戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

11 / 56
—現神と厄介事—

 

 

 

俺を殺そうとした女の子は、将来現神となる女、フェミリンスだった。

とはいっても、まだ戦争が経ってから14年しか経っていない。つまりこの娘は、あれの先祖だということだ。

まあそれなら、俺を殺そうとする理由もわかる。原作でも、姫神と呼ばれたフェミリンスは魔族嫌いで有名だったからな。こいつもそうなんだろう。

 

確か姫神フェミリンスは元々、女神の血統である王家の娘だった。それで魔に襲われる毎日に嘆き、常に神に祈りをささげていた。そして現神から神格位を授かり、自身も神となった。だったかな?

 

……もうほとんど原作知識残ってないから、全部そうかはわからないけど。

いや、女神の血統だからこそ、さっき俺が現神を馬鹿にしたのが許せなかったのか?

 

「なるほど、この国のお姫様か」

 

「わ、私を知っているのですか!?」

 

「あぁ、よく知っている。魔族、魔物嫌いで有名だからな、お前さんは」

 

「……嫌いだからというだけではありません。民が苦境の際に助けるのは、王族として当前のことです! それに私の先祖は、三神戦争以前からおられる現神の血統なのですから、魔神を討つのは義務です!」

 

威勢が良いだけでなく、国民思いで有言実行。この町に来てからそういう人間は一切いなかったが、どうやらこの娘はとても勇猛らしい。さすがは現神の系譜。

しかし現神の血筋なら、俺に攻撃しちゃ駄目なんじゃね? 凶腕ってわかってるのなら尚更。まぁ神殿絡みでもなし、個人だけだったから、特に気にしないけどな。

 

「そうか。それと、約束だ。名前を教えてくれた代わりに、俺は何もせずに立ち去ろう」

 

そう言ってフェミリンスを解放して、追い詰めていた女も逃がすと、何やら呆けたような顔になった。

 

「どうした? そんな馬鹿面して」

 

「ば、馬鹿づr……いいえ。まさか噂に名高い狭間の魔神、凶腕が約束を守るとは、と思っていたのです」

 

「何だ、守らない方がよかったか?」

 

「それは違います。単純に、魔神が人間との約束を守ったことに驚嘆しているだけです。噂では、かの魔神は悪逆非道だとされていましたから」

 

どこからそんな噂が立つんだ? 俺はちゃんと現神を全員生かしたのに、何で? やっぱり噂には尾ひれが付くものなのか?

 

「そういうことか。だがな、俺は基本、相手が何もしなければ何もしないぞ。やられたらやり返す。ただそれだけだ」

 

「そうですか、ならばその言葉は信じましょう。本人を信ずるかどうかはともかくとして。それともう一つ。私は名乗ったのだから、貴女も名乗ってはどうですか? 凶腕」

 

俺自身はともかく言葉は信じる、か。面白い、大した器だ。それに、一回は見逃されたとはいえ殺されかけたのに、それでもまだ改めないこの態度。素晴らしいな。

だけどまた『あなた』の部分に違和感があるような……

 

「クックック、面白い人間だな。俺の名前はゼアノスだ。ちなみに男だぞ」

 

「そう、ゼアノスですか。そしておと…こ? 男!?」

 

素早く“双手”でフェミリンスの口を塞ぐ。この次にどうなるか、簡単に想像できるからだ。

 

「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

口を開ければ、「ええええええぇぇぇぇぇーーーー!!」となっているだろう。あの赤毛女神姉妹と同じように。

 

「んんっ、ん!」

 

おっと、どうやら叫び終わったようだ。

 

「あ、ありがとうございます。その、塞いでもらわなければ、大声を発しているところでした。ですが本当に男なのですか?」

 

「……男だ。……それにしても、自分に非があると認め、さらに魔神相手に礼を言う魔族嫌いの王族、か。とてつもない変わり者だな、お前は。お前のような高貴な出の者は、自分は正しいと思っている馬鹿が多いから謝るという選択肢がない。それに、魔族嫌いがよく魔神に礼を言えるな」

 

「そういう貴方こそ、得もしない約束を守り、人を弄りはしても助け、なおかつ礼を受け止める。そのような魔神も、聞いたことがありませんよ。どうやら、貴方は他の魔の者とは違うようですね。案外、仲よくできそうです」

 

は? 『仲よくできそうです』?

……ははは、これ本当にあのフェミリンスの先祖か? 現神のフェミリンスは原作で非常にむかついたのだがな。ついつい笑ってしまった。

 

「そうか、仲よく、か。これまた面白い。いいだろう、仲のいい者とは争わないのが道理だ。だから今後、俺はお前の敵にはなっても、戦わないことを誓おう」

 

「それは嬉しいですね。貴方と戦になれば、無様に負けることは目に見えています。欲を言えば、私の子孫にも手出し無用。及び危機であれば助けて下さるような、寛容な心を見せてもらいたいですね」

 

「……随分と厚かましいなお前は。だが現神勢と同じく、そちらが俺に攻撃しない限り、俺からはお前の一族に一切手を出さないことにする。それでいいだろ?」

 

「はい、それで構いません」

 

ちなみに、フェミリンスはまだ14歳らしい。本人に聞いた。よくもまあその年齢であんなしっかりと物事を言えるよな。俺なら絶対に無理だったぞ。その年だと。

 

いくら先祖とはいえ、フェミリンスがいるだけはあり、この町はそろいもそろって魔族嫌いだ。だからあんなに俺は非難されたんだな。………いや、他の町でも凶腕を出してれば怖がれるか。

 

フェミリンスとまた会う約束をしてから別れ、色々と立ち聞き——盗み聞きともいう——をしている内にわかったことだが、ここはどうやら早い時期に現神への信仰を始めた場所で、他の地域ではそうでもないらしい。ここの王が女神の血統だというが、恐らくその原因だろう。

 

それにしても、ここにいると怖がれるか恐れられるか怯えられるか泣かれるかのどれかだ。……全部意味的に同じだな……何か虚しい。

このような理由で宿に泊まることなどできない。一回入ったら怯えられて話にならなかった。周りの客もそれぞれ部屋に帰っちまったし。

それにあの店主、すんごい顔してたな……。人間はあんな顔もできるもんなんだな。

 

 

 

というわけで、3年前にここへ来た時からは、森の中での野宿になっていた。神の墓場にいた頃は、いつもそうだったので問題ない。むしろ木々が大量にあるので、寝る場所の確保がとても楽だ。何せあの場所は、石に似た材質の物質がほとんどで、木のようなものはあまり見あたらなかったから。

それに今更だが、魔神が人間の施設に泊まるというのは、些かおかしいとつい最近になって気が付いた。

 

そして今、俺は大変面倒くさいことになっている。

フェミリンスと別れた翌日、それが今日だ。だがその一晩のせいで、非常にめんどいことになっている。

さて、まずは回想してみようか。

 

 

〜〜回想開始〜〜

 

 

夜。今の時間帯はそれ一言に限る。

3年前に周囲の木を伐採し、丁度良い形に切り、そこらへんにあった綿(のようなもの)を詰めて、簡易ベッドを作った。かなりふかふかだ。

偶然近くを飛んでいた巨鳥を狩り、羽を毟って纏め、他の獣の毛皮も合わせて毛布にした。これもなかなかいい出来だ。あの場所の鳥はやたらとゴツゴツしていたので、毛布にしても役割を果たさなかった。それと比べるとかなりいい。

 

「さて、寝るか」

 

いつもと同じように木製のベッドに入り、いつものように眠る。

だが、今日はいつもとは違っていた。

この森の動物や魔獣は、俺のことを本能的に恐れて近づいてこない。例え何匹で来ようとも、負けるのが目に見えているからだ。

なのに今日は足音がする。足音がするくらいなら特に気にしないのだが、その音はこっちに向かってきている。

 

「………」

 

とにかく、近くまで来たのでそのまま寝ている振りをする。

すると、すぐ近くから話し声が聞こえてきた。

 

「ここの付近で間違いないのだな?」

 

「はっ! 私は1年前にあの町で凶腕を見つけ、ずっと観察しておりました。奴の動向、その時間、住処などを。そしてつい先日、そちらに連絡をしたその日に見つけたのでございます! あの狭間の魔神の寝床を! それがこの近くなのは間違いないのですが……」

 

「ふむ、見つからんな」

 

寄って来たのは、明らかに誰かの神格位を持っている神格者と、その部下だ。

見てもいないのに何故わかったのかというと、そいつから感じる神気は現神のもの。しかし現神にしてはその量が少ない。となれば、神格位を授かった神格者だろうということだ。

 

しかしこいつら、俺とアークリオン達との取引、もとい同盟のことを知らないのか?雰囲気的にはどうも戦いたがってるようにしか思えないんだが……。

おっと、どうやら見つかったようだ。

 

「っ!? み、見つけました」

 

俺が起きるのを恐れたのか、小声になった信徒。もう起きてるのにな。

 

「……うむ。この『腕』、間違いなくあの凶腕であろう」

 

「しかし本当によろしかったのでしょうか。教えにおいては、我々があの凶腕相手に敵対行動を取ってはならぬと。それどころか、あらゆる殺生が禁じられていますが……」

 

殺生厳禁て……こいつら、癒しの女神イーリュンの信徒か? こんな早い時期なのにもういるのかよ、そんな奴ら。三神戦争が終わってからあまりまだ時間経ってないのに、神格位もらってるとか早すぎだろ。

 

つーかあいつの教えって、『如何なる場合も傷つけず、傷ついたものには積極的な救済を』じゃなかったか? 何でこんなに敵意丸出しなんんだよ。

 

「……確かに主神アークリオンはこやつと同盟を結び、手を出してはならぬと仰った。そしてイーリュン様も殺生を許してはいない。しかし、見逃すわけにはいかぬ。このような巨大な魔が存在する限り争いは続き、世界は死にゆく。そのようなことを起こさぬためにも、我らがイーリュン様に代わり、世界を救済するのだ」

 

あぁ、そういうことね。

つまり俺が強すぎて世界が死んでいくから、その世界を救うために病原菌(オレ)を退治しようと。こういうことだろ?

 

だけどこいつ気付いてんのか? これで俺に戦いを挑んであいつらが負ければ、イーリュンは死ぬことになるんだがな。

 

「さて、それでは裁きを下そう。いくらかの魔神とはいえ、寝ているならば何もできまい」

 

そいつはそのまま俺に近づき、光を纏った剣を取り出した。

……殺生を禁じてるのに何で剣なんか持ってるのかね?

 

そして剣を頭上に持ち上げ、周りの信徒も神聖魔術の準備に入る。

……殺生を禁じ(ry

 

剣と魔術が、同時に俺に襲いかかる。俺は特に焦ることなく、素早くベッドから出て魔術を『手』で防ぎ、振り下ろされた剣は、俺の剣で難なく斬って破壊し、そのまま名も知らぬ神格者を斬り伏せた。

 

これはまさに、一秒にも満たない時間だった。

 

俺は戦闘になると、意識しないでいると光速で動いている。光の速さは伊達ではない。

光は毎秒299,792,458 m の速さで動くという。そんなスピードで動けば普通なら体がバラバラになってしまうが、俺は普通ではないのでそこはあえて無視。

ともかく、そんな速度を神格者とはいえ人間が捉えられるはずがない。実際、神々も対応できなかったわけだし。

 

突然起こった出来事に、周りは未だに反応できていない。当たり前だが。

 

「さてと。これはイーリュンからの宣戦布告と思えばいいのかな、人間?」

 

俺の言葉にハッとしたのか神格者が俺にまたしても振り下ろすが、その前に俺が剣で体を突き刺す。ここでやっと周囲は俺が起きていることに気付いた。

 

「グフッ! 違う、これは我らの、独断だ……イーリュン様は、関係ない……カフッ…だから、イーリュン様、には…何も…」

 

口から血を流しながらそう言っている。大した根性だ。

 

「それがそうはいかない。俺はアークリオンから『現神勢力が俺に手出ししたら、その神を殺してもいい』と許可を貰っているのは知ってるな? ……個人なら問題なかったんだが、神殿の戦士や神官総掛かりじゃ、関係ないという言葉は信用できん」

 

「なっ!? それでは、イーリュン様は……」

 

「お前らのせいで死ぬんじゃね?」

 

淡々と俺が告げると、あからさまに顔色が悪くなる。血が抜けてただでさえ青い顔が、さらに青くなっていく。まぁ信徒のせいで神が死ぬって、重大責任どころじゃないもんな。

 

周囲がこれ以上騒がしくなる前に、殺気を放って何人かを気絶させる。今もまだ意識を保っているのは、あと5人。さて、どうしようか。

 

と考えていると、すぐ傍に一条の光が舞い降り、消えていった。光のあったそこからは、いかにも優しそうな雰囲気を持つ美女が立っていた。

緑色の髪、甲殻類のような部位を持つその姿。これらを見て、それが誰なのかがすぐにわかった。これほど特徴的なのは、彼女しかいまい。

 

「その神気は……癒しの女神、イーリュンか。初めましてだな」

 

「……はい、お初御目にかかります。狭間の魔神、ゼアノス」

 

その女性は、今俺が殺そうとしている者が信仰している現神だ。

 

「で、何故ここに来た? まさかわざわざ殺されに来たのではあるまいに」

 

「いいえ、そのまさかです。殺されに来ました」

 

「………は?」

 

いやいやいやいやいやいやいやいやいや、何言ってんのよ彼女。まさかこの女神、M?

……ごめんなさい。

 

「『殺されに来た』、ねぇ。意味はわかるが意図がわからんぞ」

 

「簡単なことです。私の命を捧げる代わりに、この者達の命を救ってほしいのです。私は無駄な死を好みません。私のみで皆を助けられるのなら、安いものです」

 

「い、いけませぬぞ神よ! 我らの愚行のせいで、貴方様の命を散らすなど、恐れ多いことを!」

 

血をドバドバと腹から流しながらも、こんなに流暢に話せるとは……こんな根性のある仲間or部下が欲しいな……どこかにいないかな。

 

「……結局、どっちを殺していいんだ? 俺としては、両方殺してもいいんだが」

 

俺、身内には甘いけどその他には厳しいぞ? 覚えとけ。

 

「お願いします、ゼアノスよ」

 

女神はそう言うと同時に頭を下げる。……何この女神、なんか凄い。

 

「彼らが同盟を破りし罰ならば、我が身で受けます。ですからどうか、この子らを見逃してください。気が済まぬというのであれば、私は辱められても構いません」

 

これは驚いた。信仰もまだ浅いであろう人間のために、ここまでできる神がいるとは。

意思がある5人は何かを訴えているが、それでもなお頭を下げ続けている。

……決めた。

 

「……頭を上げろ。その姿勢に敬意を表して、もう何もしない」

 

「っ!? 本当ですか!?」

 

「本当だ。……俺はな、種族関係なく、差別をしない者を尊敬する。お前は現神であるにも拘らず、そして原因にも拘わらずに人間を助けようとした。それも、自分の体を犠牲にしようとしてまで。だからお前に見習って、傷つけるのを止めることとする。……あくまで今だけだが。それにお前は、魔族や亜人にも分け隔てなく治療している。それには感謝しなければいけないしな」

 

原因は俺でもあるけど、そこは同盟を破ったそちらが悪いということで。それに俺が言ったことは全部本当だ。尊敬したし、感謝もしているからな。

 

 

〜〜回想終了〜〜

 

 

この後、神格者や信徒からも謝罪され、治療に更に力を入れることを俺の前で誓い、去っていった。正直、あれは暑苦しかった。あの演説はないわ。

 

で、それをどこで聞きつけたのやら、厄介事の種が目の前にいる。

そいつは前に、名無しで俺に手紙を書いていた。……渡してくれた人間が非常に怯えていたのが印象的だった。

 

内容を掻い摘んで説明すれば、『手を出した勢力を許す程に寛容なのであれば、是非とも魔術を教えてほしい。それとも、まさかそのようなことができないほど、矮小な魔神なのか?』

 

と言われていたのである。

それに興味を持ってしまったことが俺の敗因だろう

昨日の演説よりもないわ。何で、よりにもよって……

 

「それでは早速教えてください、ゼアノス。時間は待ってはくれませんよ」

 

現神の系譜、フェミリンスに教えなければならないんだ!!!

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。