カンピオーネ!~旅行好きの魔王~   作:首吊男

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番外編 下

「寝れなかった...」

 

外を見ると、朝日が昇り始めている頃だった。雲ひとつない青空。それに反比例してか、俺の心は曇天だ。

昨日はあれから無理矢理に事が進んだ。矢継ぎ早に飛んでくるアリサの言葉に反論しきれなかった。まるでマシンガンのようだった。あの弾丸娘...。

最後に勘違いした償いと言われれば、無理に拒否するのも気が引けた。途中、ドアの隙間から覗いてた親父さんがものすごく怖かったからではない。

 

「眠い...。だがさすがに今から寝るのもなぁ。ちょっとこの屋敷の中でも探索すっかな」

 

アリサの家であるこの広大な敷地の中に、建物は四つある。一つは中央にある本殿。普段アリサの家族が暮らしてる主な建物で、多分百人ぐらい余裕で住める。アメリカなどの海外の物件って、日本より大きいのがざらだが、これは何が何でもでか過ぎるだろう。

 

二つ目は北側に佇む横長の建物。大きさは本殿の半分ぐらい。ここで、マフィアの団員が住んでるらしい。絶対に近づきたくない場所だ。

 

三つ目。南西に位置する格納庫。ジャンボジェット機すら入れるだろう大きさ。何が入ってるのかは考えたくないな...

 

最後は、今俺がいる東にある屋敷。中では一番小さいが、それでも日本なら超お金持ちが住むような華々しい外見。今は何にも使われていないらしく、廃屋同然らしい。なのにも関わらず、隅々まで綺麗に整備されており、水道や電気などのライフラインも完備らしい。お金持ちの考えることは分からん。

 

その為、こんな時間に誰かに会うのは無いだろう。よって、安心して探索できるはず。ちょっとした肝試しみたいだ。

 

「本当広いな、迷子になりそうだ」

 

明かりのついていない廊下を、窓から差し込む光だけを頼りに進む。視力が1,8はあるのに、一番奥まで見えない。中学の校舎の端から端より長いのではないか?奥の暗闇から、女の人がスタスタと歩いてくるような考えが思い浮かんでしまう。

 

「天童さま」

「うわぁ!!」

 

突然背後から声を掛けられ、その場を1メートルほど跳びず去った。

見ると、そこにはセバスがいた。

 

「せ、セバスちゃん?」

「ちゃん?」

「あ、え~と、何でここにいるんですか?ってか何でさま呼び?」

「君は今はお客様だ。礼儀を尽くすのは当然だと思うが?」

「そ、そうですか」

 

この人はマフィアに仕えている身でありながら、ものすごく落ち着いている。歳は多分三十程度ぐらいか。でも、あの時最後に見せたスピードは人間を超えていた。どうなってんだここの人間は?

 

「それより何でこんな処にいるんですか?」

「私の仕事は、ここの管理も任せておられてるんですよ。後は、天童さまに昨日のお詫びを申し上げようと思ってね」

「いや、俺も蹴りましたしお互い様ですよ。さすがにあの時は怒りましたけど、今は別に気にしてないんで」

「今回はこちらに全て非がありましたので、そういう訳にはいきません。あの時は本当に申し訳ありませんでした。それと、後二時間程たったらお譲が御呼びしてるので、門の前に行って下さい。では」

 

そう言うと、セバスは踵を返しその場から立ち去った。

 

「普通に良い人だ」

 

竜司はしみじみそう思った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「遅い!」

 

開口一番がそれだった。時刻は朝の九時。日本は昼過ぎぐらいだろうか。

 

「貴方、女の子を待たせるとか紳士失格ね」

「俺は紳士になった覚えはない」

 

見るものを吸い込ませる様な青紫色の瞳と、くせっ毛一つ無い美しい銀髪を持つアリサ。服装は上からニット帽、パーカー、ミニスカート、ニーハイ、ブーツ。以外にも、今時の女の子って感じだ。ってか、そんなひらひらのスカート寒くねーの?

 

「さ、とっとと出発するわよ」

「どこに行くんだ?」

「私一度行きたかった処があるの。そこへ向かうわ」

「ふ~ん」

 

(このお嬢様が行きたい場所ねー、ちょっと興味があるな)

 

余程行きたかったのか、さっきからアリサは上機嫌だ。鼻歌まで歌っている。

 

「それで、どうやってその場所に行くんだ?」

「車で行くのもいいんだけど、その辺ぶらぶらしたいし、今日は電車でも使って行きましょ」

「へー、アリサみたいなお嬢様でもそういうの使うのか」

「え?今回が初めてよ」

 

思わぬ重大発言だった。

 

「初めてって、よくそれで行こうと思ったな」

「だって、乗るだけでしょ?何の問題も無いじゃない」

「そうか、まぁ頑張れ」

 

そこまで言うならとやかく言うまい。うまくいく事を信じよう。

 

「早く行きましょ。時間が勿体無いわ」

「あ、ああ」

 

アリサが目の前を先導する。それに続き歩き始めた。

 

 

 

「まぁ、何だ。そういう時もあるって、元気出せよ。なぁ」

「.........」

 

さっきからずっとこれだ。

と言うのも、駅でのことだ。アレだけ自信満々にしてたアリサだが、切符の存在を知らぬわ、乗り違えるわ散々だった。どこかでしくじるとは思っていたが終始ダメダメだ。

だが大変なのはこの後、機嫌を損ねたアリサを宥めることである。こんなとこで乱射されたら俺の人生にピリオドが打たれる。だから、あれこれ三十分程、ご機嫌取りに勤しんでいた。

 

「仕方なかったって、初めてだったんだしな。それにしたら充分良かった方だぜ」

 

電車に乗るのに良いも悪いもあるのか知らないが。

 

「...まぁいいわ。それよりあと少しで着くわよ」

 

あれだけ励ましていた俺への言葉を、それだけで終わらせたアリサ。そして十時の方角へと向く。

絶対いつかこいつにありがとうを言わせてやる、と固く心に決めた竜司。

 

「確か、この国の観光を案内するって言ってたよな」

「そうよ。だからここに決めたの。丁度私も行きたかったから」

 

竜司たちの目の前にあるそこには、大人や子供たくさんの人であふれていた。

遊園地。それもかなり大き目の。

 

「普通そういうのは、もっとこう歴史的に重要なとことか、美術館とかじゃねーの?」

「そんなとこ行って、何が楽しいの?」

「それは...」

 

その後の言葉が出てこない。別に楽しくない訳ではない。只、それを言ったところで同意はされないだろうし、楽しいを目的とした施設と比較すると、まぁ楽しさでは負けるだろう。

 

「ほら、もういいでしょ。早く入るわよ」

 

何も言い出せなかった俺を横目に歩き出す。

この施設は入場料というものがないらしい。入るだけなら誰にでもできる。その代わり、一つ一つの遊具に料金が設定されている。ここにはデパートなども混合されているらしく、買い物目的で来る人も多い。大きさ的には、アリサの家より少し大きいぐらいか。

 

「ねぇ!あれ何かしら!すごい人が叫んでるわ!」

 

完全に興奮度MAXになったアリサ。興味を擽られる物を見るたびに、その都度聞いてくる。笑っている姿は、歳相応の女の子だと実感させられた。さっきまでの態度は一体...

 

だが、少しだけ問題がある。すごく周りから注目を受けている事だ。

美少女のアリサは、男女問わずに視線の的になる。加え、ここでは俺は外国人だ。日本でも、やっぱ違う人種の人間はよく目立つ。それを今回身を持って体験できた。

 

「あれはジェットコースターだな。ああやってエンジンとか使わず、落下運動だけで走る絶叫マシーンだな」

 

まさかジェットコースターも知らないとは、遊園地に行きたいとよく思えたな。

 

「へぇ、じゃあアレに乗りましょ。あんなに叫ぶ程なのか興味があるわ」

「そうか、アリサなら大丈夫だろ。俺はあっちの方で待ってるから」

「ダメよ。私一人で行かせる気?さっきみたいに乗れなくて私が困ってもいいってことね」

「はぁ?」

 

さっきって電車のことか?確かにあの時は散々だったが、今回は行ける・・・訳が無いな。安全装置を付け忘れて大惨事っていう未来が想像できてしまう。

だけど、俺絶叫系苦手なんだなぁ~。別に速いのとか高いのが怖い訳じゃない。あのがっちりと固定されるのが嫌なんだ。もしレールが外れたらどうする?固定されていて逃げれないじゃないか!

 

速いのが好きならコーヒーカップに乗ればいい。高いのが好きなら観覧車にでも乗れ。どっちでもジェットコースターよりもいいぞ、固定されないから。

 

「分かったら行くわよ」

 

そう言って俺の服の裾を持つアリサ。

 

グイッ!

 

「な!」

 

一瞬浮いた!

あまりの勢いにバランスを崩す。それをアリサは気にも止めずに、ズルズルと引っ張っていく。どうやったらあの身体からここまでの力が出るんだ!?

片手で人一人の重さを引きずっているのにも関わらず、アリサの顔は重さを感じていないように見えた。本当、ロシアに来てから驚いてばっかりだ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「はぁ、はぁ、はぁ、うっ」

 

もう駄目だ。あの後、無理矢理乗せられてから、絶叫マシーンに嵌ったのか、またもや何回と無理矢理乗せられた。世界が回ってる...

 

「少し休憩しないか...?ほら、あの中にでも入ろうぜ」

「もうお昼なの?いいわ、少し昼食を取ってからまた行きましょ」

 

どんだけ気に入ったんだよ...

ふらつく足で目の前にある建物へと入る。三階建てのレジャー施設で、中には食事も取れる場所があった。一旦そこに向かうことに決めた。

 

「うるさいわねここ」

 

一階のそこはゲームセンターになっていた。ゲーセンは慣れていない人からすると騒音なんだろう。確かにさっきまでの悲鳴より音がでかい。

 

「まぁ、食事スペースは二階だし上は静かなんじゃねーか?腹も空いたし速く行こうぜ」

 

そう言って階段の方へと足を踏み出す。

 

「待って」

 

いきなり呼び止められた。振り向くと、アリサは顔を此方には向けて居らず、右側を向いていた。

 

「どうしたんだ?」

「あれ」

 

アリサが指を指した場所を見る。なるほど。

 

「射的ねぇ」

 

ロシアにもこういうのあるんだな。弾丸娘が興味を引くのも無理も無いか。

 

「食事を取る前に一回だけやらない?」

 

射的ならそこまで動くこともないし、いいかもしれない。だが、只普通にやるだけじゃつまらないな。

 

「よし、いいぜ。その代わり勝負しないか?」

「勝負ぅ?貴方が?おもしろい冗談ね。いいわ、コテンパンにしてあげる」

「ルールは一回でどれだけ景品を落とせたかな」

「まぁ打倒ね。でもそれだけじゃつまらないし、勝った方が負けた方に一つ命令できるってのはどう?」

 

(命令ねぇ、特にして欲しいこともないが...ここは)

 

「乗った!!」

 

竜司とアリサは二人並んで、火縄銃ではなく、多分ドラグノフかなんかをモチーフとした銃を構える。使い方は日本となにも変わらないコルクを嵌めて撃つ奴だ。

 

(貰った!)

 

竜司は勝利を確信した。

実はよく地元の夏祭りなどで、日雇いとしていくつかバイトをしていた。その中にもちろん射的もある。暇な時などは、おじさんに教えられたりしていたのだ。

 

そして俺が言ったルール。一回でどれだけ落とせたか。つまり、どんなに小さくても一。どれだけ大きくても一だ。日本円にして700円程度で、コルクは十発。俺は狩れない獲物を狙うような間抜けではない。

 

「じゃあ、私から行くわね」

 

そう言ったアリサが狙っている場所。そこは一番上の段だった。一番上の段と言えば、一番遠く、そして大物揃い。ここも例外ではない。最早勝ちも同然だ、と思った瞬間。

 

ドゴォン!

 

まるで大砲でも撃ったような音だった。

竜司は目の前で起きた事が理解できなかった。アリサの放ったコルクの弾は、見事大きな箱に当たった。当たっただけならなんともない。それぐらいなら竜司もできる。当たった箱、多分、WIIの本体かそれぐらいの大きさの箱が吹っ飛んだのだ。

 

「まずは一つ」

 

何事でも無さそうにアリサは言う。おじさんは言っていた、あんなもん飾り、だと。

 

「ほら、貴方もさっさと...どうしたのよその顔」

 

気づけば顎が大きく開いていた。

 

「お、おう。よし行くぜ」

 

パァン

 

こっちは普通だ。コルクはラムネ?に当たり、見事に落とす。だが、なんていうかショボイ。さっきの後だと余計に。いや、だが勝負はまだ互角だ。

 

「勝負はこれからこれから」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「まぁ当然よね」

 

目の前で高らかに言うアリサ。その勝ち誇った顔が憎い。

先ほどの勝負を完敗した竜司とそれに圧勝したアリサは、二階の食事スペースでお昼を食べていた。あの後、一番上の段を独占したアリサは荷物になるから邪魔と言って、近くの子供たちに分け与えていた。俺もラムネ?を上げようとしたが、いらないとバッサリ言われた。

 

「絶対可笑しい。なんでアリサが撃つときだけ、あんな威力が出るんだ。俺が撃っても普通だったのに」

 

銃を交換して撃っても、何故かアリサの方だけは明らかに威力が違った。何か仕掛けてるのかと思ったが、どこにもそれらしい変化も無かった。

 

「勝ちは勝ちよ。それより約束覚えてるわよね」

「くっ!」

 

勝った方は相手に命令をできる。勝負をする前に言っていたことだ。

アリサの事だ、どれだけ無茶苦茶なものなのか想像もつかない......。

 

「男に二言はねぇ...。あ、でも痛いのは勘弁」

「私をなんだと思ってるのよ」

 

それはもう、我侭直進弾丸娘ですね。

 

「はぁ、じゃあ命令するわよ」

 

せめて命だけは!

 

「私の友達になりなさい!!!」

「ギャアアアアア.........あ?」

 

竜司の視線とアリサの視線が交差する。片方は信じられないモノを見るような目で、もう片方は今にも泣き出しそうな目で。

 

「アテンションプリーズ?」

「友達になれって言ってるのよ!このバカ!」

「それが命令?」

「そうよ!」

 

アリサの表情からは嘘を言ってるようには見えない。

どうして友達?アリサの真意が分からない。

 

「そんなんでいいのか?」

「そう言ってるでしょ!で、返事は!」

「えっと、別に良いけど...」

 

なんていうか、押しに弱いな俺。

返事を聞くや、アリサは立ち上がった。

 

「どうしたんだよ」

「何でもないわよ!」

 

そう言って、ズカズカと立ち去っていってしまう。多分方向的にトイレだろう。

 

「天童さま」

「ぬわぁ!」

 

ビックリして後ろを振り向くと、セバスが感極まった顔で立っていた。

 

「セバスちゃん...。背後盗るの上手いですね...。って言うか、何でここにいるんですか?」

「主人からもしもの為にと、最初からずっと見守っておられました」

「そうなんだ...」

「天童さま!これからお嬢をお願いします!」

「はぁ?」

 

ものすごい勢いで頼み込むセバス。何かが竜司の中で音を立てて崩れた。

 

(セバスちゃんってこんなに感情を露にするんだな...)

 

「お嬢は昔から友達が少なく、いつも一人で遊んで居られました。家がマフィアというのが一番の理由でしょう。最初はお嬢と仲良くなろうという度胸のある方も居たのですが、その時はあまりにも溺愛しておりまして、組織の者全員で脅しに行ったりしたものです」

 

気の毒に。それは一生もんのトラウマだな。......仲良くしようとした子。

 

「その後一人寂しく遊ぶお嬢を見て、皆が心を改めたのです。ですが、時既に遅し。それからと言うもの、同年代で仲良くなろうと言うお方は現れませんでした。そんなお嬢が今日!自分から友達を作ろうとしたのです!ああ、立派に成られました...」

 

遂にセバスは泣いた。それはもうすっごい一目に着く。早くここから逃げ出したい!

 

「あの、分かりましたから泣き止んでください」

「そうですか。ありがとうございます。では、楽しんで下さい」

 

そう言うと、すっと泣き止んでどこかに消えていった。またどこからか監視しているのだろう。

すごい切り替えの早い人だ・・・

 

「それにしても、あいつも苦労してたんだなぁ」

 

その後直ぐに帰ってきたアリサによって、今日一日絶叫コースへと引き摺られて行った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

なんだかんだ言って、今日でロシアとおさらばだ。

あれから色んなことがあった。遊園地から帰るなり、『今日も泊まっていきなさい。わ、わ私たちはお友達なんだから普通でしょ』ってアリサから言われたり。いやいや、会って数日の男を友達だからって泊めないだろ普通。

 

断ろうとしたら、折角の娘の誘いを断るのかとか何とかアリサ父が切れだして、目から血を流しながら機関銃片手に脅すわ...。ニーナさんが居なかったら今頃死んでた。

本当あの人どこに向かってんだ?ほっといたら修羅にでもなりそうな勢いだっだぞ!

 

他にも色々あったがここではよそう、思い出したくねぇ...

んで今は身繕い中。つっても、カバン一つしか持ってきてねーから、こっちで買った土産などを整えるだけだ。

 

「っとお、何か紐みたいなのが欲しいな。セバスちゃん辺りにでも頼もうかな?」

「それでしたら、これを」

「おっ、ありがとう。......何でここに居るんですかニーナさん?」

「あら?何か可笑しいことでも?ここは私の家ですから」

 

微笑ましい優しい笑顔で告げるニーナさん。だが俺は知っている。この笑顔の裏に修羅でも逃げ出す般若の一面を。

 

「酷いわ、私を般若呼ばわりなんて...これはお父様に言うべきかしら?」

「そ、それだけは勘弁してください!!ってか何で俺の心の声が聞こえてんすか!!?」

「え、ただかまをかけただけなのに。これは見過ごせないわ」

 

Sだこの人。正真正銘のドSだ。

 

「ふふ、冗談よ。今日はこれを渡しに来ましたの。今日お帰りになられるんでしょう?」

 

そう言って差し出されたのは、シンプルな造形の指輪だった。

 

「これは?」

「アリサと仲良くしてくれたお礼です。あ、その指輪、一千万以上するので失くさぬよう、肌身離さず持っていてください」

 

な、なに!一千万!!これが!!?

 

「それでは私は用があるので失礼します。気をつけてお帰りください」

「え!ちょ、待ってください!え、え~~~!」

 

行ってしまった...どうすればいいんだよこれ...

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

なし崩し的に空港に着いてしまった...

どれだけ探してもあれから使用人一人も見つからなかった。未だに指輪は返せないままだ。

 

「可笑しいだろ!何で今日に限って全員出かけてんだよ!俺が居たのにも関わらず!!」

 

他の屋敷に行ってもすっかり施錠され入れなかった。俺が居た部屋の脇に見つけた置手紙に、探しても誰も居ないわよ、と言うニーナさんが書いたと思われる紙を見つけるまで、俺がどんだけ必死だったか。

 

「嘆いても仕方ないか...はぁー。え、マジでこれでさよなら?」

 

もう出発まで十分を切ってる。もう行かないとな...

 

「竜司!」

 

カバンと土産を持ち、一歩目を踏み出そうとした時だ。ここ数日聞きなれた声がした。

 

「アリサ」

 

あの俺をさんざん振り回した美少女がそこにいた。

 

「アリサ・シアーズオブナ・アナスタシア。それが私の名前よ!」

 

いきなり自己紹介された。さっぱり意味不明。

 

「じゃあまたね竜司」

 

俺が口を開く前にそう言って走り去っていった。もはや理解不能。

それにしても初めて名前で呼ばれた。前までおいとかそこのとか良くても貴方だったのにだ。

 

「何だよ、可愛いとこもあんじゃねーか」

 

誰にも聞こえないような、それさえ自分自身も聞き取れないような小声で呟いた。

やっぱ着てよかったな。そう思えた。

だからか、帰りの空でとんでもない悲鳴を上げたのは。

 

「指輪返しそびれたぁぁぁぁあ!!!!!!!」




遅くなりました!夏の暑さのせいか、PCが壊れちゃって...
修理代二万は痛い。この温暖化!くそっ!覚えてやがれ!!

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