アクセル・ワールド ~弾丸は淡く輝く~   作:猫かぶり

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Accel-3: Answer

 

 

 

ブラック・ロータスこと黒雪姫―梅郷中ではなぜか〈姫〉だの〈スノー・ブラック〉だの呼ばれている―とのラウンジでの再会を喜ぶ暇もないまま三人で屋上へ移動する。ラウンジでは何やら三角関係だの、転校生が一目惚れだの話ができなくなってしまったためだ。

しかもふわふわ髪の女子生徒―後で話を聞けば若宮恵というらしく黒雪姫とは仲がいい―は俺を睨んでくる始末。何か感に触ることでもしてしまったのだろうか。

まだ冬の寒さの残る屋上にはフェンス近くにいくつかのベンチが設けられていて、その一つに座っている男子生徒へ黒雪姫は歩みを進める。

 

「タクム君、少々待たせてしまったかな」

 

タクムと呼ばれた、今ではニューロリンカーで視力補正ができる中で珍しく眼鏡をかけた少年が振り向き、こちらに駆け寄ってくる。事前に呼び出しておいたのだろう。

 

「いえ、待っていませんよ、マスター。そちらが」

 

「第一期ネガ・ネビュラスのメンバーだった、プラチナ・バレットだ。後はユーから」

 

「加速世界での噂は聞いていますよ。色々と。一年の黛拓武です」

 

「どうも。今日から二年に転校してきた、白鐘夕里だ。よろしく」

 

黒雪姫の隣にいる丸っこい男子生徒を見ると表情はどうにも困惑している様子だ。

 

「えっと、挨拶が遅れました。一年の有田春雪です。よろしくお願いします、白鐘先輩」

 

「畏まる必要はないよ。たった二年の歳の差だし」

 

「二年?あれ、でもさっき二年生って」

 

有田君はキョトンとした表情で考えている。

 

「入院と通院で出席日数が足りなくてね。昔は実務上、履修してなくても本来の学年に編入できたらしいけど、今の教育だとめでたく留年措置をもらってしまったわけなんだけど」

 

「しかし、なぜ梅郷中に?」

 

黒雪姫が疑問を口に出す。

 

「親が家、と言ってもマンションを買ったのが高円寺で通うのが近かったから。学校の方も親に頼みっきりだったからね。編入もネット経由でイギリスからだったし」

 

「偶然に偶然が重なったのか。まあ、聞きたいことは多いがそれまでにして本題に入ろうか」

 

「さっきの対戦後の話?」

 

「対戦!?先輩、黒雪姫先輩と戦ったんですか?」

 

「一時間目後の休み時間終わりに乱入されてね。復帰後の初対戦が黒の王だったのは少々驚いたよ。残念ながら負けたけどね」

 

「何が負けただ。半分も力を出さずにゲージの五割を削ったくせに」

 

黒雪姫が少しムスっとしながらこちらに目線を投げかける。

 

「黒雪姫先輩を相手に五割も……」

 

「右腕、左腕ときて最後は首を落とされたよ」

 

笑いながら黒雪姫に視線を動かす。むすっとした表情をした彼女から察するに最後に容赦なく首を落としたのは絶対に悔しかったからだなと判断する。

 

「それよりも対戦後に言った事だ!……ユー、いやプラチナ・バレット。ネガ・ネビュラスに、私達に力を貸して欲しい」

 

黒雪姫が真剣な表情で懇願する。彼女がそんな表情をしたのは解散前のあの事件以来だろう。もっともその時は現実ではなく加速世界であった違いがあるのだけれど。

 

「もちろん了承するよ。まあ、条件があるけど」

 

「なんだ?私のできる範囲でならその条件を受けよう」

 

「条件は……〈シルバー・クロウ〉との対戦」

 

「え?ええーーーーーーーーーーーー!」

 

有田君が声を上げて驚いている。黛君と有田君のどちらかがシルバー・クロウなのだからこの様子だと有田君がクロウらしい。

 

「ふむ……条件としては破格だな。ハルユキ君どうだい?」

 

「いや、あのですね、黒雪姫先輩。僕まだレベル4に上がったばっかりですよ。それなのに、そんな」

 

「条件は対戦だ。別に勝てと言ってるんじゃないだ。それにバレット、強者との対戦は学ぶことも多くある」

 

「あの、白鐘先輩に質問なんですが、なぜハル、シルバー・クロウと対戦を?」

 

最もな疑問を黛君がしてくる。

 

「単純な事だよ。加速世界初の完全飛行型アバター……バーストリンカーとしては対戦しない訳にはいかないだろ?」

 

理由としてはそれだけではないのだが。それを言う場面でもない。

 

「やはり君は変わっていないな。君ほどにバーストリンカーらしいバーストリンカーは……やつを除けばいないだろうな」

 

「黒ちゃん、俺はそれほどに評価される人間じゃないよ……どんなにこのブレイン・バーストを極めようともね。有田君、いやシルバー・クロウ」

 

「は、はい」

 

「君の力を、可能性を見せてくれないか?」

 

「……わかりました。一人のバーストリンカーとして白鐘先輩、プラチナ・バレットの対戦を受けます」

 

「とは言ってもレベルの差もあるから、そっちはシアン・パイルとのタッグでいいよ。二人の合計レベルはこれでこっちと並ぶはずだし」

 

「随分詳しいな。クロウのことも知っていたし、帰国してから私が乱入するまで加速していないと言っていなかったか?」

 

「情報を集める手段くらいは残ってるよ。例えばクロウに抱えられながらの復活宣言とか」

 

「なっ!?」

 

予想外だったのか黒雪姫が顔を赤く染めながら驚いて声を上げた。

 

「さて黒ちゃんをいじるのはほどほどにして……〈シアン・パイル〉。元青のレギオン〈レオニーズ〉のレベル4のバーストリンカーで若手の中では評価は高いらしいね。あのナイトがよくレギオン脱退を許したもんだ」

 

「いいえ、そこまで評価できるほどでは」

 

「情報は名前とレベル、後は補足事項程度しかないから……続きは対戦で」

 

有田君と黛君がブレイン・バーストのコンソール画面からタッグを登録したことを確認すると二年ぶりにそのコマンドを叫ぶ。

 

「〈バースト・リンク〉!」

 


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