IS学園で非日常   作:和希

31 / 50
二十七話 悪夢の国の福音

 「まー、あれだね。今の話は紅椿のスペックをフルに引き出したら、って話だからね。でもまあ、今回の作戦をこなすぐらいは夕食前だよ!」

「朝飯より一日前ですか、時代を先駆けてますね」

適当な軽口であわせる。

「最速の女だからね!きみ、結構頭回るね。IS乗れるだけじゃないんだね」

「それが取り柄ですし」

「それにしてもアレだね~。海で暴走っていうと、十年前の白騎士事件を思い出すねー」

「束博士が自作自演をしたアレですね」

その瞬間、空気が凍った。正直、気が立っていて頭で色々考えたり自制する気分じゃない。イライラしてるとこういった気分もあるよね。考えずに口からどんどん言いたくなるアレ。世に言う八つ当たりだろうか。

ちなみに驚くようなことじゃない。ずっと前から、ネットでこのような推測の話はあったし、何となく、確信した。

「ついでに言えば白騎士が千冬さんですよね」

千冬さんを見ると眼を逸らした。これでもう100%ってとこか。

「へー、しみずくん……いや、のぞみくんはどうしてそう思ったのかな?」

顔は笑ってるけど、目は笑ってない……?いや、笑ってるのか?ただ、先ほどまでの俺に向けられる視線と何か変わった気がした。実験動物からランクアップ程度?

「まず弾道ミサイルがハックされる、これはおかしい。各自でコンピュータが独立されてるはずなのにどうしてハックされる?束博士なら出来ますよね?小型の無人機忍ばせてハックするぐらい。ISの模型をナノサイズ分子サイズで作れるなら。当時でも」

そう、とっても分かりやすい理由。何かをするには技術が必要だ。核ミサイルとかをハックするなど、出来ると考えられたのはこの人だけなのだ。そりゃ他にもいるのかもしれないけど、この人以外ISを作れるような人がいるとは思えない。

「ISを作ったのは束さんですし、それぐらい出来るはずだ。なおかつ、テスターが必要なら小さいころからの親友である千冬さんを選ぶと考えやすい。だから白騎士さんは千冬さんだ。体格もほぼ似ていたし。そして長く付き合ってたから他の人よりISを熟知していた。ISの戦闘力は搭乗時間に比例するとかよう言いますよね」

実際には当然違うけど。乗ってれば強くなるのは練習した時間が多い分強いのと同じぐらいに当然だ。

「へー、どうしてそんなことする必要があるのかな?」

「初期はIS冷遇されてましたよね。でも各国のミサイルを叩き落して、さらに戦闘機も叩き落せば力を見せ付けれる。そんでもってミサイル、いくらISが超高速で動けるとしても、日本列島全てを覆うのは不可能。当時でもせいぜいマッハ2なんだから。ミサイルを全て一箇所付近に落とそうとしたのも自演っぽい。アレらは全て、束博士がISを世界に知らしめる為に行った大規模なデモストレーション。現在ある情報が本当ならこれが真実で、もし何か隠蔽してるなら違った結果が見えるでしょう。あなたが興味ある人以外無関心なのに何でそんなことするか疑問ですけど……なーんてねっ!俺の口からでまかせの大妄想でしたー。てへぺろっ」

「だよねー」

あははははと二人で笑いあった。十秒ほど笑いあった後

「じゃあ作戦立てましょうよ!IS開発者がいればちょちょいのちょいですね!」

「もちろんだよのぞみくん!」

「紅椿の調整はどれぐらいです?」

「たったの七分なんだ!」

「あらお早い。ですがお高いんでしょう?」

「何とおまけでタダなのです!」

テンションがぶっ壊れたように作戦が計画されていった。他の人は一切口を挟まなかった。

 

 

 

 

 「希、高速戦闘ってどうやるんだ?」

「ハイパーセンサー使えばもうOK。それぐらい知っておけば問題ない」

「ざっくばらんだなおい」

「普通のISと変わらんって。一瞬世界が遅くなるだけで、その後は同じ」

あっ、ちなみに。作戦は決まった。俺の追加ブースターがまだあるよ!とかノリで言ったら、じゃあもう一人プッシュだ!とか束博士が言って

「ぼ、僕も作戦に参加だね」

シャルロットに決まった。第二世代ラファールには適合するものの、他の第三世代は無理だった為だ。まあ、大和の装備とかは第二世代を第三世代に引きあげるように特殊パックとかを作ったから第二世代にはほぼ全部適合する。もちろん、普通のブースターもそうした共通設計になってる。

よって音速戦闘が可能な俺、一夏、シャルロット、箒の四人で突撃となった。なぜか他の専用機持ちは待機になっていた。いつの間にか言いくるめられていたようだ。というか、なぜシャルロットを出したんだ?……さっき散々まずい事言っちゃったしなー、何かたくらんでくるのかなー。

「よろしくな、シャルロット」

シャル、とはもう呼べない。シャルロットは一瞬眼を逸らしたけど、いつものような笑顔に戻った……ように見えた。

「よろしく、ね」

「さて、一夏。注意は二つ、ブースターの燃料消費、相対速度の変化による射撃武器の攻撃力。これだけ覚えとけ」

「分かった。シンプルで分かりやすい」

これぐらいでちょうどいい。一夏に対しては。

「ちょっと、私も入れなさいよ」

「このセシリアオルコットが教えて差し上げますわ!」

「軍人である私も教えよう」

頼もしい仲間もいるし、大丈夫だろう。

 

 

 

 「ねえ、希」

「なんだ?鈴」

作業をしながら鈴がぎこちなく聞いてきた。

「えっと、気のせいかもしれないけど……昨日何かあったの?」

ドクンッと心臓が跳ねた。それを表情に出しはしない。それで何気ない風に

「へー、どうして?」

理由を尋ねる。

「シャルロットがすごく落ち込んでるから。それで、何かあったの?」

「……別に。何もなかったよ」

勿論嘘だ。でも、これは俺の意地。かっこ悪い所を見せたくないし、心配させたくない俺の見栄。いつも俺は鈴の前では立派にやれてた。一夏のことで相談に乗ってた。だから、そのまま返した。

「……アタシはアンタの味方って事は覚えておいてね。いつでもよ」

他の作業に移った鈴と入れ替わりで、次にラウラがやってきた。

「兄よ。その、昨日シャルロットが泣いていたのだが……心当たりはないだろうか?」

入れ替わりで聞いてくるね。さっきまでの俺はとても話しかけにくい雰囲気だったってのものあるかもしれないけど。そうだな、ラウラにならいいか。ラウラには見栄を張ってもな。

「俺が悪かった。駄目だったんだ。それだけだ。シャルロットを頼むな」

「兄よ……兄は私を助けてくれた。色々教えてくれた。私も二人を助けたいのだ」

見上げながら、その目には不安が宿っていた。

「ありがとな。でも、大丈夫。これは俺たちの問題だから。俺がどうにかしないといけない。本当に、ありがとう。その気持ちが嬉しいよ。ただ、シャルロットを気にかけてやってくれ」

頭を撫でて、次に作業に移るように促した。不安そうな目のまま、次に作業に移って行った。あの、この中で最も軍にかかわってる(軍に所属してるし)ラウラが、非常事態なのにここまで心配してくれている。嬉しいけど、申し訳ないな。それにしても、この変化は喜ぶべきだろうな。あの時のラウラに比べて、ずっと柔らかく、女の子っぽくなっている。

ラウラは成長している。鈴だって。

小学生の時、高校生を見て大人だなと誰もが思うだろう。でも、高校生になって思ってみると、変わってないなって思う。

今、まさにそうだ。

俺は、変わっただろうか。昔から、悪い人じゃないのだろうか。

 

 

 

 

時刻は十一時半。七月の空は晴れ渡っていた。一夏と箒が呼んでISを展開する。俺とシャルロットは無言で展開した。

直後に

「なあ、シャルロット。危なくなったら退避しろ」

「怒られたいのかな?」

怒ったような眼を向けてくる。

「怒られてもいいから。分かったな?」

「無理だよ」

えへへと、微笑をした。そして真剣な眼をして

「希の方こそ、危なくなったら逃げてね。僕の方がISの経験は長いし、訓練も多く受けてるから」

「イヤだね。ともあれどっちも逃げたくないようなので、叩き落とすしかないな」

「そうだね……ねえ、昨日のことなんだけど」

「さっきの事の方が重要じゃない?」

もちろん、束博士が自演云々というお話。でも首を振って

「その事は驚いたけど、あまり興味は無いよ。昨日の方が僕にとってはよっぽど重要。ねえ、希は__」

「希、シャルロット。体調は大丈夫か。私たちは問題ない」

会話は箒に中断された。……箒の浮かれ具合が気になった。

「箒、注意しろよ」

「何を言うのだ?希」

どうやら、本気で言ってるらしい。……ま、こいつも普通の女子中学生?だったのだ。これぐらいの方が緊張感が消えていいかもしれない。ちょうどそのとき、通信が入った。

『全員、聞こえるか』

千冬さんの声。正直、司令官するより前線で指揮官するタイプだろうに。

『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心がけろ。そして、リーダーを清水に任命する。他三名は清水の判断で動け』

『えっ?シャルロットの方が経験は長いですよ?』

『そのデュノアを生かすにはお前が指揮をした方が良いだろう。腕が上のデュノアが力を振るいやすい』

やっぱり?だよね。他の理由としては多分、

『それと、お前が一番リーダー向きだ。目的は二つだ。福音の撃破と、全員の生還だ』

こういうことだ。俺が一番適役だ。

「了解しました。全力を尽くします。全員、大丈夫か?」

それぞれ問題ないの返答が来た。そしてその後、プライベートチャンネルが入った。

『どうも篠ノ之は浮かれているな』

「分かってます。いざという時はサポートをします」

『……最後に、お前自身も注意しろ』

「やっぱり?自分でも、危ないと思ってます」

他三人のリーダーとなった。他人の命もかかってる。だから遊び感覚、ゲーム感覚は一気に縮小したが、無くなったわけじゃない。それでも、一番リーダーがマシなのは俺なのだろうか。

表情を見るところ、次は一夏にプライベートチャンネルを使ったようだった。そして

『状況開始!』

同時に、俺たちは上昇した。

 

 

 

 

 「アレだな」

ハイパーセンサーで確認。

「一夏!接触まで10秒!!」

「了解!」

一夏と箒の後ろに俺、シャルロットと続いている。そのまま最大加速。一夏と箒は最大加速で、切った__と思ったらわずか数mmの精度で避けた。なんつう、ふざけた機体だ。俺の機動特化パッケージの背中の八枚羽は慣性制御などその他複数の機能を持って姿勢制御に用いてる。でも、こいつは頭部についてる一対の羽がそうなっているようだ。正直、機動性能は大和と同等、より下。防御力はこっちのが上か。間接の補助ブースターと背中の機動パッケージを用いればあれぐらい出来る、俺の師匠はやってた。俺にはまだまだ無理な機動だけど。正直、師匠クラスよりそこそこ下……世界クラス下位の相手と見たほうがいいかもしれない。

「一撃必殺は失敗した!一夏、なるべく体力を温存。箒は近接戦闘、シャルロットは中距離、俺は遠距離射撃。箒、エネルギー残量に気をつけろ、お前の機体が一番やばい。一夏は独自判断で攻撃に移れ。ただし、箒のエネルギーが100切ったらお前がメインだ。誰か一人でも負傷したら即撤退。そのときは一番エネルギーが多いであろう俺が殿を務める」

「「「了解!」」」

同時に全員が行動に移る。箒が果敢に近接戦闘をし、中距離からシャルロットが弾幕を浴びせる。遠距離から俺が六つの砲門で攻撃を行う。でも油断は出来ない。向こうは多数同時攻撃の武装があるらしい。そして、気付いた。羽の一部が、開いた。

「箒逃げろ!」

さっと、凄まじい機動力で回避した。だが少し被弾したようだ。その被弾したエネルギー弾は突き刺さった後、はじけた。……さすがアメリカとイスラエル。馬鹿みてえな兵器作りやがって!悪夢みたいだ!

「箒!近接戦闘一人でいけるか!?」

「難しいかもしれない!」

どうする?この状況……基本に立ち返るか。戦力の逐次投入は愚策。

「一夏!予定変更だ。お前も接近戦に入れ。誰かのエネルギーが尽きたら尽きた人間だけ撤退。二人切れたら相手の状況にあわせ判断!」

「分かった!」

一夏が刀を構えて突撃する。二人が追いすがる傍ら、シャルロットがショットガン二丁で弾幕を張り、俺が遠距離で阻害する。いくら軍用暴走ISでも、エネルギーが尽きるのが先だろうか。

「一夏!私が動きを止める!!」

箒から腕部装甲が開き、エネルギー刃が攻撃に合わせ自動で射出される。

「いまだ!」

「いけっ!」

俺とシャルロットの攻撃が炸裂した。その瞬間、大きな隙が出来る。苦し紛れに三十六の砲門を射撃するが、遅い。そこへ一夏が飛び込んで……海面へ全速力で向かった。瞬時加速と零落白夜で光弾をかき消した。……いや、なんでだ!?

「さっきまで漁船なんて無かった!?なんでだ!?」

レーダーで探索もしてた。そんでもって周りの海域は封鎖しているし、先生たちが見つけているはず。まさか、あの束博士か!上から漁船を見えなくするぐらい出来るだろう。小型の無人機とか普通にありそうだし。あの人なら!

そして、全く馬鹿だな一夏は!そこがいい所でもあるんだが、ここでは完璧なミスだ!

でも、まだ一夏のエネルギーは十分余裕がある。それでも、どうだ?もう一度隙は作れるのか?

「馬鹿者!犯罪者などをかばって……。そんなやつらは__!」

「箒!!」

「ッ!?」

「箒、そんな……そんなさびしい事__」

だが言い切る事は出来なかった。

「黙れ馬鹿一夏!そこがお前のいいところってのも分かるさ!でもな、今地球の裏で人が死んでてもお前は何も思ってないだろ!?今の違いは目の前にいたか居なかったかだ!」

無茶苦茶言ってるのかもしれない。地球の裏の人は助けれないけど、目の前の踏み切りで人が倒れてたら助けに行く人が殆どだろう。でも、そのときに自分も、他の奴も危険に陥る事を考える必要もある。

「目の前に居たから助けたかったんだ!!」

そのときだ、箒の動きが止まった。多分、一夏が言おうとした事が原因だ。好きな人からの心底残念そうな言葉、来るものがあるだろう。何となく分かる。そこに一夏が飛びつき……失敗だ。作戦は。いくらエネルギーがあっても、あれを多数直撃したらエネルギーの量なんてあるのも無いのも些細な差でしかない。

「「一夏!?」」

近くに居たシャルロットがカバーに入ったが、一夏は大きなダメージを受けていた。そして、箒も精神的に立ち直るのは難しいだろう。否定の言葉の上に自分のミスで一夏が怪我……駄目だな。福音も、攻撃を止めようとしてない。即座に通信を入れながら接近する。そして、会話よりずっと早く情報を伝えれるプライベートチャンネルを開く。

『シャルロット、二人を護衛しながら撤退しろ』

それが一番上策だ。

『何言ってるの!?僕も残るよ!』

『だから!そしたら二人が立ちいかなくなる』

方法はいくつかある。

まず第一に二人だけ逃がす方法。ただ、一夏は怪我だし箒は危険な状態。もし俺たち二人で抑えてても隙を見て逃げ出されたら危険な可能性がある。

次に二人をとどめて福音を二人で倒しにかかる。でも、お荷物背負ってアレは倒せない。

次に四人で撤退する作戦。お荷物背負って逃げるのは難しい。

だから、一人が残って一人が引率がいい。もし取り逃したとしても、一人が護衛についてるから十分時間は稼げる。それに、ある程度離れた後なら援護に来れる可能性も十分ある。戦力の分散は愚策だけど、負傷者がいるからには仕方ない。

だから、これしかない。

『第一、最初に言っておいたはずだ。殿は俺だって』

念のためだけど宣言しておいて良かった。でもシャルロットは諦めれないようで

『なら希も!希も一緒に逃げようよ!!』

駄目だ、シャルロットも錯乱気味か。俺が原因かもしれないってのは嬉しいけど、俺にその資格はない。

『最高の下策って分かってるだろ?』

四人とも共倒れ。それよりさっさと退避して二人を連れてってくれた方がいい。

『じゃあ、僕が残るから。希が!』

『俺が一番エネルギーが多い。行け』

『……いつだって、そうだ。僕は、僕は希を助けれない。だからなのかな……気をつけてね』

小さな呟きで、俺には聞こえなかった。でも、すごい落ち込みっぷりだった。ちょうど、シャルロットの前に割り込み、大型の盾を展開した。その隙に三人が撤退をした。それを見送った後、全神経を福音に集中させる。

「よろしく頼むわ」

「La♪」

いい返事だ。全砲門をこちらに向けてくる。さっきに比べれば劣る物の派手な撃ち合いが始まった。威力に勝るこっちの砲門と、数に勝る福音の砲門。箒の紅椿に迫る……いや、慣れがある分、紅椿以上の機動性を保ちながら砲撃を回避し、向こうもこちらの攻撃を回避する。いつしか、時を忘れていた。五分か、七分か。どちらも決定打にかけながらも思った。

生きていると実感できる感触、楽しいと思える感触。小さな手ごたえは柔道の試合の時から。勝負は勝っても負けても楽しめればいいが信条だけど、これは違う。負けたら終わりかもしれない殺し合い。その高揚感がすさまじく集中力を上げていた。いつもの俺よりさらにもう一歩、二歩も進んだ挙動。それでも、いやそれだからこそ感じてしまった。

これは負けるな。

こちらの攻撃はかすり含めてせいぜい五発程度。それに比べ、向こうは四倍近く当ててる。しかも、少しずつ増えてる。それに、エネルギーも残り五分の一切りそう。まあ、今回は負け戦だ。しょうがない。今から教師部隊に連絡でも入れようか。それとももうシャルロットが呼んでくれたか。さっき応援呼んでくれって言い忘れてたけど。全く、判断が遅かったなぁ。楽しくて忘れてた。

ともかく、煙幕の準備を整える。ばら撒いて一気に撤退。三人も十分に距離を取っただろう。追撃されても包囲している教師部隊と十分連携が取れるぐらいの位置まで。教師部隊は先に包囲に行ってたからプライベートチャンネル設定してなくて使えなかったけど、近距離通信ですでに出来てるはずだ。ISがダメージを受けてても時速600kmは出していたし。だから、もう十分。

「またな」

砲門を量子展開で仕舞う。少しでも軽い方が逃げるのにはいい。そして、撤退のタイミングは逃してはいけない。引き際を誤るのは駄目だ。グレネードと空中発射ミサイルを展開。大量にばら撒いて、空に雲が出来たかのようだ。そして

「La♪」

隣で音が聞こえた。……マジかよ、このタイミングで、瞬時加速かよ。それでも、俺の体は正確に反応してた。体の足を福音に向け、蹴りを放つ。でも……駄目か、スラスターがやられてる。大量の砲門が俺を向いて__

「のぞみいいいい!!」

シャルロットが、飛び込んできた。ゆっくり、コマ送りで見えた。こんなにコマ送りなら福音だって簡単に倒せるのに……。俺には二十秒ぐらい見えたが、現実では二秒程度だった。それでも、致命的だった。吹き飛ばされてきたシャルロットを受け止め、エネルギー防御が強い白盾を三枚同時展開。

「シャル!何で!?」

ああ、ミスだ。俺のミスか。多分、二人のうちどっちかが回復して任せてきたんだ。多分、箒が回復したんだろう。そしてステルスで隙をうかがってたらちょうど俺が危なくなったから……シャルは焦点を合わせないままに、

「ねえ、希の役に立った?……希はね、僕をいつも助けてくれた。でも、希を助けれた事は無かった。だから、僕じゃ駄目だったの?」

そういうことか、さっきのは。違う、違うんだよ。

「落ち着いて。今シャルは怪我をしてるから、静かに」

でも、聞こえていないようだった。ISの防御は貫通する事も結構ある。とくにアレは粘着榴弾とかと同じタイプ。普通よりIS操縦者にダメージが届きやすい設計思想なのだろうか。撃たれた位置-顎の下-によっては脳が揺れることもあるかもしれない。

そして、朦朧としたまま呟かれる次の言葉に俺は何も言えなくなった。

「僕は、希の事が好き。誰よりも、この世界の誰よりも。だから役に立ちたかった。下心があるは駄目なのかな?誰かに可愛いと思われたいと思われる事も、いい人だって思われたいって事も、悪い事なのかな?僕が希に可愛いと思われたいのも、役に立ちたいって気持ちも、一緒にいたい気持ちも。駄目なのかな……」

そしてシャルは気絶した。同時に、二枚目の盾がくだけた。

シャルに対してはひどいが、一番安全な海に落として、残りの武装全てで福音を落とすつもりだった。例え相打ちになっても。それしか、シャルが助かる道が無いから。

今までで一番の覚悟を決めた

けど、覚悟とは裏腹に福音はいきなり俺と逆方向に去っていった。




鈴には見栄を張りたいだけです。ラウラの方を信頼しているとかそういうのではなく
途中で希の呼び方がシャルに戻ったのは慌ててるからいつも通りの呼び方に戻ったと言うことです
ちなみに鈴は普段は私ですがここぞというときはアタシに戻る設定で

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。