異世界人こと俺氏の憂鬱   作:魚乃眼

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夜明けの月 その二

 

 

 

練習期間中についてだが普段のSOS団の部活風景とはかけ離れていた。

 

当たり前だ、普段はボードゲームや会話のみのぐだぐだ活動。

これを部として生徒会が認めないのも残念ながら当然のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とにかくずっと無言。

マウスのカチカチ音とキーボードのカタカタ音だけがそこを支配していた。

うっ、前世のデスマーチを思い出してしまう……。胃が。

 

 

「……」

 

「……はぁ」

 

「……涼宮さん」

 

「ん……どうしたの古泉くん」

 

「いえ、……そろそろいい時間かと思いまして」

 

ちらりと右下の時刻を見る。十七も三十分を経過、冬の外はもう暗い。

 

 

「そうね。今日はもういいわ」

 

「……」

 

本の代わりに長門さんはノートパソコンをバタンと閉じる。

最近では終了の合図はこれにシフトしている。

大事に扱ってあげなよ、まだコンピ研が貸し出しているだけなんだから。

 

 

「パソコンにかじりつく作業がここまで辛いとはな」

 

「何言ってるんだよキョン、ゲームじゃないか」

 

俺は仕事で一日中格闘していたような気もするぞ。

いや、それはプログラム言語と言うより自分との戦いでしかなかったが。

基本的にだらだら作業するのは嫌いだった。

 

 

「あいにくと俺は世の廃人連中がどうしてゲームにのめり込めるのかさっぱりわからない」

 

「そりゃオレもそうだけど、慣れしかないよ」

 

「あたしにはちょっと難しいです……」

 

「そろそろ方向性や役割を決定するために、一度会議をすべきだと思いますが」

 

「うーん、そうね、じゃ明日は作戦会議よ!」

 

明日ってのは土曜だ。

日曜日はお休みらしいのだが、どうやら休日を一日返上する必要があるらしい。

いや、ほんと思い出したくもない仕事を思い出しちゃうよ。

 

 

 

そして金曜の下校中。

 

「そっちはどうだ、大将さん」

 

「あら? 皇帝のあなたにそう言われるなんて」

 

「……」

 

「わ、悪かったわ。もう言わないから」

 

その時の俺の顔を見れるのならぜひ見せてほしい。

多分「ぬ」と「ね」の区別がつかないような酷い顔だったろう。

 

 

「大体理解したわ。鉄則としてはとにかくしっかりとした陣形を組む事ね」

 

「はぁ、上手くいけばいいけど」

 

そんな単純な戦法を阻害するのが月面のランダムマッピングだ。

ローグライクRPGでよくある奴。そもそも月面の地形には3パターン存在する。

平地、クレバス、建造物だ。これらが試合ごとでランダムに配置されてから開始する。

建造物については言うまでもなく遮蔽物となる建物なのだが、世界観が安定しない気がする。

どういう経緯で戦闘をしてるんだろうな。

 

 

「ゲームの話もいいけど、明智君」

 

「……何でしょうか」

 

「うん、私の勘違いならいいんだけどね?」

 

何やら妙な雰囲気じゃないか。

一体全体何の話をしようってんだろうか。

 

 

「もしかして、谷口君ってあの欠陥品と付き合ってるの?」

 

思わずむせてしまった。

もしかしなくても欠陥品ってのは周防九曜の事だろう。

朝倉さんのカースト制度では最下層みたいなものらしい。

それはともかく、どうしてそんな事に気づいたんだ。

知らないフリで行ってみよう。

 

 

「は、はあ? たたた谷口が誰ととっ」

 

「落ち着きなさいよ」

 

「ふへっ、いやや、慌ててないよ、全ぜ」

 

「……あなた、何か知ってるわね?」

 

何故ばれた。

彼女の眼光が鋭い。

 

 

「オーライ、知ってて黙ってたのは確かだよ。でも何故そんな事に気づいたんだ?」

 

「それはもちろん見たからよ」

 

「見た……?」

 

「ええ、昨日、買い物に行ったときに」

 

スーパー辺りでの食材調達だろう。

はっきり言うと俺は朝倉さんにただ飯を食べさせてもらってる部分があるのだが、気にしない事にした。

何だか飼い慣らされてるような気がしないでもない。

しかし。

 

 

「へぇ、周防も気長な奴じゃないか」

 

何が楽しいんだろうな。

その内あっさり足切りとなりそうだが、

 

 

「いつみても気味悪いわね、谷口君も悪趣味だわ」

 

「そうかな?」

 

「……は? 何言ってるの? 死ぬ?」

 

いや別に私は周防の味方じゃありません。世界で朝倉様だけでございます。

だからその本当に刺さるナイフをこっちに向けないで下さいお願いします。

 

 

「ふん」

 

「し、しかし本当に付き合っていたのか」

 

周防の反応からそうではあったが。

 

 

「谷口君が一方的に盛り上がってただけみたいだけど」

 

「ああ……」

 

そりゃそうだろうな。

 

 

「オレとしては相互不干渉でいきたいんだよね」

 

「かっこ悪いわね、何びびってるのよ」

 

「いや、びびってねーし。周防とかトンボの羽を千切るより楽だわー。ちょろいんじゃないかな」

 

「こっちを向いて話しなさいよ」

 

俺は嘘をつくとき特有の、ななめ視線になっていた。

汗はかいてないが思い出したくはない。雪崩なんか神秘的ですらない。

と言うか俺は暫く雪を見たくなかった。

 

 

「でもさ、わざわざこっちから攻撃する必要はないだろ」

 

「私は散々な目にあったわよ……」

 

「まだ怒ってるの?」

 

「当たり前じゃない。あなたを馬鹿にしたあの態度。明智君は許しても私はとりあえず欠陥ターミナルを串刺しの刑に処したいわ」

 

合宿の行動不能よりも、あの時俺が周防に屈しかけていたのが許せなかったのだろう。

だから朝倉さんは俺と修行がしたかったのか。本当にありがたい事である。

おかげさまで今ならそれなりに本気の周防でも戦える気がする。気がするだけなのだが。

それでも大事な要素ではある。

 

 

「……殺すなよ」

 

「それは無理ね」

 

「わかったよ、その時はオレも一緒に戦う。それで彼女を許してやってくれ。2対1で充分なイジメだよ」

 

「ふふっ。いいわね、それ」

 

マジで笑いながらする会話ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――で、例によって土曜の昼から北高文芸部部室に集結したSOS団。

そこで簡単と言うかいささか無茶な会議が繰り広げられた。

いや、社長命令だ。いつもの絶対権限である。

 

 

「ま、団長のあたしが艦長をやるのは当然ね」

 

「あたしは……戦うのとか苦手なんで、補佐でいいです……」

 

「別にいいけどみくるちゃん、それじゃ面白くないわねえ」

 

「馬鹿が、朝比奈さんに面白さを要求するな」

 

「何よ、可愛さで勝てるわけないのよ」

 

「面白けりゃ勝てるのか?」

 

「『作戦は奇を以って良しとすべし』……涼宮さんの意見はこういうことでしょうか?」

 

「わかってるじゃない、流石古泉くんね。あんたも少しは見習いなさい」

 

「あいよ」

 

キョンは相変わらずの扱いだ。

 

 

しかしこのゲームの補佐官は重要なのだ。

補給プロセスも完全自動ではなく朝比奈さんが操作する必要がある。

ただのそこまで難しくないクリック作業だけど。

そして弾幕展開も彼女の仕事。嘘でも楽じゃない。

 

 

「さて、涼宮さん。作戦はどうしましょうか」

 

「決まってるわよ、全力で叩き潰す!」

 

「……」

 

「おい、何無茶言ってやがる」

 

「あのね、攻めなきゃ勝てないの。当たり前の事じゃない」

 

それは結構なのだが正面から堂々と突っ込んだところでまず負ける。

個人のプレーヤースキル、総合力ともにあちらの方が上だろう。

ナポレオンだってワーテルローの戦いで負けたのは正面突撃したからだ。

実は彼にも勝てる要素がいっぱいあったと言う。

 

 

「編隊はどうするんだ?」

 

「みんなに任せるわよ、とにかく、相手より早く倒すの。そうすれば敵は丸裸よ。そこを叩けば勝てるわ」

 

「まじかよ」

 

キョンに同情したくなってきたが、俺は既に諦めている。

お前もどうこう言われたくなければ頑張る方がいいぞ。

大きなため息を吐いたキョンは。

 

 

「そうかい。じゃ、もういいだろ」

 

「何がよ?」

 

「土曜だぜ、これで解散だ。家で寝たい」

 

「何言ってんのあんた、馬鹿じゃないの? 今日も練習よ練習」

 

そろそろ俺は意外にしっかりしている月面世界と戦闘用のトポロジーモニタに見飽きてきたところだ。

それなりに面白いゲームだとは思うけどそもそも俺はゲーマーって柄じゃない。

ストレスになりそうだから基本的にやりたくないんだ。上手い下手の次元ではない。

いわゆる音ゲーに一時期はまったが、全国レベルはもはや戦争だった。

朝倉さんとの修行の方が精神衛生上マシである。かわいいし。

 

 

「なあ、ここはいつからコンピ研の支部になったんだ?」

 

「これは僕も気合を入れなければなりませんね」

 

「勝手にしろ。……だが普段ここでパソコンなんて使うのか? 人数分も」

 

「あって困ることは無いじゃない。それに、あの写真をあたしたちが持ち続ける事で、あのオタクどもをさらにゆすれるのよ。今度は何がいいかしらね」

 

ちくしょう、これが正義か。

神はとっくに死んでいるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして来る水曜日。

四時も近くなり、俺たちはモニタを睨み付けていた。

まだ誰もボタンを押していない。あるのは90年代でも作れそうなタイトルロゴだ。

 

 

 

 

まず、説明書の続きと検証の結果からわかったことを説明したい。

戦闘機体――いわゆるロボみたいらしい――と母艦の耐久力についてだ。

ロボに関しては全て1200、母艦は3000。これがゼロになれば破壊となる。

機体エネルギーに関しては問題なかったのだが、移動方法に問題があった。

と言うのも移動方法は歩行とバーニア移動の2種類がある。

これをキーボードで切り替えつつ、という事になる。

当然バーニアは歩行と比べ2倍以上は移動速度が速い、エネルギー消費の割合と言うのは基本的にバーニア移動についての事らしい。

よって歩行移動をしている限りはエネルギーが2倍近く持つと言う理屈だ。

 

 

 

他二つのパラメータを説明する前に武器にと補給ついて先ず解説したい。

実は残弾補給には限界があるらしい。まあ、当然の話だった。

"バトルライフル"については10回分の最大補給が可能なのだが、2000発搭載のガトリング"デスウィッシュ"に関しては1回きり。

ゲームバランスの調整なのだろうか。ただしデスウィッシュが補給不可能な時にその機体が補給を受けた場合、自動的に近接装備の"カトラス"に装備変更される。

要するにデスウィッシュは切り札クラスの装備だ。全員装備なんてやるもんじゃない。

そしてカトラス以外を装備している際に残弾切れとなった場合、悪あがきのパンチ攻撃を放てる。

ちなみにエネルギー補給は無限だ。

 

 

 

では、装甲値と被ダメージから割り出した各武器のダメージ量を説明しよう。

バランスタイプ"スペンサー"の装甲値6を試した後に他機体のそれと比較した。

 

 

バトルライフルはセミオートで、連射は自分でする必要があるがややタイムラグがある。

スペンサー基準の一発分ダメージが75、装甲2の"ジャッカル"は200、装甲8の"ランパート"は20と堅い。

全体的にライフルはダメージが安い印象があるが、確実に当て続ける事に意味があるのだろう。

 

次にガトリング。これは連射して削り続ける必要があり、正直言えば更に安い。

それぞれダメージは2、6、1、と一発でどうにかするもんじゃないらしい。

 

最後の選択装備のブレードだが、これはとんでもない性能だった。

どんな装甲だろうが二撃で仕留める。まさにスピード機体と組み合わせるためにある装備だ。

ただし戦艦相手にはそうはいかず、10回ぐらいはチクる必要がある。

それに攻撃範囲は言うまでもない。

 

各機体に標準装備されている"ボム"これも装甲無視の固定400ダメージ。

ただしブレードの次に攻撃範囲は狭い。駆け引きに使えるかも怪しかった。

 

残弾切れの際のパンチだが、あってないような機能だった。

平均しても10以下のダメージ。こんなパンチではアムロもシャアを倒せない。

そして母艦の弾幕も固定30だが、ヒット時に機体をほんの少しだけ後退させる能力があった。

いわゆる引っ付きの対策だが、基本的に正面しか撃てないので回り込まれたら厳しい。

 

 

 

機動性についてだが、これは地上歩行時のものだった。

遅い機体であれ、バーニアを使えばそれなりに動けるという訳だ。

つまりあまり参考にならない。だが、加速と最高速は機動性が高い方がバーニア移動でも高い。

だんだん重量機体のランパートが要らない気がしてきた。置物もいいとこだ。

 

 

 

そして母艦についての能力値の推定は。

 

・装甲値:20(えらい堅かった、10じゃ計算が合わない)

・機動性:なし(常にバーニア移動。だが各機体のそれよりは何割も遅く、暗に戦闘するなと言っている)

・エネルギー:無限

 

となった。

おい、この検証だけで一日以上は消費されたぞ。

無駄に作りこんだコンピ研が憎い。もう"THE DAY OF SAGITTARIUS III"で良かった。

だが多分、ここまで作りこんだのは俺が渡した某製品をぱくった統合開発環境のせいだろう。

いや、開発者としてはきちんと使われてれば嬉しいんだけど、お礼を言われた所で世界は平和にならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そして。

 

 

「さあみんな、始めるわよ。用意はできたかしら?」

 

「……ああ」

 

「こちらも準備が完了してます」

 

「は、はいっ!」

 

「いつでも出航オッケーだよ、キャップ」

 

「うん、さっさと終わらせましょ」

 

「……」

 

各々適当な返しをキャプテンの涼宮ハルヒにする。

でもそれを聞いた彼女はニコニコした感じだった。

いつになくテンションが高い。そんなに楽しいのだろうか。

 

 

「よしっ! SOS団、出撃よ。総員配置につきなさい!」

 

いよいよ校内イントラネットを利用したオンラインによる対戦が始まった。

正直あっちは自分たちで予行演習なんかもしてるだろう。人数が違う。

俺たちとは比べ物にならない経験値だ。

 

 

 

だが。

 

 

「バレなきゃイカサマじゃないんだ」

 

「……」

 

「ふふっ」

 

技術力では、こちらは負けていない。

まさか自分からモラルをぶち壊す事になるとは思わなかったが、容赦せんよ。

それに宇宙人なんか俺の数十倍は恐ろしいテクノロジーがある。

確か原作で地球レベルにまでセーブしても長門さんはスーパーハカーだった。

それに朝倉さん。もう俺、というかみんな要らないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてキャプテンは高らかに叫ぶ。

俺よりよっぽど皇帝らしいじゃないか。

 

 

 

「やぁぁぁぁあって………やるわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涼宮さん、ネタが古いよ。

 

 

 


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