戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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—特訓……になるのか?—

 

 

 

 

「それで、今日はどのような魔術を教えてくださるのですか!?」

 

「……落ち着け。今日はあれだ、強化魔術を教えてやる」

 

「おお、ありがとうございます! それで戦略の幅が広がります!」

 

「どういたしまして」

 

何故だ、何故こうなったんだ? あの日俺は断るつもりだったのに、いつのまにか純粋魔術を教えてしまっていた。しかも継続しているというこの事実。……何故!?

 

「え〜っと、基礎中の基礎は何という名前の術でしたか? 私、忘れてしまって……」

 

「【戦士の付術】だ。それによって、対象の腕力を多少向上させることができる。個人によって差はあるがな」

 

……だから何故俺は教えてるんだ?

くっ、つい質問に答えてしまう!

 

「そうでした、どうもありがとうございます。それともう一つお願いです。何もせずに、そこから動かないでください」

 

何だ? 動くなって、何するつもりだ?

 

「いきます。……【イオ=ルーン】!」

 

「は?」

 

——ズガァン!——

 

「いてぇよ馬鹿」

 

「……私としては、痛いと言っておきながら無傷なのがかなりショックです」

 

無傷で当り前だろう。伊達に最強だと言われていない。むしろあれで俺が真面目に痛がったら神様は涙目だ。もちろんさっき言った『いてぇ』ってのは嘘だ。あのくらい、痛いわけがない。ノリで言っただけだ。

 

「いきなり魔術ぶっ放してくるとか、お前本当に姫様か? しかも、もう覚えたのかよ、それ。早ぇなおい」

 

「それは、家で何度も練習しましたから」

 

今俺らがいるのは、俺のベッドがある森の近くだ。そこに空地のような場所があったので、そこを利用して魔術を教えている。

フェミリンスはこのことを親と話をして、家でも特別処置として作られたスペースで練習ができのだとか。

当たり前のことだが、当初は両親に猛反対されていたらしい。どうやって説得したのかは不明だ。

 

一回だけ、監視目的だと思うが人間が近くで見てる時があった。それは予想通り、子を心配する親から仕向けられた人間だった。俺に見つかると同時に猛烈に、それこそ引くくらい謝ってきたが、仕事だからお前に非はない。と言って帰らせたら、感激していた。あの反応は笑えたのだが、世間一般に俺はどう思われているんだ?

 

「え? ゼアノスがですか? そうですね……残虐非道で、逆らえば死が確定。機嫌が悪い時に目が合えば運が良くて半殺し、悪ければまたしても死が確定。人間が主食。住んでいる近くの町村から生贄を求める。等ですね。実際、私も最初はそう思い込んでいましたから。……事実とは全く違うようですが」

 

フェミリンスに聞いたら、このような答えが返ってきた。涙が出そうになった。

そうだな、俺はそんなことでは殺さない。敵対した者しか殺さないし、人間なんか食べない。それに生贄なんか口に出したこともない。やろうとも思わない。

噂に尾ひれが付くどころか、腕や足が生えて別の生物になっている。

 

「……かなりの誤差があるな。……これは現神の謀略か、それともただの勘違いか……」

 

「恐らく後者だと思いますよ。いくら強いとはいえ、魔族にすぎない魔神が神を討ったのですから、人がそれを恐れるのは至極当然です」

 

こういう噂は内容が軟化しないから嫌なんだ。これから1000年後にも同じ内容のままだったら軽く鬱になるぞ?

 

「私も当初はそう思っていましたからね。両親からも、これに関することが理由で反対されましたし。……ただ単に魔族に教わり行くことを心配されただけかもしれませんが」

 

「そのどちらともだろ。魔族に教わりに行くということだけでも、普通の人間からしたら失神ものだ。それに加えて相手がこの俺だからな。むしろ反対しなかったら俺はそいつの頭を疑う」

 

「………ん? ちょっと待ってください。それだと、まるで私がおかしい人みたいじゃないですか。魔族に教わるためにここに来、それも自分で言い出したということは賛成しているということになります。その二つをしている私はおかしいというのですか?」

 

「気づいてなかったのか? とてつもない変わり者だぞ、お前」

 

「そ、そんな……」

 

両手両膝を地面につけて落ち込んだ。丁度 orz ←こんな感じだ。

 

それからも、無駄話は止めて特訓を再開。途中で休憩をいれてまた特訓。

特訓とはいっても、内容は魔術を教えてそれを使うといった簡単なものだ。時代が時代であれば、魔術(これ)は神殿へ行くなりして学ぶものだろう。

 

「にしても、魔神は血や肉の快楽を求めると聞きましたが……貴方も随分変わり者ですね。それとも、今のも信じるに及ばない噂なのですか?」

 

「いいやそれは本当だ。個人差はあるが魔神はもちろん、基本魔族は快楽を好む。俺もそうだぞ。ただ俺は、それが人間よりも少し強い程度なだけだ。他の魔族だったら、お前は今頃食われたかもしれんな、性的な意味で」

 

途中までは凛としていた態度で聞いていたが、最後の一言で体をブルブルと震わせた。

どうやら、そういう『もしも』を想像してしまったらしい。

 

「……貴方が貴方でよかったと、心底思います」

 

「それは光栄だね」

 

取りあえず、頭をクシャクシャと撫でる。

そのせいで髪が崩れて怒られたが、前世で妹がいた俺にとって、この娘は新しい妹みたいなものだ。

 

もう600年以上たっているが、そのことは覚えてる。俺は妹の頭を、よくこのように撫でていたのだ。覚えてるとはいっても、顔はぼやけてて思い出せない。その動作しか思い出せないが……。

とにかく、そういう理由で半ば癖になってしまっているので、やめるつもりは毛頭ない。

 

……また怒られた。

 

 

 

—————————————☆

 

 

 

そのようなことが数年続き、フェミリンスは少女から女性へと変わっていった。とはいっても、俺からすれば彼女は未だに妹のようなものだがな。

……何故そんなことを言うのかって? なぜなら、とても困ることになったからだ。

それは、

 

「……フェミリンス、お前今年で幾つになった?」

 

「突然どうしたのですか? 私は今年で……18になりますね。でも、何故ですか?」

 

「いや、王族だったら、もう既に婚約者がいるはずだろう。そいつの所にいかなくていいのか?」

 

「……忘れてしまったのですか? 言ったはずです、私は貴方に惚れました。ですから貴方以外の男性と共に生きる気にはなりません。……私は、ゼアノスと一緒に生きたいです」

 

これだ。

何故か、いつのまにか男女間での好意を持たれていたのだ。

 

「……あのな、何でそこで俺なんだ? 俺はお前の嫌いな魔族だぞ」

 

「知らないのなら教えてあげます。女というのは、少なからず強い男に、綺麗なものに惹かれる生き物なんです。貴方は、とても強い……文字通り、神以上に。そして神の如き美しさ。これ以上を兼ね備えた人物など、この世に存在していません。一度でも貴方を知れば、他の者はどうしても小さく見えてしまうんです。種族なんて、関係ありません」

 

想像以上だなこれは。嬉しいは嬉しいのだが、これはない。初めて会った時は現神の信徒と言ってもよかったのに、これは……。

 

それと勘違いしないように追加すると、フェミリンスは俺のことを知ればと言っているが、こいつとは一切そういうこと(・・・・・・)はしてないからな?そこ等辺は勘違いしないでくれよ?

 

「種族は関係ない、ねぇ。……だがお前は王族だ。だからお前は、同じ高貴な出の人間と結ばれなければならない。それが人間の義務なんだろ?」

 

「……何故私は王族なのでしょう。そうでなければ、貴方と共に生きられたかもしれませんのに」

 

微妙な【ロミオとジュリエット】だなこれ。あれと違う点は、俺が王族ではないことと、俺がフェミリンスに恋愛感情を持っていないことだな。

 

「それが運命ってやつだな、諦めろ。……というか普通は逆じゃね? 位置関係」

 

「逆、逆……逆? そうです、逆ならば問題ではないじゃないですか! ゼアノス! 私を攫ってください! そうすれば私は王族では……痛っ」

 

言ってる途中で殴ってやったよ、そりゃもうガツンと。

全く、一国の姫様が何言ってるかね?

 

「阿呆、んなことするか馬鹿者。殴るぞ?」

 

「既に殴られました……それに、せめて阿呆か馬鹿のどちらかにしてください」

 

「阿呆で馬鹿だからそう言ったんだよ」

 

「うぅ〜。何もしてくれないのでしたら、辱められたと嘘の報告を父上にしますよ?」

 

「とても斬新な脅しだな、それ。だがいいぞ、言えば? お前の家族は俺のことを全く信用してないからな、対策は充分だろうさ。それに、そうすれば俺とは絶対に会えなくなるな。軟禁されるんじゃね?」

 

「……そうでした」

 

やっぱりこいつは阿呆で馬鹿だな。というか俺もそのままにしとしけばよかった。そうすりゃこれも終わりだったじゃん。

んー、どうすれば…………うん、これだ。

 

「……決めた」

 

「? 何をですか?」

 

「またしても突然だが、今日で魔術の特訓は終わりだ。明日から俺は内海の下方に行くことにする。元々はそこにいたからな、そこからさらに南下してみることにした」

 

「え!? 何ですかそれは!? 聞いてませんよ!」

 

「今決めたからな。さて、今日で最後だから復習するぞ。早くしないと何もできないまま終わることになるぞ。それでいいのか?」

 

こいつのためにも、俺のためにも、そうした方が良いだろう。結構酷いかもしれないが、彼女は人間だからこれが得策だ。

 

「……わかりました。納得はしてませんが、何もできずに終わるのは嫌です。今日は何をすればいいですか?」

 

「なぁに、簡単さ。今までに覚えた魔術をフルに使って、俺に攻撃しろ。いつも特訓後にやってることだが、今日は違う。俺も攻撃するからな。もちろん手加減はしてやる」

 

「……私、今日で死ぬのですか?」

 

「失礼な、俺が可愛い弟子を殺すとでも?」

 

「可能性は0ではありません」

 

「失敬な奴だな、死なねぇよ、多分。そんじゃ行くぞ」

 

言い終えると同時に、最弱の火炎魔術、【火弾】を放つ。手加減はもちろんしてるし、火力も大幅に下げている。ただし、当たれば火傷は免れない。

 

「っ! いきなりですか!? というか『多分』ってなんですか!? 死ぬかもしれないってことですか!?」

 

彼女は今のセリフを約一秒で言い切った。素晴らしい。

 

そして彼女も、言い切ると同時に【レイ=ルーン】を放ってきた。

二つの魔術はぶつかりあって相殺し、周囲に煙が立ち昇る。俺はそこで、さらに火炎魔術の一つ、【火炎噴射】を放出。迸る火柱が一列に突き進み、直線状にあるものを燃やして行く。

 

視界が悪いので相手側が見えないが、魔力の流れで位置を特定する。この方法は教えてあるので、視界が悪くとも、彼女なら大丈夫だろう。人の流れを読むように、魔術の魔力の流れを読めばいい。

魔術は魔力そのものだから、知覚するのは人体以上にしやすいはずだ。

そう考えてあの火炎魔術を使ったのだが、大丈夫か?

 

「はぁっ!」

 

煙から出て、気合の声と共に発してきたのは、純粋魔術【ケルト=ルーン】。

 

先ほど俺の【火弾】を相殺した【レイ=ルーン】は貫通型で、この【ケルト=ルーン】は拡散型だ。

だから敵が複数の時は【ケルト】。単体の時は【レイ】をつかうのがいい。もっとも、どちらの場合でも更に相性のいい純粋魔術はあるのだが、彼女はまだそれは使えない。

 

話はそれたが、今の判断はかなり良かった。あれは自分に向かってくる火柱を、避けるのではなく爆発によって吹き飛ばしたのだ。

 

「……中々やるね、今のは良かったよ。咄嗟に思いついたのか?」

 

「いいえ、前から考えていたんです。今の所、私の最も強い魔術は今の二つのみです。ですから、あれを効率よく使用する方法を前もって考えていたんです。実際に使用したのは今回が初めてでしたが、褒めてもらい恐縮です」

 

……俺に教わることなく、効率よく魔術をどのように使うかを考えられるようになったのか。成長したな。

 

「さらに行きます!」

 

神聖魔術、【槌の光霰】。

広範囲に光の打撃をあたえる魔術だ。

 

それは、俺を含めた周囲を巻き込んで爆発していく。もちろん俺にまともなダメージがはいるはずもなく、突っ立ったままだ。

そこからさらに【レイ=ルーン】が炸裂するが、俺の暗黒魔術【狂気の槍】の手加減バージョンで相殺。

魔術で俺の目を錯乱させてから俺に近づいて、短剣で斬り込もうとしているフェミリンス。だが俺にはその動きが見えていたので、首元に剣を振る。

結果、あと少しでも俺が手を動かせば、彼女の首は胴体と別れるような態勢になった。

 

「チェックメイトってね」

 

「はぁ、傷一つ付けられませんでした」

 

「そんなのは現神でも難しいぞ」

 

フェミリンスの一言に苦笑する。魔術と剣術を少し覚えた程度の人間が、手加減してるとはいえ神以上の力を持つ俺に傷を負わせるなど、自分から当たりに行かない限りありえない。

 

「……ゼアノスが反則的に強いというのはわかっていますが、やはり納得できませんね。それと、何故明日に出て行ってしまうのですか?」

 

「何となく、だ」

 

「……貴方は本当に気紛れ屋ですね。そこは正に魔神の特徴でしょう。貴方ほど気紛れな人間は、多分いませんよ。今までも散々、それに巻き込まれましたからね」

 

やれやれ、と首を振っているフェミリンス。

最近のこいつは俺を子供のように扱ってくる。そこがムカツク。だが確かに俺は子供っぽいところがあるから、年頃の娘からしたらそこが母性をくすぐられるのかもしれない。

 

「明日、いつごろ出ていくのですか?」

 

「朝は多分いつもの場所にいる。おそらく昼になってすぐ、だろうな」

 

「わかりました。その際はお見送りをしますので、待っててくださいね?その時に伝えたいこともあるので」

 

「……できるだけ待ってるよ。それで、この後はどうするんだ? なんか話すか?」

 

そう言うと、頷いて肯定した。

他愛なく中身がない会話。何気ない一言に笑い、怒る。そのときの俺の心境は、前に赤毛の女神姉妹と別れる時と、よく似ていた。

 

 

 

 


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