IS学園で非日常   作:和希

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三十五話 遠くても、近い

 夏休み。宿題をやらないならかなり暇だろう。予定を立ててやる人でもそこまで忙しくはない。部活をやってるかどうかが全てと言えるが。俺はそれなりに忙しい。企業から来る装備を色々使ったりレポート書いたりね。そこまで複雑のじゃないけどね。高一にそこまで複雑なのを求められてもって話。そして今、

 

「おっ、来た来た」

「随分でかいわね。また大火力でごり押ししてくるの?」

 

鈴がいやーな顔をしながら聞いてきた。一夏はまだ来ていない。ちょいと用事だとか。

ここで問題。昔の剣で斬り合う戦いの時には現代の兵士に占める少年兵の割合より多かったか?ちょっと抽象的な質問だけど。

答えは今より少ない。

ちょっと考えると当然だ。もし小学二年生とかの年齢の子供が重さ何kgもある刀を持って振り回してきても男子高生程度なら十分素手で勝てるだろう。それと同じ。子供は白兵戦じゃ役に立たない。そして、少年兵が出てきたのは、銃などの武器が登場したから。使用者同士の技術・体格・その他の戦闘力を飛躍的に縮める事が出来る兵器が登場したから。いや、一部じゃさらに技術の格差があるけど。でも、平均的な強さはずっと高まった。

俺の戦法もそれ。他のISよりいい武器を使って、火力を投射して腕の差を詰める。シンプルだからこそ効果的な方法。小細工はある程度対策も取られる。でも火力の差、技術の差はシンプルだからこそ詰めにくい。もちろんある程度は縛りプレイしてるけど。そうしないと武

器の扱い方とかを学べないし。

 

「んー、今回はちょっと違うかな。新しいバックパックがやって来た。とは言っても企業で何度も使ってるけど」

 

とうとう学園にまで送ってきてくれたようだ。終業式の前に最終調整が終わったから。そう言うと鈴はもっといやーな顔をした。

 

「それで、どんな面倒なパックがやって来たわけ?」

「火薬推進兵器があっただろ?あれをメインに使う武装」

 

そう言うといやーな顔じゃなくてキッと睨んできた。裏切られた!みたいな顔。

 

「だから、無茶しすぎないでって言ってるでしょうが。いい加減ぶっ飛ばすわよ」

「腕をこきこきならさないで欲しいな。で、火薬推進兵器がメインだけど、機体を推進させるわけじゃない。体への負担はパック無しのと同じ。少ないタイプ」

「へー、何よ?」

 

ちょっと興味が沸いたような眼で見てくる鈴。まあ猫みたいで新しいのとかにもそれなりに興味を持つやつだし。というか新しいのに興味を持たない人は少数派だろう。どんなものだって見てみたいはずだ。親指でくいくい送られてきた箱を指して

 

「実戦で試せばいいだろ?一夏が来るまで遊んでようぜ」

 

 

 

 

 「じゃあ始め」

 

希と鈴はそれなりの高度で、100mをまたいで対峙をしていた。いつも攻めるタイプの鈴は中々攻めようとしない。二人はじっと動かないままだった。

 

「鈴、動かないのか?」

「……遠距離タイプのバックパックじゃないようね」

「へぇ、どうして?」

「アンタならいやっほーとかいいながら、最初にぶっぱしてくるでしょ?もしくは本当は遠距離でここぞというときまで隠すか……よし、覚悟は出来たわ。行くわよ!」

 

瞬時加速を行い、鈴は一気に距離を詰めた。弾幕を張られると厄介なため一瞬で近づいて接近戦が最も効果的だからだ。ただ、希は遠距離武器を取り出さなかった。取り出したのは槍。シンプルなタイプの槍だが、太さは直径10cm、長さ3mに迫る槍だ。槍、というより尖らせた鉄棒と言った方が近い。とは言ってもISのサイズから見たらちょうどいいぐらいではあるが。希はその槍を鈴に向け

 

「__!?」

 

前触れは無かった。槍を投げたわけでもなく、ただ真っ直ぐ射出された。鈴は咄嗟に横に回避した。瞬時加速が終わっていなかったら直撃ルートだった。

 

「……なるほどね。火薬推進の刀だけじゃなくて、槍……他にもあるの?」

「やっぱ戦闘の時は頭働くんだな。大体そんな感じ」

 

(でも、それでもバックパックの効果とは関係は無いわ。自由パックでも火薬推進武器は使えてた。となると、他の機能?)

 

「来いよ鈴!銃を捨ててかかって来い!」

 

くいくい手を動かしながら希が言い切った。

 

「持ってないわよ!第一あんたにだけは言われたくないわ!!」

 

一番銃器を使ってるのは希である。シャルロットよりも使っている。キレ気味に接近戦が始まった。希は刀を二本取り出し、鈴と打ち合う。希は火薬を使い高速かつ重い攻撃を繰り出せる。自分のライフを削りながらという仕様ではあるが。

 

(ひたすら耐えればいいわ。そして希の表情がにやけた瞬間が勝負!希が取った、そう思った瞬間一気に決めてやるわ!あのドヤ顔をぶん殴って鼻を明かしてやるわ!!)

 

勝負は拮抗していた。途中途中で刀を投げ捨て鈴に当ててくるが、全て弾ける。確かに早い

が、銃よりは断然に遅い上に的は大きい。一番最初にやられたなら不意打ちでくらうかもしれないが、一度見てしまえば回避するのはたやすい。手品の種も知ってしまえば簡単だと分かるのと同じ。

空を二人は自在に舞いながら戦う。エネルギーは同じ速度で削れて行く。

 

(中学の時からかなりデキるやつって思ってたけど、本当に出来るわね。でも、やっぱり何か惜しいわね)

 

「ハァッ!」

 

鈴の蹴りが希の腹部に直撃、吹き飛んだ。

 

「もらった!」

 

それに追いすがり、防御一辺へと追い込む。勝負の流れがここで変わった。同じ速度で削れていたエネルギーだが、希の消費速度が鈴より明らかに増えだした。

 

「やっぱ強いな、鈴!」

「五カ月ばかりの素人とは違うのよ!」

「だよな!」

 

ワイヤーを四本まとめて射出した。三本をかわして残りの一本を握り、鈴はそのまま引き寄せようとする。希がそれにのっかかり、一気に距離か縮まった。

 

「「ハァッ!」」

 

二人が同時に打ち込み、希の刀が上に弾け飛んだ。

 

「もらっ__」

 

その時に気付いた。希の表情が、にやけている。

直後だった。火薬が爆ぜる音か聞こえ、鈴に衝撃が走った。一発二発でなく、五発近く。地面に叩き付けられ、さらに追撃が入り勝利判定が下った。

 

 

 

 「何よ!あんなの!あんな大量に量子展開できるわけ!?そのパック!!」

「前見せただろ?両手にぱっと量子展開する奴。あれを発展させて量子展開の範囲と速度を

上昇させたんだ。ISから半径3m以内。展開速度はシャルと同じぐらいだけど、同時に五つぐらいまで出来る」

 

タネはこうだ。わざと刀を弾きあげられたと同時に空中に槍を五本展開。展開できる位置ギリギリから。

 

「もちろん物体……固体と言うべきか。そういったのがあるとこに量子展開とかは不可能」

「で、何が弱点なの?」

「一個とかなら問題ないけど、五つ同時展開しようとするとエネルギーが30ぐらいやっぱ削れる」

「相変わらずアンタの身を削る戦法どうかしたら?」

 

確かにそれは言える。幻影機動もこれもエネルギを削り、自由パック・火薬推進型は自分の体を削る。相変わらずの仕様。一夏ほどではないけど。

 

「でもこれでいいんだよ。安定性は第三世代最強だから。その分こういったパックを増やして問題ない」

「はー、めちゃくちゃね。でもそれ、遠距離で役に立つ?」

「ははは、もちろん役に立たない。ミサイル一斉発射とかは出来るけど、そのたびエネルギー削るのもね」

 

大きいの一個出すより小さいの五つをバラバラで出したりするほうがよっぽど手間がかかるらしい。数十発入ってるミサイルポッドより体積はさっき五つ量子展開した方が少ないが、連結されてるかされてないかで手間がかかるとか。

エネルギー消費は

たくさん小さいの召喚(つながってない)>>>大きいの召喚(つながってる)>>小さいの召喚だとか。

 

「相手に合わせて換装、確かに便利よね」

「とはいえ、俺の三つのパック全部近接型だけどな」

 

そう言うと鈴は確かにと

 

「確かにそうよね。遠距離パックは作ってるの?」

「ブルー・ティアーズと似たようなのを。複数あってティーアズそっくりとかガンバレル型でミサイルや機銃内蔵したのにするとか。バリアを張れるとか色々やってるようだけど」

「……アンタの企業本当にフリーダムよね」

「大資本って正義って事」

 

IS関連企業で世界大手の一つ。その中でさらに博士が所属していて、資本力はアメリカの最大大手と同等、そして子供の頃からロボアニメに憧れ続けた研究者たちが日夜を問わず働いている。負ける要素が見当たらない。

 

「アンタが言ってたけど、やっぱり補給って大事よね。私ももっといろいろ欲しいわ」

「スロット四つ程度なのにどうこう悩む?」

「気分よ、気分。っていうか四つだから悩むのよ」

 

とは言えこいつ普段全く使ってないような……たまに使うけど習熟度は俺より下ぐらいだ。苦手、なのだろうか。

 

「俺は悩むけどそこまでじゃないもんな。第一、お前たちはこの頃他の事で悩んでるから仕方ないか」

「アンタこそ他の事で悩んでるでしょうが」

「……やめようぜ、不毛だ」

 

そう言うと呆れたように鈴は言う。

 

「始めるのはいつもアンタよ」

 

全くもって正論だった。

 

「おー、さっきの試合見てたぜ!」

「また奇妙なパックを持って来たのか。まあ、希らしいことだ」

 

 

 

シャルロットが出て行ってから三日目

 

 「あー、なんか調子でないなぁ」

 

体がだるいと言うべきか。夕食をいつものメンツ(シャルとセシリア除く)と食事をしてたらつい呟いてしまった。さっきの新装備のテストも最初以降はいつもに比べ負けが込むし。

 

「夏風邪かもしれないし、よく眠るべきじゃないか?」

 

一夏が気にかけてくれる。他の皆もそれぞれ同じように気にかけてくれる。だけど、何か違う。そういったのじゃない。何かが足りてないような気がする。

 

「なあ、シャ__」

 

シャルと言いかけてしまって、口を閉じた。シャルは今はいないんだ。隣の鈴は

 

「全くもう、やっぱり風邪でボケ……じゃないわね。多分、それが原因よ」

「それって何が?」

 

今ので何か分かったのだろうか。鈴は得意げに胸張って

 

「シャルロットがいないから調子が出てないだけよ。まったく、人騒がせなんだから」

 

あきれたと言わんばかりに鈴が言う。さすがに反論する。

 

「ちょっと待っ__」

 

「なるほど、それだ」

「それだな」

「それだ」

 

え、皆納得するの?それで?納得できるレベルのお話なの?

 

「あんた自身思い当たってると思うけど」

「えー、そりゃな……くないかもしれない」

 

よくよく考えたらそうかもしれない。大体朝に目が覚めてからすぐにシャルと合流して一日の大半が一緒で。しかも朝ご飯と昼食を作ってくれてる(たまに無いけど)。でも夕食を作ってくれたりする事もあるから大体飯の三分の二はシャルが作ってくれてる。更に追加でこの頃は手作りお菓子を渡して訓練のあととかそう言ったときに食べれるようになってる。マッサージもよくしてくれるし。そんなシャルがいなくなったら体調が崩れて当然じゃないのか?

ちなみに前に三食作ってくれた時はさすがに大変じゃないか?と尋ねたら「えっとね、将来の予行演習だから。大丈夫!」と頬を染めながら返された。精神ライフを一番削ってくのは一夏ハーレムズじゃなくてシャルである。

 

「……よくよく考えたらそれ以外あり得ない感じがする。生活を任せきってる気が……」

「あーあー、おあついわねぇ」

 

鈴が吐き捨てるように言った。他のメンツもさっきと打って変わって心配して損したみたいな顔をした。お前らひどくない?とか思ったけど俺も逆の立場だったら吐き捨てたくなるだろうなとか思った。

でも、このままじゃいけないなぁ。少しは何かやってあげたいし。……俺も手作り料理やってみるか。コツコツ時間をかけていけばまあ、それなりに出来るようになるだろう。

 

「何思いついたんだ?」

 

「ん?ただ、シャルに俺が手作り料理をふるまってお返ししようかなって思って。あ、これ秘密な?」

 

そう言うと皆が感心したように頷いた。

 

「さすがだな、希は。だが、料理できるのか?」

「いや、普通の男子中学生してたから料理なんて調理実習以外した事無い。だけど、企業には現役料理人みたいな人もいたし。母さんの料理も結構見てたから。色々参考意見を聞きながらやるよ」

「相変わらず建設的ね。あっ、アタシにも出来るならアドバイスしてあげるわよ」

 

全く、一夏にこれぐらい素直になれれば。でもその申し出はありがたい。

 

「ああ、中華料理の時には頼むかもしれない」

「勿論私もだ」

 

頼れる正統派武人っ子も協力してくれる。

 

「和食の時に頼むかも」

「私もだ、兄よ!軍隊料理なら任せろ!」

 

可愛い妹ラウラも協力してくれる。でもね、軍隊料理は作る予定ないんだ。

 

「ありがとう、遭難した時は頼むよ」

 

遭難時なんてこないけどね。無下に出来ないので笑顔で答えた。

 

「もちろん、俺もな」

「ああ、いざという時は頼むよ」

 

そして、一夏も協力してくれる。ああ、良い仲間に囲まれたな。これが平和だな……そう思ってた時期も俺にはありました。

 

「えっと、そうね。一夏。それでだけど、いつも料理作ってあげてるじゃない?たまには一夏が作りなさいよ」

「ん?いいぞ、腕が鈍ってないか心配だったし」

 

おっ、波乱の予感?他が出遅れた!みたいな顔をする。

 

「それだけじゃなくて、あたしもまだまだ上達したいから、アンタの料理一緒に見ていい?あたしが料理する時も見ていいから」

「もちろん。歓迎だ」

 

他二人が出し抜かれたという表情をして俺に顔を向ける。いやね、俺こんな作戦教えてないよ。そして感じた。鈴は少しずつだけど、前に歩んでる。自分で考えて攻めてる。あー、そうだな、俺たちは高校生だもんな。

 

「教えてないよ。鈴の力さ」

 

そう言うと二人はがっくりして考え込んだ。が、二人同時に

 

「そっ、そうだ!私も!私も一夏の料理が食べたい。料理するのも見たい」

「私もだ!」

「ん?いいぞ。三人作るのも五人作るのも同じだし」

 

あいつらも成長してるなぁ。久しぶりに一夏の飯が食えるか。

 

「……アンタら……」

「何か文句でも」

「あるのか?」

 

三人の牽制を見て、あー、大変そうだなとか思った。今日も平和である。

 

 

 

 

 そして11時頃

高校生にしてはまだ早い、けれど体を強くするためにもうすぐ睡眠しようとしたとき。携帯電話が鳴った。手に取るとシャルからだった。すぐさま取って

 

「シャル?元気か?どうなった?」

『うん、元気だよ。昨日電話しようと思ったけど、希の邪魔になりそうな時間だったから。希がちょうど寝そうで暇になった時だよね?今。どうしても声が聞きたくなって』

 

凄く嬉しいことを言ってくれる。相変わらず。

 

「邪魔だなんて思わないよ。それで、お父さんと上手くいった?」

『うん、それで今日も話し合ったよ。それと、時間はある?』

「もちろん」

 

シャルとの会話を断るなんてしない。

 

『よかった。それじゃ、お父さんと代わるね。どうしても話がしたいって』

 

えっ、ちょ、不意打__

 

『ふむ、君が希か』

「はい、そうです。娘さんにはいつもお世話になってます」

『前と全く印象が違うように感じる。まあ、それはいい。ひとまず、お礼を言わせてもらおう。ありがとう』

「いえいえ、別に。シャルが明るくなってくれると自分も嬉しいので」

『そう、それだ。その事だ』

 

どのことさ。

 

『二人は、付き合ってはいないのだな?』

 

これどうやって答えるのが正解なの?すっげえ難問。

 

「えー、あー、はい。付き合っていないというべきか、告白してもらって待たせているというか……」

『ああ、かしこまらないでもいい。別にどうこう言うつもりはないし、言う資格も権利もない。俺より君の方がシャルロットを分かっているはずだ』

「あー、そうですね」

 

絶対に否定できないし、否定したくないことだ。

 

『本当に君は正直だな。シャルロットに聞いたとおりだ。まあ、ともかくだ。その事についてはあまりどうこう言わん。ただしだ。シャルロットを弄んで捨てたり、悲しくさせるようなことがあれば……まあ、俺がそうさせてしまったが。ともかく、わかってるな?』

「安心してください。シャルは絶対悲しませんよ。もう、あんな気持ちはこりごりです」

『安心したよ。ではシャルロットに代わる』

 

ふぅ、一息つける。

 

『どんな事を話してたの?』

「シャルの事。まあ、それはそれとして。これからの予定は?」

『えっとね、今日もお父さんと話して。明日から三日間実家の掃除とか、墓参りとか。四日目で帰れると思う』

「分かった。それで、その……」

 

口に出すのがちょっと恥ずかしいというか。

 

『なに?』

「これからも毎日、この時間に電話してくれないかな?それだけじゃなくて、朝の7時ぐらいにも」

 

向こうとの時差は8時間。向こうでの夜の11時。たぶん、いいはず。そう言うとシャルはちょっと笑って

 

『さびしい?』

「……すごくね。シャルの手作りの料理を食べたい。髪の毛に触れたい。一緒の場所に居たい」

 

勝手に口が動いた。俺の顔は真っ赤になってるだろう。

 

『……僕も、寂しいよ』

 

多分、シャルも。

 

「それじゃ、気を付けて。お休み」

『うん。お休み。あっ!希からかけてくれてもいいからね?それじゃ』

 

ああ、明日はしっかり起きれそうだ。とっても重要な事が増えたから。

 

 

 

 

 

 「えっとな、俺もいるぞ?」

「うわっ!?」

一夏と同じ部屋だということを忘れてた


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