IS学園で非日常   作:和希

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ちょい短めです


43話 家庭

「…………」

 

 

 彼女は家の前に立っていた。心臓をばくばく鼓動させながら表札を見つめる。

 『清水』と書いてあった。

 

 

(大丈夫、大丈夫。準備は完璧っ! まだ朝の10時、昼ご飯の食材も買ってきてる、夕ご飯の食材は持ってきてない。でも、それは後から一緒に買いに行くための布石! 着替えも念のために準備してるし。その、下着も。何があってもいける!)

 

 

 シミュレーションは完璧だった。完璧も完璧。いつものIS学園の状況とも違う。シミュレーションでは邪魔者は誰も入って来ていない。と言うか実家に入ってくる邪魔者はどんなのがいるのだという話だ。

30秒ほどで玄関が開いた。

 

 

「いらっしゃい。どうぞ」

 

 

 あまり見かけない私服姿。長ズボンに半袖の気楽な、いかにも希らしい恰好であった。

 

 

「お、お邪魔します」

 

 

 木造ではない、今時流行りのブロックっぽい素材が周りに埋め込まれた家の二階建て。車などが置いてある場所には何も無かった。玄関から居間に移動し、ソファーに座った。

 

 

「はい、麦茶」

「ありがとう。……部屋、結構綺麗だね」

「昨日から掃除したし。それに、俺の部屋の家具以外の荷物は全部持ってってるから」

 

 

 希は昨日家に来るかとシャルロットに聞いたあと、夕方ぐらいに実家に帰っている。掃除できる時間は短かった。

 だが彼の両親が引っ越すときに色々と持って行ったので物が少なくなっている。だから掃除機などを使うだけで綺麗に片付けることができた。

 

 

「えっと、それで朝ごはんはどうしたの?」

「昨日買って置いたおにぎりで済ませた」

「もう、体にあまりよくないよ?」

「一回ぐらい大丈夫だって。それよりその袋……ああ、ありがとう。お願いする」

「うん、任せて!」

 

 

 中身も見ずに推察した希。わりかしいつも通りである。

 

 

「夕飯は? その前に帰る?」

「夕飯も、食べていきたいかな……なんて」

「あー、うん。大丈夫。でも夜には帰る予定だけど」

(相変わらず隙を見せないなぁ、希は)

 

 

 大方予想通りだったのでそこまで落胆はしなかった。

 

 

(でも大丈夫、焦らないで地道に行けば大丈夫……でも早いほうがやっぱりいいなって)

 

 

 一夏と違う点、そう、ライバルがいないのだ。そして詰みもない。そう、これは詰めるまでずっと続けられる詰め将棋と一緒なのだ。

 

 

「えっと、まだお昼ご飯まで余裕があるね。前言ってたゲームをしてみたいなって」

「うし、じゃあ上に来て。俺の部屋にあるから」

(の、希の部屋!? 少し探索してみたいなぁ)

 

 少しだけ危ない思考であるが彼女は全く気にしなかった。

 

 

 

 

「よし!」

「あー、負けちゃったー」

 

 

 当然だ。いくら代表候補生とかでハイスペックとはいえ、今まで殆どゲームをしたことがない人間に負けるなどありえない。事実コスト1000のガンイージャーをアシスト機体無しで使ってコスト2500の衝動に勝った……そろそろ危ないかなー、開始30分でこれか。シャルは今までろくにゲームしたことないのに。って言うか衝動は上級者向け機体

なんだけどなぁ。

 

 

「希って強いね」

「20人いたら1番目ぐらいにはね」

 

 

 やりこんでる人には到底じゃないけど勝てない。上級者とか相手しててどうなってんだよ!? と思うことがしばしばある。

 

 

「やっぱり強い人は強いの?」

「やっぱ現実世界と同様才能もあるけど、数十人の中で一番のレベルを目指すなら努力だけでいける。強い人は何か違う。壁を感じる」

「どこの世界でも上は凄いね」

 

 

 と言いつつ30分経過。アシストをフルで使ってやっと一回死んだら一回殺すぐらいの互角の戦いになった。さらに30分するとこっちが1回落ちたら向こうの体力が半分というぐらい。さらに30分でほぼ互角になった。

 

 

「さすがに慣れるよ!」

 

 

 そしてソード衝動に突きをくらい倒された。

 

 

「あー、負けた……っと、こんな時間か」

「あっ、ほんとだ! 12時過ぎてる! 今すぐ作るね。……あ、そうだ。希の昨日のパックに全く似てなかったけど、違う機体なの?」

「うん、違う。こっちの機体はコスト1000で一番使いやすい機体で、昨日言ってたのとは違う」

「なるほど、後からまたやろうね」

「うん、分かった。じゃあ何してればいい?」

 

 

 基本全部シャルが作ってしまう。手伝おうとしても「僕の場所なの!」と言って拒否される。

 

 

「適当にしてていいよ。久しぶりの家なんでしょ? 色々しておきたいことあると思うけど」

「あー、うん。そうする」

 

 

 ひとまずキッチンに移動して、使っていいものの説明をしようとして、全部使っていいんだったと思いなおした。大雑把な位置を教えた後、それぞれの部屋を回った。なつかしさを思わせる小物がいくつか残ってたけど、多くは消えていた。随分昔のように思うけど、実際には5ヶ月ぐらい前の事だ。でも、これも随分昔の事の範疇に入るのだろうか。もうすぐ半年が過ぎようとしてる。あの日から。

 もう、なのか? まだ、なのか? そんなのは判断できないけど、今の日々には満足している。だからそれでいいのかなって思った。

 でも、見つけた。俺の部屋に戻りふと気付いた。昔懐かしい漫画を読みながら、これもIS学園に持っていかないととか思っていたら俺のアルバム写真が映った。家の中を見回ってきてもアルバムとかは全部なかった。でも俺の部屋の物だけは何一つ無くなってなかったから、このアルバムも残ってたのだろう。ペラペラとめくろうとする。だがその時、

 

 

「希、出来たよ」

 

 

 下から声が聞こえた。いつの間にか一時間ほどは経っていた。漫画読んでるときの時間の速さって異常に思わない? どう考えてもおかしい。あと二倍はあっていいはずなんだけど。体感的には。

 

 

「分かったー」

 

 

 せっかく来てもらったんだ。アルバムを持って下に降りていった。テーブルの上を見ると、今日は和洋折衷のようでご飯、ポトフ、豚の生姜焼き、サラダだった。俺が基本色々食いたいスタンスなのでそれに合わせてくれてる。そして、それでいて栄養バランスもとれていると本当に圧倒的感謝。

 

 

「ありがとう」

「どういたしまして」

 

 

 いつも通りの言葉、言葉のキャッチボール。でもその当たり前が重要なんだって思う。ちゃんと感謝して、その言葉にどういたしましてを言い返してくれる。日常ってのは積み重ねだから。

 

 

「それで、それは何?」

「これ? アルバム。一冊だけ俺の部屋にあったから。どうせ来てもらったんだし、どうせならって持ってきた」

「本当!? 嬉しいな、ありがとうね」

「食事が終わったら一緒に見よう」

「うん、じゃあいただきます」

「いただきます」

 

 

 

 30分ほどで彼らは食事を終えた。希は皿洗いまでさせるつもりは無かったが皿洗いもやると言い張ったので二人で皿洗いになった。そのときに恒例の精神攻撃(新婚さんみたいだね)を撃たれてそれをいなすなど、日常を謳歌していた。そして全てが終わった後、

 

 

「うわあ、可愛いね」

「そうか? こんなもんだろ」

「ううん」

 

 

 ペラペラとアルバムをめくりつつ、時々シャルロットが声をあげる。

 

 

(懐かしいな。にしても、シャルに対して家族についての事は声かけにくいし)

 

 

 母は死別、父とは和解したようだがそれでも進んで話すような事じゃない。だが希から何か感じ取ったのか、

 

 

「あのね、僕もアルバムはあるんだよ? 12歳ぐらいまでのしかないけど。あっ、もちろんフランスの実家に置いてあるんだ」

「それは、ぜひ見てみたいな」

 

 

素直な感想を呟いた。シャルロットは少し笑って

 

 

「嬉しいな。今度持ってこれるなら持ってこようかな」

「いや、いい。将来、いつか行くから。その時に見せて欲しい」

「そ、それは嬉しいな。僕の生まれた場所を、見て欲しいし」

 

 

 微妙に沈黙が続いた後、またアルバムをめくる音が静かに響きだした。そして最後の写真まで見終わった。

 

 

「すごく満足出来たよ」

「そうか、なら良かった」

 

 

 希は天井を見上げた。その眼は力なく揺れていた。

 

 

「どうしたの? 大丈夫?」

「あ、うん」

 

 

 その言葉もシャルロットに一閃された。

 

 

「嘘。もしかして……家族の事?」

「……良く分かったね」

「希のね、心が叫んだような気がしたんだ」

「そう、か」

「家族について何を悩んでるの? 弱みを見せたくないとか言っちゃ駄目だよ?」

 

 

 先回りされると、希ははーっとため息をついて、

 

 

「長いこと会ってないのが寂しい……ってのは確かに少しあると思う。でもそうじゃないんだ。箒が前言ってた。姉さんを恨んでると思うって言ってた。それがなければ今頃一夏ととか思ってただろうな。どっちにしろ無理だろうけど」

「何気なく酷い事言ってるね」

 

 

 シャルロットが苦笑した。希はそれをはっと笑い飛ばしながら

 

 

「多分事実。まあともかく……俺がISに乗れさえしなければ、こんな事にはならなかった。俺は非日常を望んだし、その結果の今にも満足してる。これ以上の満足はないってぐらいに。でも父さんや母さんはどうだったかなんて分からなかった。昔からの友人とゆったりやったり、会社で働いたり。そんな日常を望んでたかもしれない」

 

 

 彼はISに乗った次の日にはバラバラになったのだ。ろくに話さえせずに別れたのだ。

 

 

「多分、良いことだと思ってくれてると思う。でも、それでもなんか不安だなって。会えるけど会うことが不安で……」

 

 

 それからしばらく沈黙が続いた。だが突然にシャルロットが立ち上がった。

 

 

「なら会いに行こうよ! 明日にでも!!」

「えっ!?」

「希だけじゃない。僕も付いてく。ううん、僕だけじゃない。皆も誘って! 希はこんなにいっぱい立派な友達が出来て、皆が希に助けられてきたこと! 希がすごく立派だって事! そうすれば良い事だって言ってくれるよ! 何なら僕が希に救われた事を言ってみる!! そうすれば希のご両親だって良くやった、頑張ったって褒めてくれるよ! だから!!」

 

 

 シャルロットは手を伸ばした。

 

 

「……っはぁ、滅茶苦茶な理論。でも、いいな、それ」

 

 

 そして希は握り返した。

 

 

 

 

 その日はそのまま帰ることになった。そして学園でこの事を皆に伝えると全員が参加すると言ってくれた。電話で政府を通じて連絡を取り、面会できる事となった。


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