朝、俺は一夏とシャルロットと食堂に赴いた。今日は何か気配が違うと思ったら、いきなり女子が来襲してきた。
「落ち着け、どうどう」
「ヒヒーン……って違うわ!」
ノリいいね、本当に。この学園の女子たち。
「これ見て!」
内容は実戦に近いように二人組みで!ということだ。あー、これは修羅場か。一夏の周りは望まずとも修羅場になる。望んで修羅場になる奴は畜生だろうけど。
「私と組もう、織斑君!」
「私と組んで、デュノア君!」
俺に対してはないようである。トイストーリー2で売られていくオモチャの前に悲しみで性格がゆがんだ鉱夫の気持ちが良く分かる。さてと、二人はどうするのか。
「実践的な模擬戦のため二人組で参加か、どうする?」
「「希!組もうぜ(よ)!」」
さっと二人は顔を見合わせた。
「一夏、ここはまだ親睦を深めていない僕と希が組むべきだと思うんだ」
「いやいや、俺の機体は特化だから万能タイプの希と組むべきなんだ」
「それに、僕達同棲してるから!僕達はチームプレイを磨きやすいんだ!」
同棲って言い方はやめようね?おかしいよ。周りの女子たち一気に視線が移ってきたんだけど。囁き声も聞こえだしたよ。
「このごろ希といる時間が少ない俺に回すべきだと思う」
「特化とバランスならお前た__」
その瞬間思い出した。この先面倒ごとになるかなと思ってため息してる場合じゃない。シャルロットとは俺が組まないといけないんだ。この子、男装女子だ。
「悪い、他の女子に遠慮する面で俺はシャルルと組むわ」
「そんな!?」
絶望した一夏の声が響く。男三人(実質俺がどうでもいい扱いなので二人)からあぶれて一人になった。女子たちの恰好の獲物だ。傍から見るとうらやましいと思うだろうけど、一日間近で見てれば間違いと気付く。三日で同情し始める。
「やった!」
嬉しそう+やった顔のシャルロット。でもね、これすごい被害広がったよ?
「清水君を二人が取り合ってる……?」
「しかも同棲?」
「まさか……」
「不穏な事言ってる人たち、サッカーをしようよ。俺が選手で君たちがボールだ。友達だね!」
すっと静かになった。が、すぐに沸き出す。なぜか?
「なら織斑君!」
「私と!」
「待ちなさい!私と組みなさいよ!一夏っ!」
「いや、近接特化で二人がかりが強いだろう。ここは私とだ」
「いえ、ここはセシリア・オルコットが__」
段々とカオスになっていく中、シャルロットとここを後にした。一夏の悲鳴を後にして。助けてとか聞こえるけど、あー、まあ、どんまい。君の生まれの不幸を呪うがいい。誰も恨む相手はいないけど。
「お前を恨む!」
一夏の叫び声は必死だった。必死な時は心を読んでくるんだけどな。
「今朝は悪い。ちょっと頭がぼけてた」
「何が?」
夜、色々終わり二人きりになったときにシャルロットに謝った。
「真っ先に俺がシャルルと組むって言うべきだった。二人での訓練が多いと困るだろ?」
「うん。……ありがとう。やっぱり、希って優しいね」
「前も言ったろ?百人のうち百人がすることは当然だ。百人のうち一人が勇気を持ってやれるのがやさしいだ。事情を知ってれば誰だってこうする」
「前から思ってたけど、希ってすごい理想主義だよね」
苦労するよ、みたいな視線を向けてきた。まあ、自分でも理想主義だとは思ってるけどさ。その理想を実行してるやつがすぐ傍にいるんだから。理想ってのは誰かに語られると夢見てしまうものもある。語られるんじゃなくて体現してる奴がいるから、どんどん理想に染まってきちゃうんだよ。
「でも現実はそれなりに見てるつもりだけどね。さて、となると明日もまた練習を増やさないと。俺と一夏とシャルルで優勝に行けば男が三人だ。男が終わってないって見せつけれる」
そういうとシャルロットはむっとした。え?なんで。
「ねえ、前から思ってたけど、僕は女の子だよ?」
「うん。知ってる」
「あまりにも自然に男扱いしてるから。僕ってそんなに女っぽくない?」
自信なさげに言うシャルロット。え、こういった話苦手なんだけど。どうすればいいの?カードを十枚ぐらい用意して。もちろん変態発言とか無しのカードね。カードを選ぶ時間も欲しい。
「体で?性格で?」
「両方」
体でに反応したのか顔が赤い。かわいい。ふむ。
「シャルルが体で女っぽくないなら、女性の99.9%以上は女っぽくないな。性格も同じく」
「あっ、ありがとう……。でもそれは言い過ぎじゃないかな?」
むしろ過小評価だと思うけどね。99.99999%ぐらいだろうか。もう二桁増やした方がいいかも。
「口調が僕っ子だし、普段から男扱いにしておけばバレることは少ないだろ?」
「なら、女の子っぽい口調にすればいいのかな?」
「今更治すのはむずかしいんじゃないか?」
人の口調を直すのは難しい。普段の癖を直すのが難しいの同様。
「希は変えれるの?」
「あたしは簡単に変えれるわよ。声は気持ち悪いかもしれないけど、許しなさい」
「っぷ」
そういうとシャルルは噴き出した。
「どうしました?シャルルさん。ハンカチが必要なら貸しますわ」
「あははははは!……声が全く似てないけど……よく自然に変えれるね」
少し涙目になったシャルロットがすごいねみたいな顔を。
「変声ネクタイが欲しいな。ともかく、その言い方からすると難しいのか?」
「う、うん。希と二人の時は普通に話せるように頑張るけど……」
あまりその理由について考えないようにしよう。色々と。精神衛生上困ってくる。
「今までどおりでも問題ないよ。これ以上女の子っぽくなられたら俺が困る」
「どうして?」
それを尋ねるのはひどいよね。女神様容赦ない。なぜかシャルロットと呼ぶのが気恥ずかしい。心の中では思えるんだけど。
「ま、まあそれはともかく。今までどおりで問題なし、うん、それで。さあ先に着替えてき__」
「何度も言ってるでしょ。二人で一緒に着替えればいいって。そうした方が速いでしょ?それに、男同士の着替えで外に出てたら疑われちゃうし」
なんと、俺たちは二人で着替えているのである。うん、今でもびっくりしてる。着替える準備をして装備を確認。服を脱ぎだしててきぱき着替えていく。後ろでシャルルが着替えてると意識しない為だ。無心をひたすら貫くべきだ。頭を空っぽに……。
「よし、終わった。振り向いていい?」
「ねえ、前から思ってたけど。一度も振り向かないよね。そんなに興味ない?」
しょんぼりしたような声……いや、その理屈はおかしい。あのAAがぴったりすぎる。
「えっと、シャルルは見られたらいやだと思って無心で着替えたんだけど……と言うか、振り向かなかったって知ってるってことは、逆を返すとずっと__」
「外に出てって!」
「はいすいません!!」
さっと駆け出した。それにしても、シャルロット何でもしっかりこなすんだけど、なんでところどころぬけてるのかなぁ。いちいちドキドキするから困るんだけど。
「ごめん、入っていいよ」
申し訳なさそうにシャルロットが言う。傍から見ると俺に過失は無いしね、多分。それにしても全く、さて。
「別にいいさ。さて、明日に備えて。おやすみ」
「うん、おやすみ」
夜、寝静まった後にシャルロットはすっと起き、希に近づいた。
「もう、女の子が一緒に着替えてるのに、チラッとも向かないなんて。本当は、女っぽくないと思ってるのかな……女言葉を使えば少しは意識するのかな……。私、とか」
そう言って少し身を乗り出して希の顔を見る。いつも険しい目をしているが寝ている時はかなり穏やかになっていて、年は二歳ぐらい若く見えた。
「そりゃ、一夏のほうが美形って言ってるけど、希だっていいところはいっぱいあるし……じゃなくて!」
『ここにいればいいよ』
初めて言われた言葉。母親が死んでから居場所がなく、毎日色が無かった。皆と過ごすうちに段々と色が戻ってきていた。そして一気に鮮やかになったのは彼が秘密を見つけてからだ。
(どうして希は、僕の心をこんなに温かくしてくれるんだろう)
いつも堂々と大木のごとく構え、時には柳のようにかわし、それでいて春のような温かさを持っていて、それでいて海のように底が知れない。ただ、優しいとは分かる。自分では否定しているけれども、優しくないはずが無い。
「ねえ、希。どうして優しいの?」
もちろん返事は無い。返事をされたら飛び上がる。だが、昼間の疲れで希はぐっすり眠ってる。
「ぐっすり……そうだ」
身を乗り出して、そっと額にキスをした。
「また明日、ね」
六月も最終、とうとう始まったISトーナメント。機体が破損していた鈴、セシリア、ラウラも無事であり、全員参加してくる。モニターを見ると各国の偉い人々がたくさんいる。だが、もっと気になるのがある。
「一夏、誰と組んだ?」
「秘密だ」
多分、誰とも組んでいない。こいつはそういうやつだ。何で頭はいいのに馬鹿なのか。
「まあいいや。で、三年はスカウト、二年は一年間の成果、一年はとくにないけど上位にチェックだっけ?」
「うん、そうだよ」
俺には関係ない話だ。もう所属は決まってるし。でも、企業の人たちのためにも、全世界の男の為にも勝たないと。ちなみに、超絶ブラックな話だと、俺の成績くそ悪かった場合実験動物の可能性もあった。
それを提案した人にどうこう俺は言うつもりは無い……って事は無いけど、十分理解できる。見知らぬガキ一人を生贄に捧げれば男がISに乗れるようになるかもしれない。これは魅力的だ。俺だって政府の高官とかの立場なら絶対に考える。実行する気は流石にないと信じたいけど。とは言え、される方としてはたまったものではない。
千冬さんがどうにかしてくれたのだろうかその話は小さくなってたけど。それにこのごろ順調に成績出してるのも効いてる。今回でその話にとどめを刺すつもりだ。優勝を飾ってね。
「まっ、勝たなきゃ意味ない。抽選はどうだっけな」
「もうすぐ決まるだろ?」
なんと、トーナメントシステムが不具合で手づくりでやっている。たいそうな事だ。
「俺たちはAブロック第一回一組目、一夏はBだといいな」
「男にも意地があるって見せないとな」
その通り。
「それにしても最初かぁ。手の内を晒すことになるからいやだなぁ」
「俺は手がいっぱいあるから晒しても問題ないけどね。第一、最初から相手を倒して景気よく行こうか」
「前向きだね、希は」
「前向きのほうが気分がいいから。後ろ向きより前向いてこうよ。さ、トーナメント表が出た」
俺たちの場所は知ってる。よって全力で一夏を探して__
「あのな、優柔不断だからこうなったんだよ」
「もしかして一夏って、お馬鹿?」
「ウソだろ……おい……」
Aブロック、俺・シャルロット、鈴・セシリア(一夏に断られた為優勝を防ぐ為に同盟)。Bブロック、箒・のほほんさん、一夏・ラウラ・ボーデヴィッヒ。
「決勝で会えるか不安だわ。初戦負けは勘弁してくれ」
一夏にブラックな話が行くかも……無いな。千冬さんを敵に回すとは自由に何発もぶっ放せる核ミサイル搭載ステルス戦闘機を敵に回すのと同じだ。首脳が全部殺されてく。
「どうすればいいんだ、どうすれば……」
はぁ、ラウラとトーナメントで戦おう、とか言っちゃったし。入れ知恵ぐらいするか。
「しょうがない。ラウラと組む直前、こう言え」
「よりによって貴様とはな……」
「ガタガタ文句言うな。それでだ、千冬姉の件についてだけど」
「……なんだ?」
とても不愉快そうな表情をラウラが向けた。
「確かに俺がいたから千冬姉は二連勝できなかった。俺がいなけりゃ、俺が強ければ千冬姉は確かに優勝できたんだ」
「やっと認めたか。貴様は教官の傍にいるのにふさわしく__」
そのことばに一夏は強くかぶせた。
「なくはない。俺は強くなる。もう千冬姉の手をかけさせない、誰だって守れるくらい、俺は強くなる。お前にふさわしくないなんて言わせないほどに。千冬姉の弟だって言えるように」
「口だけは達者だな」
「だから、このトーナメントで見せてやる。それとも仲間割れを起こして初戦敗退をして、国に迷惑でもかけたいか?」
「貴様が邪魔しなければ問題ない」
「だから、簡単な取り決めだ」
「なんだ?」
「それぞれ一対一に持ち込んで、先に落とせなかった方が試合後、相手に何かごめんなさいを言うだ。そんでもってジュースを一本奢る。故意にお互いを攻撃したら負け。これでやる気も出るだろ?」
「ふん、ジュースはどうでもいいが、前者は気に入った。貴様には一生分謝ってもらおう」
「お前こそ、油断して足元救われるなよ?」
それで会話を切り上げ、ピットから出て行った。
初日、全ての試合が終わった後で。
「っく!なぜだ!?なぜ私が負けた!?」
希がいたら坊やだからさとか言っているだろう。ラウラは女だが。
「希の言うとお……ハッ!?」
「希だと?奴の入れ知恵か!!」
キッとラウラがきつく攻め寄り、一夏が頭をポリポリかきながら
「機体性能での相性は俺とラウラのは最悪だけど、敵をどちらが早く落とせるかなら機動力・攻撃力特化の白式に分があるって言われたんだ」
実際にはそこまでに持ち込むまでの会話方法も伝授されたのだが、それは言ってはいけないと言われている。わざと希の言うとおりと言いかけるのもわざとである。少々棒読みになったがラウラは気付いていなかった。
「また奴か!また奴にハメられた!」
とても悔しそうに叫んだ。こうしてみると年相応だった。
「ああ、この前の戦いか。希に負けたんだよな」
「途中参加してきて、卑怯な手段を使ったのが悪い!油断しなければ負けなかった!!」
「油断したから負けたんだろ。負けは負けだ」
何も言い返せなくなったようで、ギギギと唇をかんだ。一夏は希が言ってた通りけっこう子供っぽいと感じた。
「ともかく、何か謝ってもらうぞ。そんでもってジュースを奢ってもらうぜ」
「っく、仕方ない。最大の屈辱だが……いきなり平手打ちをしたのは悪かった。すまない」
「いいよ。俺も頑固になって悪かった」
「何を言ってるんだ?お前は謝る必要がないだろう?」
何言っているんだコイツ?みたいな目でラウラが一夏を見た。
「別に、必要は無いけどしたいからしただけだ。ほら、ポカリを買ってきてくれ」
「っく!」
テクテク歩いて行き、缶ジュースを一本買った。
「次は負けんぞ」
「俺もそのつもりだ。……ほら、残りはいるか?」
「なぜだ?それは貴様のだ」
一夏は思った。とても硬い、それでいて律儀な性格をしているなと。
「ラウラもそれなりに疲れただろ?明日に備えて飲んどけよ。俺に負けたくないならさ」
「……フンッ」
サッと受け取り、飲みだしたのを見て一夏は去っていった。
「希!お前は相変わらずすごいな!」
お前すげえ!みたいなキラキラした目で見られた。こいつは全く。
「ということは、ラウラとそれなりに上手くいったのか?」
一夏の超絶モテスキルならどうにかなると思ったけど。
「分からんけど、それなりに関係は改善できたと思う。それにお前が言ってた通り意外に純粋で真面目な性格だった」
「だろ?関係が良くなればとってもかわいい妹みたいになると思うんだけど……シャルル?睨む必要性が無いよね?」
「うんうん、妹だから手を出さないしね。……ともかく、一回戦突破おめでとう」
ちょっと怖いよ?目がね?
「というか、突破しないとやばいんだよ。専用機持ち同士でタッグ組んでるんだから。外に向けての面子を立てるなら、負けていいのは一夏たちと鈴たちのペアだけだって。もちろん、負けるつもりは無いけどな」
「俺だって負けるつもりは無い」
「僕たちのペアが最強だって証明してみせる!」
すごくりきんでるねシャルル。
「じゃ、明日に備えて寝るか。一夏も報告だけだよな?」
「ああ、じゃあまたな」