った奴の言うことを聞くようになるのか? いや、それなら現神は封印なんかしないよな……。

 

どちらにしろ、俺は独占欲が強い。ラヴィーヌは俺の好みではないが、一度手に入れた女を離す気はない。だから……

 

「そろそろ外に出るぞ。……イオ、戻ったら少し外れてくれないか? ラヴィーヌを俺の使徒にする」

 

「はい。了解しました」

 

機工女神も女だから、そういうことも出来るらしい。知った時は驚いたものだが、それを知っておいてよかった。

 

こうして第二使徒を手に入れた俺だが、ラヴィーヌは俺のことをご主人様と呼んでくる。

前世を含めて、そんなことを言われたことは今まで無かったが、結構いいものだったとだけ言っておこう。

 

 

 

 


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