外は強風が吹き荒れていた。今にも彼女がいる小さなお社が、飛ばされるかと思うほどに揺れている。
周囲には彼女以外誰も居なかった。時刻は午前五時程、別段そのことに不思議は無い。
只彼女の雰囲気はその場には異様に見えた。体を包む制服、それで彼女が女子高生であることが分かる。その目は覚醒しきっており、先には十数枚の書類がばらまけられていた。
「わかってるって、おじいちゃま。大丈夫だよ、多分。......うるさいなー。そりゃ男の子とつきあったことなんてないけど。誰のせいでそうなったとおもってんのさ?」
外では更に風が荒れ、空には暗雲も立ちこめつつある。今にも雨が降ってきそうな勢いだ。
「え、男のたぶらかし方?......そんなのおじいちゃまから教わったって、役に立たないに決まってるよ。どうせ時代遅れのやつでしょ?自分で勉強する」
彼女は携帯電話で話し込んでいた。携帯を持つ逆の手で、片手にも関わらず床に置いてある包みを器用にほどく。
中から黒漆の鞘に収めた大刀が現れる。刃渡り三尺三寸五分。彼女の相棒だ。
「それよりさ、面白そうな子を見つけたんだ。うん、そう、王様の愛人のひとり。負ける気なんてないからね。絶対、日本から追い出してみせるよ。......うん、うんうん。もちろん、最後は腕ずくで何とかするつもり。その方が面白いし。---じゃあ、また連絡するよ」
話し終えた彼女は、散らばった紙切れから一枚取り上げた。
エリカ・ブランデッリ。<<紅き悪魔>>の個人情報と写真が添えられたそれを眺め、彼女---清秋院恵那は不敵に笑った。
「相手にとって不足なし。この娘ならきっと、恵那たちを楽しませてくれるはずだよ。...それともうひとりの王様とも話しておきたいな」
自分の相棒に呼びかけながら、恵那は外を見た。
あれほど激しかった風も弱まり、空には晴れ間さえ広がっていた。
「あの風、やっぱりおじいちゃまのか。ほんと、迷惑なじいちゃんだよねェ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁー、緊張するわー」
俺こと、天童竜司は新たに通う高校の校門にいた。夏休みが終わってから一週間程経ち、まつろわぬ神との闘いの傷も完全に癒えた今日、竜司の転入が決まった。
何故一週間、間が空いたのかといえば、上のお偉いさん達の間でいざこざがあったらしい。
カンピオーネを二人、同じ高校に通わせるのは危険だと判断した反対組たちの説得に時間がかかった、と甘粕さんから他人事のように聞かされた。
そのおかげで、一週間夏休みが長引いたので、俺としては嬉しいことである。
「俺以外のカンピオーネに会ったことないからなー。ん?そう言えばイタリアで会ったのか?...あんなバカみたいなのは絶対に勘弁だな」
神殺しとなった直後に、えっと名前は確かサルバトーレとか言ったっけな?に会った。
顔は整ってたが、頭の方が名前通り、こちらの言葉が通じないチンパンジーのような男だった。
「確かクラスは一年五組の筈。いや、その前に職員室に行くべきか」
そう決めて校舎の方へと向かう。一歩目が手と足同時に出たのは緊張からか。...メンタル弱いな俺。
待てよ?職員室がどこにあるのか知らねぇ。誰かに聞いとくか。
「なぁ、ちょっといいか?」
一番近くにいた生徒に声をかける。
「はい?何でしょうか?」
振り向いた顔を見ると、それは女の子だった。艶のある栗色の髪と、同じ色の両目。高校生にしては物腰の落ち着いた、柔和な雰囲気。正しく大和撫子を思わせる美人だった。
いや、気付けよ!普通に分かるだろ!ナンパみてぇじゃねーか!どんだけ焦ってたんだよ!
「どうかしましたか?」
自分から声をかけたのにも関わらず、沈黙してしまった俺を気遣うように彼女は尋ねる。この子には警戒心というものが無いのだろうか?
「いや、ちょっと職員室の場所を聞きたくて。今日始めてここに来たから。俺転入生でさ」
捲くし立てるように説明すると、彼女は優しく道を教えてくれた。
その数メートル離れたところから、その様子を見ていた男達がいた。
「おい、誰だ俺の万理谷さんに話しかけているのは!」
「見ろ、万理谷さんが笑っているぞ!草薙以外の男と喋って笑ってるの、始めて見た気がする!」
「なっ!あ、あいつ、汚らわしい手で、万理谷さんの手を握ってるぞ!高木!どうする!?」
「......よし。殺ろう」
朝の、一番生徒が登校する時間帯で騒ぐ彼らを、他の者は離れて汚物を見るような目で通り過ぎてゆく。そのまま、校門で挨拶をしていた教師に連行されるまで、彼らの暴走は続いた。
一方竜司の方は、なかなか道を覚えられずにいた竜司に、彼女がわざわざ紙に地図を書いてくれたのを、手渡された後だった。その時、不意にちょんと、手と手が当たってから、彼女は辛辣そうに押し黙っていた。
「どうかしたのか?」
さっきとは逆に竜司が問いかける。
「あ、い、いえ。何でもありません」
「そうか?あ、地図ありがとな。これなら迷わずに行ける」
「ええ、もしそれでも迷ったら、お近くの人にでも聞いてみて下さい。ここにいる人たちは、皆さん心優しい人たちばかりですから」
「おいおい、流石に地図もあるのに迷わないって、そこまでバカじゃない。んじゃ、行くわ。ありがとな。今度お礼すっから」
別れの挨拶を済ましてから、竜司は地図を手に職員室に向かっていった。
その背中を見届けながら、彼女---万理谷祐理は呟く。
「さっき、一瞬視えたあれは、一体......」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おーいお前ら、今日は新しい転入生を紹介するぞー」
朝のSHで、いかにもダルそうに担任の先生が発表する。それを聞いて男子が次々に女の子ですか!どんな子ですか!カワイイですか!など、矢継ぎ早に質問する。途中からもう女だと確定してるみたいだ。
「いや、男だ」
キッパリと言い捨てた教師に、クラスの男子一同は、さっきまでと打って変わって意気消沈する。
「なんだ男かよ、期待させんな」
「おいおい、何で内のクラス?転校生多すぎだろ。他行けよ」
「あー俺寝るわ。終わったら起こして」
などなど、ブーイングの嵐が起こっていた。
(お前ら手のひら返しすぎだろ!)
扉の外で聞いていた竜司は、あまりの理不尽さに呆れていた。さっきまで緊張していた自分がバカみたいだ。
「おーし。んじゃ入れー」
中から呼びかけがあったので、扉を引く。うん。想像以上に男子からの負の視線が痛いな。
「あー天童竜司です。まだこっちに来て間もないので、友達もいません。えっと、仲良くして貰えると嬉しいです」
と簡易な自己紹介をする。男子からはどうみても、仲良くする気は無いって態度だな。
その代わり、女子の方は俺が入ってから妙にざわめいている。思ってたよりカッコいい、オタクみたいなの想像してたけど、以外にがっちりしてるよねー、友達いないの可哀想だから、私が最初の友達になってあげようかなー、みたいな会話が聞こえる。
なんで皆、そう一言多いの?わざと?わざとか?
クラスを見渡す。と、日本じゃ見慣れない色をした髪が見えた。
他の女子とは違って、異彩の雰囲気を放つ彼女。どう見ても、日本人には見えない顔つき。
彼女は銀髪だった。それを見てか、思わず笑みがこぼれる。あいつを思い出す。
その子も負けず劣らずの美少女だった。今は隣に座る男子と話している。
「んじゃ、後は各自で適当にやっとけ」
そう言い残し、担任が教室から出て行く。その様子を尻目に、担任がどんな人か分かった所で、指定の席についた。
その後、クラスの女子から質問攻めという、半ばお約束の展開が待っていたのは、どれだけ時間を操れても知る由も無かっただろう。そのせいで更に男子の視線がきつくなったのは、まぁ言わなくても分かるからいいか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「草薙護堂。あの転校生は...」
「ああ、多分そうだろうな。名前が一致してる」
「やはり日本に二人目の魔王が誕生したのは事実のようですね。あの者から感じられる魔力、人間であれほどの量は、いくら魔術の天才でもありえません。...いかがなさいますか?」
護堂の隣に座るリリアナが、不振げに聞いてくる。
「どうもこうも何もしない。知ってるだろ?俺は平和主義者なんだ。ヴォバンみたいな、余程の迷惑を巻き込まない限り、俺は闘わない」
「ナポリで、あれだけの騒動を起こしたのに、よくそのようなことが言えますね」
「う...あの時はしたかなかったんだよ」
呆れた声を出すリリアナに、ばつの悪そうな顔をする護堂。ちなみに、護堂の横、リリアナの反対側にいつもいるはずのエリカの姿はない。今朝護堂に遅れてくるとの電話があったらしい。
本当にあの女は、昔から何一つ変わっていない。やはり、何事もそつなくこなし、いつでも手助けできるよう警戒を怠らない、私みたいな騎士が、王の隣にいるべきなのだ!そう、騎士として!
ふと、視線を感じそちらの方に視線を向けたリリアナの背筋が凍った。
たった今、話題にあがっていた魔王が、此方を見て、笑っていた。
旧友を見るかのような、優しい笑み。しかし、リリアナの背中から嫌な汗が流れる。
自分はつい最近報告書を視るまでこの男の存在を知らなかった。なのにあの男はもっと前から此方を知っていると言わんばかりの表情をしている。
「んじゃ、後は各自で適当にやっとけ」
担任の言葉で、リリアナの金縛りにも似た緊張が解ける。かの魔王は教室から出て行く担任を横目で見ながら指定された席へと向かっていく。
「...どうした?リリアナ」
怪訝そうな顔をする護堂になんでもないと返す。
好奇心旺盛な女子生徒達に囲まれて質問攻めにあい、しどろもどろとするカンピオーネを見て、先ほどの真意を確かめることはできないのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「やっと、休める...」
午前の授業が終わり、今は昼休み。授業の合間にも休み時間はあったが、全く休み時間とは言えるものではなかった。
転校生という理由だけで、教師に散々と問題を当てられたり、板書させられたり。俺はここより二つか三つ偏差値の高い学校に通っていたので、全て余裕でこなせた。それが問題だった。
授業が終わる度に、勉強を教えてと頼まれたりして、朝よりも俺を取り巻く連中が増えた。この中に男子が一人もいなかったのは、言うまでも無い。
「大変だね。まぁ、僕には関係ないんだけど、やるなら他でやってくれない?ゲームの音が聞こえないから」
「あぁ、できればそうしてぇ。それはあいつらに言ってくれ」
話しかけてきたのは、俺の隣の席に座る男子生徒、名前は灰村啓。
休み時間の度にゲームをしている。
所謂、廃人ゲーマーと呼ばれる人種なのだろう。
その為か、容姿はイケメンと言えるレベルなのに女子がよってこない。むしろ避けられている。
「そういえばさ」
「なんだい?」
「なんでお前は俺に話しかけてくれんだ?」
銀髪の女子(クラニチャールさんと言うらしい)と話していた男子生徒(あいつがカンピオーネの草薙護堂らしい)以外の男子は俺が女子に取り囲まれているのが気に食わないのか時間が経つごとに視線がきつくなっていく。
カンピオーネになったことで強化された聴力が『いい気になりやがって...』『転校生のくせになまいきだ』『...死ねばいいのに』などの怨嗟の声を拾う(本人達は聞こえていると思っていないだろうが)。
なので、普通に話しかけてくるこいつが不思議だった。
「ああ、それはね、他の皆みたいに君の事が羨ましくないからだよ」
ここで彼はなぜか胸を張り
「僕は三次元の女に興味がないからね!」
と、堂々と宣言した。
......えーと
「まったく。あんな立体共の何処が良いんだか、理解に苦しむよ。どう考えたって二次元の方が何万倍もすばらしというのに!」
火の付いたように二次元のすばらしさを語り始める灰村。目からは変な光を放っている。
周りの女子達は不快気な顔で離れていく。
「―――つまり二次元というのは―――」
...どうりで女子がよってこないわけだ。
完全に自分の世界に入った灰村を放置することにして、朝コンビニで買っておいたパンを持って教室を出る。
周りからの視線が気になって食べることに集中できないからだ。
廊下を歩きながら静かな場所がないか探索する。
「さて、何処かいいところは...」
きょろきょろとまわりを視ながら進んでいく。
「ん?あいつは...」
自分の前方を歩く人影に注目する。
そいつは俺と同じクラスの魔王、草薙護堂だった。
背中からはなぜか哀愁が漂っているように見える。
「どこ向かってんだあいつ?上?」
草薙は、一段一段と階段を上っていく。
竜司は少し興味が湧いた。自分と同じ神殺しで、同年代の日本人。それだけで親近感に似た何かを感じていた。
「憑けてみるか」
気付かれないように注意を払いながら、隠れるようにして尾行する。気だるそうに歩く草薙の様子からして、気付いては無いようだ。
草薙が向かっていた先は、屋上だった。草薙に続いて、少し時間を置いてから竜司も屋上に出る。
「お待ちしておりました。......しかし、どうせ目的地は同じなのですから、わたしといっしょにいらっしゃればよかったではありませんか」
屋上で一番最初に視界に入ったのが、不満そうに草薙に声をかける、クラニチャールさんだった。
あの二人付き合ってんのか?そういえば教室でもいちゃいちゃしてたような気もする。
「いや、待て。何だあの集団は?」
草薙を中心に、朝の女の子と中等部の制服を着た女の子が囲んでいる。どうやら皆で昼食を取っているらしい。
「ソルナーリが言ってたように、本当に色欲魔なのか......!」
ああ、止めだ止め。うん、あんな野郎とは仲良くできねぇーわ。
パンの袋をあけ、草薙たちの様子を見ながら食べる。パンだけではのどが渇くので、コーヒー牛乳も持ってきている。
なんかこうしていると、張り込みを続ける刑事みたいだ。パンはあんぱんじゃなくてカレーパンだけどな。
「うえー、何か良い雰囲気醸し出してるよ。.........死ねば良いのに」
おっといかんいかん。クラスの男子達の怨霊が、憑依してしまったらしい。煩悩退散。煩悩退散。
「みなさん、ごきげんよう。にぎやかで楽しそうね。おはよう護堂、今朝は伝えられなかったけど、代わりに今、愛をこめて言うわ。あなたの顔を見られて、とてもうれしいって」
おいおい、また増えやがったぜ。本当、リア充爆発しろ。しかもなんだ?またしても超絶美人。茶髪、銀髪ときて金髪...。今度は黒髪ストレートでも来そうな勢いだな。
中等部の子も、一応黒髪っぽいが、聞き取れた会話から草薙の妹だと分かったので、カウントしない。
「はぁー、飯食ったし戻るか」
何しに来たんだろうな?まだ教室で食ってた方がマシな気がしてきた。
「ふふ、あなたも出て来たら?そこにいるのは分かっているのよ」
屋上のドアのぶを捻ろうとしたとき、突然背後から声が聞こえた。
辺りを見渡すが俺以外誰もいない。草薙たちの方を見ると、先ほど来た金髪の女の子が此方を見ていた。どうみても、さっきの声は俺にかけられていたのだろう。
「よく分かったな」
彼女達から見える場所へ行くと、そう発言する。
「ええ、あれだけ視線を感じるんだもの。初めましてね、天童竜司さん。私は同じクラスのエリカ・ブランデッリよ。今朝は色々あって、今学校に来たとこなの。それと、ここにいる草薙護堂の愛人よ」
エリカと名乗った彼女は、優雅に風雅に、女王といった気品で自己紹介をした。
周りに目を配ると、誰といった感じの草薙妹、驚く今朝の子、何故か畏まるクラニチャールさん。そして警戒心むき出しの草薙。
「そうか、まぁ最後のは聞かなかったことにするとして...。朝はありがとな、えっと、そういや名前聞いてなかったな」
「あ、私は万理谷祐理と言います」
「なぁに祐理、知り合いだったの?」
「今朝、そちらの方に道を聞かれて、私が教えて差し上げたんです」
(祐理、一応言っとくけど、彼は護堂と同じ、カンピオーネよ)
(え!この方が!......やはり、あれは)
(もしかして、何か視えたの?)
(はい。...ですが、一瞬だったので覚えていなくて)
(分かったわ。もし何か思い出したら、言ってちょうだい)
何やら、万理谷さんとエリカさんが小声で話している。
「お兄ちゃん、この人は?」
「ああ、今日、俺のクラスに転校してきたやつだ。転入早々、女子からモテモテなんだよ」
「へぇ~、それをお兄ちゃんが言うんだ」
隣の草薙たちの会話で、何を話しているかまでは、聞き取れなかった。
「な、なぁ天童。よかったら一緒にどうだ?少し話したかったんだ」
妹から逃げるような形で、俺に会話を降ってくる草薙。
...良い機会かも知れない。どんなカンピオーネかは、実際に話してみないと分からない。ここにいる面々が、どういった関係なのかも知れるかもしれない。
「ああいいぜ。俺もお前には興味があったんだ」
そう言って、どけてくれたスペースに腰を下ろす。
何故か草薙妹が、この世の終わりみたいな顔で「まさか、お兄ちゃんってそっちの趣味も!」とか呟いてる。趣味?
「リリィ、あなたのサンドイッチ、分けてあげたら?」
「あなたに言われなくとも、元からそのつもりだ」
差し出されたバスケットの中から、礼を言って一つ貰う。どれどれ咀嚼。
う、うまい!ちょっとさっき食ったパンで腹は多少膨れてたが、これなら、それでも後三つは食えそうだ。
「これはうめぇ!お店で出されても遜色ねーぞ。すげぇなリリィ」
「な、なぜあなたがわたしをそのような名で呼ぶのだ!?」
「え?だってそれがあだ名じゃねーの?」
「それはそこにいるエリカだけだ!そのような名で呼ぶのは止めていただきたい!」
「そ、そうか。悪いな。...ちょっと落ち着け」
何で俺の時だけこんな怒られるんだろうな?自分では、結構良い顔してると思ってるのに。もう鏡見れないわ...
「べ、別にわたしは怒っているわけではないのです。ただ、突然だったもので...。そこは踏まえて置いてください」
ってことは、別に顔は悪くない?なんだよーびっくりさせんなよー。
「...それで、何であんなとこに隠れてたりなんかしたんだ?」
そこで口を挟んだ草薙。ちょっとした好奇心って言うのも何か俺の保身的に言わないで置くとして。
俺は右腕に集中する。身体の中の力を一点に集める感じ。難しそうな気もするだろうが、別段とそれほどでもない。言ってみれば、殴る前にモーションに入る。だいたいそんな感じだ。
「ッ!」
草薙、エリカ、リリアナ、万理谷の四人が、一同に身構える。草薙妹だけが皆を見て首を傾げている。
だいたい分かった。今の反応を見て、この四人(草薙は当然だが)は魔術などの、何らかの類の関係者と見ていいだろう。反応の仕方で誰がソルナーリみたいな、ある程度の戦力になりそうな奴かも分かった。
「どうしたんだ?いっせいにそんなに見つめて?...隠れてたのは、そりゃああんだけ女に囲まれている男子が気になった。それだけだ」
おどけたように返す竜司。そこで右手に集めた魔力も四散させる。
ふっふっふ、これだけ女はべらせてんだから、こんぐらいの意地悪許されるよな?むしろ感謝されるぐらい?
まぁ、それから昼休みが終わるまで、ずっと警戒されてたがな。何食わぬ顔でサンドイッチ味わってた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それじゃあ、明日決行するぞ」
「ああ、調子に乗ったあの二人を、俺らが鉄槌を下す!」
「全てはモテない男達による、モテない男達のための、モテない男達だからこその夢を叶えようじゃないか!」
「待っていろよ楽園(ユートピア)!!」