先日の月村邸での無礼から始まり、この間の温泉旅行では更に使い魔の犬畜生まではにゃーん様に無礼を働いた。
しかし、お心を強くお持ちのはにゃーん様はその後の温泉旅行を存分にお楽しみになり、連休明けという精神的に怠惰感を覚える学校にも元気に登校なさった。
そんなある日の昼休みの事だ。
いつもの如く、ご友人お二人と談笑なさっていると、唐突にアリサが「最近のなのはってどこか変わったわよねー」とはにゃーん様に仰り、はにゃーん様がそれに同意しかねているともう一人のすずかも「そうそう、何か凛としたようなそんな感じするよねー」とアリサの御意見に同意する。
『凛とした、か……いかんな、昔に戻っている。もっとはにゃーんとした少女を目指さなくては……』
そうお考えになったはにゃーん様は、「そんな事ないよぅ。私はまだ小学生だもん」とこれまで以上にお可愛らしい仕草をしながらお答えなさり、それを目撃した男子全員がふやけた様な表情になった。
ますます光り輝くはにゃーん様の魅力の前に皆の衆ひれ伏すのである。
「でもさぁ、最近なんか楽しそうだしさぁ」
「ああそれ?最近流行ってるアニメの女の子の真似が楽しくてね、アリサちゃんやすずかちゃんもやってみる?」
「い、意外な趣味ね……あんだけヴァイオリンやら乗馬のうんちく言ってたなのはがアニメ鑑賞なんて……」
「ふふふ、『月に代わってお仕置きよ!』とか『リリカルマジカル!』とか結構おもしろいんだよぉ」
またしてもお可愛らしいはにゃーん様の仕草に男子勢は顔を紅潮させ、女子勢はどの様にすればはにゃーん様の様になれるのだろう、とコソコソ話始めた。
間近ではにゃーん様のお可愛らしい仕草をご覧になっても動じないアリサとすずかは、やはりはにゃーん様が親友と仰るだけあって素晴らしい精神をお持ちである。
「ふーん、ま、時間あったら観てみるわ」
「私もそうしよっと」
予鈴が鳴り、二人は席へお戻りになった。
アリサとすずかとは入学以来の親友である、しかし、最初から友人であったというわけではない。
入学して当初、すずかは元来大人しい性格をお持ちなので、典型的なイジメの標的であった。
そのイジメを行っていたのが、今では想像もつかないがアリサなのである。
そしてアリサがすずかのリボンを取り上げ、それを取り返そうと必死になるすずかとそれを嘲笑うアリサ、そこで一喝したのが入学当初から稀代の才覚を現していたはにゃーん様であった。
「アリサ・バニングス、高貴な家系の令嬢がこの様な愚劣な真似をするようでは……立派に育てようと御尽力なされてきたご両親が悲しむぞ」
「何よ!偉そうに!」
「高貴な生まれを持つものにはそれ相応の振る舞いが要求されると言っている。今の行動をよく省みるのだな……」
そう言ってはにゃーん様はアリサの手からリボンを取るとすずかにお返しなさる、呆気と衝撃に途切れ途切れのお礼を仰るすずかに「気にするな」と言ってはにゃーん様は席へ颯爽とお戻りになっていった。
当然その放課後、納得のいかないアリサからはにゃーん様へ意趣返しがくる。
勿論、最初にアリサとすずかの争いの時点でそれを予期なさっていた賢いはにゃーん様はそれを真っ向勝負する事で受け止めお互い頬を引っ張り合い、すずかが止めに入るまでそれはそれは凄まじいものだった。
その一件があって以降、三人は行動を共にする良き友となったのだ。
『だが……良き友といえども私は二人に、少なくとも秘密を持っている。どの時代、どの世界にいようと人間とは皆同じなのだな……』
シャアは、親友を謀って戦死に追いやったと聞く。
同じことをするつもりは無いが、人は生きている限り独りなのだろうか……
今回ばかりは同じ轍を踏むことは無いと思いたいが……
はにゃーん様の人知れぬ想い、それは壮絶な過去を持つ故の願いなのである。
放課後、アリサとすずかは塾があるというので、はにゃーん様は随分久方振りにお一人で帰られることになった。
特に今日は予定も何もないので、はにゃーん様はまたもやジュエル・シード探しに奔走なされることに決め、帰路についた。
* * *
海鳴市から少し外れた住宅街、そこには一軒家が多いが、高層マンションも立ち並ぶ。
その高層マンションの一室で、ドッグ・フードを食べ漁る一人の浅ましい女がいた。
先日はにゃーん様に無礼を働いた結果、配下のユーノにみっともなく撃沈し、あまつさえはにゃーん様の御威光に畏れをなして主人の庶民フェイトを置いて独り茂みの奥でガタガタと震えていた犬畜生アルフだ。
「ウーン、やっぱり手軽で美味しいねぇ」
元が狼とは思えない、犬のエサを喜んで食べる辺り堕ちるところまで堕ちたというのがよくわかる。
ひとしきりドッグ・フードを食べたところでアルフは自分の御主人の様子を見てみようとようやく動き出した、勿論ドッグ・フードも忘れず。
犬畜生アルフの御主人はまだ寝ていた、出しておいた食事にも手を付けずベッドに横になっている。
「フェイト、いい加減食べないと動けやしないよ?」
「大丈夫、少しは食べたから……ジュエル・シードの探索も大分出来てきた」
「広域探索は骨が折れるんだから無理はいけないよ」
「私は頑丈だから……さぁ、行こう」
アルフの制止を無視してフェイトはバルディッシュを起動させた、海鳴市に上陸して既に一週間近く経過するにもかかわらず未だ収集できたジュエル・シードが一つもなく焦っているのだ。
このままむざむざと手ぶらで母親に会いに行けるはずも無く、急がなくてはならない。
最も、どんな時でも綿密な計画を立てて行動に移すはにゃーん様と、無計画にただ闇雲に探そうと躍起になるフェイト、この辺りが高貴なるお方と庶民の違いというものだろう。
早速アルフと共に、ジュエル・シードの反応があった市街地へと飛行するが、人が多すぎて全く検知出来ない、そこでフェイトは周囲に魔力流を流し込んで強制的に発動させる事を提案する。
その言葉通り、ジュエル・シードを無理やり発動させて居場所を見つけるというかなり原始的な手段だ。
しかも無駄に魔力を消費するので識者ならば必ず避ける手段、後先考えないオールドタイプのやりそうな手段である。
「ちょっと待った、それは私がやるよ。ジュエル・シードを強制発動なんてすれば、あの白いヤツも来ちゃうからね」
「ああ、ならお願い……」
御主人と違い、命のやり取りに敏感なアルフは聡明なはにゃーん様がやってくると予見して、自ら魔力流を流し込むとフェイトに告げて前へ出る。
犬畜生が学習するのだからフェイトも少しは見習うべきである、が、この時のフェイトにそれが解るはずもなかった。
アルフによって強力な魔力流を受けたジュエル・シードは暴走し、その影響か市内の天候もガラリと変わる、当然それははにゃーん様も察知していた。
「フェイトか、ご苦労だな。ユーノ」
「はっ、なのは様!広域結界!」
「この様な手段に出るとは、アイツは焦っているようだ……レイジングハート、行くぞ」
《Yes MyMaster!Mega Divine Buster Launcher Mode》
はにゃーん様は待機状態のレイジングハートを空へと御投げになり、レイジングハートは瞬時にメガ・ディバイン・バスター・ランチャーの巡航体型へと変化する。
はにゃーん様はそれを手に空へと舞い上がった。
* * *
ジュエル・シードの居場所を突き止めたフェイトはバルディッシュをシーリング・フォームへと変化させて、ジュエル・シードを封印させることに成功した。
「ぃよっし、あとは確保するだけだねぇ。今回はあの白いヤツも出てこなくてラッキーだねぇフェイト」
「うん……これでやっとだね。じゃ、早く確保に……」
と、お互い言い合いながらジュエル・シードへ飛行していると、真横から強大な魔力の奔流が自分達の方へ向かってきていた。
「来たっ!」
「応さっ!」
二人は上下に別れて激流の様な魔力流を回避して二手に別れる、ジュエル・シードの確保する方と魔力流を放出した元を叩く方だ。
勿論、主に危険を課すことはできないのでアルフが魔力の奔流の元を叩く方を買って出て、比較的安全と思われるジュエル・シードの確保にはフェイトが当たった。
そしてフェイトがジュエル・シードのあるビルの屋上へ降りたったとき、遠くの方で幾つもの爆発が聞こえた。
「ごめんねアルフ……でも、無駄にはしない!」
使い魔といえどあっさり死んだことにする辺り、このフェイトがどれ程の器量の持ち主か伺える、そしてそんな人間を見逃すはにゃーん様ではなかった。
「使い魔を捨て駒にするか……解らん話でもないが期待ハズレも甚だしい……レイジングハート!」
《Fate Must Die! Mega Divine Buster Launcher!》
使い魔を捨て駒に、ビルの屋上へと飛び込む鬼畜フェイトに、はにゃーん様は正義の鉄槌を下すべく、メガ・ディバイン・バスター・ランチャーをフェイトの感知出来ない超高高度から御構えになって狙いをつけた。
「そこが……お前の墓場になる!」
「ん?この肌が切り裂かれるような殺気……まさか!?」
しかし、はにゃーん様のお身体から溢れる強烈なプレッシャーがかえってフェイトの命を繋ぐ事となってしまい、殺気から自分を狙うはにゃーん様の存在に気付いたフェイトは素早くその場から退避した。
行き場を失ったメガ・ディバイン・バスター・ランチャーはビルを倒壊させ、その凄まじい余波に吹き飛ばされたジュエル・シードは道路の上をコロコロと転がる。
はにゃーん様は下劣の極みフェイトにはそれを拾わせる余裕すら与えず、第二波のファンネル・シューターを差し向けなさる。
「うぅっ!なんて速い!?」
はにゃーん様の意志を持つファンネル・シューターは、そのお気持ちを代弁するかの如くフェイトを翻弄し、その華奢な身体から鮮血を迸らせた。
だがフェイトはファンネル・シューターの猛攻を省みずにジュエル・シードへ突撃、そして……
「くぅぅぅっ!」
「はぁぁぁっ!」
ジュエル・シードを巡って二つのデバイスが激突する。
その瞬間、その凄まじいエネルギーによりジュエル・シードは再び暴走を起こした……
はにゃーん様の運命や如何に……