IS学園で非日常   作:和希

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六話 転校生、襲来

 「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、清水、オルコット。試しに飛んでみせろ」

四月も下旬、ヤマザクラなどの遅く咲く種も花を散らしたころ(多分)、今日も授業を受けていた。千冬さんの授業はむしろ特訓と言うべきか。

「はい」

いたって普通に返事をしながら展開。セシリアに遅れて俺も展開するが、一夏はまだ出来ていない。こればかりは経験だから仕方ない。専用機をくれたとき、内緒で部屋内部でひたすら早く展開する練習とかしたし。……変身ポーズを作ろうとしたのは秘密だ。頭の中に浮かべながら展開するのも秘密だ。というか空中に魔法陣描きながら剣を取り出したり出来ないかな。すっげえカッコイイと思うんだけど。

「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開まで一秒とかからないぞ。それと清水、くだらない事は考えるな」

「すいません」

こんな事も当てれるのだからそりゃ敵の先読みは簡単にできるわ。

「集中しろ」

一夏はガントレットを左手で掴んで展開した。んー、これは内緒で部屋で展開練習させた方がいいかな。やっぱり。全員の前だと緊張感で違ってくるけどさ。

「よし、飛べ」

セシリアより遅めの上昇速度。やはりセシリアは出来る奴である。一夏は千冬さん……教官から叱られている。ちなみに、急上昇急降下は一夏に教えた。イメージが重要だが、セシリアは

『自分の前方に角錐を展開させるイメージ』らしい。天才とは天才たる由縁があるようだ。しかし、この説明下手?のおかげで一夏は俺に駆け込むようになってしまい嫉妬の視線で焼き殺されそうです。ちなみに俺は背中から何か噴出するイメージとかどうだとか言った。他にも数種類。アニメなどを参考にしたのもある。今の所背中……というより進みたい方向とは反対から力を噴出する感じで俺も一夏も落ち着いている。やっぱり物体は反作用で動くってのが一番納得しやすいということだろう。

「一夏さん、よろしければまた放課後に指導してさしあげますわ。そのときはふたりきりでどうでしょう?」

「いや、今日は希と練習する約束があるんだ」

いやーあっはっはと笑う一夏。こいつは本当になんで俺を修羅の道に巻き込ませようとするかな。傍観者してるだけで楽しいのに。巻き込まれたら命を危険を感じるんだけど。

「お前は何で俺を巻き込みたいんだ?」

ため息をつきながらこう言う。独白しないで言うのは、こういえばセシリアから敵対度が下がるから。ま、それなりに仲はいいけど一夏関連は色々と面倒な配慮が必要だ。

「一夏っ!いつまでそんなところにいる!早く降りて来い!」

箒さん本当にアグレッシブ。これをもう少しねぇ。笑顔とかもっと見せればいいと思うけど、昔からの性格からか、難しいようだ。武道っ子はこうなのか?誰でも。

「織斑、清水、オルコット、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ」

「了解です」

「あいさー」

ヒュンと急降下。ISなら上空200メートルでも二秒程度だ。残り七メートルで急停止をかける。試合なら燃料効率を考えてやらないような噴射。体に凄まじい負担がかかるが、一応これでも身体能力は一年生で総合ではかなり高い位置にいるのだ。世界選手権で女子は男子より少し劣っている程度の種目が多いが、ここは学校だ。男子より身体能力が全部秀でているような女子は殆どいない。

ちなみに俺が一夏をこえてるのは自分で意外に思ったが、小学生は真面目に部活をやってるし、中学も同様。一夏は中学全くやれてなく自主練程度。で、最後の追い込みに一ヶ月半程度軍隊生活を行ったのだ。よくよく考えれば一夏を超えているのは当然だ。……一緒にトレーニングしてると凄まじい伸びもみせるし、剣道やればそれなりにボロクソなんだけどね。勝ってるのは身体能力だけ。ともかく、何が言いたいかというと女子に比べて頑丈なので、無茶な機動も出来る。セシリアは確かに技術では完璧に上だが、体に無理を利かせて地上14cmで停止。

「まだ甘いな。それと、体に負担をかける動きはやめろ」

「見栄張りましたすいません」

で、上を向いて一夏を見る。ギューン、ズッド……ならないか。教えたかいがある。なんと俺よりセシリアより高記録3cm。

「……運が良かったな、織斑」

「はい、その通りです」

実際にはギリギリであったようだ。だが、こういった土壇場でもやれるってのは相変わらずすごい奴だ。いくらISの保護機能があるとは言えジェットコースター以上の速度で垂直に落ちていくのに。正直慣れていても、試合じゃないこういったときはかなりの恐怖だ。試合の最中は興奮して気にならない。

「衝突するかと思ったぜ。だがおめでと」

「いや、本当に運が良かった。指導のお陰だ」

すぐさまプライベート通信を発動。プライベート通信は言葉でなく思念みたいなもんだから、しゃべるのよりずっと多く情報を伝えれる。会話で10秒かかるのを1秒ぐらいで伝えれるレベルだ。

『二人のなと付け加えろ』

「二人のな」

その言葉に箒とセシリアが顔を赤らめる。乙女の頭は夢の世界並に都合がよさそうだ。どちらも自分がと思ってる。そしてもう一人は俺という考えだろう。

『なあ、どうして二人は顔が赤いんだ。というか、主にお前に教えてもらったような……』

ちなみに、プライベート通信のやり方はセシリアいわく『頭の右後ろ側で通話をするイメージ』らしい。一夏はなるほど、分からんといった感じだったが、適当に右後ろの大脳部分が言語で重要な割合を占めているからそれに関係してるとかなんたら説明したら出来たようだ。あ、大脳部分がどうとかのくだりは嘘。いや、調べてないから本当かもしれないけど。ともかく本人が納得することが重要だ。たとえ嘘かどうか分からなくても。

『あの二人の言葉を噛み砕いて、俺の考えも教えたんだから』

『そっか。……アレ?なら三人じゃ』

今更遅い。俺もしまったと思った。いつも正しい選択を出来るわけじゃないんだ。二人と言ったから後からいざこざ起こしちゃうかなぁ、三人なら三人でまぁ納得しただろうし。ちょっと面白い方に転がそうとしただけ、たまに失敗して自分に飛び火するけど。

「……あら、篠ノ之さん、二人とは私と希さんのことですわよ?」

「何を言ってる。私と希のことだ」

『失敗しちゃったぜ』

『どうすれば』

『どうしようもない。教官待ちだ』

ギッとにらみ合う二人を教官が押しのける。この人は授業中馬鹿やってるのを見逃すほど甘くは無い。

「端っこでやっていろ馬鹿者ども。織斑、武装を展開しろ。それくらいは自在にできるようになっただろう」

有無を言わせない態度、この人の旦那さんはいったいどんな人になるのか、もしくは出来ないか。とか思ってたらすさまじく睨まれた。距離が離れてて良かった。

「は、はあ」

「返事は『はい』だ」

「は、はいっ」

「よし。でははじめろ」

無事に出現する。だが教官は厳しいようでお叱りを受けた。

「セシリア、武装を展開しろ」

ん?オルコットから変わった?……意外と気分屋だからしかたないか。ちなみに、ライフルを展開するのは恐ろしく速かったが、ポーズと格闘武器でお叱りを受けた。

「次、清水だ。納得できなかったら、分かるな?」

さっきのことを根に持ってる様子。というか相変わらずエスパーだなぁ。

「はい。何を?」

「連続で何個かやって見せろ」

「了解しました」

まず右手に六十口径ショットキャノンを展開。同時に左に170cm大型ソードを展開。次に両手にマシンガン、次に左に槍、右に拳銃。皆驚きの表情。教官すら驚きの表情。

「両手展開とはやるじゃないか」

本当に驚いたように言う。でも残念なことに、

「技術の進歩ってすばらしいですね。実は反則でシステムのサポートを受けてました」

皆がガクンとなる。教官は一発俺を殴っただけだ。防御が働くはずなのにかなり痛い。打つタイミングで防御を貫通する方法でもあるのだろうか?達人にしか出来ないみたいな。ちなみに、このシステムは高速切り替え戦闘をロマンとする人たちが組んでくれたもの。とは言え、無い方が最終的には早くなる。一個出すだけならセシリアの方が早いしね。両手一気に出せるから1.5倍ぐらい早いけど。ともかく、練習として使ってるわけだけど、そろそろ限界速度に近づいたので調整しないといけない。ぱっと一回変えるだけならいいんだけどね。

「では真面目に」

ライフルばかり使うわけではないので、色々とそれなりの速度で出せる。これでもIS適正はB+だ。一夏がBで俺がB+なのはおかしい気がする。ま、最初の基準みたいなもんだし生長速度は違ってくるだろうけど。あ、これでも展開速度の上達は早い方だと師匠は褒めてくれた。昔から器用貧乏な性格だし。

「まあ、そんなものか」

特にお叱りなく終了。だが意味無く殴られた。阿呆な事は考えないようにしようと思った。

 

 

 

 「というわけでっ!織斑くんクラス代表決定おめでとう!」

「おめでと~!」

「ありがたや~」

「お前は何だ!?」

少しボケただけだ。たまにはボケたい時もある。つつがなく女子たちのトークが進んでく。人気者だなと一夏を箒がやっかんだりする。そこに

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生二人に特別インタビュー!あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。これ名刺」

二枚渡される。

「ではずばり織斑君!クラス代表になった感想をどうぞ!」

一夏は困ったことがあれば俺に頼ってくる奴だが、こうったときにはしっかり自分で答える奴だ。

「えーと……なんというか、頑張ります」

不満の声が鳴る。それに対して一夏が前時代的な返しをすると、まだ不満なようで適当に捏造しておくらしい。おい、ちょい待ち。

「では、もう一人の清水希君!織斑君がクラス代表になってどう?」

「ま、中学のときからの腐れ縁ですし。勝てるように訓練の相手もするつもりですし、作戦も練りますよ」

ちなみに一夏の場合作戦を組むのは簡単だ。だって斬るしか攻撃手段ないしね!!作戦もくそも、相手の弱点を伝えるだけだ。

「えっ、まさかこれ」

「女だけの学園に禁断の……?」

「これが噂の腐れ縁……?」

「テメーラの頭のが腐ってるわ!!」

ついつい後ろに向けて絶叫した。一夏は何も分かってない様子。全く、この手のやっかみがなんとも多いことか。一夏がホイホイ俺に付いてくるのが原因だけどね!

次にセシリアが求められてそこからキャーキャーワーワーの事態になった。一夏とセシリアとツーショットかと思ったらクラスの女子が割り込んだり、皆で牽制しまくりだった。連携能力が相変わらず高い。さすが千冬さんのクラスは一味違う。

「じゃ、最後に男二人で仲良くお願いね」

「あいさー」

近寄って隣に並ぶ。肩に腕を乗せ……乗せてきてる?確かにいつも乗せてるけどね。

「この状況で肩に腕を乗せるのか?」

「俺とお前の仲だろ?いつものことだろ」

お前のイケメンっぷりは分かったから。腐海を広げる真似はやめてくれる?このときぐらい乗せるのやめてもよくないか?腐ってやがる、遅すぎたんだになるんだけど。

「はい、チーズ」

見せてもらった写真にはセシリアと箒が写っている。加工すれば二人だけの写真にはなるだろうが。それより、二人を手招きしてとても大事な事を確認する必要がある。

「ねえ、疑ってるの?君たち、ねえ?」

「いや、その」

「一瞬頭をよぎってしまいまして」

何をだテメーラ。ぶっ飛ばすぞ。最大火力で。絶対防御ぶち抜くぞ?

「だとしたらいけないと思ったら」

「いつの間にかこうやってしまいまして」

二人とも息ぴったりに言い訳をしてくれた。

「あのね、俺ノーマルだし。一夏もノーマルだからね。ライバルは今の所二人だけだからね?」

「何の話してるんだ。さあ帰ろうぜ」

これが原因なんだと思うと悲しくなった。

 

 

 

 「しみずー。ねえ、転校生の噂聞いたー?」

一応、一夏はモテモテハーレム野郎だが、クラス全員が惚れているわけじゃない。倍率高いから諦めている女子や、あまり興味ない人。腐海の住民も。そしてこうしたのほほんさんとか。セシリアと模擬戦をして勝ってから、一夏を通じない交流もそれなりに増えている。のほほんさんはその前から交流があるけどね。当たり前だけど、普通の男女の友達感覚。……ですが、誰構わず抱きついてくるのやめてくれません?あなた意外とスタイルいいんですから。腕取られないように気をつけてるんだけど、この子武術でもやってるのだろうか。踏み込みといい、相手の間合いの取り方といい……俺が無意識に腕を取られようとしてるって可能性も否定できないが。むしろこっちのが高く思えてきた。男は皆スケベ。

「へぇ、珍しい。今の時期にか」

「そう、何でも中国の代表候補生なんだってさ」

中国か、思い出すな。アイツを。

「あそこはどんな武器だっけ?」

「衝撃砲とかじゃなかった?でも第三世代の機体を持ってくるかはわからないよ?」

そうだそうだ、それだ。でも確かにそうだよな。でも途中転校だし可能性高いと思うけどな。実戦レベルで投入可能になって乗り遅れる形でやってきた、ってところじゃないだろうか。

「そうだった。もし第三世代だったらぜひ見てみたいな。どこのクラスか分かる?」

「そこまではまだ分からないみたい」

「ま、そのうち分かるか」

その後数人と他愛の無い雑談を繰り広げていた。一夏も隣で同じような話をしており、箒に転校生が気になるとかいって怒らせていたが。……いや、さすがに一夏は悪くないな。血気はやすぎるだけだ。彼氏彼女の関係になってたら気持ちとしては分かるけどね。が、そこにセシリアも乱入。俺ものほほんさんも一夏の会話に加わりながら話は進み、

「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよ」

油断すると落ちるのがこの世界だけどなぁ。とくに一夏の機体は欠陥機体だし。攻撃特化とかロマンあるとは思う。特化機体とかゲームでは良く使うけど、現実となったらやはりバランス型が最もベターといわざるをえない。場合によっちゃ特化機体も強いけど、その状況に持ち込むには技術が必要だからだ。そして技術を磨くのは難しい。千冬さんがいい例だ。

「--その情報、古いよ」

耳を疑った。一年前ぐらいまで良く聞いていたその声。またいつか聞く事になるだろうとは思っていながら、まだまだ先のことと思っていた。だが、今、その声が聞こえた。声の方を振り返る。

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

腕を組み、片膝を立ててドアにもたれていたのは

「まさかこんな所でねえ、久しぶりだな。鈴」

「鈴……?お前、鈴か」

「そうよ。中国代表候補生、鳳鈴音(ファン・リンイン)。今日は宣戦布告に来たってわけ」

「何格好つ……じゃなかった」

なぜか一夏は俺の方を見て頷いてから、また鈴に向かった。

「いやぁ、背伸びたんじゃないか?」

「そ、そう?……一年も経つものね」

まんざらじゃない様子。気になる男子から背伸びた?といわれて喜ばない奴はいないだろう。

「会えなくて寂しかったぞ」

「さっ!寂しい!?」

すごく慌てふためいて顔が赤くなり出す。乙女の思考回路ではもっと飛躍してるのではないだろうか。それにしても、あれまさかコイツ

「一年前より綺麗になったんじゃないか」

「あ、ありが……ありがと。あ、アンタもかっこよく、なったじゃない。その、希もね」

顔を真っ赤にしながら鈴が大人しくなる。そしてモジモジしながら一夏と俺を褒める。この状況でも俺を褒めれるとは。昔より精神力上がったな。一夏だけにかまけてないで俺もダチとして思ってくれてることに心が温まる。

さて、現実見ようか……あのさ、この状況で言えるってすごいよね、一夏。俺が前言ったことこんなときばかり実践しなくても……。箒が俺を睨んでる。目が『余計なこと言ったな』の断定系。そりゃ一夏がこんな気の利いたこと言わないよね。男に対しては言えるんだけど。同姓に対しては察しがいいことに定評のある一夏。ともかく、箒から目をそらした……先にセシリア。目が『余計なこと言いましたわね』の断定系。目をそらして大人しくなって可愛い鈴に顔を向ける。和むわぁ、猫みたい。頭撫でたら怒られるだろうけど。

「そっ、それじゃあまた後で!逃げちゃ駄目なんだから!!」

恥ずかしさに耐え切れなくなってだっだっだと逃げていった。悲鳴を上げたのは苦手な千冬さんに遭遇したからだろう。それにしても

「アイツ、IS操縦者になったんだなぁ、驚きだよ」

本当に驚きだ。本当に。感覚で言えば一年前の女友達が何らかのスポーツ世界選手権に出場候補となってやってきた感じだ。しかも突然始めたスポーツで。

「だよな、あの鈴がだなんて」

一夏は感慨深そうに腕を組んでいた。これからの地獄の前にはその余裕は続くのだろうか。女三人集まれば姦しいと言うが、同じ男を好きになった女が三人集まればもはやそこは修羅場以上の何かだ。傍から見ててうらやましいと思うのは、最初の一時だけの、修羅場だ。

「……一夏、今のは誰だ?それと希、話がある」

「い、一夏さん!?あの子はどういう関係で?それと希さん、話がありますわ」

予想外、俺の方は地獄のようだ。修羅場よりマシと言えるか否か。この時間は千冬さんが残り数秒で来る、SHRの間に全力で対策を立てないと……。


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