ジュエル・シードを巡って激突するはにゃーん様とフェイト、二人のデバイスが交錯した瞬間にお互いの得物から発せられた魔力に触発され、ジュエル・シードは再び暴走を始める。
その余波に二人は吹き飛ばされ、ぶつかり合ったデバイスは大破してしまい、最早封印は困難と思われたとき、何とフェイトは暴走するジュエル・シードを止めようと素手で掴んだのだ。
「フェイト!」
「止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ……」
「アイツ……!」
「よせユーノ……無粋な真似はするな」
フェイトを強制転移させてでもジュエル・シードを奪おうとするユーノを手で制し、はにゃーん様の庶民に過ぎないフェイトが何処までやれるか御見届けなさろうという心意気を察したユーノも大人しくフェイトの行く末を見届けた。
フェイトの両手の平の中で、ジュエル・シードの輝きは激しさを増し、その有り余る強烈なエネルギーで手の平からは血が弾けた。
しかしそれでも尚、フェイトはジュエル・シードを離そうとはしなかった……
フェイトの想いが通じてか、ジュエル・シードの光は徐々に弱くなり、そして消えた。
同時にフェイトも力尽きてその場に倒れ込み、駆けつけた使い魔が彼女を介抱する。
「ユーノ、行くぞ」
「なのは様、しかし……」
「ジュエル・シードの一個ぐらい見逃してやれ、コレはヤツの働きに対する対価だ」
「はっ」
『これほどの力を持った子供が此処にもいたとは……』
はにゃーん様はこれほどの意志の力を持つフェイトにその様に思われた。
『意志の力』人の想いは時として摩訶不思議な、神懸かり的な力を授ける時がある。
それが顕著に現れるのがはにゃーん様を筆頭とするニュータイプ、ジオン・ダイクンの提唱した人類の革新たる新しい人種だ。
もしかするとあのフェイトという庶民にもその様な素質が有るのか……
それはまだはにゃーん様でさえお分かり出来ない事だ……
その日の夜、マンションへと帰宅したフェイトは、ジュエル・シード確保の際に負った傷をアルフに手当てしてもらいながら、その時の事を思い出していた。
『あの時、ジュエル・シードを確保する事しか頭になかった私は、あんな無茶をした……だけどジュエル・シードの輝きが増した時、誰かが後ろから支えていてくれたような……アルフじゃないもっと親しい……昔から知っていた?』
確認しようにも直後から記憶は途切れ、アルフもそんな人間知らないと言っているのだから、気のせいで片付ければそれまでだが……
ふと夜空を見上げたとき、金色に輝く流星が一つ、空を駆けた。
* * *
翌日、フェイト等は母親への経過報告の為、ようやく確保した一個のジュエル・シードと、気持ちとして甘い物を持ってマンションの屋上にいた。
しかし当然の如く、彼女達の気持ちは重い……
幾ら何でも一週間近く滞在して確保したのがたったの一個では褒められるはずがない。
しかも散らばった二十一のジュエル・シードの半数以上は既に海鳴市の大正義はにゃーん様の御手の内にある。
つまり、どう足掻いてもジュエル・シードの完全収集は不可能、確保出来ても半数以下、更にはにゃーん様との圧倒的能力差を加味すればもう絶望的だ。
「ねぇフェイト、流石に一個ではシャレになんないって。どういう目的があって欲しがるか知ったこっちゃ無いけどさぁ」
「フフフ……でも母さんきっと心配してるし……」
「わたしゃフェイトの心配で胃に穴が空きそうだよ……」
「大丈夫、その為に甘い物も買ったんだから……」
「……つまり最初っから雷落ちるとわかってんじゃん……」
甘い物差し出しゃそれで万事オーケーとでも思っているのか、ダメな主を持つと僕が苦労するとはこの事だ。
だが流石庶民派だけあって甘い物のチョイスは良い、海鳴の大天使はにゃーん様の御両親が経営なさる翠屋の桃子のオススメを買ってきたのであれば、もしかすれば雷は免れるかもしれない。
運を天……いや桃子のオススメケーキに任せ、いざ庶民フェイトと使い魔アルフは母親の下へ次元転移した。
が……
「フェイト、母さん悲しいわ。だって私の娘が一週間近く探してたったの一個しか集められなかったのだもの……」
案の定フェイトの母親、プレシア・テスタロッサは激怒して、フェイトを縛り上げた上で鞭打ちに処した。
「同じくらいの女の子に十個以上集められて、どうしてフェイトに集められないの?」
同じくらいの女の子、プレシア・テスタロッサには理解し得ない事だが、フェイトと大天使はにゃーん様との間には天と地程の格差がある。
そもそも大天使はにゃーん様と同格の人間など存在するはずがないのだ。
それを知らない哀れな女、プレシア・テスタロッサは何度も鞭を振り上げてフェイトを引っ叩いた。
しかしフェイトは痛がる素振りは見せれど、恐がる素振りは見せなかった。
幾度となく大天使はにゃーん様の逆鱗に触れ、恐るべきプレッシャーによる洗礼を受け続けたフェイトにとって、母親の拷問など比べるまでもない。
「……随分と涼しそうな顔ね……」
「ごめんなさい、母さん。お詫びにケーキ買ってきたから食べて」
何度も鞭を浴びた割に涼しげな顔で吊し上げられているフェイトに、流石のプレシアも疑問を抱いた。
『あれほど鞭を浴びても顔色一つ変えない……何かあったのかしら……』
その答えはすぐに見つかった。
鞭打ちでボロボロになった服からチラリと見える治りかけの生傷、それがタダの生傷でない事は自称大魔導士を名乗るプレシアにも直ぐに分かる。
『この子、とんでもない魔導士と戦っていたのね……それも私と同程度の大魔導……』
これもプレシアのとんだ誤解だ。
プレシア如きではにゃーん様と同程度と考えるなど不敬にも程がある。
はにゃーん様が大魔導士ならばプレシアは良いところ下等魔法生物、鏡で自分をよく見ろと言いたい。
「まぁいいわ、今日はここまでにしましょう……フェイトは支度して直ぐにジュエル・シード確保へ向かいなさい……」
「はい……母さん……行って来ます」
バインドが解除され、フェイトは手首を少しさするとすぐにマントを羽織って私室から出て行った。
* * *
前回の激突で大破してしまったレイジングハートのおかげでしばらくの間ジュエル・シード探しは出来ず、本日もはにゃーん様は通常通り学校で勉学なさる事になった。
かと言って聡明なはにゃーん様に勉強は最早不要、ようやくの昼休みの時、アリサとすずかと笑顔で談笑しながら毎回はにゃーん様の行く道を忌々しくも邪魔立てするフェイトなる小娘を、はにゃーん様お手製『赤い彗星占い』で占ってみることにした。
その結果は……
『……ゲルググ、つまり凶か。哀れだな……』
筒をひっくり返して出てきたのは通常のおみくじで『凶』に当たる『ゲルググ』だった。
ゲルググ、つまりロクな戦果も上げられぬまま敗北を重ね、遂には親しい人物から邪魔者扱いされる……
『フェイトとやらの命運も、最早これまでか……』
「あ、それ例の赤い彗星占いね。で……コレはどうなの?」
「これだと凶、才能はあるんだけど更に才能のある人に連敗を重ねて……遂に親しい人までその人に傾いちゃうの。それで取り戻そうと躍起になる余り、今度は自分を庇って親しい人まで失っちゃうの」
「……毎度の如く生々しいのね」
これを製作するにあたり、多大な経験を供出してくれた某赤い彗星には感謝しなくてはならないだろう……
そしてすずかよ、平穏な生活を送るお前にこのおみくじは不要だ。
下手に引いて『リック・ディアス』など出てきたらシャレにならんからな……
「なのはちゃん、今失礼なこと考えなかった?」
「ううん、そんな事ないよぅ」
『リック・ディアス』
それは大した出番もなく消えてゆくだろう、という末吉のおみくじだ……
凡人が教える、凡庸な授業が終わり、バスで送迎されたはにゃーん様は、役立たずデバイスレイジングハートも無いので御帰宅なさろうとする。
だがバス停から少し歩かれた所ではにゃーん様の忠実なる僕、イタチの騎士ユーノが、はにゃーん様のデバイスを持って参上し、跪いた。
「レイジングハート……もう使えるんだな?」
「はっ、整備は万全に御座います」
《Condition Green》
「よし、では早速……来たな」
笑みを湛え、はにゃーん様は夕日の方を向かれる。
そこではジュエル・シードの影響を受け、巨大化した樹木が暴れ始めたところだった。
「ユーノ、結界を張れ」
「はっ、なのは様!広域結界!」
「レイジングハート、行けるな?」
《Yes MyMaster!》
レイジングハートを放り上げ、はにゃーん様は地面を蹴って宙へ舞う。
瞬時に御変身なさったはにゃーん様はイタチの騎士ユーノを従え、暴走する樹木の方へ御向かいなさった。
同時刻、再びこの地へ戻ってきた庶民フェイトも、ジュエル・シードの暴走を感知し、修復したばかりのバルディッシュを使い、はにゃーん様と同じく暴走する樹木の下へ向かった。
「いたか……ファンネル!」
《Funnel Shutter》
「アーク・セイバー!」
《Arc Saber》
はにゃーん様の放ったファンネルは暴走する樹木の枝という枝を撃ち抜き、凡人フェイトが放った光の刃は直線的過ぎる余りバリアのようなものに防がれてしまう。
「アイツ、バリアなんか持ってんのかい?」
「でもコレなら……バルディッシュ!」
《Yes Sir》
「貫け雷神!サンダー・スマッシャー!」
バリアを張る暴走樹木に砲撃を放とうというのは至極真っ当な話、しかしそれもフェイトのような凡人が放つ砲撃で破られる程ヤワな暴走樹木ではなかった。
暴走樹木はフェイトの放つ砲撃を真っ向勝負で受け止める、が……
「メガ・ディバイン・バスター・ランチャー!」
《You Must Die!》
その様なバリアが、お可愛らしい大天使はにゃーん様の砲撃を受けきれるはずもなかった。
はにゃーん様の砲撃を防ぐなら、物理的なバリアよりも精神的なオーラでなければならない、が、それもごく少数の強力なニュータイプと強化手術を受けた者のみ出来る芸当だ。
はにゃーん様のメガ・ディバイン・バスター・ランチャーを受けた樹木は消滅し、残ったジュエル・シードに二人は封印を掛け、対峙した。
「ジュエル・シードは譲れない。けど……」
「安心しろ、私も同じ轍は踏みたくない……だが譲るつもりもない」
そう仰るなり、はにゃーん様は全身からオーラを浮かばせ、一気に解放した。
するとどうだろう、凡人フェイトはもちろん、イタチの騎士ユーノや使い魔のアルフなどこの場に動く者ははにゃーん様のみ、その外は動きを止めたではないか。
「こ、これは……金縛り?」
「なんだいコイツは!身体が……!」
「お、お見事に御座います!なのは様!」
「貴様等はそこで固まっていろ」
そう仰り、はにゃーん様は光り輝くジュエル・シードを、その白雪のような純白の御手でお取りなさった。
すると……
「ストップ……ありゃ?なんだコレ?」
空にもう一人の俗物が現れた。
はにゃーん様の御判断や如何に……