ここは、どこにでもあるような、普通の高校。
その教室の一つである。
この物語の主人公は、そんな普通の高校に通っている女子生徒だ。
彼女の名はミクル。高校ではちょっとした有名人で何故なら彼女は美しかった。
そんなミクルはなんと今、一人の男子生徒に片思いをしている。
男子生徒の名はイツキ。彼は一年生で、ミクルは二年生。後輩なのだ。
だがミクルは奥手もいいところで、イツキはミクルに惚れられている自覚があるはずもない。
つまり、恋愛へと発展するわけもなかった。
ミクルは憂鬱な日々を送っていた。
そんなある日の登校中の出来事。
「あれ? 落し物かなあ」
ミクルは道端に落ちていたピンク色のペンライトを拾う。
文化祭のシーズンだ、誰かが落としたのだろうか?
しかし今日の彼女に余裕はなかった。
「あわわ。遅刻しちゃいます」
友人に勧められて見てしまったホラー映画のせいでなかなか寝付けなかったのだ。
おかげで今日のミクルは遅刻スレスレ。慌てて学校へと走っていく。
すると、そんな彼女を見る怪しい影が。
「……」
とんがり帽子を被った魔女装束の女。
彼女は何者なのだろうか?
何やら物語の始まりを感じさせつつ、場面はその日の下校風景へと変化する。
「結局、これの持ち主は見つかりませんでした」
ミクルの手には朝のペンライトが握られていた。
クラスメートや友人に聞いて回ったが心当たりはないと言う。
小物ではあるものの、一応交番にでも届けようかと彼女が思ったその時。
「ぐへへ。お前が持っている"フラッシャー"をこっちへ寄こせ!」
突如、変態としか言いようのない男がミクルの眼前へと現れた。
オールバックに間抜け面のそいつは、なんとあろうことかメイド服を身にまとっていたのだ。
生脚を惜しげもなくさらけ出し、彼のすね毛はこちらに多大な不快感を与える。
「ひぇっ!? へ、変態さんです!」
「おい、人聞きが悪い事言わないでくれ! 俺は秘密結社"アサクラ―"の戦闘員だ。偉大なるボスの命令により、お前が拾ったそれを回収しに来たんだよ」
こんな変態が戦闘員とは、世も末である。
しかしながら設定上、彼は常人とは比較にならない戦闘力を誇っているのだが、果たしてそれは活躍するのだろうか。
「こ、これの事ですかぁ……?」
「ああそうだぜ。それはボスの落し物なんだ、返してくれよ。俺がボスに渡す」
涙目になりながらもミクルは、「どうやら持ち主さんの知り合いらしいし渡しちゃってもいいよね」と考えていた。
そして彼女が変態に近寄ろうとしたその時。
『そこの可憐なお嬢さん! それを渡してはなりませんぞ』
「だ、誰だ!?」
それはやけにダンディな声だった。
思わずミクルの動きが止まり、後ろを振り向く。
「猫さん……?」
『いかにも。それを奴の手に渡してしまったが最後、世界は破滅してしまいます』
「んだぁ? 猫が喋りやがった! ……そんな事より、いいからそれをこっちに渡せ!」
声の主はなんと三毛猫である。
どう見てもその猫は口を一切動かしてないどころかこちらを見てはいないのだが、その辺はお察し願いたい。
とにかく、第三者。いや第三描の介入によってミクルはすっかり混乱してしまった。
ああ、今にも泣き出してしまいそうだ。ちくしょう。
「どっちを信用すればいいんですかぁ……」
『とにかく、ここは私に騙されたと思って、そのフラッシャーを天へ掲げこう叫ぶのです「サーチアンドデストロイ」と』
「いいから早くしやがれ。そろそろ我慢の限界だ、こっちから行くぜ」
「ふぇっ? 何て言えばいいんですか?」
『「サーチアンドデストロイ」ですぞ』
混乱の最中、最終的にミクルが信用したのがメイド服姿の変態男より喋る三毛猫なのは当然だろう。
彼女は訳も分からぬまま、謎の勢いに身を任せペンライトを揚げとりあえず絶叫した。
「さ、さーちあんど、ですとろい!」
その瞬間。辺りが閃光を包み、次の瞬間にはミクルの服装がセーラー服からやけに胸を強調しているピンク主体の、いかにも魔法少女が着ているようなアレになっていた!
「ええっ!? 何なんですかぁ!? もうわけがわかりません!」
『説明は後でしますので。とにかく、今は奴の撃退が先決ですな』
「ちっ。変身しやがったか。だが素人相手に俺が負けるかよ!」
一瞬怯んだ変態だったが、直ぐにミクルへ接近しようとする。
このままではまずい、絶体絶命だ。
最悪の場合はここで放映できないような、いやらしい展開になってしまうかもしれない。
映像が無ければ映画にならないぞ。どうするミクル!
『奥の手を使いますぞ。奴を視界に捉えてこう言うのです「ミクルビーム」と』
何故会ったばかりの猫がミクルの名前を知っているのか。そんな事は些細な問題に過ぎない。
今はあの変態の息の根を止めれればそれでいいのだ。
「わ、わかりました。ミクルビーム!」
その瞬間、やけにチープなエフェクトと共にミクルの目から黄色の怪光線が発射される。
変身と共にミクルの左目の色は変わっていた。そこからミクルビームは放たれたのだ。
それを直撃してしまった変態ははるか彼方へ飛ばされていく。
「ぬわー」
後には年齢と抜群のプロポーションの割に際どい恰好のミクルと三毛猫だけが残された。
「すいません。どうすれば変身は解除されるんですか?」
『……脱ぐのです』
「へっ?」
『全裸になれば元の服装へと戻れますぞ』
再び涙目になりながらミクルは肩に手をかけ――
おっと、ここから先は撮影すらしていないので我々に問い合わせてもらっても困る。
朝比奈さんはしかるべき場所で更衣を完了したのであしからず。
場面が切り替わり、何やら和室である。
ここはミクルの家だ。細かい全体像は映さないが、とにかく大きく美しい旧日本的豪邸だと理解してもらえればありがたい。
そして、彼女は遺影の前で合掌していた。
「お兄ちゃん。あたし、魔法少女になりました」
遺影に写っているその青年はミクルの兄で、名をキョンと言うのだが既に死んでいる。
この作品で俺……。本人が登場する予定はない。
ミクルの横には三毛猫も座っている。何やらこれから説明があるらしい。
『この魔法少女変身アイテム、"フラッシャー"はこの時代の技術で作られたものではありません』
「どういうことですか?」
『これから数十年後、未来は悪の秘密結社により世界が征服される闇の時代となってしまうのです』
「それって、さっきの変態さんが言ってた」
『そう。奴らの名前は"アサクラ―"。このフラッシャーはアサクラ―の怪人を打ち倒すために開発されました』
「それが何故ここにあるんですか?」
『これを開発したのは私の飼い主だった方です。彼はようやくこれを完成させたのですが、アサクラ―に見つかってしまい命を狙われました。そこで試作中のタイムマシンに私共々この時代へ飛ばされたのです。アサクラ―を倒し、未来を変えるために』
何やら話の流れとしては普通ではあるのだが、その開発者は何故魔法少女のコスチュームに拘ったのだろう。
戦闘服ならもっといいのがあるはずだ。しかしながらこれも脚本家の趣味なのでご容赦願いたい。
『私からの頼みは一つだけでございます。どうか、打倒アサクラ―に協力していただきたいのです』
「すごく大変なのはわかりましたけど。あたし一人で無理ですよ、そんな、戦うだなんて」
『左様ですか。しかし、フラッシャーはもう一つあるのです』
三毛猫が後ろを振り返ると、いつの間にか魔女装束の女が居た。
登校中のミクルを陰ながら見つめていた彼女だ。
「これ」
と言って女は手に抱えてた自動小銃をミクルへ手渡す。
俺は銃に詳しくないからよくわからないのだが、カラシニコフだろうか。
……ん、何だ? あれはカラシニコフじゃなくてアバカンだって?
まあ、とにかくアサルトライフルだ。うん。
「ええっ。これって本物ですかぁ!?」
「そう」
『武器はあった方がよいですな。アサクラ―は極悪卑劣。どんな手段を使ってでも襲い掛かかってきます』
「でも、これは一体どこから?」
「闇ルート」
「ひぇぇぇっ」
『おや。大丈夫ですかな』
「……」
思わずミクルは気絶してしまった。
そんなこんなでミクルは魔法少女としての生活が始まるのだ。
頑張れミクル。兄は軍人らしいからその血が流れている君なら射撃も得意だ!
おい、この設定必要なのか?
その日からミクルの戦闘員狩りの日々が始まったのだ。
尺の都合上一枚絵の連続で勘弁してほしいが、とにかくアサクラ―の先兵どもをなぎ倒していった。
「ぶ、ぶっ壊すほどミクルシュート! です」
「ぬわぁー」
魔法を使わずに銃で。というか魔法が使えるのだろうか? ビームは兵器だろ。
しかし、そんなミクルの活躍を快く思わない輩が一人。
「あなたたち。小娘一人相手に、まるで使えないわね」
「すいません。お許しくださいリョウコ様!」
「ははぁっ」
マンションの一室。
タキシード姿で椅子に腰かける女と、メイド服の変態、そして今回初登場となるもう一人の下っ端も男で、彼もメイド服を着ていたが、中性的な顔立ち故に変態よりはマシだった。
しかし、この様子から察するにここが秘密結社のアジトなのだろうか。
せめてしっかりと部屋を装飾すべきなのだが、予算の都合上こうなってしまった。
「いいわ、私が直接行きましょう」
「えっ。リョウコ様がですか!?」
「何、文句あるの?」
「いいえ、しかしわざわざ……」
「そうでございます、リョウコ様が出向かなくてもじきに我々が」
「黙りなさい。それで済むならさっさとフラッシャーを確保してきなさい。まだどちらも奪えていないでしょう」
「すいません!」
「すいません」
再び戦闘員二人は跪く。
「とにかく、そういう事だから。で、男の方の懐柔は上手くいってるのかしら?」
「はい、一週間ほど前からツルヤがターゲットに接触。時間の問題かと」
「ふふ。いよいよだわ」
先ほどまで無表情だったアサクラーのボス、リョウコが笑いながら立ち上がる。
その様子を見た戦闘員二人は驚いた。
「ふはははははははは!!」
「リョウコ様が高笑いなんて」
「は、はじめて見た……」
「予定は少々遅れたけど構わない、これから順調になるもの。……いよいよ、総取りの時が来たわ!」
何やら不穏な空気を感じつつ。ここで場面は暗転する。
いつも明るい可憐な女性、ミクル。
そんな彼女にも最近悩みがあった。
遠巻きに、並んで学校の廊下を歩く男女を見つめている。
「はぁ……ツルヤさん、イツキくんと仲いいなぁ」
イツキにガールフレンドが出来たのだろうか。
とにかく、二人の様子はとても良さげだった。
下校時間だと言うのに校内をブラブラしている。
「あたしも、もう少し勇気があれば」
こんなダウナーな時は誰しも、神にでもすがりたくなる。
よってミクルが神社へと足を運んだのもごく自然の事だったのだ。うん。
しかし、今日の彼女は残念なことに運が悪かった。
「あなたがミクルね?」
ミクルが後ろを振り向くと、アサクラ―のボス、リョウコが居た。
タキシードが彼女の普段着らしい。ついでに言うが、これも脚本家の趣味だ。
「だ、誰ですか?」
「私がアサクラ―のボスよ」
「ふぇっ!?」
「さっさと倒されてちょうだい」
「あ、あわわ。とにかく変身ですっ。さーちあーんどですとろーい!」
咄嗟に変身するミクル。
しかし今の彼女には武器が無い。下校中だった彼女はまさか銃なんて持ち運べるわけがない。
それもあって今のミクルはリョウコに萎縮してしまっている。
「さあ、大人しくしてもらうわよ」
「ひっ!」
何とか、リョウコを眼前に捉え、いつの間にか作られた決めポーズをミクルはとった。
「み、ミクルビーム!」
その瞬間、画面は一気に揺れ動く。
こ、これは演出である。気にしないでほしい。
とにかく、リョウコはミクルの一撃を回避し、接近に成功。
馬乗りになっている。キャットファイト寸前だ。
何故なら変身を解くにはミクルを脱がすしかない。
「これでごっこ遊びは終わりね」
ミクルの服に手をかけようとした、その瞬間。
「……ユキリンビーム」
「ちっ」
リョウコの右方向から紫色のビームが飛んできた。
なんとかその場から飛び退き、回避される。
「もう一人の魔法少女、ユキね」
「……」
無言の魔女装束の女。その名をユキと言う。
ユキが発射するビームはミクルとは異なり彼女が持つ星形のステッキから出る。
同時期に開発されたのなら、仕様ぐらい統一するべきである。そんなんだから開発が遅れたんだろう。
「二対一はさすがにきついわね……今日のところは退いてあげる。どの道、イツキは我々の手に落ちるわ。時間の問題ね」
「……」
「えっ。イツキって、イツキくんのことですかぁ!?」
「さあね、何の事かしら? わからないわ……。じゃあね」
そう言って一瞬でリョウコは姿を消してしまう。
流石は悪の秘密結社アサクラ―のボス。どうやらただ者ではないらしい。
ユキの後を追って、遅れて三毛猫がやってきた。
「……老師」
『どうやらボスが来ていたようですな』
「シャミセンさん。アサクラ―がイツキくんを狙ってるって言ってました。変身できるあたしたちが襲われるのはともかく、何でイツキくんが……?」
ユキに老師と呼ばれた三毛猫の名はシャミセンと言うらしい。
まあ、そりゃあ猫が喋ったら三味線を弾かれたと思うさ。
『ふむ。イツキと申されましたかな? それが私の知る人物と同じであれば、彼こそが未来で変身アイテムフラッシャーを開発した、私の元飼い主のドクター・イツキでございます』
「ええっ!? じゃあ、未来のイツキくんがこれを作ったんですかぁ?」
『左様。アサクラ―がどうやってフラッシャーやドクターについて知り得たのかは謎ですが』
「彼はアサクラ―の工作員に接触を受けている可能性が高い」
「もしかして……ツルヤさんが」
『とにかく、このままイツキが捕まってしまえば世界はアサクラ―の手に落ちかねません。歴史が更に悪い方へ変わってしまいますので』
「あたし、急いで学校へ戻ります。イツキくんはまだツルヤさんと一緒に残っているかもしれません」
「……学校に居ない可能性もある。私はツルヤの家へ向かう」
『ミクルさん。どうか気を付けて』
明かされた衝撃の真実!
いよいよ物語はクライマックスへと突入する。
夕暮れの教室。イツキのクラス一年九組だ。
残念なことにミクルが武器を取りに家に帰るような時間は無かった。
ミクルが黒板を見ると、チョークの色をふんだんにつかい、デカデカとこう書かれている。
『魔法少女へ次ぐ!
イツキの身柄はこちらが押さえた。体育館まで来い。
アサクラ―』
「ま、まずいです……」
ミクルは急いで体育館へと向かう。
……しかし、そこにはイツキは居なかった。
いや、ステージに人影があった。そこに立っているのは――。
「おやぁ? あんたはミクルじゃないかっ」
「ツ、ツルヤさん!」
「って事は、教室の黒板を見たんだねぇ? でも残念だよ。イツキくんはここにはいないのさー」
「えっ。でも体育館へこいって」
「とわっはは! イツキくんと校内でぐだぐだしてたのはフェイクだよっ」
「その通りだぜ」
すると体育館の入口から聞きたくもない変態の声が。
変態は中性的メイド男と共に縄を引きずって体育館へ侵入する。
「い、イツキくん! ユキさんも!」
何とロープでイツキとユキが捕獲されてしまったらしい。
ユキもこの時はいつもの魔女服ではなくセーラー服だ。ミクルと同じ学校の生徒だったのか。
そしてその奥から「あははははは」と笑い声が聞こえてくる。
「チェックメイトね。流石にユキ相手は手こずったけど、一対一なら負けないわ」
「……不覚」
「おや、僕にはいまいち状況がわからないのですが」
「あなた、とっとと降参なさい。命だけは助けてあげるかもしれないわよ」
「ひいぃ……」
「おら! とっとと服を脱ぐんだ」
「そうだよ、大人しく降参した方がいいよ」
今度こそ大ピンチ。
いよいよ終わりかと思われたその時。
『まだ打つ手はありますぞ』
「しゃみせんさん~」
ミクルの前に現れたのはシャミセンこと猫老師だった。
「でもあの人数相手じゃミクルビームは無理です……」
『最後の奥の手。"ミクルダイナマイト"を使うのです』
「だ、ダイナマイト!? 爆発しちゃうんですか!?」
『いや、ダイナマイトと言うのは比喩でしてな。ミクルさんの"フラッシャー"はユキとは違い、特別製なのです』
「服装は確かに違いますけど……どう違うんですか?」
『ミクルさんのはユキとは違い豊満な方が変身して初めて効果を発揮する。まさにダイナマイトな女性用のフラッシャーでして』
おい、ドクター・イツキとやら。
お前は自分が変身して戦おうとかは思わなかったのか。
そしてアサクラ―の方々は待ちぼうけてるぞ。早くしてやれ。
悪役の鑑である。
『とにかく、胸元を強調して一言。"ミクルダイナマイト"です』
「わ、わかりましたぁ」
「作戦会議は終わったの? そろそろ行くわよ」
「おう、お前も今日で終わりだぜ!」
「僕たちの勝ちだね」
「ははっ。じゃあねーっ、ミクルーっ」
アサクラ―の四人がミクルへ一斉に襲い掛かろうとしたその瞬間。
ミクルはそのバストを両脇で挟み込んで叫んだ!
「みっ、ミクルダイナマイトー!!」
――ドゴォォォン!!
「なっ――」
「おい、マジか―」
「何となく予感はして――」
「すご――」
爆発音と共に辺り一面が強烈な閃光に包まれる。
これが最終魔法・ミクルダイナマイトなのだ。
……本当に魔法なんだろうか?
「……あれ?」
『成功したようですな』
光が消えると、そこにはアサクラ―の姿は無かった。
「ま、まさかあたし。こ、殺しちゃった!?」
「違う」
ロープに縛られたままユキがミクルの隣へ移動する。
慌ててミクルはユキとイツキのロープを外してあげた。
「なかなか面白い催しでし――」
「当て身」
ぐふっ。と言いながらイツキは気絶した。
確かにこの事実は彼にとって忘れている方が都合がいいのだ。
未だ混乱しているミクルに対し、一人と一匹は説明を開始する。
『ミクルダイナマイトは開発途中だったタイムマシンの技術が応用されているのです』
「擬似的な時空間転移」
『今頃、奴らは地球にいないと思われます』
「それって、大丈夫なんですか?」
『なあに、ああ見えて奴らは怪人。空気が無い程度で死なない連中。とにかく、地球には戻れないでしょうな』
「……」
とにかく。
こうして悪は去ったのだ――。
そして場面は切り替わり、のどかな川沿い。
ミクルが一人で歩いている。
「色々あったけど、ツルヤさんがイツキくんと仲良くしているのを見て、あたし悔しかった……」
そして彼女は強い表情で空を見上げる。
「今度、イツキ君に告白しよう」
紆余曲折を経てミクルは勇気を手にすることができたのだ。
これにて一件落着だ、めでたしめでたし――
「ミクルさん!!」
「はい?」
ミクルの後ろを走って追いかけてくるのはイツキだ。
しかしどうも様子がおかしい。何故かイツキは白衣を身にまとっている。
「い、イツキくん、あの、その、あ、あたし――」
「やっとこの時代のミクルさんに出会えました! とにかく今すぐ来てください」
「えっ?」
そう言ってイツキはミクルの手を引いて、来た道を引き返していく。
「急になんなんですか? それに、この時代って」
「僕は今から5年後の未来から来たイツキです。とにかく未来が危ない、あなたの力が必要なんです」
「未来が危険って、アサクラ―はあたしがこの前倒しましたよ!?」
「別の秘密結社が突如現れました。名前は"マッドアサクラ―"、その構成員から全てが謎に包まれています」
「ええええっ!?」
「さあ、あれがタイムマシンです」
イツキが指さす目の前には一台のタクシー。
……おい、似たような展開の映画があったなそういや。
「行きましょう」
「どこへ?」
「二人の未来へ!」
ミクルとイツキがタクシーへ乗り込み、画面は暗転。
一応言っとくと、本当に運転なんかはしていないからな。
乗っただけだ。
それじゃ、エンドロール行くぞ。
『【未来系魔法少女 アサルト×ミクル】
出演
・正義の魔法少女ミクル 朝比奈みくる
・未来の科学者イツキ 古泉一樹
・もう一人の魔法少女ユキ 長門有希
・女首領リョウコ 朝倉涼子
・アサクラ―の変態 谷口
・中性的なメイド服男 国木田
・女工作員ツルヤ 鶴屋さん
・老師シャミセン シャミセン(猫)
・シャミセンの声優 新川さん
・ミクルの兄/天の声 キョン
スポンサー
・大森電器店
・ヤマツチモデルショップ
スペシャルサンクス
・自宅を撮影に使用させてくれた鶴屋さん
・休日に体育館を使用させてくれた運動部のみなさん
・撮影用にタクシーを貸し出してくれた新川さん
スタッフ
・撮影/雑用/編集 キョン
・脚本/演出/編集 明智黎
・超監督 涼宮ハルヒ』
――この物語はフィクションです。
実在する人物、団体、事件、その他の固有名詞や現象などとは何の関係もありません。
全部嘘なのよ。どっか似ていたとしてもそれはたまたま。他人のそら似です。
あ。でも、校内放送で流したCMの大森電器店とヤマツチモデルショップは実在するわよ。
「北高生がたくさん買い物に来てくれた」ってお礼の電話も頂いたわ。
商店街に立ち並ぶ他の店も行ってあげなさい。青果店だってスーパーに負けてないわよ。
あとみんな、気になったと思うけど、男が着てたメイド服は新品だから。
撮影が終わったと同時に、さっさと処分したから安心して。
あんなの、この世にあると思っただけで恐ろしいわね。
えっ? もう一回言うの?
……しょうがないわね、この物語はフィクション――。